2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ロケット,ロボット,マイコンを用いて宇宙を探究しよう(プログラム助成1年目中間報告)

実施担当者

藤木 郁久

所属:和歌山県立桐蔭高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校科学部缶サット班は第1回目の2008年から連続7回缶サット甲子園全国大会に出場している。7回の連続出場は全国で本校のみである。2010年には全国優勝し,アメリカネバダ州ブラックロック砂漠にて高度4kmまで缶サットを飛翔させ,撮影やデータ取得にチャレンジしてきた。学今年もアメリカへ行くぞと2年生2名と1
年生12名で先輩の技術を受け継ぎながら,全国優勝に向け取り組みを始めた。また,ロボカップジュニア世界大会への出場を目指した活動も並行して行ってきた。さらに,地域の小中学生にロボット教室やモデルロケット打上体験教室などを通して、得られた知識を還元する取り組みも継続的に行っている。


2-1.缶サット甲子園の概要
主催者:「理数が楽しくなる教育」実行委員会(和歌山大学・秋田大学など)
共催:JAXA宇宙教育センター他
特別協賛:SUNTORY,ANA,HASTIC,SWITCHSCIENCE,セニオ・ネットワークス株式会社
日時:平成26年8月17日(日)~19日(火)
場所:能代宇宙広場(秋田県能代市)
競技内容:缶サット甲子園とは,高校生が自作した缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星)およびキャリア(缶サットを搭載する機構)を打上げ,上空での放出・降下・着地の過程を通じて,技術力・創造力を競う競技会である。従来の競技会のように「定められた技能」を競うのではなく,生徒が斬新でオリジナリティーのある缶サットを作り,「coolさ」を競います(図1)。優勝校はアメリカの世界大会に出場することができる(旅費は実行委員会より支給)。
審査基準:ミッション概要資料,事前プレゼン,実競技,事後プレゼンの4つによって評価されます。斬新なアイデアを盛り込み,実施し,達成できたかを重視されます。従来のやり方に囚われない,オリジナリティの高いミッションであることも重要です。一方でアイデアは従来通りでも,如何に確実に実現し達成できたかも評価の対象となります。

参加校:全国6地区(北海道,秋田,関東,岐阜,和歌山,九州)43校のうちから予選を勝ち抜いた以下の10校北海道札幌琴似工業高等学校,国学館高等学校,慶應義塾高等学校,法政大学第二高等学校,愛知県立豊田工業高等学校,岐阜県立中津川工業高等学校,大阪府立茨木工科高等学校,和歌山県立海南高等学校,和歌山県立桐蔭高等学校,敬愛高等学校

主催者から提供されたもの:
○缶ジュース1ケース 7月中旬提供
○秋田県までの航空券 8月上旬提供

自作したもの:
☆缶サット本体(カメラ,無線装置,mbed等を搭載)
☆キャリア(紙筒を加工)
☆パラシュート(缶サット本体用とキャリア用)

2-2.缶サット本体の紹介
 3層構造の缶サット本体を作製した。複雑な配線を避けるために,基板をCADで製図し,和歌山工業高等学校や大阪府立淀川工科高等学校で基板を作製してもらった(図2)。
○上部…以下のセンサーを搭載(表1)
○中部…mbedと電源を搭載
○下部…XBee(無線通信モジュール)を搭載

(注:図/PDFに記載)
(注:表/PDFに記載)

2-3.本校缶サットのミッション
1 安全な帰還かつ正確なデータの取得
→①衝撃緩和対策
→②センサーのキャリブレーション
2 現在の缶サットの状況把握
→③リアルタイムグラフ化
3 データの再現
→④ファイルデータのグラフ化
→⑤3Dディシスプレイ

