2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

中学校科学部活性化事業における千葉市科学館ボランティアの参画

実施担当者

西村 安正

所属:千葉市教育委員会 生涯学習振興課 科学都市戦略担当

概要

1.科学館ボランティアを活用するねらい
 本市は「科学都市ちば」をめざし、子どもから大人まで、すべての市民が日常生活の中で科学・技術を身近に感じることができるよう科学都市戦略の推進に取り組んでいる。
 その一環として中学校の科学部活性化事業を実施し、今年度は市内14校の科学部(部員総数257名)が参加しながら活動を行ってきた。
 昨年度と比較してすると、少子化の影響もあり科学部数(15校から1校減)や部員数(301名から44名減)は減少し、学校では理科を担当している科学部顧問の確保も難しくなっている。
 こうした状況の中、科学技術に関して卓越した知識や技能のある科学館ボランティアを活用し、科学部員を対象とした科学部員研究セミナー(以下、セミナー)などを開催することにより、中学校の科学部を支援し、活性化を図ることとした。
 現在、千葉市科学館(以下、科学館)には201名(H27.3.31現在)の科学館ボランティアが登録し、来館者の館内誘導やターミナルワークショップ(実験工作のミニ教室)などを担っている。ボランティアの平均年齢は56.3歳であり、多くは科学関係の企業や研究機関などを退職されたシニア世代で、今まで自分が培ってきた知識や技術を次代を担う若い世代のために伝えていきたいという熱意を持った方々である。このようにボランティアという教育的リソースを、市内の科学部の活性化を図るために活用していくことは、地域で支え、地域で育てていく学校を目指すこれからの教育のためにも大変有効であると考えた。


2.科学館ボランティアのための研修会
 科学館ボランティアは科学や技術に関しては専門家であるが、学校支援についての経験は少ない方が多い。こうした中、拙速にセミナーを実施しても、ねらったような成果を得ることは難しいと考えた。そこで事前にボランティアを対象とした「科学館ボランティア研修会」を実施し、指導・支援についての研修を行うこととした。研修では市教育委員会の担当課長より、セミナー実施内容の適否や実験・観察における安全指導などに関する講義を受けた。受講したボランティアからは
「指導中の安全に対する意識が高まった」や「わかりやすく説明をするための工夫がわかった」など、研修の成果が感じられる感想が多く寄せられ、これから自分たちが実施していくセミナーについての見通しや自信が持てるようになった。


3.第1回 科学部員研究セミナー(6/13)
「研究テーマを見つけよう」
(1)第1回目のセミナーは、科学館を会場に、市内4校から科学部員(35名)が参加し、「個人研究のテーマ探し」を目的に実施した。参加した部員は科学館内の展示施設を見学したり、同日に開催されていた「青少年のための科学の祭典」の体験ブースを巡ったりしながら、これから自分たちが追究していきたい研究テーマのヒントはないかと見て回った。
 また、今回の助成金で購入した「学校貸出用の理科備品」を室内に並べ、使用方法などの紹介も併せて行った。今後、理科備品を希望する科学部に直接貸し出すことで、日々の部活動の充実を図るとともに、各自で取り組む個人研究にも役立ててもらおうと考えた。
(2)参加した生徒の感想
・体験ブースでは研究のヒントがたくさんあった。今後、自由研究に活かしていきたい。
・貸出用の理科備品の中では、ハイスピードカメラを個人研究に使ってみたいと思った。
・いろいろな備品が借りられるのでありがたい。これからは科学部員として、もっと研究に集中して取り組もうと思う。


4.第2回 科学部員研究セミナー(7/11)
「みんなで科学工作を楽しもう」
(1)第2回目のセミナーは、市内の中学校理科室を会場に「直流モーターの回転やLEDの明るさを制御する装置の製作」を行った。市内7校から科学部員(40名)が集まり、グループごとに科学館ボランティア(9名)のサポートを受けながら熱心に電子工作の製作に取り組んだ。
(2)参加した生徒の感想
・初めて半田ごてで行った「半田づけ」がとても面白く、今度「火星ローバー」を製作するときに半田ごてを使ってみたい。
・普段の部活動ではできないものができたので、今日のセミナーはとても楽しかった。
・コンピュータのプログラミングを学び、日本の技術力を守るためには後継者づくりが大切だと思った。将来は私もエンジニアになりたい。
・ボランティアさんに、わからないところを優しく教えてもらえたので、スムーズに電子工作を行うことができた。


