2011年[ 技術開発研究助成 (奨励研究) ] 成果報告 : 年報第25号

低温除細動における点電極通電刺激誘発興奮伝播現象の解析

研究責任者

荒船 龍彦

所属:独立行政法人産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門 治療支援技術グループ 特別研究員

東京大学大学院 工学系研究科 精密機械工学専攻 特任研究員

概要

1.はじめに
本研究は、光学マッピング技術を用いた計測と解析により、未だ不明な点が多い"低温環境を利用した除細動メカニズム"を明らかにするものである。これにより、低エネルギーかつ確実な新たな除細動手法の確立に資することを目指している。
心室頻拍・細動(VT/VF)は心臓突然死につながる重篤な不整脈である。VFを停止させる最も有効かつ唯一の手段は電気刺激を用いた除細動治療であるが、現在一般に用いられている除細動は体外式(AED)/体内式(ICD)共に刺激エネルギーが高いことから患者への負担が大きく、また通電刺激が却って複雑なVFを誘発してしまう催細動の危険性も指摘されている。①刺激エネルギーを可能な限り低く抑え、②催細動を起こさない安全・確実な通電刺激プロトコルを確立することが急務である。
近年の研究によって、不整脈の成因が渦巻き型の異常興奮(スパイラルリエントリ)であること、また心筋組織への通電印加が電極近傍に脱分極領域と過分極領域を心筋線維走向に依存した複雑な形状で同時に引き起こす『仮想電極分極現象(Virtual Electrode Polarization: VEP)』の存在が明らかになった1)。VEPは心筋線維走向の電気伝導性の異方性率が細胞内と細胞外で異なるbi-domain特性により生じる現象である。VEPは細胞間を伝播する興奮伝播現象とは異なり、通電刺激による局所領域の強制的な電位の上昇と下降である。VEPは通電刺激印加中のみ形成され、通電を終了すると強制的な分極現象も終了し、形成された脱分極または過分極領域の外周から新たな興奮波が開始する。刺激後の興奮様態は3種類に分類できる。
・Not Capture
電極直下の心筋組織が脱分極直後の不応期のタイミングで通電刺激印加された場合、VEPの脱分極・過分極領域は形成されるが、通電終了後に新たな興奮波が開始されないケース。
・Make excitation(Make興奮)
電極直下の心筋組織が十分再分極して興奮性が回復している状態へ通電刺激が印加された場合に、通電終了と共にVEPの脱分極領域の外周から新たに開始する興奮波。
・Break excitation(Break興奮)
電極直下の心筋組織が再分極相タイミングで通電刺激印加された場合に、通電終了後まずVEPの過分極領域に周囲の興奮が流れ込んで脱分極し、その後その元過分極領域の外周から新たに開始する興奮波。
点通電刺激後の電極直下の興奮現象というのは必ず上記3種類に分類される。Make興奮波はVEPの形状がすぐに融合拡大し、ほぼ楕円状の興奮波が放射状に伝播するのに比べ、Break興奮波はVEPの脱分極領域を迂回するように伝播するため旋回性の興奮波となる(図1)。
除細動を行う場合に必ずVEPが発生し、またVEPが除細動の成否に重要な役割を担うことがシミュレーション研究において指摘されているが2)3)、VEPは①その形成が微小時間かつ微小領域に限られる事、②にもかかわらずVEPからの新たな興奮伝播心臓全体の興奮状態をダイナミックに変化させるという理由から、高時間・空間分解能を両立させた詳細な計測が非常に困難であり十分な観察・検証がなされていなかった。通電刺激がどのようにスパイラルリエントリを停止させ、そして除細動を成功させるかを詳細に理解するためには、VEPの十分な解析が必要不可欠である。そこで我々は光学マッピングシステムと透明板埋込み型微小電極アレイを組み合わせた高分解能のVEP計測システムを開発し、点通電刺激誘発のVEPおよびVEPから開始する新たな興奮波の詳細な観察を可能とした4)。
