2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

小学生への理科教育を通じた理系キャリア教育 -特に女子生徒にむけて-

研究責任者

山本 和弥

所属:北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科 物質化学コース 准教授

概要

1 はじめに

本校では平成2年度より近隣の小中学生対象にした公開講座を実施し、ものづくり体験ができる場を提供している。また、近隣小中学校への出前授業や文化祭等の展示・演示により理科教育普及活動を行っている。これまでの大小様々な取り組みを見る限り、このようなイベントに参加してくれる児童は理科が好きな子も多い事が伺える。しかし、このような実験イベントに参加してくれる児童がそのまま、理科系の科目に興味を持ちつつ学業を修め、理系の高校や大学に進学し、エンジニアや技術者、研究者等を志すとはもちろん限らない。また、近年ではリケジョという言葉も話題にあがるように、女性の理系分野への進出、技術者、研究者、その他専門職へ就業は国の後押しもあり進んでいると考えられる。しかし、この流れを継続していくには、小さい時から科学への興味を持たせ、進級、進学しても理系分野への勉強意欲を維持させることが重要であり、いかにして啓蒙していくかを考える必要がある。その為に上記のような実験、創作などの具体的な事象を扱った取組みも大変有効であるが、プラスアルファとして、低学年のうちから科学がどのような仕事、職業につながるかを、あいまいなイメージではなく、少し具体的に考えることができれば、目標意識が芽生え、興味や関心を継続することができるのではと考える。
一方、本校を含む国立高等専門学校は、実践的、専門的な知識や技術を習得するための学校であり、高校の3年間、大学の2年間の計5年(専攻科2年間を含むと7年)で卒業し、学生はそれぞれの進路に進むことになる。卒業後は大学への編入学、専攻科であれば大学院へ進学する学生もいるが、全体の50-60%の学生は企業等に就職することとなる。企業に就職した場合、学校で学んだ知識を活かせるような、生産、製造現場での技術者として、開発、分析などの研究者として就業することとなる。また、学生の約20%は女子学生であり、その多くは卒業後就職し、企業等で(男子学生と全く同じ職種・職場環境と限らないが)就業していくこととなる。国立高専全体でみれば、高い就職率を有しているが、離職率も少なくないと伺う。企業側も福利厚生の充実や様々な工夫や対策がなされているが、特に女子学生の離職については様々な要因が考えられるため、外的な環境を整えるだけでは不十分な可能性がある。そこで離職する原因を少しでも減らしていくために、就業する前の段階で、学生本人の中で十分に検討を行ったうえで進路を決めていくことが有効と考えられる。本校でも、就業前にできることとして、企業説明会やインターンシップヘの参加、企業OBによるキャリア教育、企業の技術者や大学の研究者を招いての講演会、本校OB,OGによる講話など、学生に考えさせるきっかけを提供しているが、学生にとって受動的な事案に偏っていることは否めない。ここに学生がより能動的に考えることができる取組みを実施することができれば、キャリア教育に関して高い効呆が得られることが期待される。
本プログラムでは、数年後に進路決定を控えた本校の1~3年生(高校1~3年生相当)の学生がどのようにして下の世代に理科・科学の面白さを伝えるかを考えてもらいたいのと同時に、理系としてのキャリアの説明、紹介を公開講座等イベントで実施することを本申請の日的とする。児童や生徒へ具休的な道を示す事で、科学や理系分野への興味?関心の更なる向上が期待でき、一方で学生自身のキャリアについても再考するきっかけになると考えられる。

2 実施概要

担当者は本校のクラブである化学愛好会の顧問を受け持っており、化学愛好会の部員約30名のうち、3年生(高校3年生相当)10名、1年生(高校1年生相当)4名がイベント時の実験や演示、説明等、実働を担当した。また、準備等や人員が不足した場合は上級生である4~5年生(大学1~2年生相当)の学生がサポートに回った。また参加対象者は、北九州市内、近郊の小学生(一部の企画では中学生も参加)とした。

3 実施内容

今回の担当学生は公開講座や実験イベント等の参加経験が少なかったため、当初は様々な企画に参加することで、実験操作や、進め方、小学生や子供たちへの教え方など、経験を積むことができた。今年度参加したイベントを表に示す。

(注:表/PDFに記載)

