2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域の自然に学び、その良さを発信する環境学習

実施担当者

末谷 健志

所属:山口県立周防大島高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 平成27年度に新設された「環境コース」では、地元である山口県周防大島の豊かな自然環境を教材にして、科学的知識や自然を学ぶ手法や態度の育成を目指している。今年度は高校2年生が履修する「環境科学Ⅰ」(週2時間)の実施の他、外国人に対するワークショップ、地元小学校での学習指導など、数多くの地域連携が試行された。
 本稿では平成27年度において行われた活動と成果、今後の見通しを報告したい。

2.実施内容
(1)「子ども科学教室」
 5/27に地元の周防大島町立安下庄小学校において「子ども科学教室」を開催し、本校生徒12名が教師役となり、18名の児童に対して図工、英語、理科、道徳の授業を行った。特に理科では地元の磯で採取した貝や海藻などをプラスチックに封じ込める生物標本づくりを行った。(図1)生物を観察しながら互いに見せ合い、うれしそうに標本を持ち帰る児童の姿が印象的であった。自然に囲まれて生活していながらも、じっくり観た経験がほとんどない子どもが多く、今後も地域の自然を学ぶ機会を積極的に提供していきたい。

(2)「世界スカウトジャンボリー」
 7/31に「世界スカウトジャンボリー」が山口県で開催され、本校が会場のひとつとなった。本校生徒5名が講師役となり、アメリカ、メキシコ、ブラジル、韓国等の外国人約50名に対して、地元の磯や海で取れた生物の標本づくりを行った。
(図2)参加した外国人は初めて触れる生物に高い関心を示し、生物の名前や生態、自国との違いなどを生徒と英語で熱く語り合った。持ち帰った標本の反響は大きく、海外からつくり方の問い合わせがあるほどであった。プラスチック標本づくりは、国や文化の違いを超えて、自然に対する興味を喚起し、具体的に理解してもらう手法として非常に効果的な教材であると感じられた。

(3)「環境科学Ⅰ」および京都大学訪問
 今年度の本校の学校設定科目「環境科学Ⅰ」では、周防大島の自然風景を空撮し、それをwebで発信する活動を主に行った。活動は、
①カメラを搭載した凧の制作
②空撮した写真を地図とリンクさせ、直感的に閲覧するためのウェブアプリの制作
の2つを柱においた。
 ①の凧制作では先行事例がほとんどなく、失敗に続く失敗の連続であった。少しずつ改良を繰り返し、半年が経過した10月下旬頃にようやく空撮できたときは、生徒から大きな喚声が上がった。(図3)

 ②のウェブアプリについてもほとんど先例がない。ここでは京都大学の協力を得た。
 6/19に2名の生徒が京都大学理学部情報学科の美濃研究室を訪問し、「環境科学Ⅰ」の途中経過を報告した。報告会に参加した約10名の研究者から様々な意見を頂き、特にwebプログラミングに関する助言は大変参考になった。すぐさま学校に持ち帰ってウェブアプリの制作に取り組み、7月中旬に大まかなものを完成することができた。
 ウェブアプリは、両手でタブレットを持ち、向けたその方向の写真を閲覧することができる。つまり、空撮写真の場合、上を向けるとその位置の空が、下を向けると地上が、水平に持つと地平線を見ることができる。このウェブアプリは、現在本校の公式HPからたどることができる。
 今年度の「環境科学Ⅰ」の取り組みによって、地元の自然を写した空撮や全天球写真をタブレットで直感的に閲覧するという新しい形の情報発信に成功することができた。

(4)「高校生環境フォーラム」
 11/23(月)に神戸市で開催された「高校生環境フォーラム」に2名の生徒が参加した。今年度の取り組みを口頭およびポスターセッション形式で発表し、100名を超える全国の高校生と活発な情報交換を行った。


3.まとめ
 昨年度に引き続き、今年度も中谷財団の支援を得て、地域の自然環境を学びつつ積極的に情報を発信する充実した教育活動を行うことができた。地元の子どもたちや外国人、ウェブを閲覧する見知らぬ人達を相手に、地元周防大島の何を発信すれば良いかを生徒に考えさせるとき、じっくり観察し、工夫し、協力しあう積極性が生まれる。こうした本校の地域に学ぶ、地域と学ぶ教育活動を今後も精力的に行っていきたい。