2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

学び合いが起こる理科教育におけるアクティブ・ラーニング型授業

実施担当者

溝上 広樹

所属:熊本県立苓明高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 次期学習指導要領では「どのように学ぶか」という学びの質や深まりを重視し,アクティブ・ラーニングの指導方法等を充実させていくことが検討されている 1)。
 生徒が活き活きと学び合いながら,授業実践を行うことで,教科における基本的な学力を定着させることはもちろんだが,チームで働く力などの汎用的な能力の向上を期待することができる。
これまでに産業能率大学教授小林昭文によって,高校物理における体系的な実践が報告されており,各県で取り組みが広がっている
 しかしながら,生物においては,物理のような演習型のアクティブ・ラーニング型授業の実施が教科の特性上簡単ではない。毎回の生物の授業において効果的にアクティブ・ラーニング実施できるよう研究と実践を行った。


2.活動時間確保のためのプレゼン機器・機材の充実
 高校生物における授業で,生徒同士による学び合いの時間を確保するためには,板書の時間を減らすこと,ノートに板書を写す時間を減らすことが効果的である。
 そこで,まず教員が単元の概要を説明するために,A4の紙にあらかじめ内容を記入したものをホワイトボードに貼りながら説明するKP法を採用した 3)。さらに,教科書の図や写真はiPadを用いて,プロジェクターで投影した。生徒からは「説明がきちんとホワイトボードに貼られているので,分かりやすい」「教科書の図や写真のどこを説明しているのかよく分かる」といった意見が多く出された。


3.通常授業におけるアクティブ・ラーニング
 通常授業における生物のアクティブ・ラーニング型授業は次の流れで実施した。
①KP法およびスライドによる解説
 授業の目的と目標,学習内容について,KP法やスライドで説明し,授業で目指す姿や単元の概要を確認する。
②ミニジグソー法
 4人1グループを作り,教科書の学習する部分を4分割し,まずは個人にて内容の理解を行う。その後,一人ずつグループ内で発表し,ディスカッションによって相互に内容理解を深める。
③確認問題
 グループ単位で,学習内容を振り返りながらキーとなる問題を解き,確認テストに備える。
④確認テストとリフレクションシート
 小テストを受けて学習内容を振り返ると共に,問題が解けるという成功体験を積み重ねる。また,リフレクションシートによって,学習内容だけでなく,活動の振り返りを行う。この活動を通して,目指す姿を再認識する。
 この取り組みと成果については,2015年9月20日にIAEVG International Conference 2015(国際キャリア教育学会)にて発表した。


4.単元のまとめでのアクティブ・ラーニング
 単元のまとめにおけるアクティブ・ラーニング型授業のひとつとして,KP法によるポスターツアー形式による発表会を実施した。
①テーマ選択
 個人で生物グループ1つ選択し,同じ生物グループ同士5名で班を編成。
②評価項目作成
 KPシートや発表時の評価項目を個人・グループ・クラス全体で考える。
③個人・グループで担当分野をまとめる
 1人3~4枚を担当してKPシートを作成。
④発表および質疑応答の練習
 1班 15~20枚のKPシートができたら,1人ずつ発表と質疑応答の練習を行う。
⑤ポスターツアー用の班編成
 各生物グループから1名ずつが出て,多様な生物グループ6人班[A~F]をつくる。
⑥ポスター発表
 Aは植物,Bは動物,Cは菌類…というようにポスターツアー用班で1つのポスターを囲み,そのポスターを作成した者が発表を進行する。終了後,ひとつずつズレながら順次発表をしていく。


5.まとめ
 授業前の4月と授業後の1月にアンケート調査を行ったところ,汎用的な能力のうち,主体性,発信力,ストレスコントロール力について,特に有意に伸ばすことができた(n=28,p<.001)。さらに,課題発見力,計画力,創造性でも有意な差がみられた(n=28,p<.005)。
 以上のことから,本研究で開発したアクティブ・ラーニングの手法は,汎用的能力の向上に効果的であることが示唆された。今後,生徒の活動を中心とした授業実践の充実やそれを可能とする設備などハード面での整備も重要となる。