2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

小樽に関する水についての調査・研究

実施担当者

馬渕 直人

所属:北海道龍谷学園 双葉高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 小樽市は北海道開拓時代、海運業の拠点地として栄えた街である。現在は小樽運河を中心とする観光地として全国区になっているが、日本酒の酒蔵が昔からあるように天狗山からの伏流水の湧き出る、美味しい水の飲める「水の街」である。
 地元小樽の水質を調査することにより、「理科に関心を持たせる」「科学的探求心を持たせる」「地元に関心を持たせる」ことを目的とし、実際に現場に行っての調査、実験室での分析、顕微鏡での観察、また、パワーポイント等で結果のまとめを行った。
 調査場所として、奥沢水源地から流れる勝納川(かつないがわ)と、全長1140m、幅20m~40mで、河水と海水が混ざり、水の流れがほとんどない小樽運河を選んだ。勝納川では水生生物の採集を行い、中流と下流の2カ所で水生生物を採集し、種類の比較を行った。小樽運河では水質・堆積物(泥)調査を6月と8月の2回にわたって行い、植物プランクトン量の比較と汚濁状態の比較を行った。
 また、勝納川の水生生物の採集・観察・分類においては、札幌科学技術専門学校の竹田誠先生、三城史也先生、高島義和先生、小樽運河の水質・泥質の採取・分析においては、有限会社シーベックの柴沼成一郎氏に協力していただいた。


2.研究の概要
A 水生生物の観察・分類
(1)方法
 勝納川の中流と下流にて、胴付長靴を履き、川に入いり、川底の石に張り付いている水生生物を採集したり、網で川岸をこすり取って採集した。採集した水生生物は70%エタノールにて固定した。その後、双眼実体顕微鏡を用い、札幌科学技術専門学校の三城史也先生と高島義和先生の指導のもと、分類表を用いて分類した。

(2)結果
 勝納川ではトビケラ類の幼虫とカゲロウ類の幼虫が多く、ガガンボ類やヒルなどもみられた(表1)。中流でみられたエラブタマダラカゲロウ、ウスバガガンボ属、ミズムシは下流では見られなかったが、下流では中流でみられなかったユスリカが多数みられた。また、各種の蛹は下流で多く確認された。

(注:表/PDFに記載)

(3)考察
 中流と下流で採集された水生生物の種類の間に、大きな違いはみられなかった。それは勝納川全長が5kmと短く、採集現場の中流と下流の間も1kmと狭い間隔であったためと考えられる。しかし、ユスリカや複数種の蛹が下流で多数採集されたという結果は、中流と下流で水質、流速、底質などに変化があったのではないかと考えられる。
 勝納川沿いには、工場、スーパー、民家などが近接しており、また掘込河道であるため、本来の自然な状態の河川とは異なった環境である。そのため、採集された水生生物の種類のみで水質がきれいかよごれているかを直接判断することは難しい。今後は水生生物調査と併せて、水質調査を行っていくことが必要であると考えられる。

B 小樽運河の水質・泥質調査
(1)方法
 小樽運河の水は、バンドーン型採水器を用い、「表層」と「底層」の2ヶ所の水を採取した。また、それぞれの海水温と塩分濃度も同時に測定した。小樽運河の底層の堆積物(泥)はエクマンバージ型採泥器を用いた。なお、水と泥の採取は、同じ場所で「6月」と「8月」の2回行った。
 水試料はクロロフィルaの分析、堆積物試料はクロロフィルaと硫化物量の分析を行った。クロロフィルaは水中の植物プランクトン量の指標として用いられる。硫化物量は底層中の汚濁状態を把握する指標の一つで、底近くの水の酸素が低い状態が続くと値が高くなり、悪い状況となる。
 採取した水はろ過し、ろ紙フィルターの状態で凍結保存する。堆積物試料は小分けして凍結保存する。凍結保温した試料は後日測定した。
 クロロフィルaは、ろ紙上に集めた試料を溶媒で植物色素を抽出し、蛍光光度計ブルーターナーを用いて測定した。硫化物量は硫化物用ガステック検知管と硫化物用ガラス反応管を用いて行った。

(2)結果
 小樽運河の水については、水温、塩分濃度、クロロフィルa濃度を測定した(表2)。塩分濃度とクロロフィルa濃度は表層に比べ底層の方が高く、塩分濃度は2倍近く、クロロフィルa濃度は4倍から8倍近く高かった。
 堆積物については、底層の水温、塩分濃度(表2の同データ)と併せて、堆積物中のクロロフィルa濃度と硫化物量を測定した(表3)。クロロフィルa濃度が6月に比べ8月は約7分の1減少しており、反対に硫化物濃度は約70倍に増加していた。

(注:表/PDFに記載)

(3)考察
 小樽運河の水の塩分濃度が、表層より底層の方が高いという結果は、塩分濃度の低い河川の水が表層に流れ、塩分濃度の高い海水が底層にたまっているからだと考えられる。また、塩分濃度が高い底層でクロロフィルa濃度が高いことから、塩分を栄養塩類(栄養源?)として植物プランクトンが増殖していると考えられる。
 堆積物について、6月と8月の底層の塩分濃度に大きな差はないにもかかわらず、8月のクロロフィルa濃度が低かった。また、それとは反対に、硫化物量は8月の方が多かった。これは、硫化物量の増加が、植物プランクトン増殖の阻害要因になっている可能性が考えられる。
 硫化物は、植物プランクトンなどの発生による有機物の蓄積が溶存酸素の減少につながり、硫化塩還元細菌の増殖によって引き起こされると考えられている。6月から8月になり水温が上がるにつれて、有機物の蓄積、硫化塩還元細菌の増殖、硫化物量の増加を引き起こし、植物プランクトンの増殖を阻害したのかもしれない。
 小樽運河は水の流れがほとんどないため、表層と底層の水が循環していないことが予想される。もし、循環できるようになれば、有機物が拡散され、硫化物量の増加を防ぎ、よりきれいな水質になるかもしれない。


3.成果と課題
 本調査・研究は、生徒に「理科に関心を持たせる」「科学的探求心を持たせる」「地元に関心を持たせる」ことを目的として行った。 勝納川の水生生物の観察・分類では、いつも見ている身近な川に、実際に胴付長靴をはいて川に入るという体験や、その川底に想像もしなかった水生生物が生息しているという発見が、理科や身近な自然に関心を持たせることにつながった。また、顕微鏡を使っての分類では、毛の数、体の太さ、えらの形など、細かいところで分類しているという科学者の実践方法を体験できたことも、科学的探究心の育成につながった。
 小樽運河の水質・泥質調査では、観光でしか知らなかった場所での調査、専門的な器具を用いた分析、水だけではなく泥についての調査など、地元への関心や科学的探究心を大いに育成できた。また、分析した試料の結果を書籍やインターネットなどで調べパワーポイントでまとめたことは、論理的思考やプレゼンテーション力を培うのに大きな成果を上げたと考えられる。
 本調査・研究を一回限りではなく、継続して行うことができれば、地元小樽の水質環境の探究を通して、「理科に関心を持たせる」「科学的探求心を持たせる」「地元に関心を持たせる」の3つの目的をより深めていくことができるであろう。