2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

化学部の研究

実施担当者

上村 和朗

所属:茨城高等学校・中学校 教諭

概要

【化学部の研究 その1】固定化微生物によるアルコール発酵の研究

1.はじめに
 今年になって、神戸大、京都大等の大学において、でんぷんからエタノールを一気通貫で生産するスーパー酵母の発見が新聞紙面をにぎわせた。(右、新聞記事)
そこで、われわれもアルギン酸ゲルビーズに酵母菌とこうじ菌を繁殖させたスーパー酵母と同じ機能をもつスーパー酵母ゲルビーズを考案。実験することとした。


2.スーパー酵母ゲルビーズとは?
 アルギン酸ゲルビーズに好気性のこうじ菌と嫌気性の酵母菌を同時に固定化すると、下図のように表面にこうじ菌、内部に酵母菌が生育すると考えた。この方法により表面でデンプンからグルコース(糖化)の反応が起こり、内部でグルコースからエタノール(発酵)の反応がおこる。スーパー酵母に代わりえるスーパー酵母ゲルビーズの生産に成功した。


3.測定方法
 ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてエタノールを定量した。GCの条件は、本体の設定がRANGE102、ATTEN1。クロマトパックC-R8AはSPEED30、ATTEN4。キャリアーガス(N2)70kPa、Hydro(H2)60kPa、Air(空気)50kPa。注入口温度INJは230℃、カラム温度COLUMNは170℃で実験をおこなった。カラムはFAL-M10%SHINCARBON A80/100を用いた。糖の定量は糖度計またはフェノール硫酸法を用いた。pHはpHメーターで測定した。


4.実験結果

(注:グラフ/PDFに記載)

 上グラフが示すように、われわれが作成したスーパー酵母ゲルビーズは3日でデンプンからエタノールを生産した。


5.まとめ
 近年、遺伝子操作なしのスーパー酵母が京都大学等で注目された。高校生でもアルギン酸ゲルビーズを用いて、簡単にスーパー酵母がつくれることを証明した。


6.参考文献
1)www.jstage.jst.go.jp/article/nogeikagaku1924/.../_pdf
2)www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research.../150330_2.html
3)バイオ燃料生産の切り札は?「スーパー酵母」で発酵もエコに朝日新聞2015年1月22日朝刊


【化学部の研究 その2】茶の抗菌化作用

1.はじめに
 茶には抗酸化作用があり、老化防止や健康維持に重要な役割を果たすとされる。昨年度までの研究で抗酸化力の大きさの測定法を確立し、また強い抗酸化力を持つポリフェノールの含有量が、一般的なチャノキを使用した茶とカキを使用した柿の葉茶とでは大きな差異があることが判明した。そこで今回は、チャノキ以外を用いた強い抗酸化作用を持つ茶を開発することを目的とし、茶を作成し、その茶を用いてポリフェノール含有量の測定、抗酸化力の大きさの測定を行った。


2.実験内容
ア.茶の作成
実験材料として、水戸市城南町で自生していたツバキ、サザンカ、キンモクセイ、キンカン、ユズ、ウメの五種類の葉を採取した。その葉を蒸し器に入れ、柔らかくなるまで蒸してから約1cmの幅に切り、その後クッキングシートを敷いた鍋で煎り、冷ましながら揉むという作業を5回繰り返し、水分を抜いた。

イ.ポリフェノールの測定
抽出される成分の量を一定にする観点から、作成した茶葉を、乳鉢を用いて粉末状にし、熱湯で抽出した。その茶を酒石酸鉄比色法を用いて分光光度計によるポリフェノール含有量の測定を行った。

ウ.抗酸化作用の測定
抗酸化作用は酸化を防止する働きであり、抗酸化物質は自らが酸化することで還元剤として働く。そこで、茶の還元力を測定するためには、物質を酸化させる過程に茶葉を加え、酸化により生じる物質の量の変化を測定すればよいのではないかと考えた。この実験ではエタノールの酸化を利用した。エタノールを二クロム酸カリウムなどの酸化剤を加え酸化すると、酢酸が生成される。生体内の温度である37度に保ちながら、その反応を行い、それぞれの茶葉を加えた時との、酢酸の生成量を比較し、生体内での茶の抗酸化作用の大きさを測定した。また基準として、市販のチャノキの葉を用いた茶も実験に用いた。なお、エタノールと酢酸の測定にはガスクロマトグラフィーを用いた。


参考文献
1)酒石酸鉄比色法による市販ペットボトル緑茶中のカテキン含量の分布
2)Wikipedia-抗酸化作用、チャノキ、キンカン、ユズ、ツバキ、サザンカ、キンモクセイ、ウメ、カキ
3)BioWiki-リン酸バッファー Kenko-Cafe


【化学部の研究 その3】水の電気分解装置を用いた燃料電池の研究

1.はじめに
 化学の授業で水素の燃料電池の反応は、水の電気分解の逆反応だと教わりました。化学部の活動で実践したところ電圧が確認され電子オルゴールをならすことに成功しました。調べてみると中学校3年生の教科書に燃料電池のしくみを確認する実験としてわれわれがおこなった電子オルゴールの実験が掲載されていることを知りました。さらに、インターネットで検索すると化学と教育61巻4号(2013)に『「電気分解した後が、燃料電池になっている」は本当?』という論文を見つけました。燃料電池を使う車に興味を持ち、そこで燃料電池の作成を試みた。


2.目的
 とりあえず、中学校で使用した教科書にあった燃料電池の実験を試みた。われわれが持っていた教科書には、触媒の記載がなく。不自然に感じた。この疑問を解決すべく、実験を試みた。うまくいけば教科書の訂正および適切な実験教材の開発につながると感じた。将来的には、トヨタミライ 1)に搭載する触媒研究の第一歩となると考えた。


3.研究計画
 左図のように、3種類の電極で電気分解したのち、右図のように電圧計にそのまま繋ぐことにした。

(注:図/PDFに記載)


4.研究結果

(注:図/PDFに記載)

白金電極では電圧が一定値を保ち、その他では一定値を保たなかった。


5.まとめ
 一般的に電圧を一定値に保つと電池と言えるので、我々は白金電極では、燃料電池の作製に成功した。しかし、同じ反応なはずなのに、炭素,ステンレス電極では、電池はできなかった。ゆえに、白金には、触媒としても優秀な性質をもっていると考えられる。このことから教科書には触媒が白金とかくべきであると考える。(最新の教科書ではそうなっている。)また、中学の実験でも触媒に注目した実践がおこなわれるべきである。


6.今後の展望
 まずは、本当にこれが燃料電池なのかを確認したい。また白金は高価で希少である。なので、白金を使わない装置の研究として、溶液を変えたり、より優れた触媒作用をもつ電極を開発したい。
 本年、未来の科学者育成事業の一環で筑波大学近藤准教授に講演していただいきました。安全性に配慮しつつ炭素棒をピリジン系溶媒にディップしたり、白金に代わる触媒開発を行いたい。