わくわくサイエンスキッズでは、各ブースで来場してもらった小学生にそれぞれ実験をやってもらった。1回のイベントで100~300人程度に実験をやってもらったが、特に初回については、担当者が遠慮がちで実験の手際の悪さもあり悪戦苦闘している様子が伺えた。5月頭で学期はじめから準備時間が十分に取れないこともあったが、事前検討や準備の大切さを身に染みたようであった。
各イベントでは3~4種類の実験を用意し、参加者の人数や希望、混雑状況により実験を選定した。
準備した実験として、人工いくらの合成、発泡ウレタンの合成、スライムの作成、指紋検出、ダイラタンシーの体験、時計反応、電子レンジでオーロラなどを行った。ブース実験であるため、操作が簡単かつ短時間で実施できるものを行った。本校で行った公開講座では、対象者が中学生であったためナイロン66の界面重合やポリアニリンの電解璽合など、少し専門的な実験を行った。担当学生は、初期はただ実験をやるだけだったが、回を重ねるにつれて、同じ実験でもどうしたら上手く見せられるか、楽しく感じてくれるか等、改良、改善点を学生同士で検討しており、この経験は今後の学習や学生実験で活きてくると期待できる。

上記の通り、今年度いくつかのイベントに参加したが、ブース実験は大人数に対応でき、科学や実験の面白さを見せるのには有効であるが、参加者に実験の細かい説明やより詳細な話をするには不向きであるので、年度末の3/25に北九州市立児童文化科学館で小学生向けの実験講座、「わくわく化学実験講座、高専生と実験してみよう!」を企画、実施した。実施場所は、対象である小学生向けのイベントを数多く実施されている北九州市児童文化科学館の一室をお借りした。募集のためのポスターは学生がデザインし作成した。また募集の案内は科学館のホームページにも掲載して頂き、市内各小学校にも通知して頂いた
。実験講座のテキストもすべて学生が作成した。実験は、ブース実験でも参加者の反応がよかった、発泡ポリウレタンの合成、人丁いくらの合成、更に、油脂から石けん、発泡入浴剤の作成、ドライアイスの性質を確かめる実験を計画した。各実験に担当者および責任者を決めて、テキストの作成、内容、実験の進行、説明の方法など全て責任者に一任した。テキストの内容は実験の原理実験操作の他にも、実際にどのような製品に使われているのか、その比較や歴史等、参加者に興味を持たせる内容を記載した。実験講座は3月25日(士)の13~16時で実施し、小学生20名で募集した。当日の参加者は小学1年生5名、2年生4名、3年生3名、4年生3名、5年生4名(1名欠席であったが代わりに付き添いで来ていた未就学児l名に参加してもらった)で男子15名、女子5名であった。3年生以下の生徒については保護者同伴とした。各実験台に生徒4人ずつ、高学年生と低学年生を平均的に配置した。本校からは3年生7名、1年生4名(男子6名、女子5名)が参加した。各実験台に本校学生2名ずつ(生徒2名に対し学生l名)配置し、各実験の責任者1名が前方で説明、指示を担当した。小学生(と保護者)の前でということもあり、緊張した様子が見受けられたが、全体に対し丁寧に原理の説明や、実験手順を指示してくれていた。
また、実験イベントでは単に実験を補助するだけの役割であったが、今回は参加者の前で説明できるよう、実験原理や細かい内容を各自で入念に調べ、準備していた。その甲斐があったのかアンケートでは、実験講座の感想は?(すごく楽しい19名、楽しい1名)、高専生の教え方は?(分かり易い17名、まあまあ分かり易い2名)、次回も参加しますか?(必ず参加する17名、参加した2名)と満足いく講座になったと思われる。講座は3時間と、小学生には少し長い時間であったが、飽きることなく実験に参加して、化学実験に興味を持ってくれたと感じている。一方で本校の学生も企画から実験の選定、テキストの作成、実験の準備、当日の進行等様々な経験を積むことができた。今回の経験が今後理科教育のための講座やイベントの計画や実施に有用でありかつ、学生自身の科学分野への典味?関心が再認識したものと考えられる。

4 まとめ.2年目に向けて

今回実施した実験講座は、小学生の理科?科学分野への興味、関心を育てるのに有用であるのと同時に、実施した学生の自主性や学習意欲を高めるのに効果があると考えられる。しかし、本プログラムの目的としている、理系としてのキャリアを考える内容を十二分に取り入れることができなかった点が反省点としてあげられる。今回、小学生へのアンケートにやりたい仕事、なりたい職業を質問したところ、教師、警察官、医者、スポーツ選手、大工、音楽家、漫画家、パイロット等、認知度が高い職業をあげる一方で、幣備士、薬剤師、科学者、実験をする人、ロボットクリエータ
ー等少し理系に特化した仕事を回答した児童もいた。今回の様な講座の参加者の中には少なからず、理系分野へ進路を考えている児童もいることから、講座、実験を通じて仕事や職業を紹介できれば、キャリア教育につなぐことができると考えられる。その手法については学生と相談しつつ検言寸していく。また、2年目は化学愛好会のメンバーと、本校の女子学生を主体とした団体"NitK.itガールズ”も参画する予定である。NitKitガールズも女子中学生向けに実験講座等を実施しており、そのノウハウを活かした企画を検討する。女子学生が中心に活動することで、今後の女子学生、女子生徒のキャリア教育への支援になるようなプログラムを組めればと考えている。