2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

化石の模型(レプリカ)を作ってみよう

実施担当者

植田 幹男

所属:和洋国府台女子中学校高等学校 教諭

実施担当者

屋形 英範

所属:和洋国府台女子中学校高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校では,「実体験から学ぶ科学」を大切にし,以前から理科教育に力を入れている。中学3年間では約100項目におよぶ実験・観察を実施し,自然科学への興味・関心を抱かせる環境をつくってきた。実験を通しての学術的知識の向上,考察・まとめ方の指導を重視し,将来,理系の道を志す女子の育成に主眼をおいた学習活動を進めている。
 今回,中学理科で取り上げられる「化石」や「地層」の分野について,生徒の理解をより深める一助となり得るような授業展開を試みた。具体的な実験としては,1.堆積岩を破砕することで,実物の木の葉化石の発掘,2.アンモナイトや三葉虫の石こうによるレプリカ作りを行った。また,発展的な学習の一環として,高校生対象に高分子化合物の授業に紫外線硬化樹脂(UVレジン液)をつかった,アンモナイトの模型作りなどを取り入れたので,それらの授業事例について報告する。


2.堆積岩からの木の葉化石の発掘
 栃木県北部,塩原付近にあった古塩原湖では,数十万年前ごろの火山活動によって湖周辺の土砂や火山灰が流れ込み,湖水中のケイソウの殻なども加わり,地層(塩原湖成層)が形成された。この地層からは,主に百数十種類におよぶ植物や魚,水生昆虫などが,化石として産出することが知られている 1)。この塩原湖成層の化石採掘や研究,展示を行っている,「木の葉化石園」より,化石を含む堆積岩を分けていただくことで,授業へと活用することができた。
 具体的には中学1年の理科2分野の地層や化石の単元で実験に取り入れた。堆積岩の層になっている割れ目部分にマイナスドライバーをあてがい,木づちでたたくことで岩を破砕させ,実際に化石が取り出せる過程を生徒に体験させることができた。
 岩石は層部分に沿って割れやすいため,比較的容易に岩を砕くことができる。また,木の葉化石の含有確率が非常に高いため,生徒一人あたりに1~2個の塊を砕かせていくことで,ほぼ全員が何かしらの化石の一部を発掘することができた。
 実験中のけがを避ける目的で,安全眼鏡,軍手は必須で行った。実物の化石を自らの手で取りだし,探し出すことで,化石となった生物が土砂,火山灰等の堆積により形成されている様子を実際の体験から学び,より詳しく知り得る機会を持たせることができ,地層・化石の授業の一層の理解へと役立った。


3.型取り剤をつかった化石の模型づくり
 物体の型をとる材料の1つとして主に歯科医が使用する印象材とよばれるものがある。この印象材は硬化性に優れ,わずか数分で物体の型を作成できるという利点はあるが,型として使用できる時間は約半日程度と短い。何かしらの型をつくり複数回の授業で利用することを考慮すると,より耐久性に優れ,反復して使用できる材質のものが望まれる。
 そこでシリコン製の型取り剤を選択し,繰り返し長期間使える材質のものを使用することとした。実際には,信越化学工業製のke-12を用いた。反応開始剤を加えた状態で,物体(実物の化石)を入れ,約1日程度放置すると完全に硬化した型をつくることができる。材質がシリコンであるため,耐水・耐薬品性に優れ,何度でも長期間にわたり安定した形状で使用できるという大きなメリットがある。
 今回,一般的に教科書等で代表的に紹介されている,アンモナイトや三葉虫の化石を使い,クラス人数分程度の個数,シリコンの型を作成した。この型は,実物の形や模様を非常によく再現しており,そこから作られるレプリカも精密なものであった。
 具体的な実験操作は,予め用意した化石の型に,石こうを水にといだ状態のものを,適量流し込み成形させた。石こうはおおよそ10分程度で固化し,型から取りだせる状態になる。石こうの水分調整や手際よく型へ流し込む作業ができれば,容易に実験をすすめることができる。作成したレプリカは実物の化石の模様や傷までも忠実に再現させることができた。さらに,石こうが固まる際,硫酸カルシウム内の水和水の量が変わることで,わずかに発熱し,これらの化学変化や組成の変化を授業へと取り入れることで,化学反応への興味づけにつなげていくことができたと思われる。
 また今回採択していただいた助成金をもとに,種々の化石を取りそろえ充実させることができ,実物を見て,触って感じることができる,実体験型の授業形態を持たせることができることで,授業への理解度や子供たちの好奇心をより向上させる結果を得られた点が特筆される。


