2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

実験を通じて環境の価値に気づかせ自然再生活動の意義を理解させる活動

実施担当者

神田 昌彦

所属:青森県藤崎町立明徳中学校 教頭

概要

1.はじめに
 本校は、津軽平野南部に位置し、周囲を水田、リンゴ園に囲まれた自然豊かな環境に位置する。「自然豊かな環境」は、我々にとって常態であるため、当事者には「恵まれている」という意識を持つことが難しいという現状がある。また、こういった環境では先端的な科学産業や研究の現場から刺激を得る機会もほとんどないため、理科学習の成果が日常の便利な生活の中で生きていることを体験的に理解することも難しいという課題がある。
 このような状況、課題を解決するため、「当たり前」ことの重要性と検証を通して科学的な論理性を身につけさせ、さらに生活の中に科学の有用性や日常性を発見させることで、一層のイノベーションにつながる心を育むことを目指す活動に取り組んだ。
 具体的には地球規模で今何が起こっているのか、それらが自分たちの生活や環境と緊密に連動していること、さらにその原因や対応策を考えることを可能な限り体験を伴う実験を通じて再現、考察することで問題意識を自らのものに出来る講座実施を目指した。


2.講座の取り組み
①温暖化と二酸化炭素を考えよう
 最初に取り組んだのが二酸化炭素による地球温暖化現象とそれが自分たちの生活に及ぼす影響の確認実験である。これは弘前大学教育学部理科教育講座、長南幸安教授を講師に迎えて実施した。理科の教科書では二酸化炭
素は「地球を暖める性質を持っている」というような記述はない。しかし、生徒達はメディアを通じて「地球温暖化=二酸化炭素の増加」という因果関係をなかば「当たり前」として認識している。だが、その当たり前を説明は出来ないのである。そこで、この因果関係をドライアイスやホースのような密閉環境という中学理科とは異なる実験材料や工夫によって生徒達の関心や興味を引き出し、具体的、体験的に納得をする実験活動によって考えさせ、答えを導き出す活動を行った。
 「当たり前」を当たり前とするには正しい知識や体験が重要であることを生徒に認識させられたことを成果として報告したい。

②大地はなんでできているのか
~足元から地球をみつめよう
 青森県には県立博物館がない。それに代替するものとして県立郷土館が青森市にある。そこでは本県の自然科学から社会科学分野までを網羅的に展示、解説している。その郷土館から主任学芸主査(専門地質学)島口天氏を講師に迎えて講座を行った。
 2011年3月11日の東日本大震災で、本校地区も大きな揺れに見舞われ、停電や建物の破損などに見舞われたのは生徒の記憶にも新しい。こうした生徒の地震災害という実体験への関心-大地の働き-を活かしつつ、その関心を地質学的なものに奪胎させようというのが本講座の眼目である。
 地震の被害や影響についての講座を経て後、青森県がどうやって誕生したのか、を考えテーブル毎に仮説の発表を行った。その後、講師が配布した本県各地で産出した岩石標本を生徒達は手に取り、その岩石がどのような性質で有り、どのような環境で出来るのかを考え、改めてその仮説の検証を行い再度発表し講師による評価や批評を受ける形で講座は進められた。
 漠然と考えていることを具体的な資料に基いて仮説を立証するという最も基礎的な化学活動を経験させることが出来たことがこの講座の最大の成果になったと評価している。

③エコ活動・節電の大切さを考える
 持続可能な社会を構築することは現代を生きる私たちに課された重要課題である。次代を担う生徒にはこの問題意識をあらゆる生活場面において通奏低音のように意識してもらえるようになることが望ましい。そこで実際に、日常生活でどれだけの電気エネルギーが消費されているのか、そしてそれを減らす活動が出来るのかどうかということを実際に自分の手で計測し、確認することで実現しようという講座を実施した。
この講座では民間企業の協力を得て、リコージャパン株式会社弘前営業所と富士通グループの協力を仰いだ。
 講座はテーブル毎にパソコンを設置し、各種の電気器具を接続して消費電力を計り、それぞれの家庭での利用状況に照らして毎日どれだけの電気が消費、消耗されているのかを認識させ、今後の生活や社会環境、エネルギー生産との関係について具体的な内容が解説され、考えさせる内容となった。
 生徒はすでに第一回目の講座で二酸化炭素のもたらす環境負荷について体験的理解を持っているので、エネルギー生産と二酸化炭素の関係性について指摘をうける場面では深刻な表情で反応を示し、学習内容が接続していることの確認が得られたことは特筆すべき効果だと報告したい。


3.まとめ
 主体的な問題解決へ導くための授業はどうあるべきなのか。私たち教師にとっては永遠のテーマである。
 人はあくまでも、自発的な心の発動がない限りは、自らを変えることなどできない存在だと思う。だとすれば、教師の働きかけはひとつのきっかけに過ぎない。だから、きっかけになりそうな材料をどんどん提供する、また、きっかけが生まれそうな場を積極的に設定していくことが、教師の役割ではないか、とも思う。
 今回の取り組みは、子どもの知的好奇心を目覚めさせ探求心を呼び起こすためのアプローチとして大きな役割を果たしたものと確信する。