一方近年、新しい低エネルギー除細動手法の提案として、心臓の局所あるいは心臓全体を適度な低温状態に維持した低温治療と通電刺激を組み合わせた手法が報告されている5)6)。提案された全体冷却手法では、通常温度37℃に対して、適度冷却33℃(Modest Hypothermia)で除細動効率が向上するが、30℃まで過度に冷却すると却って除細動効率は低下すると報告されている。臨床でも脳外科治療などにおける低体温治療の患者において不整脈発生が抑制されることが経験的に知られている。また基礎的研究として、低温環境が心筋細胞のイオンチャネルや組織抵抗といった個々の電気生理的特性を変化させることも知られている7)。だが、低温環境が具体的に除細動効果を向上させるメカニズムや、33℃で特異的に除細動効率が向上するという温度依存性の理由は、全く不明である。
本研究では以下の解決策を以って低温除細動メカニズムの解明を行う
・単相性刺激(monophasic shock)によるVEPの計測と解析を行い、最も単純な系で、適度冷却環境でVEPからの興奮波が心臓興奮状態を捕捉するメカニズムを明らかにする。
・二相性刺激(biphasic shock)によるVEPの計測と解析を行い、臨床で除細動に用いられている二相性刺激によるVEPが適度冷却環境によって受ける影響について調べ、前項と合わせて全体冷却心筋における除細動効果についてまとめる。
・局所冷却心筋における単相/二相性刺激によるVEPの計測と解析を行い、冷却環境において除細動効率が向上するメカニズムを総合的に解析し、明らかにする。
本研究でターゲットとする低温除細動治療は、①数℃程度の温度低下のため心筋に与えるダメージがほとんど無く、②副作用が無い、③すぐに元の状態へ回復できる、といった点で投薬治療に対する優位性がある。しかし低温除細動治療に関する研究は2000年代半ばから開始された新しい研究分野であり、大型動物へ除細動器を埋め込んだin vivo研究などで有用性が示されている6L方でそのメカニズムの解明に踏み込んだ研究はまだ無い。本研究が明らかにする低温除細動のメカニズムは、基礎的研究だけに留まらず、in vivo研究や臨床応用における新しい除細動手法の確立に有用性を示すことが期待される。
なお、本報告書の内容の一部は既に学術論文として掲載されている8)。
2.方法
本研究で行った動物実験手順は産業技術総合研究所および実験実施場所である名古屋大学動物実験倫理委員会の規定と承認の下に実施した。
2.1心臓標本
ウサギ摘出心からランゲンドルフ灌流心標本を作成した。灌流液に膜電位感受性色素di-4-ANEpps、モーションアーチファクト除去のための筋縮抑制剤BDMを添加した。心臓標本の内部は凍結探針にて心内膜を凍結破壊し、心表面約1mm厚を残した二次元標本とした。
2.2光学マツピングシステム
心臓興奮伝播現象の計測には、我々が開発したVEP計測用光学マッピングシステムを用いた4)(図2)。主波長520nmの青緑色高輝度LEDを環状に配置したリングライトを励起光源とし、心臓標本に光照射する。放射蛍光の主波長600nm付近にカットオフ波長を持つロングパスフィルタを介して、高速度デジタルビデオカメラ(Fastcam Max, Photron)により1000f1)s、512×512pixel、10bitで観察領域約30×30mmを撮影した。計測後PCにて正規化処理、ノイズ除去を行い、活動電位信号を取得した。
2.3透明電極
全体冷却実験において、通電刺激を印加しながら光学マッピングを同時に行うため、透明アクリル板上に微小電極を多数配列した透明板埋込み型微小電極アレイを製作した。径0.lmmの白金ワイヤを電極とした。この透明電極を心臓標本の左心室正面に設置し、心臓の反対側には白金対極板を設置した。定常刺激(Sl)用と早期刺激(S2)用の2点の微小電極を左心室の心筋線維走向に沿って4mm間隔で設置した(図3)。ペーシング波面が心筋線維走向に沿って伝播することで、点刺激印加時の電極周囲の空間的電位勾配を心筋線維走向と一致させた。