5.第3回科学部員研究セミナー(8/20)
(1)第3回目のセミナーは、市内2校から科学部員(7名)が参加し「音」をテーマにした内容で開催した。今回も助成金で購入した「ポケットオシロスコープ」などの備品を使い、人の声や楽器の音をマイクで集め、その波形をオシロスコープで調べる実験などを行った。開催日が夏季休業中で、少人数での開催となったため、一人に1台ずつオシロスコープを配り、ボランティア(6名)で個別に指導にあたることができた。
 また、ボランティアが持参したフルートやヴィオリンなどの楽器に直接マイクを近づけ、音の波形を調べるなどの興味深い内容の実験もあった。

(2)参加した生徒の感想
・いろいろな実験器具がたくさんあってよかった。目には見えないが音に波があることがわかった。
・オシロスコープを使うのは初めてだったので面白かった。説明では難しい言葉が出てきたのであまりよくわからなかった。
・こんなに小さいオシロスコープを見たのは初めてだった。操作は難しかったけれど楽しかった。


6.サイエンスクラブ・アセンブリー(10/17)
「科学部交流発表会」
(1)サイエンスクラブ・アセンブリー(以下アセンブリー)は市内の科学部員が全員集合し、各部の活動報告や研究発表を発表しあったり、簡単な実験・工作を一緒に楽しんだりする年に一度の
「科学フェスティバル」である。
 今年度も市内7校から58名の科学部員と7名の科学部顧問が集まり、充実した内容のもと、盛会のうちに一日を終えることができた。このアセンブリーにおいても出張講座として、科学館長と科学館ボランティア(3名)が中心となり「光速の測定実験」を行った。ボランティアは、前日から会場に測定装置を持ち込み、入念に準備を行った結果、当日の実験では光の速さは「約30万
㎞毎秒」と、実際の数値にかなり近いデータが得られたので、生徒たちはとても驚いていた。
(2)参加した生徒の感想
・今日はすごくためになったし面白かった。光速の測定の話をもっと聞きたいと思った。
・自分たちでは実験することができないので、光速を測定する実験はとても興味深かった。
・光速の測定では館長さんから「相対性理論」をまじえて教えてもらえたので、わかりやすかった。
・他校の科学部の活動を知ることができるよい機会となった。来年は自分たちもアセンブリーで入賞できるようにがんばりたい。


7.火星ローバーコンテスト in 千葉(12/5)
(1)火星ローバーコンテストの内容
 今年度も「火星ローバーコンテスト in 千葉」が、きぼーるを会場に盛大に開催され、市内7校から62名の科学部員が参加した。今まで部活動で取り組んできた自慢のローバーを持ちより、火星コースの走行テストやサンプル採集などのミッションに挑戦し上位入賞を目指した。
 当日は火星ローバーの故障に対応するためにボランティアが会場内にピットを設営し、修理の相談や半田付けのサポートなどを行った。
 また大会を迎えるまでに「火星ローバー試走会」を2回(9/27,11/22)開催し、コンテスト出場予定者を対象に「火星コース」の試走も行った。
 試走会では火星ローバーを製作していない生徒のために、事前に製作してあるローバーのモデルを使っての操縦体験や、製作に関する「相談コーナー」を開設するボランティアの姿が見られた。
 大会当日は、今までの取り組みの成果が表れ、多くの科学部員がコンテストでの入賞を果たし、賞状やメダルを手にして喜び合う姿が見られた。


8.まとめ
(1)H27年度の成果とH28年度に向けて
 今年度の「中学校科学部活性化事業」では6つの事業においてボランティアを活用してきた。
 全ての事業をトータルすると、参加した部員数は延べ310名におよび、市内の科学部員の総数を超える人数が参加している。
 各回のセミナーにおいて、部員同士の交流を図ってきたことが良い刺激となり、各校の部活動に活気が生まれるとともに、活動内容の質的向上にも寄与することができた。
 また、各自で取り組んできた個人研究にも成果が表れ、貸出用の理科備品を利用した複数の科学論文が市や県の科学作品展で入賞を果たしたすとともに、全国コンテストにおいても優秀な成績を収めることができた。
 次年度は、新しく「コンピュータ部」にもセミナーへの参加を呼びかけ、希望する学校にボランティアを派遣し、プログラミングの指導をする機会を設けたい。こうした取り組みを行うことで、科学部だけではなく、コンピュータ部(市内9校)などの理数系の部活動を取り込み、市内の科学関係の部活動の活性化をさらに目指していきたい。