2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ロケット,ロボット,マイコンを用いて宇宙を探究しよう

実施担当者

藤木 郁久

所属:和歌山県立桐蔭高等学校 教諭

概要

はじめに
 本校科学部缶サット班は第1回目の2008年から連続8回缶サット甲子園全国大会に出場している。8回の連続出場は全国で本校のみである。2010年には全国優勝し,アメリカネバダ州ブラックロック砂漠にて高度4kmまで缶サットを飛翔させ,撮影やデータ取得にチャレンジしてきた。今年もアメリカへ行くぞと2年生12名と1年生10名で先輩の技術を受け継ぎながら,全国優勝に向け取り組みを始めた。また,ロボカップジュニア世界大会への出場を目指した活動も並行して行ってきた。さらに,地域の小中学生にロボット教室やモデルロケット打上体験教室や中高生対象の缶サット体験講座などを通して、得られた知識を還元する取り組みも継続的に行っている。


1.缶サット甲子園の概要
主催者:「理数が楽しくなる教育」実行委員会
(和歌山大学・秋田大学など)
日時:平成27年8月11日(火)~13日(木)
場所:太平山リゾート公園(秋田県秋田市)
競技内容:缶サット甲子園とは,高校生が自作した缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星)を打上げ,自ら設定したミッション(模擬人工衛星の動作や働き)を遂行させるなかで,技術力・創造力を競う競技会である。従来の競技会のように「定められた技能」を競うのではなく,生徒が斬新でオリジナリティーのある缶サットを作り,「coolさ」を競います(図1)。
審査基準:ミッション概要資料,事前プレゼン,実競技,事後プレゼンの4つによって評価されます。斬新なアイデアを盛り込み,実施し,達成できたかが重視されます。従来のやり方に囚われない,オリジナリティーの高いミッションであることも重要です。一方でアイデアは従来通りでも,如何に確実に実現し達成できたかも評価の対象となります。

参加校:全国5地区(東北,関東,中部東海,近畿,九州)28校のうちから予選を勝ち抜いた以下の10校
千葉県立長生高等学校,東京学芸大学附属高等学校,東京工業大学附属科学技術高等学校,愛知県立豊田工業高等学校,学校法人海陽学園海陽中等教育学校,岐阜県立大垣工業高等学校,洛星高等学校,和歌山県立桐蔭高等学校,済美高等学校,佐賀県立唐津東高等学校

自作したもの
☆缶サット本体(カメラ,無線装置,mbed等を搭載)
☆パラシュート(缶サット本体用)

A エアバックの小型化・軽量化
 昨年は水風船と自作の発砲入浴剤を使った化学反応による「桐蔭式エアバッグ」を用いて,衝撃を半分程度にすることができた。しかし,この仕組みでは完全に膨らむまでに時間がかかり,化学反応がうまく起こらない・浸水の危険性がある等の課題が残っていた。そこで,新たなエアバッグの仕組みとして遠心ファンを使って袋を膨らませる「遠心ファン式エアバッグ」を発案した。これは,缶サットが放出されるとスイッチが入り,モーターに接続している自作の遠心ファンが回り,袋を膨らますという仕組みで,浸水の危険性がなくなった。また,所要時間を3秒(この間に約1.2?の空気を送り込む)に短縮することに成功しながらも,衝撃はエアバッグなしと比べて半分程度に軽減できた。この他,部品の配置を最適化して簡単な構造にした。遠心ファンも改良し,紙製から一部プラスチックを使用することでより衝撃に耐えられる上に回転も安定するようになった。さらに,mbedで制御していないので缶サット本体(mbedが制御している部分)が壊れてもエアバッグ自体は作動するようになっているのが特徴である。

B 缶サット本体の改良点
①小型化・軽量化
 昨年度も小型化・軽量化を試んだが,エアバッグやリアルタイムグラフ化など他のことに集中していてあまり手が付けられていなかった。しかし,細かく調べてみると,基板のムダな部分が多くあり,改善の余地がいろいろあったので,今回,小型化・軽量化に改めて挑戦した。基板を一から考え直し,30回以上の基板設計変更・パワーポイントを用いた1mm単位での基板設計や,後述の無線通信の手段の変更,電池ボックスの移動やセンサー等の段層化などを施した結果,地方大会では大きさが直径6.4cm,高さ5.3cmで重量は208gから117gに軽量できた。さらに,地方大会後,エアバッグと基板を一体化したことで直径6.4cm,高さ4cmにすることができた。また,缶サットの稼働時間を1時間30分以上にすることにも成功した。

