2008年[ 技術開発研究助成 (奨励研究) ] 成果報告 : 年報第22号

嚥下圧測定のための,多チャンネルでの圧同時測定センサーの開発

研究責任者

細川 賀乃子

所属:弘前大学医学部附属病院 リハビリテーション部 助手

秋田県立リハビリテーション・精神医療センターリハビリテーション科

概要

まえがき
嚥下障害は、現在疾患を問わず多くの疾病をもつ患者や高齢者で見られる問題である。特に、高齢者では肺炎が死因の第二位であり、その中には多数の嚥下障害患者が隠れていると考えられる。そのため、嚥下機能を正しく評価し、問題点に応じた対応をすることが必要である。
嚥下運動は,口腔で食物を咀嚼してまとまった形である食塊を作り,舌の先端部を上顎の硬口蓋に押し当てるようにしたところを起点に,舌をのどの奥に向かって押しつけてゆく運動によって食塊が咽頭へ送り込まれることから始まる.食塊が舌の基部である奥舌に達すると,食塊が刺激となって嚥下反射が起こり,咽頭の壁が括約筋のように上部から下部に向かい順に収縮し,食塊が食道へ絞り込まれてゆく.食道の入口は輪状咽頭筋という括約筋があり,嚥下をしていない時には収縮し食道入口部を閉鎖しているが,ひとたび嚥下が起きるとこれが弛緩し,それに合わせタイミング良く咽頭から食道に食塊が絞り込まれる.この運動のどこが障害されても嚥下障害が出現する.特に,食物を先へ先へと絞りながら送り込む嚥下圧が不十分だと,咽頭に食物が残り誤って気管へ流入してしまうという誤嚥を起こし,熱発や肺炎の原因となる.
これまでの嚥下圧測定では,長いコード状の小型圧トランスデューサーが使用されている. 1?4 箇所に圧センサーが取り付けられたトランスデューサーを,患者の鼻腔から咽頭,食道に至る経路を通過するように留置し,嚥下をさせて事前に決められた1?4 箇所での嚥下圧を測定することができるが,口腔から咽頭,食道までの同期した圧の測定が困難なために,何回も繰り返し嚥下をしてもらうのにあわせてトランスデューサーを少しずつ引き抜きながら測定することになってしまう.
そのため,何度も嚥下をすることで嚥下関連筋を疲労させてしまい正確なデータが取りにくかったり,嚥下時に軟口蓋が咽頭後壁の上部へ向かって挙上するという鼻咽腔閉鎖の動きにあわせてセンサーも上に引きあげられてしまうことになり,必ずしも事前に決めた部位の圧測定が出来ているとは言えない.本研究では,一度の嚥下で鼻腔から食道までの圧が測定でき,また出来る限り測定点間の切れ目を少なくして連続的に測定が出来るようなセンサーの開発を目的として,本研究を行った.
内容
1.圧測定のためのセンサーの試作
今回,多数の測定点で同期して測定することが目標のため,既存の感圧導電ゴムmesh type センサシステムを基礎として,圧力変換素子に導電性フィルムを用いた,嚥下圧測定のためのセンサーを試作していった1)2).
2.圧力測定のための,接触圧力分布測定システム
圧力センサはシート状の感圧導電ゴム(Fig.1)(PCR テクニカル製のものを使用)を二枚の銅箔電極ではさみ,それをマスキングシートで封止した構造になっている.センサの厚さは約0.7mm であり,これを加工してセンサーを作成した.
Fig.2 に示すように,導電性フィルムは作用圧力に応じて厚さ方向の電気抵抗が変性する特性を有している,1枚のフィルム上に多数の測定点を配置することにより,高い空間分解能が得られるmesh type のセンサを制作することにした.エッチング処理により櫛目状に加工した銅張ポリイミドフィルム電極で導電性フィルム両面を挟み込むサンドイッチ構造となっている.これを細いチューブ状に加工し,多数の測定点で連続性をもった計測が出来るセンサーを試作した.その表面は,延伸性のポリプロピレン(OPP)フィルムで封止した.
食道入口部の狭窄のある患者や,嚥下障害が強く経口摂取が出来ない患者では,食道入口部を拡張したり,自分で栄養をとる目的に口または鼻腔から食道内までの経路に直径2.7mm?4.0mm 前後の細いチューブを挿入することがあり,圧力センサーの太さはこの範囲で収め,前鼻孔から食道内までの20cm 以上の長さが必要である.また,挿入するためにある程度の硬いコシがなければ途中で折れてしまうため,薄いためゴム製またはシリコン製などの細紐のまわりにゴムシートを巻き付けるような形か,または薄いチューブ状の構造の中にフィルム電極を入れ込むような形になる.ただ,飲み込む際に強い咽頭での違和感があると嚥下自体が困難となるため,可能な限り細くなめらかで,邪魔にならないような工夫が必要であるとした.
太さに制限を要するため,中心に芯を配しその周囲にゴムセンサを貼り付けるようなタイプのものや,4mm 程度の幅で薄く加工したものなど,複数の形態で検討を行い,また作成者,共同研究者内で実際に留置しての嚥下が出来るかなどを試したが,留置の時点での違和感も強く,また表面のなめらかさなど,工夫を必要とする課題が多く残され,試作品の検討から校正実験に進めることが本研究期間内には難しい状態となってしまった.
成果と今後の課題
今回の研究では,センサーの形態を整えるところまでが主となってしまい,校正実験をへての移行の検討について,十分に行うことが出来なかった.今後は,校正実験を行い,実用に適したセンサーの作成を行いたい.