2.4局所冷却プローブ
局所冷却実験において、心臓の局所のみを一定の温度で冷却するため、銅フレームと透明樹脂から構成する局所冷却プローブを製作した(図4)。冷却源にはペルチェ素子(S.T.S社)を使用し、ペルチェ素子の対面より生じる熱の廃熱には銅パイプ製CPU用クーラーとファンを設置して急速廃熱させた。冷却プローブ先端は円形の銅フレーム内を透明樹脂で満たし、設置した心表面の光学マッピングを可能とした。さらに心臓と接する箇所には微小の熱伝対を設置し、冷却プローブによる温度変化を直接計測した。本プローブを心臓標本に設置した状態からペルチェ素子に通電印加を開始し、約1分で心臓表面温度が34~37℃から28~30℃に冷却が可能である。
2.5全体冷却実験
全体冷却環境の再現としては,通常温度(37℃),適度冷却(33℃),過度冷却(30℃)の3っの温度環境を設定した。心臓標本の温度が設定温度になるよう,灌流液の温度を2台の恒温槽によって制御し,再現した。心臓の温度はサーモグラフィ(TVS-200, NipPon Avionics)および心内膜側に配置したサーミスタで確認・管理した。
温度環境の変化に伴う基礎的心臓電気生理特性の変化を調べるため,活動電位持続時間,活動電位振幅勾配,興奮伝導速度,VEP形状等を各温度において計測した。
2.5.1全体冷却・単相刺激実験
S1電極よりペーシング刺激となる定常刺激S1を400ms間隔で10発印加した後、早期刺激S2を一20V、パルス幅10ms、単相性刺激で一発印加して、点通電刺激誘発VEPおよびVEPからの興奮波誘発を計測した。S1-S2間隔は、Sl波面の脱分極直後から静止電位へ再分極するまでの活動電位持続時間を網羅的にカバーするようS1-S2間隔を10~20ms刻みで変化させて印加した。これを前述の37℃、33℃、30℃の3温度環境全てにおいて実施した。
全通電刺激プロトコルの刺激後興奮様態(Not Capture, Break興奮,Make興奮のいずれか)と、後述する各刺激における指標(Phase APD、%Repolarization)を関連付け、上記3刺激後結果の指標の帯域を求めた。
2.5.2全体冷却・二相性刺激実験
単相刺激同様の電極配置、刺激プロトコルにてSl-S2間隔を10~20ms刻みで変化させて刺激印加した。ただしS2刺激は前相8ms、後相2msの4:1時間幅、±20Vの二相性刺激とした。二相性刺激により、通電刺激から形成されるVEPは前相、後相で脱分極領域、過分極領域をお互いに相殺するよう分極するため、通電後の興奮様態はNot CaptureもしくはMake興奮のみとなるため、後述の指標(Phase APD、%Repolarization)と上記2刺激後結果を関連づけてその帯域を求めた。
2.6局所冷却実験
心臓標本心尖部に設置したバイポーラ電極よりペーシング刺激を印加し、心臓を左右から挟みこんだ電極板から直交刺激を印加して心臓標本にVTを誘発する。
VTの持続時間が2分を超過した後
・Control群…さらに1分後に20V除細動刺激印加
・局所冷却群Ⅲ冷却を開始してさらに1分後に20V除細動刺激印加
としてそれぞれ電極板から除細動刺激を印加する。除細動刺激は20Vから開始し、VTが停止しなかった場合は10Vずつ刺激強度を上げて再び除細動刺激を印加した。その間局所冷却は続行した。
除細動刺激結果を光学マッピングシステムによる計測結果より①Phase resetting(除細動刺激そのもので旋回中心が消滅してVTが停止する)、②New phase arise and terminate reentry(除細動刺激により生じた旋回中心とスパイラルリエントリの旋回中心が相互作用して相殺し合いVTが停止する)、③Multiple wave arise(除細動刺激によって多数の旋回興奮が発生し多形性リエントリが生じる)、④Unchanged(刺激前後で変化が見られないもの)の4つに分類し、Control群と局所冷却群で比較した。
2.7心筋興奮捕捉指標
