2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

公立図書館が地域で展開する新形式の読み聞かせ -「理科読」への挑戦1年間の足跡とその評価-

研究責任者

大石 俊一

所属:飯塚市立図書館 館長

概要

1 はじめに

飯塚市立図書館では、平成24年3月から、新たな取組みとして「理科読」を実施してきました。地域に根差した理科教育の重要性を認識し、市立図書館が中心となって、理科をもっと身近に楽しく感じられる環境づくりを目指し取り組んできました。本年度で5年目を終えようとしています。
活動拠点として、市立図書館が事務局となり、図書館ボランティアや学校司書をメンバーとして「理科読いいづか」を発足させ活動しています。定例のイベントの他に、小学校や近隣の自治体に出向き出前公演を行っています。参加した子どもたち、保護者や教育関係者等のその評価は高く、その評判から活動範囲が広まってきています。活動範囲の拡大は、同時に経費の拡大が伴います。
各個人の経費負担が増え、活動に制約が加わり、この事業の拡大に限界を感じていました。今年度、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団科学教育振典助成の採択を受け、「理科読いいづか」は新たな使命感を持ち、より上質な活動を行うことができました。「理科読いいづか」は、多くの子どもたちと理科教育をつなぐ役割をこれまで以上に全うできたと確信できる1年間でした。同時に、メンバーのスキルアップが図られた点も、特記したいと思います。

2「理科読いいづか」1年の軌跡

2-1科学イベントとわくわく・きらめく子どもたち

理科読=絵本+科学=わくわく+きらめく子どもたち=理科読これは、理科読を開催し、参加したメンバー皆が、毎回、思うことです。本年度は、前回にも増してそれを強く感じることができました。「理科読いいづか」では、本年度、二つの大きなイベントに参加し、新しいテーマとストーリーを準備し「理科読」を公演することができました。
その一つは、9月17日(士)・18日(日)に、地元飯塚市で開催した「サイエンスモールin飯塚2016」です。今年で5回目の開催となるこのイベントは、子どもたちの理科離れ傾向が顕著になりつつある中、飯塚市立図書館が行っている事業の一つです。子どもたちにもっと理科への関心を高めてもらいたい、広く理科系志向の子どもたちを育てたいという思いから理科に特化して展開している事業です。本年の来場者数は、約3,500人でした。常設の科学関連施設はなくとも他の地域を超えるものを提供すると企画したものです。
「理科読」もこのイベントの重要な構成プログラムのひとつです。「読み聞かせ」と「理科教室」を合体させて「理科読」という1つの分野を独自に確立し、さらに効呆的ストーリーの創作へと結びつける。そして、地域に定着させる。「理科読いいづか」は、助成を受けることで今回も、その役割を果たすことができました。
二つ目のイベントは、10月15日(土)に、福岡市立舞鶴小中一貰校を会場に行われた「世界一行きたい科学広場in福岡2016」への出展と公演です。
さらに今回は「理科読」プログラムを広めることを目的にシンポジウムも開催しました。ここでも、たくさんの「わくわく・きらめく子どもたち」と出会うことができました。何より、助成金採択を契機に、過去5年間を振り返り、今後展開していくための検証の機会となったことが一番の成果でした。助成金を受けることで、5年前に「理科読」のデモンストレーションのために来飯いただいた士井美香子先生(ガリレオ工房理事)を招聘し、意見交換の場を得たことは、今後、継続?発展させていくために大いに役立つものとなりました。理科読公演について多くの問題点を厳しく指摘いただき覆心を戒める」客観的な評価は、『進化
する「理科読いいづか」』にとって道標になりました。
これらのイベントに参加し、そのための何度も開いたミーティングやリハーサルはメンバーをさらに成長させ上質の読み聞かせの提供を可能にしました。意識を集中させおはなしに没頭している子どもたち。実験や工作を合体させた読み聞かせを通して効果的な科学技術コミュニケーションが成立しました。

2-2「理科読いいづか」とファシリテーション

「理科読」を開催することに際し、テーマやストーリーの決定と運営を効果的に支障なく進めていくために、1年を総括し振り返りながら、平成29年3月15日(水)にファシリテーションの研修会を開催することができました。人が集まって共同で事業を行うとき、思いが強い人が集まると、どうしても主張が強くなり意見がぶつかることが多くなります。このような意見の衝突は、議論を深めるには重要な意味を持ちますが、不要な摩擦はできるだけ少なくしたいものです。よりストレートに議論し、意見を集約できるようになれば個人の力はもとより組織の力も大幅にアップします。
「理科読いいづか」においても、学び、計画し、実行し、評価する各段階において、話し合いを中心とした意見交換、合意形成を目指しています。この技法は今後、活動を継続し、発展させていくためにも、必要不可欠な手段であり、助成をいただいたこの機会に是非、開催したいと思いメンバーの総意に基づき、開催しました。すでに、主張することが日立ってきているこの時期の開催が、最滴であり、結呆、受講したメンバーは揃って、この研修を高く評価し、今後に活かせると大いに感謝していました。
実践に基づいたこう研修会は、きわめて有効であり、次回以降のミーティングや会議の場で大いに役だくものと思います。

(研修会の内容について)
ファシリテーター田坂逸朗氏を招いて研修会を行いました。目的は、「話し合いのやり方を学ぶ」です。2名1組からグループの人数を増やし最大5名のグループを作って、ワールドカフェを行いました。テーブルクロス代わりに敷いた模造紙上にメンバーから出された意見を落書きして記録し、グループメンバーの一部が別グループヘ移動回遊することで、意見と人を切り話すこと、議論のミックスアップをはかり、他のテーブルからヒントをもらうものです。活発な意見が出されました。
その後テーブルに戻り、自分たちの意見の中で大切なことを浮かび上がらせる作業を行います。落書きの中では各自が言いたい事がきちんと書いてあるので、空中での議論の中から議論の重要選択肢を選ぶよりも落書きの中からの方が楽であることを学びました。
その後の「ギャラリーツアー」。各班が書いた落書きを見て回りお互いに、意見交換や質問、コメントを出し合いました。「意見とそれを出した人を切り離して考えることが、活気ある議論を生む」田坂ファシリテーターの提案です。個人に成長がないと集団の成長はないということが出てきました。初めての参加者からは、こんな研修会は初めてと絶賛でした。今の「理科読いいづか」にとって、非常にタイムリーで、有意義な研修会となりました。

3 まとめ

「理科読 いいづか」にとってこの1年間の活動は例年に比べ、非常に密度が濃い、内容にあふれた極めて有意義な1年でした。大きなイベントヘの参加や、近隣の各自治体で行ったミニ理科読の公演、過去5年間を振り返って今後のやり方や方向性を議論し合い、「理科読 いいづか」の将来について多くを話し合うことができました。これまで、直前に迫ったイベントにだけ集中し、将来を俯諏できる体制でなかったように思います。今後、是非進めていきたいことは、市内の高校や中学校の生徒の皆さんとコラボした形の「理科読」を実現したいと考えています。現在、小中一貫校である県立嘉穂裔等学校附属中学校の生徒たちによる「理科読」を計画しています。
「理科読 いいづか」はこの1年間で大きく飛躍し、進化することができたようです。メンバーのそれぞれが、そのことに気付いたことが何よりの成果と考えています。