②TWE-Liteによる無線通信
 本体の破損や回収不能などによってデータの入手ができなくなるという場合を想定して,本体(mbed)へのデータの保存だけでなく,上空で取得した物理データを地上のパソコンに送っている。昨年度まではXBeeを使用して通信をしていたが,より通信強度が強く,容易に使用可能なTWE-Liteに変更した。これによる利点は,アンテナの変更ができる点,XBeeよりも安価である点,表面実装が可能なので小型化・耐衝撃性に優れている点,通信距離が長い点(XBeeは200mに対し,TWE-Liteは1000m)になっている点等である。

C リアルタイムグラフ化
 缶サットが正常に動作しているかを地上から判断し「事故の可能性」を事前に察知できるようにするために,リアルタイムグラフ化をしている。これは,上空で取得した物理データ(温度,湿度,気圧,高度,加速度,照度、UV)を上空の缶サット内のTWE-Liteから地上のTWE-Liteに送り,受信データをprocessingという描画アプリケーションによってリアルタイムにグラフ化するシステムである。PCにデータを送っているため,缶サット本体のデータが消失してもデータの分析ができるようになっている。
 昨年度はデータを折れ線グラフに表示させるだけであったが,今年度は大まかな座標の表示も可能になったことで缶サットの落下地点の推測がより正確になり,さらに多くの情報を視覚化できるようになった。
 また,リアルタイムグラフ化と同じものを再現することを可能とし,何度でも飛翔データを見直すことができるのも特長である。

D 安定した着地(パラシュートの改良)
 モーターを反時計回りに回転させることでエアバックを開かせるので,その反動で缶サット本体が時計回りに回転してしまう。その回転を打ち消すために,パラシュートを缶サット本体の回転と反対の反時計回りに回転させた。また,パラシュートと缶サット本体との接合部分にベアリングを搭載することにより,パラシュートの紐のねじれを解消させ,パラシュートから缶サット本体に伝わる回転を軽減できた。パラシュートの回転数を増加させることで,風の影響を受けにくくなり,地面に対して垂直に落下できるようになり,エアバックの効果を最大限発揮することができるようになった。

E 缶サット本体の詳細

(注:表/PDFに記載)

F 自作基板の使用
 基板を改良するたびに基板製作を外部に依頼すると時間がかかってしまうため,今年から基板を自分たちでつくるようにした。これにより,基板製作が容易になり、何回も作り直しができることで様々なパターンの実験ができるようになった。


全国大会での結果・考察
 より優れた缶サットにするため、大会前日まで改造を行っていたが,その最中に無線部分の電源にトラブルが生じ,無線でのデータ取得をすることはできなかった。だが,エアバッグが正常に作動し,パラシュートによって安定した落下ができた。また,内部データもすべて取得できていて,内部データからのグラフ化もできたので,無線以外のミッションは全て成功した。
 しかし、総合評価で準優勝となり優勝まであと一歩届かなかった。ギリギリまで改造を続けたのが裏目に出てしまったと言える。計画性を持って行動し,大会直前の改造は極力避けるようにし,また機体の予備機を作っておくようにしたい。


(注:表/PDFに記載)

2.その他の活動
 缶サット甲子園で学んだ技術を活かし,缶サット以外の活動も行っている。その代表例が「ロボカップジュニア」だ。ロボカップジュニアとは,自作ロボットを使って2対2でサッカーをするロボットの大会である。基板づくりからプログラミングまですべてのことを生徒自らが行っている。3月に実施の全国大会や世界大会に出場することを目標に今,頑張っているところである。


終わりに
 マニュアルのないものづくりに高校生活のすべての時間を費やしてチャレンジしてきた。決められた期間の中でさまざまな問題をクリアしていかなければならず,「計画力」「問題発見能力」「問題解決能力」などが自然と身につけることができた。苦労の連続であったが,斬新なアイデアを出し合いながら,さまざまなミッションをこなしていく姿は皆,輝いていた。新聞やテレビでその輝いている姿をPRすることもできた。また桐蔭科学部が企画した「缶サット体験講座」や「モデルロケットの製作と打ち上げ」などを通し,小学生~高校生に「科学のおもしろさ,ものづくりの楽しさ」を伝えることもできた。この缶サット甲子園やロボカップジュニアの取り組みを通し,生徒達の自主性は飛躍的に向上した。このような高校生が燃えることのできる教材にチャレンジさせながら,科学部の活性化を図っていきたい。


謝辞
 今年度も公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からの助成を受けながら,缶サットやロボカップジュニアの取り組みを行った。厚く御礼申し上げます。また,缶サット和歌山地方大会の実施にあたり,多数の和歌山の企業さんに協賛をいただくことができた。ありがとうございます。
和歌山大学宇宙教育研究所 秋山先生,淀川工科高等学校 田辺先生,油田先生,和歌山県立和歌山工業高校嶋田先生,紀泉工房 山下先生,ダイセン電子工業 蝉会長,
JAXA 竹前先生をはじめ,多くの先生のアドバイスを受けた。お世話になりありがとうございました。