2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

宮城県大崎市内における淡水魚の分布調査と環境保全に関わる地域教材の開発

実施担当者

遠藤 拓海

所属:宮城県古川黎明中学校 教諭

概要

1.はじめに
 中学校学習指導要領では,「自然と人間」の学習内容として,自然環境の調査と環境保全について記してある。自ら地域の自然環境について調査することで,自分が住む地域の環境に意識を向けさせ,環境保全について考えさせることができる。平成20年の学習指導要領改訂により,中学校で外来種について学習することとなった。外来種の中でも,代表的なものはオオクチバス(Micropterus salmoides)で,現在日本全国に広まっていることが分かっている。本校のある大崎市には,ラムサール条約登録湿地である化女沼をはじめ多くの小川やため池が存在している。化女沼は,宮城県大崎市にある自然湖であり,2008年にラムサール条約登録湿地に指定され,豊かな自然環境を有しており,動植物の生息地としての役割も果たしている。近年,オオクチバスやブルーギルといった外来種が持ち込まれ,徐々に増えてきた。現在では,在来種であるギンブナや,モツゴ,ドジョウなどの数が激減し,湖の98.5%を外来種が占めていることが分かっている。しかし,化女沼から流れている田尻川には,メダカ(Oryzias latipes)やギバチ(Pseudobagrus tokiensis),スナヤツメ(Lethenteron reissneri)等が地域住民により確認されている。これらの魚類はいずれも宮城県や環境省指定の準絶滅危惧種であり,生息する川は生物学上貴重な川である。
 現在,この田尻川や周辺の小川には,外来種であるオオクチバス等が流入していることは分かっておらず,もし,流入していれば,存在する絶滅危惧種が減少する可能性がある。
 そこで,この田尻川を調査し,絶滅危惧種の正確な分布と,外来種の流入について調べる,状況に応じて駆除を行う必要がある。また,絶滅危惧種と外来種が密接に存在する地域は環境保全の学習に適しており,地域教材として有効だと考えられる。調査・報告は本校の生徒と行い,自ら調べ,発表する環境学習プログラムとしても活用していく。本研究の成果を積極的に公開し,貴重な自然環境が存在すること,危険にさらされていることを伝えることで,一人一人の環境保全への意識を高めることもできると考えられる。よって田尻川,での在来種の分布や外来種の流入について調査する。


2.淡水魚の分布調査
2.1調査河川
 宮城県北上川水系江合川支流田尻川とした。
(図1)
調査は,田尻川のAとBの2か所に分けて調査した。A地点は化女沼からの流入点であり,そこから170mを範囲として行った。B地点は田尻川と東北新幹線が交わる点から300mを範囲として行った。

2.2調査期間,サンプリング方法
 2014年7月~2014年11月の間に月一回(①7月23日,②8月24日,③9月20日,④10月18日,⑤11月1日)調査を行った。田尻川に生息する淡水魚をモンドリ,さで網,釣獲の方法で採捕した。採捕した魚は標準体長,体重を測定した後,直ちに捕獲した場所に放流した。

2.3結果
 A地点では,準絶滅危惧種であるギバチ,スナヤツメが確認された。B地点では準絶滅危惧種のミナミメダカ,ギバチ,スナヤツメが確認された。A地点,B地点ともに外来魚であるオオクチバスやカムルチーも確認された。(図2,3)

(注:図/PDFに記載)

2.4考察
 本調査により田尻川には準絶滅危惧種である,ミナミメダカ,ギバチ,スナヤツメが生息していることが分かった。特に,B地点において多くのミナミメダカが生息することが分かり,中学理科の教材として活用できるデータを得ることができた。また,化女沼では見られなくなった在来魚も多く生息していることが分かった。一方で,外来魚であるオオクチバスやカムルチーも生息していることも分かり,今後準絶滅危惧種や在来種が食害にあう可能性も考えられる。今回の調査は,生徒が川に入って採捕できるエリアを選んで調査したため,田尻川すべての魚類分布を調べることはできていない。しかし,化女沼からの流入点以外でもオオクチバスやカムルチーが確認されたため,田尻川に広く外来魚が生息していると考えられる。在来魚を保護するためにも外来魚の駆除が必要だと考えられる。


3.調査結果の公開
 調査結果は①学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ in 大崎,②平成26年度第3回みやぎサイエンスフェスタにおいてポスター発表した。(図4)
 また,本校の文化祭では,調査結果とともに大崎ミニ水族館として田尻川の在来魚を展示した。
(図5)


4.授業実践
 本校3年生の「自然と人間」の単元において授業実践を行った。(図6,7)「市内に生息する絶滅危惧種と外来種」というテーマで授業を行った。在来種を実験班ごとに小型の簡易水槽で展示し,在来種の分類を行った。次に自然科学部と合同で調査した分布調査の結果をもとに市内の環境について話した。生徒の多くは実際に魚を採って観察した経験がなく,市内に絶滅危惧種や外来種がいることを知らなかった。生徒のアンケートより,絶滅危惧種や外来種に対する関心が高まったことが考えられる。
<生徒の感想>
・実際にその川や沼に生きている魚を見て元応を知ることができて良かったです。
・化女沼にこんなに外来種がいるなんて知りませんでした。絶滅危惧種が絶滅しないようにみんなで気をつけなければいけないと思いました。
・今回のように実際に魚を観察して学習するのはとても新鮮でした。今日の授業で大崎市にもたくさんの外来魚がいることが分かったので,普段の生活や釣りをする際には意識したいです。
・たくさんの魚を知れて良かった。よく魚の顔や模様を見たことがなかったが,今回よく見てみてすごくかわいかった。自分たちでも魚を保全できたらいいと思う。


5.成果と課題
 本研究を通じて田尻川は化女沼にはほとんど生息していないと考えられる在来魚が多数確認されたり,ミナミメダカやギバチ,スナヤツメなどの絶滅危惧種も確認されたりしたことか生物学的に貴重な川であることが分かった。授業実践では調査の様子や結果を知らせることで生徒はより実感をもって環境に対する理解を深めることができたと考えられる。今回は生徒が調査できる地点ということで田尻川の2か所で調査を行った。他の地点を調査することでさらに多くの魚類を発見することができた可能性がある。今後も継続的に田尻川を調査し,公開することで生徒や地域住民の環境保全への意識を高めていきたい。