2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

化学を問題型集団思考で解決することの分析-リフレクションシートから授業改善点を把握する-

実施担当者

中村 陽明

所属:三重県立四日市南高校 教諭

概要

1 はじめに
 本校は進学校として大学進学率を高めることから、「競争」中心の授業も少なくない。「言語活動が、生徒の思考カ・判断カ・表現力等を育むために有効な手段であること」(文部科学省、2013)とあるが、現場では短期間で教科書の膨大な内容を習得させることが求められ、言語活動を含む協同学習を取り入れると進度が遅れるのではとの懸念から、協同学習の必要性を感じても実践する教員は多くない。
 そこで、化学の授業で普通教室にICT機器(プロジェクター、iPadなど)を持ち込み、パワーポイントを用いた対話型授業を展開しながら、膨大な知識を短期間で分かりやすく整理した後、4~6人がグループになって協同しながら間題演習を行うことによる授業の効果、リフレクションシートの記入及び指導者側の授業改蕃の分析を進めてきた。


2 研究内容
2-1 目的
 本研究の目的は、集団での対話にもとづく思考力及び生徒自らが協同で間題を解決する授業(化学)を主な分析対象とし、その教室場面における問題解決への動的なメカニズムを「協調を通しての課題解決における生徒間相互作用」の観点から検討する。

2-2 方法
【授業の方法】
 「化学」の授業で、ICT機器(プロジェクター、iPadなど)を持ち込み、パワーポイントを用いた対話型授業を展開しながら、膨大な知識を短期間で分かりやすく幣理した後、4~6人l組のグループになって、お互いに協力し合いながら、間題演習を行い授業の最後にリフレクションシートを記入する。

【対象生徒】
 三重県立四日市南高等学校3年生理系2クラス、3年生文系3クラス
理系クラスA(男子15名、女子8名)
理系クラスB(男子31名、女子10名)
文系クラスC(男子11名、女子26名)
文系クラスD(男子9名、女子23名)
文系クラスE(男子11名、女子19名)

【調査方法】
①調査:「個人思考」の内容は、ワークシートの記述によって調査する。「グループ内対話」の過程は、録画をすることで記録する。

②分析:これらの過程で記録された発言は、録音にもとづいて文字に起こすことで、教室内の集団的な論理的思考過程と個人の科学的思考のそれぞれを把握し、それら諸思考間の相互関連「生について分析する。また対話における集団による課姪解決の構造を明らかにすることで、生徒間相互作用がどのように授業改善の効呆をもたらすのかの効呆を質間紙、観察記録、リフレクションシートに基づいて分析をする。

③ 成果の公表:成果の一部を日本協同教育学会で発表する。

2-3 結果
生徒による質問紙の結呆を以下に示す。
① リフレクションシートは授業のふりかえりに役立ちましたか?
ア)とてもそう思う
イ)大休そう思う
ウ)ふつう
エ)あまり思わない
オ)全然思わない

(注:図/PDFに記載)

②演習をグループで解くことは、役立ちましたか?
ア)とてもそう思う
イ)大体そう思う
ウ)ふつう
エ)あまり思わない
オ)全然思わない

(注:図/PDFに記載)

③ この授業が学力向上に役立ちましたか?
ア)とてもそう思う
イ)大体そう思う
ウ)ふつう
エ)あまり思わない
オ)全然思わない

(注:図/PDFに記載)


3 まとめ
 ふりかえりシートに、クラスCで「リフレクションシートを化学でやると思わなかった。中村先生方式に慣れていき、学力向上させていきたいなと思った」とあった。これまでの人生でリフレクションシートをやる機会があり、化学でもやることに驚きがあったと思われる記述であった。リフレクション(内省)の効果を実証されている例が少なくないが、化学の授業でもやることで内省の習慣化につながるのではないかと思われる。
 図3のリフレクションシートの結果から、リフレクションシートは授業のふりかえりに役立ちましたかの質間に対し、全然思わないと解答した割合が、クラスE,Dは0%、クラスCは3%に対し、クラスBが12%、クラスAが9%とやや高い結果となった。これは、クラスC~Eは文系クラスのため、1週間に2回しか授業がないのに対し、クラスA、Bは理系クラスのため、1週間に5回授業があった。リフレクションシートを毎H書くことがマンネリ化してしまい、やること自体に意味を見いだせなくなったのではないかと考えられる。リフレクションシートの様式も全国の勉強会で紹介されているように、毎H授業があっても意欲的に取り組めるような工夫が必要であることが分かった。
 クラスBのふりかえりシートの中に「グループで話し合うと分からなかったことが分かるので良かったです」、「新しい授業形式なので楽しみです」とあった。最近、ICT機器を用いた授業形式の紹介をよく見かけるものの、現場での浸透が容易ではない。設備面の費用など教員l人の力では簡単に揃えられるものではないからだ。だがこのような授業を行うことで、図4の各クラスの演習学習の効果から、演習をグループで解くことは役立ちましたか?に対し、とてもそう思う、大体そう思うと答えた割合の合計がクラスEで83%、クラスDで61%、クラスCで74%、クラスBで69%、クラスAで87%と高い結果を得られた。そして、図5のこの授業が学力向上に役立ちましたか?に対し、とてもそう思う、大体そう思うと答えた割合の合計がクラEスで63%、クラスDで61%、クラスCで74%、クラスBで51%、クラスAで57%の結果が得られた。文系クラスであるクラスC、D、Eより、理系クラスのA、Bの方が低い結果となった。これはグループ学習に効果を得られているものの、学力向上にはまだ何か足りないものがあるのではないかと示唆される。今後の授業改善の分析により、これらの足りないものを調べていく必要性を感じた。