2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

中高生が教える小学生のためのかがく教室

実施担当者

柴原 由果

所属:たつの市立揖保川中学校 教授

概要

1 はじめに

たつの市は、兵庫県の西部に位置する揖保川流域に開けた城下町です。醤油、素麺、皮革などの産業も盛んな町で、カワセミやホタルや天の川が見られる自然豊かなところでもあります。たつの市立揖保川中学校が中心となり、科学館「こどもサイエンスひろば」を主な活動場所として、市内の中高校生などが、たつの市の自然や産業などに関係する内容を小学生に指導するかがく教室を開催しました。かがく教室を通して小、中、高校の生徒間の交流を深め、小学生の理科に対する興味・関心を喚起し、科学的に考えて行動する力を育成することを目的として事業を実施しました。

2 中高生が教える小学生のためのかがく教室

2-1 中学生と高校生の活躍

たつの市内には、5校の中学校がありますが、理科部や自然科学部がありません。そこで、かがく教室を指導、補助してくれる中学生を「たつのジュニアサイエンスボランティア」として幕集しました。1年生3名、2年生3名、3年生2名、合計8人の応募がありました。部活動に入部している生徒がほとんどですので、夏休みや日程が合うときに参加してもらい、かがく教室などで、小学生の指導や運営の補助として活躍しました。また、毎年この地域で11月に実施されている、地域に学ぶ「トライやるウィーク」では、4校から17人の中学生が参加し、地域の小学校への出前教室などの場で活躍しました。
高校生は、龍野北高校の3つの学科の生徒20人が、夏休みのサマーフェスティバルにおいてエ作教室を行い、小学生を指導しました。この他に、1月には、大阪の大谷中学校・高等学校の女子生徒3名が、揖保)I[中学生と協力して、かがく教室の指導・補助をしました。小学生を教えるために参加した中学生は実人数で25名、通算120人・日になりました。小学生は、同じ地域の小学校で学んだ中学生や高校生にエ作や実験を教えてもらえるので、質間もしやすく、和やかな雰囲気の中、とても活発に活動していました。中高生は教える立場であることを自覚し、優しくわかりやすく小学生たちを指導していて、頼もしく見えました。

次に、それぞれの活動について報告します。

2-2 サマーフェスティバル

7月31日(日)たつの市青少年館こどもサイエンスひろばで、「サマーフェスティバル2016」を開催しました。のべ200人を超える親子が参加し大盛況でした。
龍野北高校電気情報システム科の生徒は、電子ホタル作り、商業科の生徒は、革の小物入れと動物作り、環境建設工学科の生徒は、紙工作を指導しました。この他、草木染め、移動プラネタリウムの企画もあり、参加者はそれぞれを楽しみました。また、望遠鏡メーカーのオルビイスの花岡靖治氏と賢治氏の指導のもと、たつのジュニアサイエンスボランティア6名がアシストし、天体望遠鏡を製作しました。
その後、サイエンスひろばの階段広場で、自分で製作した天体望遠鏡を使って天体観測をしました。揖保小学校の大西章校長、揖保川中学校柴原教諭と中学生が指導し、小学生は南の空に赤く光る火星や土星の環を見つけて、歓声を上げていました。(表紙写真/PDFに記載)

2-3 夏休み工作教室

8月20日(土)夏休み科学工作教室では、電気回路とモーターのエ作を楽しみました。たつのジュニアサイエンスボランティアの揖保川中学1年生1名がアシストしました。午前、午後合わせて20名が参加し、楽しい工作教室になりました。

2-4 ウミホタル観察会

8月24日(水)たつの市御津町室津の海岸でウミホタル観察会を開催し、小学生の親子45名が参加しました。たつのジュニアサイエンスボランティア(御津中学校3名、揖保川中学校2名)が中心となって、小学生たちを指導しました。捕集仕掛けを海中に沈めて待つ間、さそり座や夏の大三角などの星空を楽しみました。そして、いよいよ引き上げ。ウミホタルの放つ神秘的な青い光に、小学生も大人も感動していました。