4.紫外線硬化樹脂を使ったレプリカづくり
 発展的学習という観点で,高等学校での高分子化学の授業において,シリコンの型を使ったアンモナイトの透明樹脂模型を作成した。これまで高分子の授業で取り上げてきた実験としては,ナイロン6,6や尿素樹脂,ビニロンなどに代表される合成繊維を作成してきた。これらは,触媒などを介した重合により生成するものであるが,近年,アクリレート系の高分子材料で,反応開始剤に紫外線を用いるような物質(紫外線硬化樹脂)が多数開発され,UVレジン液という名称で一般に商品化されている。
 そこで今回,高校高分子の授業において,従来の実験に加え,紫外線硬化樹脂の反応を利用した化石のレプリカづくりを試みた。
 実験は,比較的小型のアンモナイトをつかったシリコンの型を作成し,そこへ空気の気泡ができないよう慎重にUVレジン液を流し込んだ。その状態で紫外線ランプを5~10分程度照射することで反応を進行させ,樹脂を硬化させた。その後,硬化したものを型から外し,さらにレプリカの反対面に対しても5分程度,紫外線を照射することで完成させた。
 この樹脂は透過性に優れていることから,透明なアンモナイトのレプリカをつくることができ,元化石の模様,殻が渦をまいている様子なども立体的に観察することが可能であった。同様の操作は,太陽の光の下では,より簡便かつ短時間に行うことができるが,天候,時間帯や場所を問わず実験を行える点で市販のUVランプを使用するほうが使い勝手よく,反応時間の制御においても利点がみられた。
 授業内においては,樹脂の重合過程が酸などの触媒ではなく,紫外線によって分子内に生じる反応性が高いラジカルに伴う連鎖反応であることを取り上げた。通常教科書にある重合に加え,より発展的な内容を取り入れ,近年実際に使われている物質の反応事例を体験させることができた。
 またこの樹脂は,光をよく透過することから,樹脂硬化の途中過程において蛍光粉末等を導入させ,フォトクロミズム特性をもつようなものを現在試作しており,種々の実験的応用が可能な材料であると考えている。


5.小学生向け実験講座
 本校では,小学生を対象にした実験講座を年間10回のプログラムで行っている。今回授業に取り入れた,化石のレプリカづくりや化石の発掘なども今年度,実験講座の中に取り入れた。夏休みを利用し,同内容で2回開催したところ,合計で50名近い小学生とその保護者の参加があった。小学校ではなかなか体験が難しい,実物の化石に触れることやレプリカの作成,化石の発掘などを通して,一生懸命に好奇心を持ち実験に取り組む姿が子供たちに見られた。
 今回の助成金で購入させていただいた材料や化石などを,本校生徒だけではなく,自然科学に興味をもつ多くの子どもたちに対して活用することができた。科学の楽しさを感じ,科学の不思議を体験し学ぶ,とても有意義な講座を行うことができた。


6.まとめ
 様々な実物の化石を手にとり,実験・観察を行う機会を持つことができた。地学分野では扱う課題のスケールから,教科書や写真で見るだけの授業になりがちであるが,実物に触れ,実体験から学術的知識を連結させ学ばせることで,化石のなり立ち,その時代や自然環境について,生徒達が一層理解を深める一助になったと思われる。また,レプリカ作りを通して,化学反応や高分子の授業へもつなげることで,科学全般の知識向上,理系分野への興味関心の育成という観点で大きな効果が得られた。