2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

地域に根ざしたバイオマス発電の構想-未来のエネルギーを考える-

実施担当者

上田 浩人

所属:北海道湧別高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 福島原発事故以降、日本のエネルギー政策は大きな転機を迎えている。原子カエネルギーが衰退し、それを補うため火力発電がフル稼働しているため、オイルショック時と類似した偏ったエネルギーバランスとなっている。この偏りを解消するため、原子力発電所の再稼動や、再生可能エネルギーの普及が期待されている。
 北海道オホーツクには、再生可能エネルギーが稼極的に取り入れられている。特にバイオマス発電が充実しており、紋別市では木質チップを使ったバイオマス発電所が新設され、湧別町や興部町では牛の糞尿を用いたバイオガス発電が行われている。上記以外にも、生活排水を利用したものや、ヒトデをつかったもの等、地域の艮さを生かし発電するバイオマス発電は注目を集めている。
 これらバイオマス発電所の見学、バイオエタノールの材料となるジャガイモを自ら育て燃料化する実験、地域に根ざしたバイオマス発電のあり方を考える活動を通し、地域の良さを学び、地域に適したエネルギーミクスを考える、エネルギー問題に参画する子ども達を育みたい。そして、エネルギー問題から地域を活性化させていきたいと考え、本事業を行った。


2 バイオマスを体験する
 年間の活動として、以下のような活動を行った。
4月・・・ジャガイモ畑整備
5月・・・ジャガイモの種まき
6月・・・発電方法の種類・原理
7月・・・バイオマス発電の多様性
9月・・・バイオマス発電所見学
10月・・・ジャガイモの収穫
11月・・・ジャガイモを用いたバイオエタノールの作成
12月・・・調べ学習「地域にあったバイオマス発電について」
1月・・・湧別町の未来のエネルギーベストミクスについて考えよう
2月・・・成果報告会
 以下、詳細を述べる。

2-1 畑の整備、ジャガイモの栽培
 4月、校内の一部に畑を整備した。芝草を剥がし、土を露出させた。その後、除礫を行い、土を入れた。地域を支える産業である農業がいかに体力を使う仕事であるか、生徒たちはこれらの体験を通して理解していた。また、作業中に出会った野草や昆虫の多さに驚いたり、花の綺麗さや動きに興味を持つ生徒も現れた。隙間時間に畑周辺の生物の同定、種類調査も行った。これらの活動から、一つの畑には多くの生物が関与していることも学ぶ機会となっていた。

 5月、完成した畑でジャガイモ栽培を始めた。多くの生徒にとって、小学生以来の農業体験となった。多くの生徒は経験だけではなく、作物への知識も少なかった。そのため、ただ栽培をするだけではなく「ジャガイモは植物の体の部位でいうと根なのか、茎なのか」「ジャガイモから根が生えているが、イモ全体から生えてくるのは、一部からのみ生えてくるのか」など、発問とそれを証明するためにはどういう実験ができるのかという科学的なものの考え方を練習されながら、ジャガイモの知識も増やす取り組みをしていった。
 雑草取りや盛り土、成長記録の作成を通し、生徒たちの観察力も伸びていった。摘果をする際、ジャガイモには種があるか、ないかという討論となった。持っている知識を総動員して討論を重ねた後、ゴルフボール程度に育ったジャガイモの実を割り、中の種を確認することで種は「ある」と決着をつけていた。

 9月、収穫期を迎えた。台風の連続による大雨の期間が影警し、半数は腐ってしまった。農業の難しさや自然の厳しさを知るよい機会となった。しかし、痩せた土地ではあるが拳程度の大きさのジャガイモをコンテナ2つ分収穫することができた。一部、自分たちで作ったジャガイモを食べることもした。採れたてのジャガイモの美味しさに驚いていた。

