2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

化学変化に関する課題解決学習への ICT 機器を活用した言語活動の導入

実施担当者

田鍋 文雄

所属:つくばみらい市立小絹中学校 教諭

概要

1.はじめに
 全国学力調査の結果分析によれば,本校生徒はB問題的な学力,すなわち習得した知識を活用し表現することに課題があることが示された(図1)。また,各種テストの記述型解答において,生徒の意図が十分に表現されていない解答が多く見られる。これらの課題は,習得した知識を用いて事象を表現する活動を十分におこなうことで解決できるものと思われる。

(注:図/PDFに記載)

 この分析を受け,本校では,平成26年度は「活用できる基礎学力の定着と発表力を育てるための指導法の工夫」を全教科共通の研修テーマとし,適切に言語活動を取り入れながら,創意工夫をこらして授業改善を行うこととした。
 理科の指導においては,身近な題材をもとにした実験結果を話し合い活動等で,確かな知識へと練り上げる活動を以前からおこなっていたが,実験結果の解釈と理解が,他の事象に応用可能な程度には身についていなかった。
 そこで,本研究では,具体的に観察が難しい原子・分子に関するさまざまな学習において,基礎知識を化学反応式などの演習を通じて定着させ,それを活用して各種化学反応における量的な関係についての課題解決学習を実施し,法則の「暗記」から「正しい理解と定着」へと生徒の知識を昇華させるための授業実践を行なった。また,その学習活動にホワイトボードを介したグループでの話し合い活動を取り入れ,さらに同様の活動をタブレット端末を用いて実践し,その効果を検証した。


2.ホワイトボードを介した話し合い活動
 中学校1年生における「単体の密度」に関する
基礎知識の学習のあと,表面をコーティングした金属の立体が「何でできているか」を同定する課題解決学習を実施した。この学習以前に,「物質はそれぞれ特有の密度を有している」ことと
「物質の密度は質量を密度で割ることで求められる」ことをこの単元における基礎知識として学習している。教師からは課題だけを与え,準備した実験器具を自由に使用してグループで課題を解決するよう指示した。また,「課題に対する解答を整理する」ためにホワイトボードを活用することを指示した。
 立体の体積を求める際,立体の辺の長さや直径を定規で測定して計算するグループが多かったが,しばらくすると準備されたメスシリンダーに気づき,沈めて体積を求めることができるアルキメデスの原理の意味を話し合いながら実践して確かめるグループが多く見られた。その後,密度を求めて物質の同定する場面では,ホワイボード上に各自の計算結果を示しあう中で課題解決が困難なことに気づき,異なる方法で再実験を行なうグループが多く見られた。このような姿は,3学級のべ27グループで同様に見て取れた。
 このことから,基礎知識を学習した後に適切な課題を与えてグループによる課題解決学習を行なえば,実験結果の解釈のためのホワイトボードを介した話し合い活動が知識の定着に有効であることが確認された。


3.タブレット端末を介した話し合い活動
 中学校2年生における「化学変化と物質の質量」の単元で,「銅の酸化と質量の変化」に関する実験の結果から化合した酸素分の質量増加について確認したあと,既習事項である原子の概念と化学反応式を用いて,数的なふるまいについて説明する活動を行った。
 グループで1台のタブレット端末上に,あらかじめ活用できそうなテンプレートを配信し,その上に書き込みながらグループで説明を考える活動を行い,学習支援用アプリの共有機能を用いて,グループの考えの比較を行った。
 ホワイトボードを用いた話し合い活動と比較すると,サイズが小さいことはデメリットとはなるが,実験を行いながら画像や動画記録ができ,さらに書き込みができることや,課題の配布や回収の作業がクラウド上で瞬時に行えることなど,タブレット端末活用のメリットが多いことが確認された。また,生徒たちは指導をしなくてもタブレット端末を直感的に操作することができていたため,授業設計さえしっかりとできていれば,タブレット端末を用いた話し合い活動は効率的に授業をすすめるには非常に有効あることが確認できた。



4.学力診断テスト正誤分析から明らかになったこと
 平成27年1月に茨城県内一斉に実施された「学力診断のためのテスト」の生徒の解答を分析したところ,以下のことが明らかとなった。
・中学校2学年でタブレット端末を活用して話し合い活動を行った項目に関する出題では,本校の正答率は茨城県全体の正答率を10%以上上回っていた。
・上記の問題の解答について生徒に聞き取り調査をおこなったところ,解答方法の見通しが持てなかった生徒は皆無であった。
これらのことから,実験とタブレット端末を活用した話し合い活動を組み合わせた学習活動は,化学変化に関する学習に対して効果的であることが分かった。


4.まとめと今後の見通し
 前出の学力診断テスト全出題に対する誤答を類型分析した結果から,本校生徒に見られる大きな課題は,「自分の考えを文章に表現すること」であることが明らかとなった。

(注:図/PDFに記載)

 これを解消するためには,「記述した文章を比較し合う」活動や「教師が添削する」ことの繰り返しが必要となる。その際の回収や配布にかかる時間を短縮するためのタブレット端末は有効であると思われる。
 平成27年度には,タブレット端末の活用をより日常化し,さまざまな実験や観察とその考察の活動を効率化することで,生徒の基礎基本の定着と言語表現の能力の育成を目指して学習指導を行っていきたい。
 2020年度には「1人1台端末」の時代がやってくる予定であるが,知りうる限りの学校の現状では,十分に生徒の活動に取り入れることは難しいものと思われる。様々なアイデアを提案し,生徒にとってより良い学習指導を行えるように,今後も研鑽を続けたい。そして,その成果を,できるだけ多くの学校に伝え,地域ぐるみでの教育の発展にほんの少しであっても寄与できればと考えている。