2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

宮城県内に生息するメダカのルーツを探る-高校生による高校生のための分子生物学特講-

研究責任者

小松原 幸弘

所属:宮城県仙台第一高等学校 教諭

概要

1 はじめに

宮城県内の4つの高校(宮城県岩ヶ崎高等学校、宮城県古川黎明高等学校、宮城県利府高等学校、仙台城南高等学校)の自然科学部と連携し、宮城県内各地に生息するメダカに関する共同研究を行
った。共同研究は生息地の環境の比較、形態的な特徴の比較、遺伝子解析の3つの観点から行った。
共同研究の実施に当たって、4回のミーティングを開催した。ミーティングでは、本校の生物部員が企画運営して、研究方法に関する探求的実験講座「高校生による裔校生のための分子生物学特講」を実施した。この講座では、メダカの形態的特徴に関する特徴や、DNA抽出法、PCR法による遺伝子増幅、電気泳動法による遺伝子の確認、シーケンサーによる塩基配列の決定、MEGA6を用いたデータベースとの比較、分子系統樹の作成法など、様々な分子生物学的手法を学んだ。
各校で学校周辺からメダカを採集し、形態観察を行った。また、採集したメダカを持ち寄り、遺伝子解析を実施した。研究成呆は共同研究成呆としてまとめ、宮城県理科研究発表会や日本分子生物学会・日本生物教育学会・日本農芸化学会の高校生のポスター発表会に参加し発表した。「高校生による高校生のための分子生物学特講」は、生物部の日頃の研究成果を還元するアウトリーチ活動の一環として、また意欲的な高校生の科学リテラシーを裔めることを目的とし、平成25年度より3年間にわたって実施してきた。県内の高校から希望者を募り、生物部員がパワーポイントによるプレゼンテーションを作り、講義から実験指導までを自分たちの手で行い、「手動PCRによる遺伝子組み換え作物の検出」を体験するものである。本事業では宮城県内に生息するメダカを題材として扱う。
共同研究の主題として扱うメダカは、生物部の研究として平成25年度より調査を進めてきたものである。宮城県の松島湾にある塩竃市浦戸諸島の一つである寒風沢島には、周囲が海に囲まれた島であるにもかかわらず、古くからメダカが生息していることが知られている。平成23年の東日本大震災で、寒風沢島は津波による大きな被害を受けた。津波の影聾でメダカの絶滅が危惧されたが、平成25年からの本校生物部の調査では、毎年メダカの生息が確認されている。このメダカの起源を解明することを目的として、寒風沢島の3カ所から採集し、DNAを抽出、ミトコンドリアのシトクロームb遺伝子領域(114lbp)のDNA塩基配列の解析を行い、データベースと比較した。
また、メダカの形態的な特徴についても観察を行った。その結果、遺伝的に2つの系統のミナミメダカが生息していることがわかった。今回は宮城県内全域のメダカと比較することで、その起源を明らかにするものである。

2 分子生物学特講

2-1第1回ミーティング

7月18日(月)海の日に本校生物室で実施した。宮城県内の5つの高校が集まり、メダカの採集・形態観察について研修を行った。本校と宮城県岩ヶ崎高等学校、宮城県古川黎明高等学校、宮城県利府高等学校、仙台城南高等学校で生徒12名、教員6名が参加した。午前中は本校生物部員が自作のパワーポイントを用いて研究概要と形態観察方法について説明した。午後はフィールドに移動し、生息状況の観察と採集を行った。

2-2 第2回ミーティング

8月18日(木)に本校生物室で、生徒11名、教員7名が参加して実施した。午前中は学校ごとメダ力採集状況と形態観察結果を発表した。すべてミナミメダカと同定した。また尾ひれからDNAを抽出し、抽出したDNA量を測定した。午後はPCR法の原理を学び、試料を調製してサーマル・サイクラー
にセットした。

2-3 第3回ミーティング

8月21日(日)に本校生物室で、生徒8名、教員4名が参加して実施した。午前中、はじめに電気泳動法の原理について学び、その後、前回にPCR法で増幅したシトクロームb遺伝子を電気泳動法で分離確認し、ゲルから切り出した。午後は電気泳動で分離したゲルからDNAを抽出し、DNA量を測定し、
濃度調節をしてDNAシーケンス外注の準備をした。

