2009年[ 技術開発研究助成 (奨励研究) ] 成果報告 : 年報第23号

レーザー変位計を用いた皮膚表面振動測定による力調節能力評価

研究責任者

吉武 康栄

所属:大分県立看護科学大学 人間科学講座 助手

鹿屋体育大学スポーツパフォーマンス系 講師

共同研究者

篠原 稔

所属:ジョージア工科大学 応用生理学部 准教授

概要

1.はじめに
ヒトの日常生活においては、箸でモノを掴む、歩行中に段差で躓かないように爪先を上げる、本のページを捲る、など、四肢を詳細にかつ精確に動かすことを要求される場面が多い。しかし、超高齢者やパーキンソン病などの神経系疾患者では、意志通りに四肢を動かし力を発揮することが困難であり、それは自立した生活活動に支障をきたすことを意味している。つまり、ヒトが意図した力を精確に調節する能力(力調節能力)の低下の要因を解明することや、その予防法を開発することは、高齢社会の我が国において社会的要請であろう。
神経生理学分野において力調節能力は、目標値に一致するように力を調節する課題中において、目標値に対する実際の力の誤差もしくは変動(force fluctuations)の大小(標準偏差もしくは変動係数)によって評価されている。健康成人においては、力変動は疲労、加齢、不活動により増加する1)~3)。逆に、筋力トレーニングや学習によりこれらの力変動の増加は抑制される4)。つまり、力調節能力は可塑性があり、日常生活活動量に依存されるといえる。
現在の所、力調節能力の評価値は力変動の大小のみで決定されている1)。しかし、たとえば、膝伸展運動や足関節底屈など多くの身体動作は、複数の筋(協働筋)が収縮しそれらの力が合力となって発現しており、最終的な外部出力である力の変動のみで力調節能力を評価することは、各々の筋の力発揮動態を見過ごしていることになる。このことは、将来的に力調節能力の低下防止プログラムを作成する場合、どの筋が要因となって力調節能力に不具合が生じさせているのか、そしてどの筋を対象に主に処方を施せば良いのか、という情報が得られず、結果的にプログラム立案が困難であろう。現実的には、各筋から出力された力を別々に測定するのは方法論上不可能であるため、新しい力調節能力の評価法の開発が望まれる。
そもそも力というものは、活動している運動単位の単収縮が加算されたものである。運動単位の収縮時には筋線維の短縮および腱の伸張がともなうため、筋形状変化が起こる。その筋形状変化は皮膚表面上にて変位センサを用いて測定することができる。筋内に直接ワイヤ電極を挿入し電気刺激によって誘発した筋(線維)収縮時においては、マイクロフォンで取得した筋表面の変位(振動)は力の加重(強縮)状況(=力変動)に非常に類似していた5)。複数の筋線維が非同期的に活動する随意的筋収縮時においても筋表面振動が力変動と類似しているかは未だ定かではないものの、力が増大すると筋表面は拡大、逆に力が減少すると筋表面は縮小することから、力と筋表面振動の波形には密接な関係性があることが示唆される。ここで、単一の筋のみが収縮する場合、「筋音図の波形と力の波形の間に時間空間的に類似性がある」と仮定すると、複数の筋(協働筋)収縮においても各筋から筋表面振動測定を行えば、各筋の力の変動動態が推定可能となり、力調節能力の生理学的規定因子の解明に応用できると考えられる。
これまで筋表面振動測定は、筋腹の皮膚表面に接触型の加速度計や変位計を直接貼り付けて測定されてきたが、皮膚表面の動きが縦方向だけではないため、S/N 比が低いなど精度に問題があった。そこで、我々は「高精度レーザー方式の変位計」を用いて非接触的に筋表面の振動を測定することによって、精度の向上を計るとともに、汎用性を図ることを試みることにした。本研究の目的は、これらの実験機器設置により、骨格筋収縮の際に生じる筋表面振動と力変動の波形類似性を明らかにすることとした。
2.方法
対象者は8 名の健康な成人(男5 名、女性3 名、平均 ± 標準偏差: 23.9 ± 5.4 歳; 範囲: 20-33 歳)であった。全ての対象者は過去および現在において神経・筋関連の疾患の経験がなく、利き腕は右であった。実験の概要を説明した後、大分県立看護科学大学倫理委員会の指針に沿い、全被検者から実験参加への同意文書を得た。
2.1 実験設定(図1A)
実験は、右手の第一背側骨間筋を対象に行われた。対象者の1m 前方には21 インチのモニタを設置した。右肩はおおよそ45 度屈曲し、 肘関節は約150 度、手首は完全回内位とした。不必要な四肢の動きを防ぐため、腕は吸引式の固定用パッドを用いて厳重に固定した。
