2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

学ぶ意欲を高める授業の創造 ~思考力・判断力・表現力の育成~

実施担当者

山本 芳幸

所属:倉敷市立玉島東中学校 教諭

概要

1 はじめに
中学2年生の「電気」単元で『電気で遊ぼう』と称して、様々な電気部品をさわってみる時間を設けている。「電気」単元は、目に見えない抽象的な内容からか、難しいと感じる生徒が多く、苦手意識を持ちやすい。理科のアンケートをとったときにも、電流単元を扱うときには、「理科が難しい」と回答する生徒が65%を示した。それを解消するため、電気部品にたっぷりとふれ、実験機械を増やし、興味を持てるようにしている。その詳細を説明する。


2 電気で遊ぼう
身近にはたくさんの電気部品に囲まれている。「電気で遊ぼう」の実践は、さまざまな電気部品で自由に2時間ふれて、自分が興味を持った電気部品についてレポートを提出させる。この授業では、全ての電子部品を扱う必要はない。生徒自身が興味を持ったものをそれぞれ調べればよい。生徒同士でお互いに教えあいながら取り組んでいる。
原実践は、小森栄治氏(日本理科教育支援センター)のものである。本校での電気で遊ぼう」セットで実際に遊んでもらったものは「乾電池、豆電球、リード線、プロペラ付きモーター、手回し発電機、コンデンサー、LED、ソケット、圧電ブザー、電圧計」である。
一つの部品に熱中する人や、色々な部品の特性を探っている生徒もいた。
レポートでは、その一つの部品について詳しく調べ、レポートにまとめるよう指示した。
他の部品と組み合わせ、知りたいことを調べている生徒が多かった。生徒の興味関心を高め、レポートを通して自分の表現力を身につけるために、本実践は有効と思われる。


3 パフォーマンステスト
本実践では、まず単元で扱う実験器具を習得する必要がある。以下の器具である。
電流計、電圧計、テスター、電源装置

それぞれにパフォーマンステストを行い、合格すれば次の装置に進める。
電圧計のパフォーマンステストの合格の条件は以下である。
①形成的テストNo。2に合格。
②端子を正しく用い、目盛りが読める。
③電池の電圧をはかれる。
④回路のはかりたい所に正しく配線できる。
⑤正しくない回路図を見ぬける。

電圧計のカードには、乾電池の電圧を測る指示、正しくない回路、正しい回路、などが書かれてある。それらを見抜き、正しく回路が見抜けることが条件になる。合格した生徒は、他の生徒の判定ができるので、生徒同士で楽しみながらテストができ、かつ電圧計の使い方を習得することができる。
パフォーマンステストを通して、電気器具の習得の他、相手に自分の技能を見てもらうと、その時に器具をどう扱うか、考えたことを表現する。思考力や表現力の育成にもつながる。
電圧計のようなパフォーマンステストを、電流計やテスター、電圧計でも同様に行う。生徒はやり方に慣れるので、スムーズに生徒通しで進めていくことが可能になる。


4 問題解決学習
上記4つの器具をマスターした上で、本実践が可能である。次の問題を全体に投げかける。この答えはイである。予想でイを選択する人はほとんどいない。なので、驚きの声があがる。
1つずつならAの100Wの方が明るいのに、なぜ直列にするとBの40Wの方が明るくなるのかを実験によって確認させる。

AとBの2つの電球があります。Aは100W、Bは40Wです。1つずつスイッチをいれて電流を流すと100ワットの電球の方が明るく輝きます。では、下のような回路にしたら、AとBの電球ではどちらが明るく輝くでしょうか?

【予想】
ア Aの電球の方が明るい。
イ Bの電球の方が明るい。
ウ AもBも同じ明るさである。
エ その他( )

実験道具には、以下を用いる。

6。3V豆電球(40W電球の代わり)、3。5V豆電球(100W電球の代わり)、乾電池、乾電池フォルダー、リード線(6本)、電圧計、電流計、抵抗テスター、電源装置(4Vくらいで)

3時間まるまるこれらの道具を使って実験を行い、レポートにまとめさせる。
このレポート作成には指導を加えた。左に例を示す。課題は黄色のカードに書くこと、実験方法と結果はピンクのカードに書くこと、実験方法とはその間に書くことなどである。

こうすることで以下を育てることができる。
・実験結果をまとめる力
・実験から何がわかったかを考える力(考察)
・結果と考察を分けて考えることができる力

レポート作成を通して、生徒の科学的な表現力を鍛えている。
この実践では、導入が大切である。最初を失敗するとその後の探究活動も鈍くなる。
3時間も自分たちだけで実験させ、レポートにまとめるので、上記の趣意説明が必ず必要である。
優秀なレポートは、コピーして各班に配布した。見本にする基準になるのは以下である。
実験結果から正確に考察を導き出しているか
結果と考察が正対していないレポートや、考察に感想を書いているレポートは印刷しない。レポートを作成するごとに、指導を加える。ただ悪い点を指摘するだけでなく、良い視点の実験や読みやすいレポートなど、大いにほめながら実験をすすめる。しかし、なかなかレポートができない生徒もいるので、それらの生徒には、班の他のメンバーのレポートを写させるなどできるだけ協力させるようにした。
初めの1時間目では、左写真のレポートのように、すぐにできる実験でレポートを作成する傾向にある。
豆電球の抵抗を測る、直列と並列で明るさを見る、直列と並列で電圧や電流を測る、などである。
しかし、3時間目では、考えられたレポートが作成されるようになる。レポートは、乾電池を増やし、豆電球に流れる電流の値をグラフにしている。
すると、豆電球の抵抗によって電流の値や明るさが違うことなどを見出している。つまり、教師が教えなくともオームの法則を発見していた。
問題の解決には至っていないが、このような原理を追求したレポートは大いに評価した。
また、左のレポートは、豆電球を直列に配線し、各場所の電流を調べたものである。
電流計をどこにおいても電流の値は変わらないことを見出していた。つまり、
教師が教えなくとも、直列回路の
I=I1=I2 や V=V1+V2を発見していた。
問題を解決する過程で、さまざまな原理原則を自分の手で探し当てる作業は、子どもたちにとって夢中になる活動である。

3時間目になると、生徒が自ら実験したい、というようになる。そして、次々とレポートを作成する。印刷が追いつかなくなるほどである。

レポートを作成したら、大いに褒めて合格ハンコを押し続ける。そうすることで、実験への意欲も高まる。
3時間を終えてのまとめの授業では、1時間を用いて直列での電圧と電流、並列での電圧と電流を、生徒の実験結果からまとめる。そして、直列回路、並列回路の各豆電球にかかる電圧と電流を掛け算することで、明るさの違いを理解させる。
また、それが電力と呼ぶことも教える。このまとめを通して、問題を解決していく過程で知ったことが、実は大切な電流の原理であることを理解することができる。


5 まとめ
電気で遊ぼう、パフォーマンステスト、問題解決学習を通して、生徒の思考力や表現力や判断力を鍛えることが可能である。
そのために、実験道具を整備したり、時間を確保したりすることも必要である。
また、それらをレポートにまとめる際のまとめ方の指導や、レポートを用いた考察も必要である。
生徒の興味関心を高め、自ら調べようとしたり、考えようとするためには、上記のようにふんだんに「もの」を用意することが必要である。