2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

天文を入り口とした科学教育振興 -スターキャッチコンテスト&車いすの科学者を-

研究責任者

岡村 典夫

所属:茨城県立土浦第三高等学校 教諭

概要

1 はじめに
天文学は多くの児童生徒にとって魅力的な学問である。理科は難しくて嫌いだけれど星には輿味があるという生徒が多い。しかしながら,宇宙はあまりにも広大で普段の生活をしているだけでは
想像すらできない。宇宙を身近に感じることができる唯一の道具,それは天体望遠鏡である。天体望遠鏡を覗くとクレーターや土星の輪など肉眼では見えないものが見えてくる。本当に暗い空で見ることができる,雲のような天の川に向けた望遠鏡の接眼レンズを覗けば,そこには無数の星が見
え宇宙の広がりを感じることができる。
車いすに乗った生徒たちは,ほとんどそのような機会を得ることができなかった。たとえそのような機会に恵まれても,見づらい位置にある接眼レンズを必死に覗く必要がある。しかし,ナスミス望遠鏡と今回助成を受け製作した架台が,解決の糸口を与えてくれた。誰もが素晴らしい性能の
望遠鏡で宇宙の入り口を覗くことができる。
科学に興味を持つ高校生たち。彼らにさらなる科学への興味を持たせるにはどうすべきかとここ数年考えてきた。それに,一つの答えを与えてくれた観測会があった。それは碧城高校での観測会である。私が高性能の望遠鏡とともに持参した,たった口径6cmの小さな手作り望遠鏡が生徒を夢中にさせたのだ。その観測会には誰もがうらやむような裔価な機材が何台もあった。しかし,生徒を夢中にさせたのは自由に触れ,万が一壊れてもすぐに直せる機材であった。その小さな望遠鏡を扱うコツを教えると必死に星を導入し,導入できたときの喜びぶりが本当に凄かった。そのとき自分の高校時代を思い出した。手作りの貧弱な反射望遠鏡で天体観測をしていた日々,すなわち筆者の原点を。そして,スターキャッチコンテストヘの思いを強くした。

2 特別支援学校天体観測会

2-1 今回製作した架台

昨年度の支援では,ガスシリンダー内蔵の30cm上下するピラー三脚を製作し,ドイツ式赤道儀を使って特別支援学校での観測会を実施してきた。しかし,赤道儀ではどうしても接眼部の高さの変化が30cmの上下ではカバーしきれない悩みがあった。そこで,電動化した経緯台に着目し,製作をユーハン工業に依頼した。望遠鏡は今までは屈折望遠鏡を使用していたがどうしても接眼部の高さの変化が大きいので,前任校で使用していたダルカーカム式の?180という,口径18cmの反射望遠鏡に替えた。この望遠鏡は主鏡のすぐ近くに接眼部があり,重心が重い主鏡付近にあるために接眼部の裔さの変化が小さい。よって,接眼部の高さの変化は20cm程度であり,上下するピラー三脚可動範囲内である。また,接眼部をスムーズに回転できる部品も購入できたため,接眼部の向きを変えることで15cm程度上下できるようになった。これらの工夫より,どんな車いすの高さでも低空から天頂付近まで覗くことができる様になった。

2-2 特別支援学校での観測会

特別支援学校の観測会は,制約が多い。基本的に寄宿舎を利用している生徒のために実施することになるので,親元へ帰る
金曜Hや長期休業中はできない。また,夕方の時間帯は入浴や夕食を食べる必要があるので特に寒い時期,入浴後に外での観
測はできない。

① 水戸特別支援学校
水戸特別支援学校には昨年度打ち合わせをしたとおり,7月7日前後および10月中旬実施を目指した。7月7日(木)夕方から曇る予報は出ていたが,昼間は睛れ間が多く月や明るい木星が西の空にあるので多少雲があっても雲間から観測できるのでないかと期待し,実施を決定した。まだ,経緯台は完成していなかったので,上下するピラーニ脚に赤道儀と屈折望遠鏡を搭載できるように準備をして水戸特別支援学校に向かった。並木氏にはナスミス望遠鏡を持参していただいた。水戸特別支援学校に到着し,望遠鏡を準備しはじめた頃から雲がどんどん厚くなり,観測を中止せざるを得なかった。子供達も外に出てきたのに大変に残念そうに宿舎に戻っていった。
10月中旬は天候が悪く,何度延期してもできなかった。そこで,3月に延期することを提案したが,まだまだ寒く生徒の健康が心配だとのことで断念した。

② 下妻特別支援学校
下妻特別支援学校も暖かいうちにと実施したいとのことで,10月初旬を目処に打ち合わせをしてきた。しかし,悪天候が続き11月10日(木)に天候が悪くても実施するということで強行した。当日の昼間は雲の合間に睛れ間がある状態で,夕方に近くなると雲が厚くなってきた。それでも満月に近い月があるので,観測できる可能性を信じ,届いたばかりの架台に搭載した望遠鏡およびナスミス望遠鏡を準備して睛れ間を待った。
当日は気温が低下したので,外にいる時間をできるだけ短くするため,約30名の参加者を3つの班に分け1つめの班は月のビデオ鑑賞・2つめの班は月のクイズ・3つめの班が野外で観察とした。プレゼンテーションは本校生が行い,外での解説は原子力機構の並木氏と共に筆者が行った。しかし,天候が思わしくなく,外での観察は月付近に向けた望遠鏡を覗くだけになってしまった。それでもナスミス望遠鏡を覗くことができない高い車いすに乗った生徒が,新型の上下する架台に搭載した望遠鏡を覗くことができることを確認することができた。
本校生による月のクイズは大いに盛り上がり,楽しんでもらえた。最後に何名かの生徒に感想を聞いたところ「楽しかった」や「宇宙にますます奥味が出た」などの感想を聞くことができた。

