2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

兵庫県全域の基盤岩の形成過程の解明と防災への応用展開

実施担当者

川勝 和哉

所属:兵庫県立西脇高等学校 教諭

概要

1.研究の動機と目的
 地学部には、本校周辺地域に毎年起こる加古川の浸水被害を受けた部員が複数いる。昨年度、水害の原因を明らかにするために、東西20km×南北18kmの西脇地域の地質調査を行い、85試料を採取して分析し、詳細な地質図を作成して兵庫県南部の形成過程を考察した。
 その後も継続して研究を続けていた筆者らは、凝灰岩の包有岩片を観察していて、昨年度発表した考察の誤りに気づいた。そこで、西脇市から南へ淡路島南部まで87km、北へ日本海まで67km(東西20km×南北160km、25日間)、兵庫県を縦断して露頭調査をおこなった。採取した143個の試料すべてを偏光顕微鏡観察し、モード組成、帯磁率、全岩化学組成を分析した。兵庫県を南北に縦断する円山川-加古川水系に沿って研究をおこなうことで、兵庫県全域を調査することなく、水害から住民を守る基礎資料となる模式断面図を作成することができた。


2.昨年の成果に疑問をもったきっかけ
 あらためて露頭に足を運びよく観察すると、加西市を境にして、南から北へ流紋岩から石英安山岩へ基質や包有岩片が段階的に変化することに気づいた。昨年、流紋岩質凝灰岩に流紋岩片が包有されるのみだと考えて噴火1回のモデルを作成していたが、この事実は、基質と岩片は別の起源で、複数回のマグマ活動があったことを示唆していた。


3.露頭調査と岩石の分析
 ④~⑤丹波市と⑥西脇市黒田庄町が凝灰岩の性質が大きく変化する重要な地域である。

(注:図/PDFに記載)

 凝灰岩に含まれる岩片や軽石の種類と割合を測定した結果、兵庫県中部~南部に広く分布する凝灰岩のモード組成には、同一地域であってもばらつきがある。また、兵庫県中部~南部に広く分布する凝灰岩の帯磁率は、地域によって数値のばらつきの度合いに大きな違いがある。岩石の帯磁率は、岩石が形成された時代や地域ごとにばらつきが異なることが知られている2)。得られた結果は、噴火が複数回起こって複合カルデラを形成した可能性を示している。カルデラの北限は西脇市黒田庄町にあり、これは山陽帯と山陰帯の境界と一致する。

(注:図/PDFに記載)

 三木市の凝灰岩(140418-2)では、基質と包有岩片はいずれも流紋岩質で帯磁率も同一であるが、西脇市野村町の凝灰岩(140426-12)は、流紋岩質の基質に対して包有岩片は石英安山岩質であり、明らかに高い帯磁率を示している。これは、異なる時期に、流紋岩質マグマと石英安山岩質マグマという分化の程度が異なるマグマが噴火したことを意味している。

(注:図/PDFに記載)

一方、全岩化学組成を比較すると、凝灰岩の化学組成のばらつきは小さい。同一のマグマが分化しながら、時期をずらして連続的に噴火した可能性がある。

(注:図/PDFに記載)


4.兵庫県中南部の南北方向断面図と形成過程
①白亜紀後期に石英安山岩マグマが兵庫県南部に上昇し、火砕流が大量に流れ出してカルデラ湖を形成した。カルデラ湖の北端は現在の西脇市野村町にある。境界部には断層が多くみられる。その後、湖底に石英安山岩質の火砕流堆積物が堆積した。

(注:図/PDFに記載)

②水底に砂岩泥岩互層が堆積する。砂岩-泥岩は淡水魚の化石を含んでおり、また級化成層を呈するため、水底で堆積したことがわかる。

(注:図/PDFに記載)

③安山岩片や砂岩泥岩の角礫を巻きこみながら流紋岩質マグマが複数回上昇した。これは、同一地域内の凝灰岩でも、モード組成、帯磁率、化学組成がばらつくことが示唆している。流紋岩溶岩が自破砕構造を呈することや、流紋岩質凝灰岩が成層ハイアロクラスタイトをなすことから、カルデラ湖底で噴出堆積したと考えられる。下部の凝灰岩は粗粒の角礫凝灰岩であり、熱でさまざまな程度に溶結した。

(注:図/PDFに記載)

④古第三紀前期には、マグマ活動の場が兵庫県北部に移動した2)。カルデラ湖の外縁が山陽帯と山陰帯の境界部付近にあり、西脇市以北の凝灰岩が全て安山岩片を包有することから、カルデラの外縁に沿って安山岩マグマが上昇したと考えられる。

(注:図/PDFに記載)

⑤西脇市以北の安山岩の流離構造が凝灰岩とともに南西方向に傾斜しており、貫入後兵庫県北側が相対的に隆起して表層が削剥されたと考えられる。西脇市付近では下位の強溶結凝灰岩が露出し、南部では上位の細粒凝灰岩が残されている。

(注:図/PDFに記載)

⑥石英安山岩マグマが貫入した。石英安山岩は③で示した流紋岩質凝灰岩に包有されている石英安山岩と帯磁率が異なる。西脇市周辺に見られる石英安山岩には水平方向の流理構造が見られるため、北側の隆起削剥の後貫入したことがわかる。

(注:図/PDFに記載)


5.今後の課題~現在おこなっている活動
 筆者らが明らかにした成果を防災に役立てるために、現在も活発に活動している。西脇市で防災講演会を開催したところ、西脇市民会館大ホールが満席になる盛況ぶりをみせた。また地域の児童たちに出張授業をおこなう活動も始めている。行政へのはたらきかけをさらにおこない、水害から住民を守る活動を展開していきたい。


6.研究発表と成果の記録
・8月:青少年のための科学の祭典……奨励賞
・9月:日本地質学会第122年学術大会(信州大学)……最優秀賞(全国1位)
サイエンスショー(経緯度地球科学館)
・10月:東京理科大学研究論文コンテスト……優良賞
日本学生科学賞(神戸青少年科学館)……神戸商工会議所会頭賞・讀賣新聞社賞
・11月:第39回兵庫県高等学校総合文化祭自然科学部門(神戸青少年科学館)……地学部門優秀賞・パネル発表優秀賞(来年度近畿大会進出権を獲得)
工学フォーラム2015(東京海洋大学)……讀賣新聞社賞(全国2位)
・12月:益川塾第8回シンポジウム(京都産業大学)
JSEC2015(日本科学未来館)
第10回筑波大学科学の芽賞(筑波大学)……奨励賞
サイエンスキャッスル(大阪明星学園)
・1月:第8回サイエンスフェア in 兵庫(神戸国際展示場)
・2月:西脇市防災講演会(西脇市民会館)
・3月:第14回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞(神奈川大学)……優秀賞(全国2位)
第71回日本物理学会(東北学院大学)