2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域資源としての竹有効利用法(再生可能エネルギー、飼料化)の研究

実施担当者

菊川 裕幸

所属:兵庫県立篠山東雲高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 西日本を中心に拡大を続ける放置竹林。現在ではその面積が全国で1万ヘクタールを超えている。私たちの学校がある兵庫県篠山市もその例外ではない。放置竹林は山林の浸食、景観の破壊、生物多様性の減少など、様々な環境間題を引き起こす。その問題解決のために私たちは、2年前から「しののめ竹林バスターズ」を結成し、地域の竹林整備と竹の有効利用法の研究を行った。また、平成28年度は公益財団法人中谷医工計測技術振興財団科学教育振興助成を頂き、竹サイレージや消石灰と反応させて水素を取り出す水素発生装置、竹ボイラーの開発・製造を行った。


2 材料と方法
2-1 竹林伐採
 安全性を確保し、放置竹林内の枯死した竹を取り除いた後、手前より伐採を行った。枯死した竹や伐採後の生竹を問わず、竹破砕機によって5mm以下のチップに加工した(第1図)。
 1回あたりの作業時間は約6時間で人数は5~10名で約ltをチップ化した。

2-2 微生物調査・採食実験
 竹を飼料化するに当たり、発酵させることが重要となる。伐採後の竹に微生物の付着が観察できたため、選択培地を用いて竹に付着している微生物を同定した。
 竹はモウソウチクとマダケの2品種とし、培地は乳酸菌、好気性微生物、酵母の選択培地を使用した。竹チップ1gに9mlの滅菌水を加え撹拌し、さらにその撹拌液1mlに滅菌水9mlを加え撹拌、この作業を繰り返し撹拌液の菌量を103~105とし、撹拌液をそれぞれの選択培地に混和し数日間静置し、微生物の発生を確認後コロニーカウントを行った。
 また、鶏のし好性を調べるために、予備実験を行った。予備実験に使用した竹チップは、微粉末(竹の表面をグラインダで削った1mm以下の粉末)とチッパーにて処理を行った5mmの2種類を用意した。配合飼料に竹チップと微粉末をそれぞれ3%・5%添加した区を設け、4週間給餌した。各実験区、採卵鶏を5羽飼育し、実験期間中は毎日産卵個数、産卵率、ハウユニット値(白身の高さ)を記録した(第2図)。
 採食実験において、問題がみられなかったため、竹チップが鶏に与える生産性について調査した。竹はほとんど栄養がないため、鶏の栄養状態を低下させ産卵率の低下を招く恐れがある。それを確認するため、採食実験で最も有効であった竹チップ5%添加を採用し、竹チップ添加区及びコントロール区に産卵開始30日後の若い鶏を30羽ずつ供試した。実験期間中は採食実験と同様の記録を行った。
 竹チップ5%添加区の鶏が産んだ卵を10個無作為に取出し混和し、食品分析センターに依頼して卵の成分分析を行った。

2-3 結果
2種類の竹に付着した微生物の種類とコロニー数のカウント結果を第1表に示した。
竹には、種類や部位を問わず乳酸菌や、好気性微生物、酵母等が付着していることがわかった。乳酸苗はモウソウチクの枝葉、マダケの枝葉に多く、好気性微生物はモウソウチクに多かった。

(注:表/PDFに記載)

 採食試験の結果を第2表に示す.採食試験は採卵鶏5羽を供試して行った。採卵鶏における竹チップ並びに微粉末の採食は良好であり、給餌に間題はないことがわかった。
 産卵個数は対照区と比べ竹チップ3%区で多くなり、竹微粉末5%区で少なくなった。卵重は竹チップ3%、5%が高くなり、竹微粉末3%で少なくなった。ハウユニット値は竹微粉末区で高くなった。試験結果は、竹チップ3%添加区が最も良好であったが、竹チップの消費に結びつけるという観点より、本試験は竹チップ5%添加を採用した。
 竹チップを5%給餌したことによる産卵率及び卵重の推移を第2図a・bに示した。
 なお、産卵率は8か月間、卵重は3か月間の測定とした。
 各月において、対照区と比較し、竹チップ5%添加の産卵率が裔く推移した。平成28年8月31日現在の産卵率、卵重は、竹チップ添加区で有効であるという結果となっている。特に、暑さにより採食量が低下する夏場においても、竹チップ添加区で採食が減らず卵重、産卵個数において安定した生産を上げることができている。

