2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

伯太高校みつばちプロジェクト

実施担当者

東 照晃

所属:大阪府立伯太高等学校 首席

概要

1 はじめに
 本校の学校設定科目「生活の科学B」では、地域の低層湿地のフィールドワークやミツバチを活用した生物多様性の学習活動を実施してきた。また、ボランティア部チームミツバチがミツバチの飼育を担当し、蜜源植物として関わりの深い信太山丘陵の自然調査(月1回)や保全活動(年間2回)、花粉観察による蜜源植物の調査を行ってきた。このような活動は、地域に関わることによって地域の方々とともに信太山の生物多様性の調査・保全活動を行うことを可能にしている。また、学校行事として文化祭や伯太高校サイエンス・カフェを開催することで、保護者や地域の方々対しても信太山の保全活動を知って頂く機会となっている。
 本校は2017年度から総合学科高校への改編を控えている。ボランティア部の生物多様性の調査・研究に留まらず、授業でもバイオテクノロジーに関する実験を実施することで、教員のスキルアップとともに開講予定の「生活の科学」や「生命科学」等のバイオテクノロジー関連の授業の準備と内容の向上をめざすことができると考えている。


2 学校設定科目「生活の科学B」
2-1 信太山惣ヶ池湿地の学習

 生活の科学Bでは、2学期に生物多様性の学習を行っている。その導入として地域の自然“信太山惣ヶ池湿地”の学習からはじめ、外部講師(NPO法人信太の森FANクラブ)による出前授業とフィールドワークを実施した。信太山丘陵の歴史と保全に関する学習の後、講師からスライドを使って、大阪では信太山でしか見られなくなったコバナノワレモコウや絶滅危惧種のカスミサンショウウオなどの動植物や隣接する大野池に飛来するコウノトリなどが紹介された。
 信太山は自衛隊の演習地があるため、開発から免れ希少種が残されている反面、ムラクモカレハという東南アジア産のガがはじめて発見されたところでもある。今では雑木林になっているが、半世紀前には、草肥えとなる草原が広がり5月にはヤマッツジが一面咲き誇っていたという。また、「和泉」という地名が示すように大阪層群に挟まれた粘土層によっていたるところで湧水湿地が見られる場所でもある。惣ヶ池湿地も約20年前に休耕田になっていたところを掘り返してつくられたビオトープである。
 このような信太山惣ヶ池湿地を7月22日、夏期休業中ではあるがフィールドワークを実施した。参加者は11名と多くはなく残念ではあったが、「行くまでは暑かったけど、森の中に入ったら涼しかった」、「自然は人の手も加えないとダメなんだと感じた。あれだけ虫が居るということは、よい環境なんだなと感じた。自然を大切にしようと思った。」や、講師からの保全作業の呼びかけに「草刈などに参加したい」という感想が寄せられた。単に自然に触れることができたという感想ではなく、講師の話から「生物多様性の危機」の一つである「自然に対する働きかけの縮小による危機」についても理解し、保全作業への参加の気持ちも示してくれた。
 2学期に入り外来生物や農薬によるミツバチやトンボヘの影響を学習し、ブラジル・セラードの開発と保全を取り上げることで、経済開発と環境保全、そして社会的公正というESDの観点から議論を進め、自分たちにも日々の生活で「食品ロス」の問題を通して関わることができることを確認することができた。

2-2 遺伝子組換え実験
 3学期は「食椙と人類」というテーマで学習した。人類は、小麦や稲作による農耕の開始(農業革命)から肥料として下肥の利用、クローバー等のマメ科の植物との輪作を行い、地力を保ちながら収穫量を増やしてきた。そして短程多収量品種の開発による緑の革命によって人類は70億をこえる人々の食糧を確保するようになった。その歴史をたどりながら最後にたどり着くのが、遺伝子組換え作物であった。遺伝子組換えについて基礎的な学習の後、生物多様性との関連も考えながら“遺伝子組換え実験”を行った。
 実験は、遺伝子組換えキットを用いた。GFP遺伝子と抗生物質耐性の遺伝子をコードしたプラスミドを大腸菌にヒートショック法を用いて導入し、緑色蛍光を発することを確認する実験である。
無菌状態を意識した実験であることに加え、自然界にない大腸菌の生命操作であり、マイクロチューブ等初めて用いる器具を使って、微量の試薬を扱うなど、実験結果がすぐに得られる実験ではなかった。実験を行った2日後にその結果の確認と考査とを行った。非組換えの大腸菌のプレートにはコロニーは見られず、アラビノースの含まれない培地では、組換え大腸菌であるにもかかわらず緑色蛍光を発光しないことを確認することができた。
 「遺伝子発現調節って、無駄なものを作らないようになっていてすごいと思った」という感想にあるように、糾換え実験のスキルだけではなく“抗生物質の働き”や“遺伝子発現調節”についても学習することができていた。初めて手にする実験器具や微量な試薬を扱う実験も初めてとあって,新鮮で興味深く実験を行えたようで、「冷やしたり暖めたりして楽しかったし、メガネをして光を当てたら緑に光ったのでビックリした。」などの感想が見られた。


