2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

学習意義を実感させる実験と観察

実施担当者

伊藤 拓也

所属:千葉市立緑が丘中学校 教諭

概要

1.はじめに
 理科教育の充実は科学技術創造立国を目指す日本にとって重要な課題である。課題を達成すべく中学校の新学習指導要領が平成24年度より全面実施となり、理科の授業時間数は以前に比べて95時間増加した。
 しかし、国際調査により、日本の子どもたちは理科に関する知識は高いものの「理科は日常生活で役立っている」「理科を学ぶことは大切である」という有用感・学習意義を見いだしていないことが明らかになった。従来の指導では、生徒に知識を記憶させることに重点が置かれ、なぜ学ばなければならないかということや、実験や観察を通して実生活との結びつきを感じさせることが十分にできていなかった。
 そこで、本研究では、実験や観察を通して生徒に理科の有用感・学習意義を実感させることに焦点をあて進めていく。教科書を見たり、教師の話を聞いたりするだけでは、理科で学んだ知識が日常生活と結びつかない。しかし、実物を観察したり、実験を行うことで、体感的に理解することができ、有用感や学習意識を見いだすことができると考えた。


2.実践例①飛ぶ種
 「植物の体のつくりと働き」の導入で扱った。まずラワン・マツ・ニワウルシ・アルソミトラの実物をそれぞれ用意し、飛び方を見せた。そのあと、生徒一人ひとりに折り紙で模型を作成させた。単に楽しい活動として終わることのないよう、どうして植物の種がこのような散布形態をとるのかを考えさせる授業とした。


3.実践例②金属の密度比べ
 「同じ体積にしたときの質量の違い」を体感させるために、同じ体積のアルミニウムと銅を一人ひとりに持たせた。また、100cm3の金ではどの程度の重さになるのか計算させ同程度の重さ(19.8kg)のタンクを持たせた。生徒は、物質により手ごたえが違うことに驚きの声をあげていた。


4.実践例③火山噴火モデル実験
 セメント、洗濯のり、クエン酸などを用いた火山噴火モデル実験で、噴火のメカニズムを理解した。本実験ではニ酸化炭素が発生しマグマが吹き出すため、本物の火山と同じ原理である。吹き出してきた溶岩に細かい穴が開いているのも、本物の溶岩と同じ原理である。また、薬品の調合具合でマグマの粘り気を変えることができるため、班ごとに変えさせて実験を行った。


5.まとめ
 このような授業を行った後にアンケートを取った結果「理科が好き」「理科は日常生活において大切である」と考える生徒が、それぞれ2倍近くまで増えた。この試みによって、とりわけ自然科学が日常生活に深く関与していることを、多くの生徒に実感させることができたという印象がある。このことから、生徒自身に実験をさせることは理科教育にとって非常に効果的であり、当研究の命題である「生徒に理科の大切さを知り、好きになってもらう」という目的はある程度達成されたと言える。

(注:アンケート/PDFに記載)

 今回の研究の目的はある程度達成されたと言える。しかしながら、理科実験を通じて得られる知識や能力が生徒自身に本当に身についたのか、そしてそれらを生徒が活用するためにはどのように指導すればよいのか、という点に関しては疑問が生じ、今後の課題として残ることになった。
 上述のような知識・能力は既存のペーパーテストでは推し量ることが困難なため、より高度で、かつ生徒の知的好奇心をくすぐるような課題を設定し、授業に組み込むことができれば、このような問題は解決できると考えられる。
 次年度以降は、生徒に理科知識と論理性を身に付けさせ、それらを駆使した問題解決方法を学習させることを研究する。