2-4 第4回ミーティング

9月4日(日)に本校生物室で、生徒10名、教員7名が参加して実施した。前回外注したシーケンス・データをもとにMEGA6の使い方を学びながら分子系統樹を作成した。今回解析した12個体のサンプルを統合し、データベースから得た配列と比較した。
サンプルはすべてミナミメダカであり、形態観察の結果と一致した。今後も採集地点を増やしていくことにした。

3 研究について

3-1 概要

宮城県内20カ所から120個体、山形県内3か所から13個休を採集した。すべての個休について形態観察を行った。また、その中から58個体と市販のメダカ3個体についてミトコンドリアのシトクロームb遺伝子(1141bp)の遺伝子解析を行った。

3-2 形態観察

体後部の網目模様、尾鰭基底の黒色斑紋、背びれの切れ込み、銀色の鱗の枚数の4点に注目し、採集した各個体について形態を観察した。体後部の網目模様、尾鰭基底の黒色斑紋、背びれの切れ込みについは宮城県で採集した個体と山形県で採集した個体ではっきりした違いが見られ、宮城県はミナミメダカ、山形県はキタノメダカの特徴を持っていた。銀色鱗の枚数については、ミナミメダカは0~9枚、キタノメダカは10~23枚とされているが、はっきりした差は見られなかった。銀色鱗の枚数についてはさらに詳しく調べる必要があると考えられる。

3-3 遺伝子解析

尾ひれの断片からDNAを抽出、DNA最を測定したのち、PCR法・電気泳動法によりミトコンドリアのシトクロームb遺伝子領
域を含む約1.2kbのDNA断片を増幅し、外注によりその塩基配列を得た。遺伝子解析ソフトMEGA6を用いてデータベース上の日
本各地のメダカから得られた塩基配列と比較検討した。その結果、宮城県で採集した個体はすべてミナミメダカ、山形県で採集した
個体はすべてキタノメダカに属した。さらに宮城県内には、茨城県瓜連町に近い塩基配列を持つものと、茨城県水戸市と完全に一
致する塩基配列を持つものの2種類のメダカが混在していることがわかった。市販のメダカは神奈川県小田原市と完全に一致した。

3-4 結果・考察

瓜連町に近い塩基配列の個体は、データベース上に一致するものがないこと、内陸部や寒風沢島に多く見られることから、宮城
県固有である可能性が高い。水戸市と同じ塩基配列の個体は、平野部に多く見られることから、南から宮城県内に生息域を広げて
きたと考えられる。来年度はさらに調査地点を増やすとともに、福島県の高校と連携し、福島県内の分布を調べたい。また、岩手
県の高校と連携し、ミナミメダカの北限も確認したい。

4 学会参加

4-1 日本分子生物学会(高校生ポスター発表・ロ頭発表)

12月2日(金)、共同研究体を代表してパシフイコ横浜で開催された日本分子生物学会年会に参加し、口頭発表とポスター発表を行って来ました。口頭発表では、5分間という短い時間内に終わるように内容を削ったり、手短に説明したり工夫しました。とても大変でしたが発表の後、拍手をもらいとても嬉しかったです。ポスター発表では質間を受け、言葉に窮するところもありましたが、なんとか答えることができました。また、たくさんの人から助言をいただきました。この経験を福にこれからも頑張っていきたいと思っています。(仙台一高生徒談)

4-2 日本生物教育学会(高校生ポスタ
一発表)

1月7日(土)・8日(日)、東京学芸大学で閲かれた第101回生物教育学会はとても刺激的で充実したものとなりました。今回は共同研究校4校での発表参加だったので、とても心強かったです。(仙台一高生徒談)
今回私達は、共同研究の水質調査の過程で見つけた「リン酸とアンモニアが水棲生物にどのような影響を及ぼすか」という内容で発表しました。図7日本生物教育学会参加メンバー私たち自身の発表でも多くの指摘をうけ、自分たちの研究で抜けていた着日点を知ることができ、参考になったとともに全国の場で発表することができてとても良かったです。(利府高校生徒談)

4-3 ジュニア農芸化学会(ポスター発表)

3月17日(金)・18日(土)、共同研究体を代表して京都女子大学で行われたジュニア農芸化学会に参加して来ました。国吃基礎生物学研究所で、メダカの研究をしている成瀬清先生に発表を聞いて頂いたことと、発表を通して友人ができたことが嬉しかったです。この出会いを通して、来年度もこの研究がもっと発展していってほしいと思います。(仙台一高生徒談)

5 次年度に向けて

共同研究校それぞれが、形態・遺伝子・環境等様々な観点から発表できるように発展させていきたい。