人差し指は第一および第二関節を完全伸展位にてテーピングで固定を行った。親指は伸展位でプレートにて固定した。残りの3 指については、半円柱様のグリップを握らせ、その形状のままストラップを用いて固定した。人差し指においては、第2 関節の側位部が力測定用トランスデューサの測定部に接触するよう位置を調節した。
2.2 最大随意収縮(MVC)課題
まず、各対象者の第一背側骨間筋の屈曲動作におけるMVC 課題をおこなった。対象者には力を直線的に増加させ3~4 秒後に最大の力発揮に達し、その後2 秒間程度維持するよう指示した。検者は1 秒ごとに秒数をカウントし、力発揮が最大に近づいた頃から対象者を励ました。各対象者は3 回MVC 課題を行い、そのうちの最大値をMVC とした。
2.3 力調節課題
力調節の目標値は、MVC の2.5、5、10、20、40、60%とした。目標値と実際に発揮した力はモニタ上に水平な線表示するよう設定した。対象者は、目標値とされた線に対して実際に発揮した力を示す線ができるだけ一致するよう力発揮を行った。ここで、力変動そのものの周波数帯域は非常に低周波数(< 2Hz)である6)、7)。よって、波形の類似性を統計学的に検証するためには、データ長にある程度の長さが必要となる。しかしながら、目標値が高強度の場合は、長時間の課題では疲労が生じ本研究の目的とは逸脱してしまう。そこで、本研究においては、10% MVC 以下の目標値の場合は20 秒間、一方20% MVC 以上の目標値の場合は10 秒間課題動作を行うことにした。つまり、本研究で60% MVC より大きい強度での課題を行わなかったのは、先の予備実験において疲労などの要因により対象者が10 秒間の力調節課題を遂行できなかったからである。各目標値における力調節課題の前には必ず練習課題を数回行った。また、課題動作間には最低1 分の休息をはさんだ。なお、各目標値となる課題の順番はランダムとした。なお、実験プロトコルは我々の先行研究を参照している8)、9)。
2.4 測定(図1A)
人差し指による屈曲力は人差し指の第2 関節の側面に設置したストレンジゲージトランスデューサ(LUR-A-100NSA1、共和電業社製;0.19V / N)を用いて測定した。屈曲力は、DC増幅器(DPM 700、共和電業社製)を用いて増幅およびローパスフィルタリング(< 100 Hz)を行った。
人差し指屈曲動作の主働筋は、第一背側骨間筋である。その第一背側骨間筋の筋表面振動は、非接触型の高精度レーザー変位計(LK-G155、キーエンス社製; 周波数応答= DC - 5 kHz; 変位の分解能: 0.5 μm)とそのコントロールユニット(LK-G3000V、キーエンス社製)を用いて測定した。
力および筋表面振動は16 ビットのアナログ・デジタル変換器(Power 1401、Cambridge ElectronicDesign 社製)を用いて1 kHz にてサンプリングを行い、パーソナルコンピュータに保存した。
2.5 解析
力調節課題においては、10% MVC 以下の課題では中央16.384 秒を、20% MVC 以上の課題では中央8.192 秒を解析区間とした。まず、力および筋表面振動の平均値および標準偏差を算出した。
次に、双方の周波数特性を明らかにするために、高速フーリエ変換によるパワースペクトル密度を算出した。その際の周波数分解能は、10% MVC以下の課題で0.061 Hz、20% MVC 以上の課題で0.122 Hz であった。パワースペクトル密度は各々のデータにおける最大値を基準に正規化を行った。次に、力および筋表面振動の波形類似性の有無を検証した。まず、時間空間的波形類似性の検証として、相互相関係数(CCF)の算出を以下のように行った。まず、データは時間ずれ無し(a zero phase lag)の 10 次バターワースフィルタ(< 50Hz)を施した10)。時間分解能はすべての負荷での課題において、0.001 秒であった。相互相関係数(CCF)においては、時間ずれが0 に近い明らかなピークの値を算出し、その値が得られた時間ずれも導出した。なお、時間ずれはフェイズスペクトルからも算出した。
周波数空間的な波形類似性を検証するために、コヒーレンスとフェイズスペクトル解析を用いた11)。ここで、力信号の行列をx、筋表面振動の行列をy と定義した場合、この2 行列のコヒーレンススペクトル Coh2(f) は以下のように算出される。
