2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域連携による神戸層群の化石調査-活動の成果と今後の展望-

実施担当者

松本 誠司

所属:兵庫県立東灘高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 神戸層群は三田市から神戸市西部,淡路島北部に広がり,完全な植物化石が多数出土する貴重な地層といわれ“神戸層群の植物化石は植物の進化史上,非常に価値のある植物化石群として国際的にも高く評価されており,神戸市の誇る自然文化財といえる”とある。しかしながら,宅地開発によって露頭がほとんどなくなってしまったこと,調査グループの高齢化や引退したことなどの理由により,近年はあまり調査が行われていないのが現状である。私たちは,神戸層群の地質学的な理解,及び地域連携による神戸層群の活用に興味を持った。
 本活動では,神戸層群に注目し,地質調査を基に堆積時の環境を推測することを目的としている。また,神戸層群と堆積物中に含まれる化石について今後どのような活用法があるのかを地域連携によって検討するのも本活動の日的の一つである。その目的を達成するため,これまで化石を活用したイベントを企画,提案し,開催したので報告する。


2 地域連携による神戸層群の化石調査
2-1 神戸層群の化石調査
 国営明石海峡公園神戸地区(以下,あいな里山公園)の協力と特別な許可の下,化石調査を実施した。調査を行った15か所以上のうち,化石を得ることができた5か所について,A~Eとして,採取できた化石の一例を写真2に示す。

(注:図/PDFに記載)

 A~Eの露頭について,表1にまとめた。化石の同定は参考文献と照らしながら行った。色は目視により確認した。標高は国土交通省国土地理院「標高がわかるWeb地図」を用いて計測した。

(注:表/PDFに記載)

*B地点の様子は他と異なる点がある。B地点の母岩は灰色で,化石は他の地点と比べて色が濃く黒に近い。また,他は葉の化石が1枚ずつ出上することが多いが,B地点では多数の葉の化石が重なった状態で出土することがある。

2-2 神戸層群の植物化石を活用したイベントの実施
 活動に協力いただいている方々と今後の神戸層群の植物化石の活用法について話し合いを重ね「化石を通じた様々な世代間の交流,神戸層群という地域の魅力の発信」を合言葉に継続的に活動を行うこととなった。イベントの時の写真は以下である。8月のイベント時には、新聞記者が取材に来られ、朝日新聞の9月18日の朝刊に掲載された。これまで私たちが関わったイベントを表2にまとめる。

(注:表/PDFに記載)

2-3 発表と受賞
 「地域連携による神戸層群の化石調査」というテーマで,兵庫県高等学校総合文化祭自然科学部門や青少年のための科学の祭典,第9回サイエンスフェアなどにおいて,口頭発表やポスター発表を行った。
 第40回日本学生科学賞兵庫県コンクールでは,77作品中上位23作品に入賞して佳作を受賞(写真6)することができ、読売新聞の10月14日の朝刊に入賞者一覧の中に掲載された。

2-4 地域資源としての有効活用
 これまでの活動から,あいな里山公園の複数か所から化石が採取できることがわかっている。そして,この化石を地域の資源として,イベント時のみに行っていた化石の展示や化石に関する体験を,恒常的にできる場ができればと考えた。そこで,あいな里山公園の方々や植物化石を考える会の方々とも話し合いを行い,「化石広場」の案が出た。今後の神戸層群の有効活用のためにも,あいな里山公園内に化石広場を作りたいと考えている。
 あいな里山公園は,2017年内に今後の工事の方向性が決まり,2020年には工事が行われることが決まっている。そこでまずは,2017年まで募集していたパブリックコメントを,できるだけ多くの方に応募していただくため,生徒や今回の活動の関係者だけでなく東灘高校の全職員に投稿を呼び掛けた。また,あいな里山公園の園長様から,国土交通省の所長様へ化石広場の案を伝えていただいた。
 神戸層群以外で植物化石が採取できる場所として,栃木県の塩原湖成層がある。塩原湖成層は植物の菓の化石が大量に出士する地層であり,そこには「木の菜化石園」がある。木の菜化石園では,化石の展示や化石掘り体験を行っており,全国の教育機関には化石入りの岩石を送付している。一方,神戸層群では,保護も活用もされているとは言い難い現状がある。そこで,あいな里山公園内に化石広場を作り,神戸層群を地域の資源として有効的に活用したいと考えている。


3 まとめ
 神戸市内やあいな里山公園内には末調査の露頭がまだ数多くあるので,調査計画を立てる必要がある。あいな里山公園には,まだ工事が入っていないエリアが多数あり露頭の有無もわかっていないので,まずは,未開拓の森林エリアに入り,川沿いなどの露頭を目視で確認する。
 凝灰岩を形成する大量の火山灰の由来について今のところ不明である。神戸市を覆い尽くすような大量の火山灰が一体どこから来たのか,この大量の火山灰の由来を知ることができれば非常に大きな発見になる。一説には,当時陸続きであった中国大陸から飛来したとあるが,はっきりとした証拠が見つかっていない。ただ,岡山県や広島県など,中国地方には近い年代の似た凝灰岩層があることが分かっているので,今後の研究のヒントになればと考えている。神戸大学の佐藤先生は,火山や地質に詳しい方なので,これからも力をお借りしたいと考えている。
 本校の教員もあいな里山公園の職員も,年度が変わるタイミングで,今後いつ異動するかわからない。そこで,年度を跨いで継続するためには協力していただいている方が異動したとしても,間題なく実施できる仕組みづくりが急務であると考えている。今後は,この活動を継続・発展するためには,地域の中学校や高校とも連携することが必要と感じている。2017年3月26日には,神戸大学附属中等教育学校の教員と生徒,神戸市立本山南中学校の教員も共同して活動し,化石が採取できる露頭を新たに3か所発見することができた。
 万が一にも東灘高校の顧問が居なくなっても,東灘高校の自然科学部の部員が居なくなったとしても,活動が継続する仕組みを作りたいと考えている。

補足
 2017年3月2Sの神戸新聞に自然科学部の活動の様子が特集された。これまでの活動が評価されたと感じ,嬉しく思う。右(写真7)は取材時の様子である。