2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域密着型生物多様性保全システムの構築-環境 DNA 等を用いた生物相モニタリング調査-

研究責任者

清野未恵子

所属:神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 特命助教

概要

1.はじめに
 篠山市では、H25年度に生物多様性戦略を策定し、農村景観の保全に力を入れながら、自然環境に配慮した地域づくりを進めている。そうしたなか、河川などの淡水域における生物相のモニタリングは非常に重要である。モニタリングにあたってはできる限りその生態に影響を与えない手法が求められる一方で、モニタリングの主体となる自治体にとっては、市民が参加できる手法であることや、かつ安価で取り組めることが必要となってくる。神戸大学の源利文研究室では、淡水域における魚類や両生類の効率的なモニタリング手法として環境DNAを用いた生物相の把握法について研究を行っていることが知られていた。そこで、本事業では、神戸大学と高校と行政とが連携し、市民でも参加可能な生物モニタリング手法を確立することを目的として活動をおこなった。2年目は、調査日を第2土曜に定めることで調査頻度をあげた点、環境
DNA抽出精度をあげるための手法開発に取り組んだ点、成果を篠山市民に広く発信した点で、昨年度と異なる(表1)。
 まず、モニタリングの手法を検討するため、環境DNAにより分布が明らかになっているアカザ・スナヤツメ等の生息を目視することと、環境に配慮した工事がおこなわれる箇所などの現在の生物相の把握を目的に、月1回の頻度で生物調査をおこなった。また、1年目の終わりにDNAの検出感度が低い可能性が示唆されたため、検出感度があがるようにサンプリング量を増やすことと、サンプル処理を野外でできる限り早くおこなう方法に取り組んだ。そして、成果を市民に公表し、参画を促す手法として、調査時に生き物観察会を実施した。昨年度に引き続き外来種駆除イベントにも参加した。
 高校生の中には2年間参加してくれた生徒がおり、調査の案内や作業内容をルーティン化することができた。高校教員も部活として参加する形ができ、高校と大学と市とが連携しておこなう体制は整ったが、市民の巻込み方が課題であった。


2.活動の詳細
①生物調査の様子
 5/9の生物調査では、丹羽アドバイザーより、生物調査や環境調査の仕方に関するレクチャーがあった。高校生のなかには、初めての参加者もあったが、慣れた参加者もおり、互いに協力しながら採集する様子がみられた。採れた生き物の名前を記載する役割、環境を調べる生徒など、役割分担などもみられました。

②採水とDNA抽出作業補助
 DNA検出精度をあげるために、現場で水を採取したのち、篠山フィールドステーションの会議室で実験前処理をおこなう手法にチャレンジしました。ピンセットを使っての作業や、初めてみる装置に教員含めてみな興奮していました。

③外来種駆イベントに参加
 昨年度に引き続き参加した外来種駆除イベントでは、一般参加者をリードする形で的確な作業をおこなうことができました。

④地域の方々との交流
 今年度は、市民を巻込む方法を検討するため、生物調査をおこなった場所で、その地域に住む方々を対象とした生き物観察会も同日におこないました。こうした活動を通して、住民の方々や子供さんに生き物への関心をもっててもらうことができました。

⑤成果発表会
 2年間の取り組みを締めくくる成果発表会(篠山市生物多様性フィーラム)には、小学生から大人まで約50名が集まった。発表を担当をした高校生は、成果を図表などで示したほか、なぜそうした活動をせねばならないかを寸劇を用いて表現するなど、参加者を沸かせてくれた。


3.まとめ
 今年度は、DNAの検出精度をあげることができたこと、高校・大学・行政が連携した生物調査の仕組みが構築できたこと、地域向けの観察会を開催できるようになったことが成果としてあげられる。2年間を通じて、環境DNAと生物捕獲のどちらのメリット・デメリットも経験・実感することができ、これからのモニタリングの方向性を検討することができた。また、どの高校生にも専門的な調査やデータ収集を望むのではなく、調査から普及啓発まで多様な役割を分担することで、モチベーションをあげることがわかった。これからも継続してモニタリングをおこない、地域が主体となった環境保全の仕組みを構築する。