2-2 エタノール化実験
 11月、収穫したジャガイモからでんぷんを抽出した。同じ北海道オホーツクの小清町にはジャガイモからでんぷんを抽出し、それを団子にして食べる文化がある。その手法を習い、「①ジャガイモの皮をむく」「②おろし金ですりつぶす」「③ガーゼに包み水につける」という3つの作業を繰り替えした。生徒全員、はじめての作業であったが、ジャガイモ1個から、ほんのわずかしかでんぷんが抽出することができず、一方で大量の残りカスが生じることに驚いていた。

 抽出したでんぷんは、今の技術では直接エタノールにすることができない。アミラーゼを用いてグルコースに分解した後、アルコール発酵をする必要がある。今回は効率の悪さを考慮し、ジャガイモから抽出したでんぷんをエタノールまで返還することを断念した。
 代わりに、唾液に含まれるアミラーゼでグルコース化し、ベネジクト液でグルコース化を確認する実験、グルコースからアルコール発酵を通してエタノールを生み出す実験を行った。直接エタノールを作れないことによる手間の多さ、ロスの多さに生徒たちは驚いていた。
 なお、最新の研究ではでんぷんから直接エタノールを作ることができる酵母菌が発見されている


2-3 発電所の見学
 9月、町内で牛糞を用いたバイオマス発電をしている農家を見学した。畜産業は湧別町の主要産業ではあるものの、畜産農家をはじめて見学したという生徒もいた。牛糞独特の匂いに衝撃を受けていたようだった。
 農家の方から発電所を作ったメリットとして、以下の4つが示された。
①再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)のおかけで収入面でもメリットがあること。
②今まで無駄になっていたバイオガスが有効活用できること。
③地球温暖化の原因になっていたガスを用いて発電できること。
④牧場内に発電所を作ることによって輸送費がかからないこと。
 見学後のレポートには「無駄になっているものが有効活用されることは素睛らしいこと。自分の周りでそういうものがないか考えてみたい」「固定価格買取制度について詳しく調べたら、うちの太陽光発電でもやっていた」「農家という発電とは一見関係なさそうな職業でも、発電をすることができる。様々な知識を持っておくことが大切だと思った」など、体験をしたからこその多様な感想が書かれていた。

2-4 バイオマス調べ学習
 12月、今まで学習してきたバイオマス発電をさらに詳しく学ぶため、調べ学習を行った。テーマとして、以下を与えた。生徒は希望したテーマについて調べ、パワーポイントを作成した。
<テーマ>
①バイオマス資源として考えられるものについて・・・牛糞、さとうきびなど
②日本のバイオマス発電政策について・・・推奨する策について(FITなど)
③バイオマス発電に関する最先端技術について・・・でんぷんから直接エンタノール化など
④バイオマス発電方法の種類・原理について・・・木質チップ発電や牛羹発電の違いなど
⑤オホーツク地区のバイオマス発電所について・・・湧別町の牛糞、紋別の木質シップなど
⑥その他、バイオマス発電に関することについて

 当初はエネルギーについてほとんど知識を持っていなかった生徒たちではあったが、様々な体験や実験を通すことで身近な存在であると認識しているようだった。周囲の生徒と相談しながら、積極的に調べ学習を行っていた。作成後は同じテーマを調べたメンバー同士で発表会を行ったのち、一つのスライドにまとめた後、全員の前で発表させた。
 生徒が作成したスライドの一部を紹介する。

(注:図/PDFに記載)


3 まとめ
 エネルギーというテーマは、明確な答えがない分野である。そのため、必然的に、教師側はあくまで情報を提供し、生徒たちが議論をしながら自分の考えを深めていく「アクティブラーニング型の授業」となりやすい。様々な場面で討論をする機会を作り、話し合わせた。
 生徒たちは体験を通して得た知識を、討論時の大きな武器としていた。また、数多くの発表するというさらに多くの武器を与え、主体的にエネルギー問題を考えるきっかけを与えたいと考える。湧別町、オホーツク、そして北海道の末来のエネルギー問題に主体的に考えることができる人材を育てたい。今後も、研究を続けていく。