2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

天文観測用教材開発と天文教育の普及

実施担当者

穂積 正人

所属:兵庫県立舞子高等学校 教諭

概要

1. はじめに
 「ハヤブサ2号機の打ち上げ」「日本人宇宙飛行士の国際宇宙ステーションでの活躍」など宇宙や天文に関するニュースも多く、たくさんの方々が興味関心を持たれているように感じます。小学校では、4年生から天文分野を学習することになり、早くから興味関心を持つ子ども達がいます。しかし、最近、天頂付近にひときわ明る<輝いている木星の4大衛星や金星の満ち欠けについて知っている方々は少ないと思います。
 古来より天文と我々の生活は切っても切れない関係にあり、環境面からも、地元の方々や小中学生にも興味関心を持っていただく機会として、星の観察会・太陽観察会・プラネタリウムの投影・3D宇宙旅行の上映などを行っています。また、部員の資質向上のため、「星空案内人」資格取得、研究および研究成果の発表等を行っています。


2.  研究・活動
2-1 星の観望会
 小学校・公園・商業施設・コミュニティーセンターにて、望遠鏡で星を見ていただくだけでなく、プラネタリウムの投影・3D宇宙旅行の上映・昼間であれば、太陽観察等を実施しています。
① プラネタリウム投影
 移動式のエアドームを用いてプラネタリウムを投影しています。これは、遮光シートをドーム状(半球状)にを貼り合わせて製作したもので、サーキュレーターで送風しながらふくらませ、内側でプラネタリウムの投影を行います。衣装ケース程度に折りたため、移動が可能で、現地で簡単に糾み立てができます。
② 3D宇宙旅行
 3D宇宙旅行は、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクトMitakaで、地球から宇宙ヘ宇宙空間を自由に移動して、時には、惑星や恒星に立ち寄りながら、宇宙の様々な構造や天体の位置を見ることができます。具体的には、偏光メガネをかけ、3Dのカラー映像を見ることにより、目の飢に迫ってくるような迫力のある映像をご覧いただけます。解説や操作は、「星空案内人」の資格を持った生徒を中心に行います。
 28年度の上映実績(校内上映は除く)
7月 三木ホースランド 星空観望会 約60名
8月 小野市交流会館(ユピカ)観望会 約50名×2回
11月 舞子公園観望会 約50名×2回
1月 小野市交流会館(ユピカ)観望会 約50名×2回
2月 西宮ガーデンズ 星空案内 約45名×4回
西宮ガーデンズアンケート結果(抜粋)

(注:図/PDFに記載)

③太陽観測
 天気の良い昼間には、太陽の観測を行っています。可視光線では、主に黒点の観測を行い、Hα望遠鏡を通して、プロミネンスの活動を観測し、写真撮影を行っています。

2-2 脈動変光星キリン座BLの測光観測(平成29年3月,日本天文学会ジュニアセッションで研究発表)
① 観測・撮影の時間と方法
 今回の観測は、兵庫県立大学西はりま天文台60cm望遠鏡にCCDカメラ(SBGI ST-9)を使用し、脈動変光星キリン座BLの2色測光観測を行った。Vバンド、Bバンドフィルターを使用して2016年11月25日22時頃~11月26日3時頃(日本時間)まで露出時間30秒で交互に撮影を行った。

②測光・データ処理
 得られた画像データはFITS形式のため、国立天文台の画像解析ソフト「マカリ(Makali'i)」を利用してスペクトル両像を平均化し、ダーク補正およびフラット補正を行い、一次処理をした。次に2つの比較星ときりん座BLの明るさを求めるため「マカリ(Makali'i)」にてカウント値を求め、等級に変えて光度曲線を作成した。用いた式は、等級差⊿m、変光星のカウント値をL1、比較星のカウント値をL2とする
<⊿m=-2.5log10L1+2.5log10L2>(ポグソンの式)
この式にそれぞれのカウント値を代入して等級差を求め、グラフ化した。観測データの信頼性を上げるため、平均値から標準偏差の幅に収まるデータのみ使用した。

③ 結果
光度の周期的な増減が確認できた。

(注:図/PDFに記載)

④ 考察・課題
 このデータから周期が平均56分10秒と求められた。
【SI MBAD Astronomical Database】には、周期57分36秒と書かれていることから、近い値を得ることができた。きりん座BLが変光しているのは、星自体の膨張・収縮が考えられるが、その原因は何か。また、今回1回のみの観測だったためさらに研究観測が必要だと感じた。今回2色測光観測にあたり、Bバンド、Vバンドのフィルターを使って撮影を行ったが、B-Vの色指数を求めるに至っていないので今後の課題となった。

2-3 星空案内人
 「はりま宇宙講座(全国の天文施設が、星空案内の専門家を育てるプログラム)」を受講して、高校生ではめずらしい「星空案内人」の資格を取得しています。この資格を取得することにより、自信を持って、一般の方々に案内が可能となります。

2-4 リュウグウ(はやぶさ2号の目標天体)の位置測定と測光観測
 本校2年の女子生徒が、美星天文台(岡山県)で観測。データ解析を行い、測定結果は、小惑星の観測データを国際的に管理しているMPC(Minor Planet Center)に送られました。今回の観測は、リュウグウのより正確な軌道推定に貢献できるものと期待されます。

2-5 モデルロケット
 ロケットの構造・原理・歴史などの講義・エンジンの知識の解説を行った後、いよいよ、モデルロケットの組み立て、打ち上げ・回収と続きます。時間があるときは、持参していただいた、チョコレートの外箱やラップの芯を用いた手作りロケットを製作し打ち上げます。

2-6 その他
 兵庫県科学の祭典・兵庫県サイエンスフェア・益川塾科学シンポジュウム等で研究発表を行いました。


3. まとめ
 星の観察会で部員が望遠鏡操作や星空の解説することで、部員の知識技術の向上や社会性の研鑽に努めていくとともに、地域貢献事業の一つとして取り組んでいきます。同時に、観望会(昼間は、太陽観察会)でいろいろなイベントを開催するとことにより天文教育の普及にもつながると考えています。