2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

佐鳴湖にリンが多いのはなぜか その原因について

実施担当者

長野 裕紀

所属:静岡県立浜松大平台高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校至近の佐鳴湖(静岡県浜松市)は,かつて6年連続水質が全国ワースト1(2001?06年,ただしCOD値において)1)であり,現在もその根本的な解決はされていない。特に透視度に関してはわずか10cm程度になる 2)こともあるが,これは植物プランクトン(光合成微生物)の過剰発生による。その原因の一つに湖内に供給されるリン(P)の影響があり,植物プランクトンの光合成の限定要因となっていると考えられている。
 佐鳴湖には新川,段子川,御前谷排水路の3本の流入河川がある。事前研究としてそれらの河口におけるリン酸の濃度をパックテスト(共立理化学研究所製)で調査したところ,段子川のものが最も大きい値を示した。そこで調査対象を段子川に限定し,そのリンの流入減の特定を試みた。


2.これまでの研究成果
 段子川の上流から下流まで4地点(D1~D4:図1)で2014年7月6日7時30分から18時30分まで1時間ごと,リン濃度を測定した。リン濃度測定にはパックテスト「リン酸態リン(低濃度)」を用いた。
 リン酸態リン濃度は上流で大きく下流で小さくなる傾向だが,これは流量の変化によるものだと思われる。そのなかで地点D1の濃度変化が相対的に大きく,8時半と14時半でピーク(ともに0.15mg/L)だった。また,地点D4は最下流でありながらD2・D3よりも大きい値を午後に入ってから示した。(図2)
 地点D1付近には化学合成工場があり,その排水の段子川への流入がみられた。リンの流入源がその排水である可能性が出てきた。

(注:図/PDFに記載)


3.調査内容
 工場排水がリンの供給源である可能性を調査するため,地点D1より工場排水を挟んで上流側に地点D0(図)を設け,このD0とD1に関して(第2回以降はリンの供給源が疑われる工場排水域の河川水に関しても),第1回:2014年12月22日(月),第2回:2015年1月13日(月),第3回:9月23日(水・祝),いずれも8時30分から16時30分まで1時間おきに計9回のサンプリングを行い,デジタルパックテスト「リン酸(低濃度)」(共立理化学研究所製)によりリン酸濃度を測定した。
 測定は試料をろ過後,1サンプルにつき3回行い,測定誤差が最小になるよう工夫した。


4.結果
 第1回ではD0で11時30分に1.3mg/L,12時30分に0.6mg/Lとリン濃度が大きくなる時間帯があった。またD1はほとんどの時間帯において有意な変化は見られなかったが,12時30分にリン濃度が少し上昇した。(図3)
 第2回ではD0で11時30分に2.9mg/L,12時30分に0.45mg/Lと第1回と同様にリン濃度が大きくなった。工場直下の河川水は10時30分以降16時30分まで0.3?0.5mg/Lと,リン濃度が比較的大きくなったが,今回はD1については有意な変化は見られなかった。(図4)
 第3回では前2回に見られたD0の11時~12時のリン濃度のピークは見られず,13時半に0.25mg/Lの小さなピークがあるのみであった。また工場直下やD1も有意な変化は見られなかった。(図5)


5.考察
 D0のリン濃度が極端に大きい時間帯があったことは,リンの流入は工場排水が原因ではなく,さらに上流にリンの流入源があると考えられる。またリン濃度のピークは冬期の平日に見られ,秋期の休日には見られなかった。季節によるものなのか,曜日によるものなのかは現時点では分からない。
 また,3回のいずれの結果も工場直下とD1に有為な濃度差が見られなかったことから,工場排水が直接の原因ではないと思われる。

(注:図/PDFに記載)


6.まとめ
 今回の調査で,段子川へのリンの供給元はD1上流の化学合成工場ではなく,さらに上流に何らかの原因があることが示唆された。 今後はD0のリン濃度のピークが曜日によるものなのか,または季節によるものなのかを,調査を継続することで明らかにし,リンが段子川の上流でどのようにして流入しているのかを特定し,佐鳴湖の浄化に寄与していきたい。