ここで、f は周波数のことである。Sxy(f) はx とyのクロスパワースペクトル、Sx(f) とSy(f) はそれぞれx とy の自己パワースペクトルである。フェイズスペクトルθxy(f) は次のように定義される。
2 信号間の時間ずれはコヒーレンスが有意な周波数帯域におけるフェイズスペクトルの傾きで算出した。以上の解析は、すべてMATLAB(TheMathworks 社製)上にて行われた。
2.6 統計処理
CCF のピーク値における力調節の目標値による違いに関しては、繰り返しのある1 元配置の分散分析を行った。CCF のピークが発現する時間ずれに関しては、繰り返しのある2 元配置の分散分析(解析方法 × 力調節の目標値)を行った。必要の際には、ボンフェローニ検定によりその後の検定を行った。これらの検定においては 有意水準は5%とした。一方、コヒーレンス解析における有意検定は、99%信頼区間にて評価を行った12)、13)。文中は平均値 ± 標準偏差、図中は平均値 ±標準誤差で表記した。
3.結果
3.1 力変動および筋表面振動の振幅値変化
人差し指の屈曲動作における最大随意筋力(MVC)は、34.1 ± 10.3 N であった。図1B および図1C からも明らかであるように、力調節課題において力は必ず変動し、同時に筋表面も振動していた。それらの変動(振動)の振幅値は収縮(目標値)強度の増加にともない増加していた(図 2)。
3.2 力変動と筋表面振動波形の時間空間的波形類似性
力変動と筋表面振動が波形的に類似していることは、図1B および図1C より明白である。相互相関係数(CCF)は、すべての力調節の目標値において、明白な正のピークが認められた(図 3)。そのピーク値は、0.49~0.59 であった。また、そのピークが発現するのは、2 信号が-0.6~-3.9 msの時間ずれが生じた時であった。その時間ずれは有意に負の値を示したが(P < 0.05)、これは筋表面振動が力変動よりも時間的に先行して波形が生じていることを意味している。なお、CCF のピーク値および時間ずれは、力調節課題の目標値の大きさには影響を受けていなかった(P > 0.05)。
3.3 力変動および筋表面振動波形の周波数特性
力変動および筋表面振動の周波数特性を検証するために、それぞれの信号に対し高速フーリエ変換によるパワースペクトル密度を算出した。両信号ともに、主なパワー値は5Hz 以下であり(力変動;88.1 ± 7.7%、筋表面振動;89.0 ± 8.2%)、両信号とも類似した周波数帯域を呈した(図4)。
力変動の平均周波数は収縮強度(目標値)の増加とともに低下した(0.14 ± 0.03 Hz @ 2.5% MVC~0.07 ± 0.01 Hz @ 60% MVC;P < 0.05)。同様に、第一背側骨間筋の筋表面振動も収縮強度(目標値)の増加とともに低下した(0.094 ± 0.05 Hz @2.5% MVC~0.062 ± 0.033 Hz @ 60% MVC;P <0.05)。
3.4 力変動および筋表面振動波形の周波数空間的波形類似性
力変動と筋表面振動の周波数空間的波形類似性を検証するために、コヒーレンスおよびフェイズスペクトルを算出した。力変動と筋表面振動のコヒーレンスはどの力調節の目標値においても低周波数帯域において有意な値を呈した(図 5A)。加えて、全目標値において、有意なコヒーレンスを示した割合を周波数軸でプロットしたところ、やはり低周波数帯域において高い割合を示した(図 5B)。スペクトル解析により明らかとなった(図4)両信号の主な成分である5Hz より低い周波数帯域では、90%以上のデータが有意なコヒーレンスを示した。加えて、15Hz までは、おおよそ80%のデータが有意なコヒーレンスを示した。
フェイズスペクトル解析から算出した力変動と筋表面振動の時間ずれは、有意に負の値を呈した(P < 0.05)。先に記述したように相互相関係数のピーク値が有意に負の値を示した結果と併せて考慮すると、筋表面振動が力変動よりも先行していることは間違いない。また、相互相関係数とフェイズスペクトル解析それぞれの方法から算出した時間ずれの値には、ばらつきが認められたが、有意な違いは生じていなかった。
4.考察
4.1 Main findings
本研究では、以下のことが明らかとなった。(1)力変動および筋表面振動の振幅値は収縮強度の増加に伴い増加した、(2)力変動と筋表面振動は正の相互相関関係が認められた、(3)両信号の周波数帯域は同一であった、(4)両信号間には、5Hzより低い周波数帯域で有意なコヒーレンスが認められた。