温度環境の変化によるVEPの解析のため、本研究では新たにPhase APD、%Repolarizationという2つの指標を提案する。刺激間隔を変化させて網羅的に取得したデータは、まず通電と共に脱分極を開始するVirtual cathode領域から活動電位波形を導出し、Phase APD、%Repolarizationと通電印加後の現象を関連付けた。それぞれの指標については下記に詳細を記す。
2.7.1PercentageRepolarization
S2印加直前のSlによる活動電位振幅をVmとし、S2が印加された時の活動電位の高さをVshockとして
として算出した(図5)。
2.7.2Phase APD
S2電極近傍でのS2印加直前のS1刺激による活動電位の活動電位持続時間(Action Potential Duration: APD90)、および最後のSl刺激による波形の立ち上がりからS2刺激による刺激印加までの時間(Real Coupling Interval: RCI)を元に
として算出した(図6)。
なおAPD90とは静止電位レベル時の信号の平均値を静止電位値Vmoとし、最大振幅をVmmaxとして
で得られるVm90を元に、脱分極時のVm90から再分極時のVm90までの時間をAPD90と定めた。RCIも同様に、脱分極波形のVm90タイミングから刺激印加時間までの時間をRCIと定めた。以降、本文では簡略化のためAPD90をAPDと記す。
3.成果
3.1全体冷却・単相刺激実験結果
同一標本において計測された3温度環境におけるPhase APDをまとめたものをグラフに示す(図7)。37℃から33℃に冷却することでBreak興奮となった帯域が縮小し、心筋捕捉のできないNot CaptureおよびMake興奮の帯域が拡大した。さらに30℃まで冷却すると再び37℃時と同程度までBreak興奮の帯域が拡大し、Not CaptureとMake興奮の帯域が縮小した。
同様に、同一標本において計測された%Repolarizationをまとめたグラフを示す(図8)。Phase APD同様に、37℃から33℃に冷却することでBreak興奮の帯域が縮小し、Not Capture、Make興奮の帯域は増加した。
しかし30℃まで過度に冷却すると37℃時とほぼ同程度にBreak興奮の帯域は増加し、その他2つの帯域は縮小した。
APDやCV、VEPパターンといった個々の心臓電気生理特性は全て、心筋の温度を低下させるに伴って一様に変化し、33℃にピークを持つような変化を示さなかった。
一方、通電刺激からの興奮現象をPhase APDおよび%Repolarizationの指標を用いて分類すると、両方の指標で、33℃において最もBreak興奮の発生帯域が小さくなることが示された。
Break興奮発生のメカニズムは
①通電印加時の周囲の空間的な電位勾配≒先行興奮の覚め具合、つまり空間的不応期の分布
②通電刺激誘発VEPの脱分極/過分極領域の形状の相互作用・相互関係によって規定される。この①はCV、APD、dV/dtMax、②はVEP形状、dV/dtMaxが関与する。低温作用によるAPD延長は心筋細胞のK+イオンチャネルの抑制やCa2+電流の不活性化の遅延、CV低下やdV/dtMax低下にはNa+チャネルの抑制、CVLとCVTの変化率の違いやVEPパターンの変化には心筋組織のgap junctionやanisotropy ratioの変化が寄与していると考えられるが、温度低下に伴って一方向的に変化するAPD、CV、dV/dtMax、VEP形状といった各要素の温度依存性変化率は一定では無かった。
以上から33℃環境下でBreak興奮発生帯域が最も縮小する現象の原因は単一では無く、冷却による様々な電気生理学的要素の総合的な作用で規定されている事が示唆された。
