2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域密着型生物多様性保全システムの構築-環境 DNA 等を用いた生物相モニタリング調査-

実施担当者

清野(布施)未恵子

所属:神戸大学 篠山フィールドステーション 特命助教

概要

1.はじめに
 篠山市では、H25年度に生物多様性戦略を策定し、農村景観の保全に力を入れながら、自然環境に配慮した地域づくりを進めている。そうしたなか、河川などの淡水域における生物相のモニタリングは非常に重要だが、実際のモニタリングには多大な労力が必要になる。また、希少種などのモニタリングにあたってはできる限りその生態に影響を与えない手法が求められる。一方で、こうしたデータを蓄積・更新すべき自治体にとっては、市民が参加できる手法であることと、かつ安価で取り組めることが必要となってくる。神戸大学の源利文研究室では、淡水域における魚類や両生類の効率的なモニタリング手法として環境DNAを用いた生物相の把握法について研究を行っていることが知られていた。そこで、本事業では、神戸大学と高校と行政とが連携し、市民でも参加可能な生物モニタリング手法を確立することを目的とした活動をおこなった
 1年目は、高校と大学生とで生物調査と環境DNA抽出用の採水活動を中心におこなった(表1)。まず、アカザ・スナヤツメの2種について、環境DNAの抽出に成功した。次に、篠山市内の主要河川20箇所で採水し、それらのサンプルからアカザ・スナヤツメのDNA抽出を試みた。その結果、2箇所からアカザが検出されたが、スナヤツメは検出できなかった。スナヤツメについては、生物調査で生体が採取できていた場所の水サンプルからスナヤツメのDNAが検出できなかったことから、実験サンプル不足や、発送の途上で冷凍保存したことによるサンプルの劣化などが考えられた。そこで、来年度はDNAの検出感度があがるようなサンプリングおよびサンプル処理の仕方に取り組む。
 次いで、いきものラボラトリーのメンバーで、篠山市内で問題となっている外来種駆除イベントに参加した。その際、外来種の駆除が必要な理由を、イベントに参加した親子連れに寸劇スタイルで紹介した。
また、篠山市が独自におこなったアンケートから、数が減っていると判断されている生物に、ゲンジボタル、などがあげられていることがわかった。生物に配慮した地域づくりに取り組んだほうがよい地域(生物多様性重点地区)も候補があがってきた。

(注:表/PDFに記載)


2.活動の詳細
① 生物調査の様子
 6/26の生物調査では、丹羽アドバイザーより、生物調査や環境調査の仕方に関するレクチャーがあった。高校生にとっては、初めての調査だったようで、慣れない様子ではありましたが、実際に採れた生き物をみて、達成感を感じているようでした。

① 神戸大学訪問
 8/1の大学訪問では、DNA抽出の実験方法を学びました。高校生にとっては初めての研究室見学。源先生からレクチャーをとても真剣に聞いていました

② 定例ミーティング
 高校の休みや放課後を利用して、定期的な集まりにも高校生が参加してくれた。現在の成果や今後のスケジュールなど、難しい話の時間はとても眠たそうにしていたが、意見を尋ねると答えてくれました。

③ 外来種駆除イベントの様子
 篠山市でおこなっている外来種駆除イベントに参加した。イベントでは、「外来種ってなあに」というタイトルの寸劇をおこない、外来種を演じるということを通して、高校生にも外来種に関する知識を深めてもらった。イベントにきていた子供や親御さんに、外来種を駆除すべき理由やイベントの目的を解説する手法を学ぶことができた。

④ 採水作業
 高校生と大学生または教員がセットになって、篠山市内の河川20箇所で350ml採水した。


3.まとめ
 今年度は、篠山市内の河川の環境指標として、スナヤツメやアカザを選定する方向で調査を進める道筋がたったことが成果であった。さらに、採水量の見直しは必要であるが、身近にある資材(ペットボトル)を用いて環境DNA抽出用のサンプリングができることが明らかになった。今年度の結果をふまえ、来年度は、DNA検出感度があげられるようなサンプリング手法を確立するとともに、アカザとスナヤツメにしぼって生物分布調査と採水による分布図を作成する。さらに、地元への説明会と、調査体験イベントを実施し、生物多様性を地域資源として地域づくりへと活用するための生物モニタリング手法の確立をめざす。