2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域の教育力を活かし,表現力思考力を高める科学教育

実施担当者

塚本 幸子

所属:つくば市立吾妻中学校 教諭

実施担当者

小原 奈津子

所属:つくば市立吾妻中学校 教諭

実施担当者

小島 美浦子

所属:つくば市立吾妻中学校 教諭

概要

1.はじめに
 つくば市は文部科学省教育課程特区の指定を受けており,つくばスタイル科という課題解決型のプロジェクト学習を通じて市独自の21世紀型スキルともいえる「つくば次世代型スキル」の育成を目指している。
 本校はつくばAZUMA学園としてつくば市立吾妻中学校,吾妻小学校の小中2校で一貫教育を推進している。昨年度「次世代型AZUMAプラン」を策定し,つくばスタイル科以外の教科でも「つくば次世代型スキル」の習得を目指す教育実践に取り組んでいる。理科においては「客観的思考力・問題発見力」と「コミュニケーション能力」を重点スキルとし,課題解決型の学習場面を単元計画に位置づけることで,協働力,コミュニケーション力,思考力といった未来に生きるスキルを育成していくことができると考える。
 課題解決的で主体的な学びはICT環境を活かすことでさらに効果が上がる。本校は今までの成果の上に中谷財団の支援を得てさらに環境を整え,実践を深めることで表現力思考力を育てることができた。
理科主任,塚本を中心に理科部会を開き,教材研究と授業研究を積み重ね,豊かな言語活動の理科の授業を目指して日々努力している。平成26年度関東ブロック理科研究発表会授業者として本講の取組を発信した。


2.実験結果のスピーディな共有
 理科の実験においてグループ毎の結果データの比較検討を行う場合,黒板など生徒全員が見えるところにデータを書き出すのには時間がかかる。つくば市で導入しているスタディネットというコースウエアを用いると各班が入力した実験データが瞬時に電子黒板やスクリーン上に提示されデータの比較ができる。初歩的な使い方ではあっても非常に効率を上げる方法である。


3.ホワイトボードとスタディネット
 本校では理科の実験の予測や実験結果の考察の場面においてA2の大きさのホワイトボードを使い,グループで協議する過程を表現したり,話し合った結論をまとめたりすることに用いてきた。手軽に表現し訂正できるホワイトボードの特性をICT活用の中に組み込むことはできないかと考え,ホワイトボードに書かれたグループの話し合いの経過を写真で取り込むことを試みた。
 写真を撮影し,スタディネットで配信することによってグループ毎の考え方の違いを比較しやすく表示することができる。グループの話し合い結果を全体に提示したり,さらに全体の討議で深めたりする際に電子黒板やスクリーン上に複数のグループの意見が集約的に表示できるので,話し合いを深めるのに効果的であった。
 2学年の理科「回路と電流・電圧」の授業においてワット数の異なる電球をそれぞれ直列と並列つなぎにした際にどのように光るのかを考える授業を行った。この際も電流と電圧について図を用いて考察を行い,各自の考察をグループで練り上げる段階でホワイトボードとスタディネットを取り入れて全体での討議を深めることができた。


4.ノートでの考察をiPadで撮影,共有
 各自がノートやワークシートに書いた考察についてグループに1台iPadを使わせて写真撮影をさせる。図の細部まで撮影できる高機能のカメラが搭載されており,Airdropと言う機能を使うと無線ネットワークでつながったiPadの端末同士で何枚でも画像が共有できる。この機能を使い,グループの代表の生徒のノート内容を交流しながら,考察を深めていくことができた。
 1学年の理科「力と圧力」の単元において,浮沈子がボトルの中で順番に沈んでいく理由を浮力の原理に立脚しながら様々に説明をさせる授業を行った。生徒達は力の関係を図示しながら,なぜ浮沈子が沈むのかについて深く考察し,沈む順番の異なる浮沈子を工作することができた。


5.ICT機器と生徒の話し合い・言語活動
 授業で使用するタブレットPCやiPadが優れた画像処理の機能をもっていて,ネットワーク上での共有が容易であっても,生徒の選択にのみ任せて画像を比較させるだけでは深い話し合いはできない。時には自由に各グループの図を覗いて自分たちのグループと比較する時間があっても良いが,教師の側で考え方の違いについて議論になるようなグループ同士の画像を意図的に提示したりすることで全体での討議も一人一人の思考も深めることができる。その意味においては端末とネットワークの機能だけでなく,電子黒板やプロジェクターと言った比較検討するための情報を全体に提示する装置が重要になってくる。
 今年度の研究において理科室に照度の高いプロジェクターと大画面スクリーンを設置したことで生徒は画面上の議論の内容をしっかりとらえて話し合うことができるようになっていった。


6.まとめ
 ネットワークと端末の充実,提示装置としての電子黒板やプロジェクタースクリーンの設置により,生徒は予測し,実験し,その結果をまた考察するという理科学習の楽しさを実感して取り組むようになっていった。
 どんなに機器が充実しても生徒の主体的な学びを引き出すものは教師の優れた課題提示の仕方であり,発問の在り方である。今後授業研究を進める中で,ICT機器活用と結びつけた効果的な授業展開の在り方についても研究を深めていきたい。