2-5 かがく教室「アトムのかがく」

9月24日(土)こどもサイエンスひろばで、かがく教室「アトムのかがく」を開催し、午前(小学3年生から6年生対象90分)、午後(小学1年生から3年生対象60分)で、原子?分子の話を聞いた後、実験と発泡スチロール球を使った分子模型作りをしました。少し難しい内容でしたが、ジュニアサイエンスボランティアの中学生2人が手伝い、小学生たちは、カラフルな水分子や酸素分子模型作りを楽しみました。

2-6 自然観察とタネ(種子)のかがく

10月22日(土)たつの市青少年の敷地内にある西はりま県民の森で、自然観察教室をしました。高校の先生から、種子の話を聞いた後、森を散策しながら、植物と種・きのこ・鳥などを観察しました。
ジュニアサイエンスボランティアの中学生1人が手伝い、観察後は科学館で、飛ぶ種の原理を知るための紙工作と実験、採集してきた木の枝を使ったウッドクラフトなどを楽しみました。

2-7 トライやるウィークの活動

11月8日(火)から12日(土)までの5日間、たつの市青少年館こどもサイエンスひろばでは、兵庫県立大学附属中学校3名、龍野東中学校6名、龍野西中学校6名、揖保川中学校2名計17名の2年生を受け入れトライやるウィークを実施しました。4校の中学生が協働して科学館の展示物作成と「かがく教室」の準備・運営などを担当しました。
展示物では、星の砂を見つけるコーナー、背景や樹木を作り恐竜模型20頭を配懺した恐竜コーナー、2,3人用ミニプラネタリウムを設計・製作し完成させました。

11日(金)3時間目、たつの市立揖保小学校において、5年生を対象に「中学生が指導する"かがく教室"ープラネタリウムで星座を学ぼう一」を実施しました。子ノ星教育社のエアドームと投影機を多目的教室に設置し、中学生5名が自分で原稿を考え、約10分間、小学生13名にプラネタリウムの解説をしました。他の中学生は残りの小学生13名を指導し「冬の大三角」の工作をし、その後プラネタリウムを見ました。中学生達の解説は、子ノ星教育社の坂元さんもOKを出す出来映えで、工作も短い時間で全員が完成し、とても喜ばれました。
12日(土)は10時から11時半まで、たつのこどもエコクラブの13名の小学生対象のかがく教室「電気(電流)と熱」を実施し、2名の中学生が指導や実験の補助をしました。小学生には少し難しいテーマでしたが、全員無事楽しく実験することができました。
かがく教室が実施されている間、残りの中学生は初日から取り組んできたまた、直径3mのプラネタリウムドーム本体を組み上げ、上部を取り付ければ使用できるまで達成しました。初めて会った4校の中学生がリーダーシップとチームワークを発揮し、見事に科学館の計画通りに業務目標を達成してくれました。中学生の皆さんは、5日間という短い期間でしたが、2つのイベントを成功させ、科学館に4つの展示物を作る仕事をしてくれました。「学習」としての「職場体験」にとどまらず、小学生の科学教育に役立つ「仕事」をしてくれました。

2-8 かがく教室「星のかがく」

11月26日(土)かがく教室「星のかがく」として、こどもサイエンス教室(午前)29名、サイエンス工作教室(午後)28名の小学生が参加しました。地域で移動プラネタリウムの会社をしておられる子ノ星教育社の坂元誠さんの解説で、半数の小学生たちが、プラネタリウムを楽しみ、残りの小学生たちはジュニアサイエンスボランティアの2名の中学生の指溝で、円筒形で覗くタイプのプラネタリウム工作をしました。この工作は、トライやるウィークの出前かがく教室ープラネタリウムで星座を学ぼう一の時に開発したものです。また、中学生達が作った3mのドームと投影機(「大人の科学」の付録)を使って、手作りプラネタリウムを楽しみました。今回参加した中学生は2人でしたが、17名の中学生の残してくれたドームと投影機が役立ちました。