2-4.本校缶サットの特徴
① 衝撃緩和対策
 落下時の衝撃を和らげるためにエアバッグを導入した。エアバックはバランスバルブを用いたものと化学反応を利用したものがある。さまざまな実験を繰り返し,最終的に発泡入浴剤を利用したものが一番良いという結果になり,自作の発泡入浴剤を利用したエアバックを製作することにした。これによって,少量でより効果の大きいものを作ることができた。機械制御ではないため失敗の可能性が極めて少ないという利点もある。作動のしくみは以下の通りである。
手順1.ポリ袋の中に水風船を入れ針をしきりで止めておく。
手順2.下の支えが取れることでしきりが抜け水風船に針が刺さる。その時、水が入浴剤にかかり発泡する(図3と図4)。

(注:図/PDFに記載)

 また,垂直着陸にもチャレンジした。垂直着陸用の足はキャリア放出時にスライドし,エアバックが膨らむにつれ,足も広がる構造となっている。エアバックが地上に着く瞬間に缶サット本体に付属のピンでエアバックが割れ,衝撃を吸収しながら空気が徐々に抜けるようになっている。空気が抜けている間に4本の足が缶サット本体の転倒を防ぐ。そして下図のように垂直着陸する。足は一度伸びると元に戻らないようにするために,ストッパーを付けている(図5)。

(注:図/PDFに記載)

② センサーのキャリブレーション
 缶サット本体に搭載するセンサーの値が正確な値を取得するために,キャリブレーション(校正)を行った。また,キャリブレーションができているかの検証も行った。加速度についての検証には,物理実験で使用する距離センサーと缶サット本体に搭載の加速度センサーを比較した。以下にそれぞれのv-tグラフを示す(図6~図8)。

(注:図/PDFに記載)

③ リアルタイムグラフ化
 缶サットが今どのような状況にあるのかを把握するため,XBeeProという無線装置を用い,上空で取得した情報を地上に送った。地上では受信した情報をProcessingという描画アプリケーションを利用して,リアルタイムにグラフ化することにした。複数のデータをリアルタイムグラフ化することができ,同時にPCへのデータ保存も可能になっている。この保存されたデータを使用して,グラフの再描画が何度でも可能になっている(図9)。

(注:図/PDFに記載)

④ファイルデータのグラフ化
 mbedに保存した物理データをprocessingで読み込ませグラフ化することにも成功した。

⑤ 3Dディスプレイ
 缶サット本体がどのような飛行をしてきたのかをよりわかりやすく表現するために3Dディスプレイを考案した。
 図のような四角錐のディスプレイに前,右,左,後から見た映像をそれぞれ四角錐の各面に投影することで,あたかも物体が四角錐の中にあるように見える。リアルタイムグラフ化と同様,事後に再現が可能である。このディスプレイを使用してパラシュートと缶サットの安定性の検証などに今後使用していく予定である。投影する映像もProcessingという描画アプリケーションを利用して自分達で作成した(図10~図12)。

(注:図/PDFに記載)

⑥ マルチコプターによる落下実験
カルピスソーダーCM(平成24年4月~平成25年3月放映)の撮影に使用したG型のモデルロケットを上空200mまで打ち上げ,缶サットの落下実験を行った。しかし,「コスモパーク加太」へ行かなければいけないことやコスト面などの理由で頻繁に実験を行うのが難しかった。そこで,ロケットにかわるものとして,マルチコプターの導入を今年度から行った。これを使うことで容易に落下実験を行うこともでき,十分な広さのあるところでは全国大会と同じ高度200mまで飛ばしての実験も可能となった。このような実験ができるのは全国で桐蔭高校だけである。このマルチコプターを使用して,体育大会のラジオ体操や高校3年生のフォークダンス,文化祭
(桐蔭祭)での書道部パフォーマンスを上空から動画や静止画で撮影する空撮を行った(図13~図16)。また,硬式野球部21世紀枠での春の甲子園出場のイベントとしてTOINの人文字をつくり,本物のヘリコプターによる撮影と同時に,このマルチコプターによる空撮を行い,インフォメーションディスプレイを通し生徒に紹介することもできた(図17)。この写真はテレビ和歌山のニュースでも紹介された。本校のHPにも掲載している。