(注:図/PDFに記載)

 卵に含まれる成分の分析結果を第2表に示す。
 対照区と比較し、炭水化物が増加し、エネルギー、脂質が低下する結果となったが、卵品質に大きな影轡はなかった。

(注:表/PDFに記載)

2-4 竹ボイラーの開発・製造
①竹チップと消石灰の高温反応による水素取出し装置の製造
反応式:C+H2O+Ca(OH)2→CaCO3+2H2
 上記反応式に従って、竹チップと消石灰を反応させる装置(写真1)を専門家や企業と連携し製造した。
 反応ボンベに材料を加え、600℃で反応させ、ガス採取びんで採取した水素の分析を行った。
②水素取出しとハウス加温用ボイラーの製造
 地元企業と連携し、日本初となる多機能ボイラーの製造を行った。設計図を作成し、フレームは本校が、細部の高度な技術を要する個所は職人が溶接し、ボイラーを製造した(第3図)。ボイラーは燃焼試験と、①と同様の方法で水素発生試験を行った。

(注:図/PDFに記載)

2-5 結果
 試験機での水素発生実験の結果、1回目は14%(vol%)の水素しか発生しなかったが、再度試験を行ったところ、40%を超える水素が取り出せた(第4図)。また、水素発生装置兼冬季加温が出来る「竹ボイラー」の燃焼試験においては、反応に必要な600℃を超える温度が計測された。

(注:図/PDFに記載)


3 まとめ
 西日本を中心に拡大を続ける竹林の整備と有効利用法を模索するために、本研究を行った。竹サイレージの製造に先立ち、チップ化した竹に付着した微生物を選択培地を用いて微生物の同定を行った結果、サイレージの良質な発酵に影孵を与える嫌気性細薗である乳酸薗が存在していることが確認できた。また、乳酸菌以外にも酵母やカビが検出されたが、竹チップ品質への悪影警は少ないと考えられる。乳酸苗が含まれることは、1か月嫌気条件で静置した竹チップからワインのような発酵臭が認められたことからもわかった。
 これらのことより、竹チップは家畜飼料として活用である可能性が見出されたため、小家畜で結果の出やすい採卵鶏が採食するのかという仮説を立てて予備試験を行った。その結果、全ての試験区において採食が認められ、経営上もっとも重要となる産卵個数、卵重は対照区と比較し竹チップを3%添加した区が高くなることが分かった。これは、竹チップの発酵臭により家畜の嗜好性が向上したことや、竹の食物繊維が豊窟なことが腸内環境などの体内環境を整えたことによると考えられる。
その後、8か月間にわたる継続的な試験の結果、上記試験と同様の領向を示し、対照区と比較し竹チップ5%添加区が高い値を示したまま推移した。また、採卵鶏30羽の合計卵重においても竹チップ5%添加区が高い値を示した。これらの結果は、竹という食物繊維の多い飼料を給餌したことによって鶏の健康が維持でき、健康な状態で卵を産出できたためと考えられる。
 最後に、卵の品質であるが、成分分析の結果大きな低下は見られず品質が維持されていることがわかった。大きな成分の上昇や機能性の付加などは見られなかったが、地域資源である竹を活用したことで、年間3万円(250羽)の飼料代の削減にも寄与できた。これを1万羽規模に試算すると約120万円の経済効果となることも分かった。さらに、品質等の低下がみられないことから、採卵鶏への竹チップの給餌は生産性を向上させ、経営改善につながることがわかった。
 これらの私たちの活動は、竹を「不必要なもの」から「再生可能な資源」に変え、様々な形で活用する方法を提案した。篠山市からもその実績が評価され、竹活用が施策に組み込まれた。
 今後はこの活動が継続できるように、これまで以上に行政や地域と運携し放置竹林の解消や地域の未利用資源の有効利用法を模索していきたいと考えている。また、その際に間題となる竹の確保にかかるコストや人材不足などの問題についても、竹活用をビジネス化することで解決していきたい。