除細動を実現する電気生理的なメカニズムとして芦原らは、①通電刺激誘発VEPがリエントリを停止・消滅させ、②VEPから開始する新たな興奮波がリエントリに発展しない、という2つの機序が必要であると述べている2)。前述の通り、点刺激によるBreak興奮波は旋回性の興奮を生むため、スパイラルリエントリへ発展する可能性を持つ。33℃温度環境においてBreak興奮波が発生しにくいという効果は、催細動抑制という上記除細動メカニズムの後者の条件を補完するものである。また心臓標本において33℃でBreak興奮が起きにくいという本研究の結果は、大型動物を用いた検討において33℃で除細動効率が向上するという先行研究の結果と矛盾しない。
3.2全体冷却・二相性刺激実験結果
二相性刺激では単相性刺激と違い、Phase APD指標では33℃でNot Capture帯域が最小となり、通電刺激によってCaptureする帯域が最大となった(図.9)。また、%Repolarizationでも同様に33℃が通電刺激Capture帯域が最大となった(図.10)。
二相性刺激の場合、前相で形成したVEPの分極パターンとほぼ同じ形状で極性が反転した分極現象が後相で発生する。つまり通電印加直後には、前相の脱分極領域は強制的に活動電位が抑圧され、また前相の過分極領域は強制的に電位が上昇している。そのため通電印加後は前相の脱分極領域と後相の脱分極領域を合わせた刺激電極を中心とした楕円状の領域が脱分極領域となって、両領域外周より放射状に興奮波が心筋周囲へと伝播していく。また単相刺激時に見られるような脱分極領域を避けるように旋回する旋回興奮波はほぼ生じない。本現象は二相性刺激でCaptureした興奮波による催不整脈性が非常に低いことを示す。
本研究における二相性刺激実験結果でCaptureした場合、全ての結果において放射状に興奮波が伝播し旋回性興奮波は無かった。そのため33℃適度冷却環境において最もCaptureの帯域が大きくなったという結果は、即ち33℃温度環境における通電刺激が最も除細動効率が高いことを意味し、これもまた大型動物を用いた先行研究における結果と矛盾しない。
3.3局所冷却実験結果
局所冷却実験における刺激電圧とVT停止率をまとめたものを示す(図ll)。局所冷却によって、
局所冷却をしないControl群に比べ、低い刺激電圧でVT停止を実現した。
Control群(図.12)、局所冷却群(図.13)それぞれの除細動刺激後の結果を前述の
①Phase resetting
②New phase arise and terminate reentry
③Multiple wave arise
④Unchanged
に分類した結果を示す。
その結果、Control群に比べ局所冷却群において②が増加し、③④が低下した。局所冷却においては低エネルギー通電刺激による新たな旋回性興奮の生成が、除細動の成功に重要な役割を担うことが示唆された。
4.まとめ
37℃、33℃、30℃の3温度環境における心筋通電刺激印加時に発生するVEPおよびVEPからの興奮伝播現象を計測・解析し、33℃の適度冷却環境において、①単相刺激の場合は通電刺激から生じる旋回性の興奮波Break興奮が抑制されること、②二相性刺激の場合は通電刺激由来興奮波が旋回性興奮波を生じず、かつ最も心筋興奮を捕捉すること、を明らかにした。以上の結果が適度冷却除細動における除細動効率の向上に強く影響していることが示唆された。また局所冷却除細動においては、通電刺激から生じる旋回性興奮波とVT興奮波の相互作用メカニズムにより、低い刺激強度でも除細動が可能であることを示した。
本研究でターゲットとする低温除細動治療は、①数℃程度の温度低下のため心筋に与えるダメージがほとんど無く、②副作用が無い、③すぐに元の状態へ回復できる、といった点で投薬治療に対する優位性がある。しかし低温除細動治療に関する研究は2000年代半ばから開始された新しい研究分野であり、大型動物へ除細動器を埋め込んだin vivo研究などで有用性が示されている一方でそのメカニズムの解明に踏み込んだ研究はまだ無い。本研究が明らかにする低温除細動のメカニズムは、基礎的研究だけに留まらず、in vivo研究や臨床応用における新しい除細動手法の確立に有用性を示すことが期待される。