2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域天然物の有効利用方法の探索及び機能性評価に関する研究

実施担当者

黒川 元治

所属:広島県立庄原実業高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校では,3年次に科目「課題研究」で卒業研究を行っている。食品工学科の食品化学専攻班では,昨年度までの継続研究により米粉麺(商品開発目的として①米の消費拡大。②地域で栽培されている蔬菜類残渣の付加価値を高める。③残渣の有効成分を摂取することで消費者の健康増進を図る。)を地域の企業と連携し商品化してきた。今年度,米粉麺はトウガラシとアスパラガス,シイタケ(図3)を,また,備北産の小麦を使ったグリッシーニ(イタリアの乾パン)にはゴマを混ぜたものでの商品化を目指した。そして,商品化を目指したものに含まれる有用成分(トウガラシのカプサイシン,アスパラガスのアスパラギン酸,シイタケのグアニル酸,ゴマのセサミン)を調査し,機能性評価を試みた。
 また,3年前まで研究していた除虫菊(図4)についても,虫除け成分ピレトリンを有機溶媒で抽出せず,乾燥させた花に残っているピレトリンの含有量を調査し,地域の植物として活用する方法を探索した。


2.研究方法
(1)試料
 米粉麺については,本校の生物生産学科2年生が栽培・収穫した地域の奨励品種「中生新千本」を主原料とし,食品工学科で栽培したトウガラシ,アスパラガス(摘み取り後の伸張部分)と生徒の保護者から提供していただいたシイタケ(石突き部分)を乾燥,粉砕したものを副原料として,㈱おこめん工房(三原市大和町下徳良1986番地)に委託し,製麺していただいた。
 グリッシーニ(イタリアの乾パン)は,書籍に掲載されている作り方を参考に,本校生徒の案による確立した製造法でできる生地に,食品工学科で栽培したゴマを加え,試作した。
 除虫菊は,かつて瀬戸内海の島嶼部で盛んに栽培されていたが,現在はその花の部分に含まれる虫除け成分のピレトリンを,化学合成できるようになり,栽培されなくなってきた。しかし,地球温暖化による蚊の生息域が北上化するにともない,マラリアやデング熱等の法定伝染病の蔓延する恐れも出てきている。そのような背景から,除虫菊に目を向け,6年前から研究をしており,今年度は,3年前に尾道市因島町から送っていただいたものを,乾燥させ冷暗所に保存していた。その花をサンプルとして虫除け成分ピレトリンが残存しているかを確かめた。

(2)分析方法
 米粉麺,乾パン,除虫菊ともに,機器分析を行い,高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)やガスクロマトグラフ質量分析計(Gas Chromatography Mass Spectrometry:GC-MS)を用いた。分析条件は次のとおりである。
①HPLC分析条件
・トウガラシ〔カプサイシン(図5)〕
カラム:オクタデシル基結合シリカ(ODS)カラム Inertsil ODS-3(3μm,i.d.4.6×100mm, GL Sciences Inc.)
カラム温度:40℃ 検出波長:280nm
移動相:メタノール:水:酢酸(65:34:1)
流速:0.7mL/min

(注:図/PDFに記載)

・アスパラガス〔アスパラギン酸(図6)〕
カラム:オクタデシル基結合シリカ(ODS)カラム
(4.6mmID×150mm,粒子径5μm)
カラム温度:室温 検出波長:235nm
移動相:リン酸(2.8mM):アセトニトリル(75:25)
流速:1.2ml/min

(注:図/PDFに記載)

・シイタケ〔グアニル酸(図7)〕
カラム:オクタデシル基結合シリカ(ODS)カラム
(4.6mm ID×150mm,粒子径5μm)
カラム温度:室温 検出波長:260nm 移動相:0.05M トリエチレルアミン(pH5 リン酸):メタノール(100:1)
流速:1.2mL/min

(注:図/PDFに記載)

・ゴマ〔セサミン,セサモリン(図8)〕
カラム:オクタデシル基結合シリカ(ODS)カラム
(4.6mmID×250mm,粒子径5μm)
カラム温度:室温 検出波長:254nm
移動相:メタノール:水(80:20) 流速:1.2ml/min

(注:図/PDFに記載)

②GC-MS
・除虫菊〔ピレトリン(図9)〕

(注:図/PDFに記載)


3.結果
(1)米粉麺
・トウガラシ(カプサイシン)
 水分含有量を考慮し,生麺と乾燥後,乳鉢で粉砕した麺のカプサイシンの抽出状況を調べると,乾燥,粉砕した麺の方が高い結果が得られ,抽出効率のよいことが分かった(図10)。