そして,11/10のリベンジをすべく,2月13日(月)に今年度最後の観測会を実施した。当日の昼間は素睛らしい青空だったが,夕方からの急に曇りだし,雨までぱらっく状態になってしまった。そこで,急逮星空解説に変更し,「宇宙のひろがり」について話をした。19:00~の入浴休憩中に雲の様子を確認すると晴れ間が広がってきたので,2階東向きの廊下に3台の望遠鏡を移動し月の出を待った。月が上がりはじめた頃生徒達が集まりはじめ,3台の望遠鏡で満月過ぎの月の観測ができた。生徒達の感想を以下に記す。

◇天体望遠鏡をとおして月のクレーターがはっきり見られて改めて感動しました。
◇先生の説明が丁寧で分かりやすく楽しかった。
◇今まで見たこともない月の表面を見られ,とてもビックリしました。
◇大きな望遠鏡を見る機会もなかったので良かった。
◇お天気に余り恵まれませんでしたが、インストラクターのお陰で,宇宙についてや月のクイズコーナーなどで,楽しく充実した時間でした。
◇月の大きさやクレーターがくっきり見えて感動しました
◇宇宙の偉大さを感じる大変よい機会であり感激した
◇星を見上げる時間をつくって頂けて宇宙のすばらしさにふれ感動しました
◇貴重な体験ができて良かった。
◇図鑑で見た印象と形は同じだが色が違った感動しました

3 スターキャッチコンテスト

昨年度に引き続き今年度も望遠鏡製作,夏合宿にて講習会,冬合宿にて本番と順調に実施することができた。さらに,今年
度から自作望遠鏡で月の写真を撮る写真コンテストも始めた。

3-1望遠鏡製作

6月18日(土)本校生物実験室にて実施した。本校科学部(竹園高校分を製作)・古河二高・竜ヶ崎一高?藤代高校の教員および生徒25名,さらに茨城大学の4年生l名が参加し,光学に関する講義簡単な光学理論および望遠鏡のしくみに関する講義の後,望遠鏡製作に入った。望遠鏡製作に必要な正確な作図および加工でかなり苦労をしていた。タカハシ製作所の太田氏,山井氏が駆けつけてくれて的確なアドバイスを頂いた。午後2時には鏡筒が完成し,実際に見えるかどうかあらかじめ製作しておいた鏡筒バンドを使って架台に取り付けてみた。思ったよりよく見えるという声が聞こえてきて安心した。その後,望遠鏡の操作方法を詳しく解説し,ファインダーの調整を行って無事終了することができた。
9月17日(土)には,6月に参加できなかったつくば秀英高校の生徒5名と教員1名が来校し新校舎に新設された地学実験室で望遠鏡製作を行った。指導をする生徒が少ないので作業が手早く進み午後2時にはすべて終了することができた。

3-2 夏季研究大会(夏季合宿)講習会

8月5日(金)~7日(日)2泊3日の日程で,パークアルカディアにて茨裔文連自然科学部主催の夏季研究大会が開かれた。
参加者は15校120名の参加者があった。自作望遠鏡を持っている学校には持参していただき,架台のメンテナンス等を行い,夜は望遠鏡の使い方を実際に観測しながら行った。
特に,効率的なファインダーの使い方やコリメート法による写真の写し方をレクチャーした。

3-3 写真撮影

ほとんどの生徒はスマートフォンを持おり,その優れたカメラ機能を使って写真撮影を楽しんでいる。
それなら,望遠鏡の接眼レンズにスマートフォンのレンズを近づけコリメート撮影をさせ,その写真を競わせようという企画である。暗くなるのがもっとも早くなる11月の月を写すように指示した。

3-4 スターキャッチコンテスト
12月2日(金)~4日(日)に掛けて冬期研究大会にてスターキャッチコンテストを実施した。昨年度は参加チームがすべて同じ天体を一斉に導入し,その導入時間の速さで成績をつけたが,暗い中での時間計測やたくさんのジャッチが必要であるなど間題が多かった。そこで,今年度はトーナメント表を作り,1対lのトーナメント形式とした。この方法であればジャッチは2名で済む。また,天体ごとに早く導入した方に1ポイントを加算し,3ポイント先取した方を勝ちとした。

結果は以下の通り
?12/2前半グループ7校によるトーナメント
1位:勝田高校 2位:日立一高 3位:取手一高

?12/3後半グループ7校によるトーナメント
1位:上浦一高 2位:水城高校 3位:上浦二高
なお,今年度は福島県から安積黎明高校の参加があった。参加生徒の感想を記す。

初めて参加して、天体の知識を得ただけではなく他県の高校の生徒達とコンタクトを取ることができ、大変有意義な時間を過ごせました。しかし、今回私達は勉強不足で周りに圧倒されてばかりでした。次回はしつかり準備をしてリベンジしたいです。

4 まとめ
この2年間の取り組みによって,スターキャッチコンテスト用望遠鏡を20台ほど製作し各校に配布できた。しかも県内だけでなく福島県の高校にも配布できた。あと3台ほどあるので千葉県や埼玉県の高校に声を掛けて少しずつ広めていきたいと考えている。車いすでも観測することができる望遠鏡もほぼ完全なものを作ることができた。ナスミス望遠鏡も少しずつ改良が進み,これらの望遠鏡2台体制で特別支援学校における天体観測会を盛んにしていけると思う。