(注:図/PDFに記載)

2-5.全国大会での結果・考察
垂直着陸用の足とパラシュートの紐が絡んでしまい,缶サット本体が自由落下に近い状態での落下となってしまった。しかし,エアバッグは作動したため本体に破損はなく無事データを持ち帰ることができた。リアルタイムグラフ化にも成功し,またそこから3Dディスプレイに映像を映し出すことができた(表2と図18と図19)。総合得点では優勝チームと同点であったが,総合評価で準優勝となり優勝まであと一歩届かずであった。

正確な物理データの取得 ○
エアバック ○
取得データのリアルタイムグラフ化 ○
データの再現 ○
3Dディスプレイ ○

(注:図/PDFに記載)


3.ロボカップジュニア世界大会への挑戦
 缶サット甲子園で学んだ技術を活かし,缶サット以外の活動も行っている。その代表例が「ロボカップジュニア」だ。ロボカップジュニアとは,自作ロボットを使って2対2でサッカーをするロボットの大会である。基板づくりからプログラミングまですべてのことを生徒自らが行っている。中高生のペア3チーム(計6名)が3月1
日に実施の関西ブロック大会で上位入賞し,3月26日~
28日に尼崎市で実施の全国大会に出場することが決定している。今,全国優勝を目指して頑張っているところである(図20)。なお,関西ブロック大会には7チーム16名が出場した。

(注:図/PDFに記載)


4.ロボット教室の実施
 和歌山大学の井嶋先生や和歌山市立西脇中学校の嶋本先生,紀泉工房山下先生とともに2009年より小中学生対象のロボット教室を開催している。例年は本校所有のロボットを講習会の時のみ貸し出してロボット教室を行うため,家庭での継続的な学習が不可であった。そこで,今回の助成により,ロボットを半額で購入してもらい,自宅に持ち帰って継続してロボットの学習をしてもらうことができた(図21)。購入希望者が多く,完売した。ロボット教室を受講した生徒がロボカップジュニア関西ブロック大会に出場できたことは,今回の取り組みの成果と言える。ロボット教室の補助を本校科学部が行った。補助をしながら,自らの技量アップを行う事ができている。
①ロボット教室(初級)26名の参加
8月23日(土)9時~11時
②ロボット教室(中級)15名の参加
10月5日(土)9時~16時
③ロボット教室(上級)本校の生徒6名の参加
12月6日(土)9時~16時 大阪府立淀川工科高校にて


5.モデルロケット打上体験教室の実施
 10月5日(土)日本宇宙少年団和歌山分団の25名の子供達に対し,モデルロケットの仕組みやパラシュートのたたみ方,エンジンの装着方法等の講義後に,科学部の補助のもと,打上体験を行った。また,うちはら模型さんの協力のもと,ラジコンヘリの宙返りなどのデモフライトを行った。普段体験することのできないことを体験することができ,子供達は満足した様子であった(図22~24)。

(注:図/PDFに記載)


6.まとめ
 マニュアルのないものづくりに高校生活のすべての時間を費やしてチャレンジしてきた。決められた期間の中でさまざまな問題をクリアしていかなければならず,
「計画力」「問題発見能力」「問題解決能力」などが自然と身につけることができた。苦労の連続であったが,斬新なアイディアを出し合いながら,さまざまなミッションをこなしていく姿は皆,輝いていた。新聞やテレビ,雑誌でその輝いている姿をPRすることもできた(図25~図29)。
 缶サット甲子園,ロボット,マイコン等の取り組みを通し,生徒達の自主性は飛躍的に向上した。このような高校生が燃えることのできる教材にチャレンジさせながら,科学部の活性化を図っていきたい。

(注:図/PDFに記載)


<受賞一覧>
和歌山県高等学校生徒科学研究発表会 優秀賞
わかやま自主研究フェスティバル 佳作
参加者投票 銅賞