(注:図/PDFに記載)

・アスパラガス(アスパラギン酸)
 アスパラガスを混ぜた米粉麺の方が,何も入れていないものに比べ,約3倍のアスパラギン酸を摂取できることが覗える。また,超音波抽出の方が抽出効率の良いこともわかった(図11)。

(注:図/PDFに記載)

・シイタケ(グアニル酸)
 グアニル酸の標準品を高速液体クロマトグラフに供したときには,5.7分あたりにピークは見られたが,試料を供したときにはその辺りにピークは確認できなかった。

(2)グリッシーニ(乾パン)
 ゴマの有効成分のセサミンとセサモリンについて含有量を調べ,多く入れたもの(18g)と少なく入れたもの(9g)の2種類の試料を用い分析した。多いものは少ないものの2倍量のセサミン,セサモリンが確認でき,相関関係のあることが覗えた(図12)。

(注:図/PDFに記載)

(3)除虫菊(ピレトリン)
 3年前のものに虫除け成分ピレトリンが残存しているのかどうかを確認したところ,含有量を調べることはできなかったが,質量分析器により,同じ構造のものがあることが確認できた。


4.考察
 新しく考案したトウガラシを入れた米粉麺には,カプサイシンが含まれており,この麺を摂取することで,カプサイシンを摂取でき,その効能である食欲増進,エネルギー代謝促進,脂肪の分解効果を期待できることもわかった。今年度は,新商品としてトウガラシ入りの麺(庄実ピリ辛おこめん)を完成させ,販売も行うようになった。
 アスパラガス入りの米粉麺は,何も入れていないものに比べ,約3倍のアスパラギン酸を摂取できることが可能で,体内の老廃物の処理,肝機能の促進,疲労回復,皮膚の代謝活性化等を期待することができる。また,試料抽出においては,浸漬抽出に比べ超音波抽出の方が抽出効率の良いこともわかった。
 イタリアの乾パン,グリッシーニについては,セサモリンの含有量は,セサミンの4分の1であることが覗えた。試料におけるゴマの添加量は,多い方(18g)が少ない方(9g)の2倍量を加えている。分析結果から,セサミン,セサモリンともに,多い方は少ない方の2倍量の含有が認められ,検出方法の妥当性も覗えた。
 今後の課題としては,トウガラシ入りの米粉麺の普及に取り組みたい。また,アスパラガス(摘み取り後の伸張部分)や今回グアニル酸が確認できなかったシイタケ(石突き部分)など地域で栽培され,販売対象とならない食品残渣のようなものを麺に練り込み,機能性の高まる麺を考案していきたい。
 また,イタリアの乾パン,グリッシーニについては,本校の学園祭での来場者によるアンケート結果から評価の高いものであることが検証できた。今後どのように商品化するのかを検討していきたい。
 最後に除虫菊の虫除け成分ピレトリンについては,3年前のものにも花の部分に残っていることが確認できたので,今後は3年前のもののピレトリン含有量と新たに栽培を行い,花の観賞及び含有量の調査,利用方法の探索を行っていきたい。


5.まとめ
 食品化学専攻班では,継続研究として数年前から,米粉麺,米粉ビスケット,グリッシーニ,除虫菊の4研究を行っている。今年度は,米粉麺,グリッシーニ,除虫菊について,専攻している3年生の他,興味のある2年生も加え,グループ別に研究に取り組ませた(参加者:3年生11名,2年生7名)。
 研究のまとめたものを,校内の学習成果発表会における発表のみならず,崇城大学内のバイオテクノロジー研究推進会主催「第23回高校生によるバイオ研究発表会バイオ甲子園 2014」に応募し,その中でグリッシーニの研究が入選を果たし,熊本市国際交流会館にて発表することができた。(図13)。また,2年生は,米粉麺と除虫菊の2研究を広島県科学オリンピック開催事業にて発表した。さらに,庄原市教育フォーラムでも発表させていただいた。残念ながら広島県教育委員会主催の広島県科学賞に応募はしたが,3研究とも努力賞に終わった。
 このように,生徒たち自らが研究テーマを選び,大学のティーチングアシスタントを務めた大学院生や大学生とディスカッションすることで研究内容に理解を深めた。また,研究論文をまとめ,プレゼンテーションソフトを用い,スライドを作成,発表を通し,相手によりわりやすく研究内容を伝える方法をグループ内で考えることで,コミュニケーション能力を高める努力をした。
 来年度も,これらの研究を継続し,研究成果を得るとともに,生徒たちの成長が感じられる研究活動になっていければと考える。