2-9「クリスマスレクチャー」、「波のかがく」、「石のかがく」

中学生や高校生が主役となって活動してきたことの他に、科学館のかがく教室のアシストをする活動もしました。
① 12月18日(日)クリスマスレクチャー「超低温のかがく」
兵庫県立明石高校の東田純一先生を講師に、液体窒素を使った実験講座をしました。午前39名、午後35名の小学生の他に保護者も参加しましたので、小さな科学館はいっぱいになりました。安全第一に気をつけていますが、小学生たちがさわって危険なこともあります。体験実験の時など、2人のジュニアサイエンスボランティアが助手となって子どもたちをうまく膀導したので、講座はスムーズに進行し、安全で楽しい講座にすることができました。

② 平成29年1月21日(上)こどもサイエンス教室、サイエンスエ作教室(波のかがく)
大阪の大谷中学校・高等学校の大谷将章先生と女子高校生3名が、中学生と協力して、こどもサイエンスひろばでかがく教室の指導をしました。当初、中学生と高校生の連携を課題のひとつとしていましたが、なかなか実現できませんでした。たつの市の高校ではありませんが、高校生と中学生が協力して、小学生のためのかがく教室に取り組みました。午前、午後合わせ5て0名の参加があり、中高生の協力はなくてはならないものになっていました。

③ 平成29年2月25日(土)こどもサイエンス教室、サイエンス工作教室(石のかがく)
神戸親和女子大学の背本格教授を講師に、石のかが<-日本列島の歴史3億年の岩石実物図鑑づくりーをしました。31名が参加しましたが、今回で連続8回の参加となる揖保川中学校1年生Mさんの活躍で、岩石を見分けて台紙にはり岩石実物図鑑をつくるという難しい講座も、全員成功して楽しむことができました。たつのの山をつくる代表的な石は?と聞くと小学校1年生が「りゅうもんがん」と大きな声で答えていました。

3 まとめ

「中高生が教える小学生のためのかがく教室」の活動は、三つの目的をもって始められました。
一つ目は、たつの市の小学校の児童に対し、市内の中高校生が、たつの市の自然や産業などに関係する内容についての観察や実験などを指導する「かがく教室」を開催することです。当初11月までの予定でしたが、ジュニアサイエンスボランティアの中学生が毎回「かがく教室」に希望して参加したので、平成29年2月までの合計11回開催することができました。これは予想以上の大きな成果でした。
二つ目は、「かがく教室」を通して小、中、裔校間の生徒間の交流を深め、小学生の理科に対する興味・関心と、科学的に考えて行動する力を育むことです。中学生や高校生が小学生を教え、指導することはとても有効で、双方とも、和やかに、活発に、生き生きと活動していました。中学生は回を重ねるごとに自信を持ち、しつかりと小学生を手伝い指導していましたし、小学生は中学生を信頼する姿勢が見られました。
三つ目は、本事業を通じて、小学生と中学生が交流する機会を持つことです。これについては成功しましたが、高校生が中学生を指導する機会を作り、両者が川の流れのように淀みなくつながり、地域に根ざした確かな科学力を身につけるという目的は果たせず、今後の課題として残りました。
ジュニアサイエンスボランティアやトライやるウィークの活動を通じて、中学生は他校の生徒と協力して、小学生の指導やものつくりの課題を達成する高い能力を発揮しました。高校生は自分たちの力でかがく教室を準備し、小学生を指導する能力を示してくれました。小中のつながり、小高のつながりができたので、次年度は本年度の成果?課題をもとに、中高のつながりを模索し、小中高を通じた、地域に根ざした確かな科学力を身につけることを目指して活動を続けたいと思います。