3 ボランティア部チームミツバチ
3-1 花粉調査
 ハチミツに含まれる花粉を調べることでセイヨウミツバチの蜜源植物の調査を行ってきた。これまでミツバチが飛来するような花の花粉をあらかじめデジタル顕微鏡でデータを集めておき、採蜜したハチミツに含まれる花粉の特定を行ってきたが、菜の花やニセアカシア、トウネズミモチなどの植物に限られていた。京都産業大学からLamp法による花粉DNAの特定を紹介されたが、高校生には難しく残念せざるを得なかった。今年度については、これまでの調査を踏まえて外国産のハチミツに含まれる花粉の調査を行った。
【調査方法】
 市販されている同じメーカーのハチミツについて調べた。アカシアのハチミツについては比較するため秋田産のハチミツを用いた。それそれのハチミツについて3回顕鏡し、花粉の種別と個数をカウントした。
【調査結果】
①秋田産アカシアはちみつは、堺市にある蜜店からいただいた。本校でアカシアが開花している時期に採蜜できるハチミツに比べ透明度が高い。巣箱の周辺にはアカシアの木がたくさん植栽されているそうである。秋田産はちみつでもアカシアの花粉が最も多いわけではないことが分かった。
②ハンガリー産アカシアはちみつは、本校のハチミツと同じ薄黄色で、アカシアの花粉の割合も秋田産に比べて低いことから、ハンガリー産のアカシアはちみつは、本校と同様、アカシアが開花する時期に採蜜されたハチミツだと考えられる。
③ニュージーランド産クローバーはちみつは、クローバーの花粉が非常に少なかった。クローバーの開花時期が日本では4月から7月と長く、ニュージーランドでもクローバーの開花する時期にさまざまな花が咲いていると考えられる。最も多い花粉を特定することができないが、フジの花粉に似ていた。
③アルゼンチン産のハチミツは特定の花の名称は記されていない。約15種類の花粉が観察され、多様な花々から蜜を集めてきたことが分かった。
 セイヨウミツバチは、特定の花から蜜を集めてくるので「単花蜜」、ニホンミツバチはさまざまな花から蜜を集めるので「百花蜜」と一般的には言われるが、セイヨウミツバチも結構さまざまな花から蜜を集めてくることが分かる。蜜店の方は、ハチミツをなめただけで「アカシア」、「もちの花」、「ソヨゴ」が多いかな?といった話をされるが、ハチミツの色や香り、味わいから「単花蜜」としての評価をしているようである。
 ミツバチは、エネルギー源を花蜜から、蛋白源として花粉を集めてくるので、ある花粉が混じっているからその花の蜜が混じっていると単純に判断できない。開花時にできるだけミツバチが集まる花を観察することで、蜜源植物を特定でき、地域の植生(生物多様性)を知る情報が得られると考えている。
 外国産ハチミツの蜜源植物の花粉を確認するとともに他の花の花粉も多く含まれることを明らかにすることができた。これらの調査結果については、ボランティア部が大阪サイエンスデイや伯太高校サイエンス・カフェ、阪南理科教育研修会等で発表させていただいた。

3-2 伯太高校サイエンス・カフェ
 伯太高校サイエンス・カフェを大学とNPOの協力で11月3日に開催した。ミツバチを通して、地域の子どもから大人まで、信太山の自然に気づき、その保全について考えてもらえる場として企画してきた。今回で第4回となり、運営についてはボランティア部が担当した。
 当初、信太山の市有地を運動公園にする計画が検討され、それに対し信太山を保全し自然公園へと整備して持続可能な環境を子どもたちに伝えていこうという構想も示されていた。子どもたちとともに信太山の現状を学ぶ場が求められていた。さまざまな働きかけもあり、一昨年、信太山里山自然公園への幣備が10年計画でスタートした。今回、和泉市の広報に「伯太高校サイエンス・カフェ」の案内をし、約30名の地域の方々に参加していただいた。企画プログラムは以下のようになっている。
【伯太高校サイエンスカフェプログラム】
①里山について 大阪府立大学教授藤原宣夫さん
②信太山の草原再生実験 M2 山村和寛さん
③ツツジ育成実験 4回生 池田俊一さん
④子どもたちに伝えたい!信太山里山自然公園 信太の森FANクラブ 田丸八郎さん
⑤ハチミツから見える自然 伯太高校ボランティア部 村上菜緒・木村凌也・西岡潤
 大阪府立大学生命環境科学研究科から3名、信太の森FANクラブから1名、そしてボランティア部が話題提供し、信太山の保全について意見を交流した。
 「里山の役割がよく理解できました。…ネザサ・クズを効率よく刈り取る時期が分かりました。上壌の攪乱の効果がなかったことは、種が残っていない?残念です。」という感想や、ボランティア部の発表に対して「ボランティア部は様々な活動をする中で、ハチミツと信太山を関連づけることにより、聞き手に興味を持たせる発表を行っていたと思います。本当に色々な活動を行っているので、大変だと思いますが、頑張ってください。」等の感想をいただいた。休憩時には、ハチミツ入りの紅茶で交流を深めることができた。


4 まとめ
 ボランティア部チームミツバチとして蜜源植物の特定を目標に活動を進めてきたが、今年度、外国産ハチミツの調査を行った。当初予定していたLamp法による花粉の特定も可能なようだが高校生には難しく時間もかかるため残念せざるをえなかった。部活動を通してバイオテクノロジー関係のスキルを実につけることはかなわなかった。今後、養蜂家にとって最も悩ましいヘギイタザニ等の病害虫の発生について研究を進める予定にしている。解剖によって病気の原因を突き止めることもできるが、Lamp法による病気の判定が可能であるので今後の課題としていきたい。
 授業に関しては、出前授業やフィールドワークを実施することができ、地域の自然環境の実情を学びながら生物多様性の学習を進めることができた。今年度初めて試みた「食橿と人類」では、人ロ増加と食糧増産の歴史をたどり、遺伝子組換え実験を行い遺伝子組み換え作物の課題について学習した。その是非や農業のあり方など「持続可能性」という視座から生徒とともに考える時間を充分持てなかったことは残念であった。今後の課題としていきたい。来年度以降もバイオテクノロジーに関する教員の知識・スキルの向上のために電気泳動実験キット等を授業で生かしていきたいと考えている。