4.2 2 信号の周波数特性
筋疲労のない場合、力変動は1Hz 近辺の低周波数帯域が主な成分であるが、本研究においても同様の周波数帯域を呈した 7)、14)、15)。また、力変動の平均周波数は収縮強度の増加によって低下する7)。本研究においても同様の結果が得られたが(図4)、この傾向について筋表面振動について示したのは本研究が初である。
本研究と同様に等尺性の第一背側骨間筋収縮時における筋表面振動は、加速度計による測定では1~250 Hz という広周波数帯域を呈した16)。加えて加速度計測定では、平均周波数は20~30 Hzと本研究の結果よりも非常に高い周波数を示していた16)。このような違いは、文字通り加速度計測定で得られる信号は皮膚表面振動の「加速度」であり、一方、本研究で用いた測定機器(変位計)は「加速度」を2 階積分した「変位」であるためであると考えるのが妥当であろう。逆に言えば、変位を2 階微分した加速度においては変位の比較的高周波数帯域が強調して増幅されたものを主に表していることになる。したがって、力変動という非常に低周波数(< 5 Hz)成分で構成されている信号を筋表面振動から推定する場合には、筋表面振動の測定には加速度計は不向きかもしれない。
4.3 波形類似性
力変動と筋表面振動の信号間の強い類似性は、時間空間および周波数空間的解析によって明らかとなる。相互相関係数において有意でかつ明確な正のピークが認められ(図3)、またコヒーレンス解析によって、2 信号の主成分である5Hz 以下の周波数帯域で有意なコヒーレンスが認められた(図5)。また、力調節の全目標値における課題において、相互相関係数のピークが発現する負の時間ずれは、筋収縮の時系列変化と一致する。つまり、筋の収縮および腱の伸張という筋形状変化(筋表面振動)を経て力(変動)が発生するということである。
このような筋形状変化と力の発生の強い関連性については、近年、単収縮中における筋束長や腱組織の伸張変化を超音波Bモード法により定量化した研究からも示唆される17)、18)。たとえば、78 フレーム / 秒の画像によって解析処理された筋束および腱の長さ変化は、力波形と類似した特性を示す18)。つまり、筋収縮にともなう筋表面の変位は筋束や腱の長さ変化にともなう筋形状変化を反映しているのであろう。
4.4 2 信号間の時間ずれ
筋表面振動と力変動の時間ずれは、本研究で対象とした第一背側骨間筋においては非常に短い(< 10 ms)。一方、前脛骨筋を対象とした研究においては17)、筋束の短縮および腱の伸張と力の発生の間には10~30 ms のずれがあった。このような大きな時間ずれは、筋のたるみ(slack)の有無によるものであると考えられる19)、20)。たとえば、単収縮においては、筋・腱が完全に弛緩(安静)状態から筋収縮を誘発する。そのため、力が発生するためには、緩んだ腱を筋(線維)が収縮して引き伸ばす必要性がある。そのため、時間ずれが比較的大きいと考えられる。一方で、ネコを対象とした実験においては、連続した電気刺激によって誘発された筋収縮中の筋表面振動と力の時間ずれは、わずか9.6~16.2 ms であった21)。 つまり、筋収縮開始直後と筋収縮中においては、筋の形状そのものが違うため、時間ずれにも違いが生じるのであろう。本研究においては、1)対象となった第一背側骨間筋の腱の体積自体が非常に小さいこと、2)人差し指と親指の設置位置により筋長が予め引き伸ばされている状態であること、3)解析区間が筋収縮中であるため予めslackが少なかったなどの理由により、時間ずれが非常に短いものだったと考えられる。
4.5 振幅値
筋表面振動および力変動の振幅値は、ともに収縮強度の増加にともなって直線的に増加した(図2)。力変動の振幅値の直線的な増加は、同一の筋および同一の収縮強度での測定結果でも報告されている7)、22)。ヒトがある一定の目標値に力をできるだけ精確に合わせようとしても、力には変動が必ずともなう。この力が変動する起源は、運動単位プールの活動様相、特に、運動単位の発火頻度の変動である7)、23)。よって、筋表面振動の起源も間接的に運動単位の発火頻度の変動であることが示唆されるが、これまで報告されてきた結果はいささか複雑である。たとえば、同様に第一背側骨間筋を対象とした結果では、筋表面振動の振幅値変化は21% MVC までは緩やかな増加、そして41% MVC までは急激な増加を示し、それ以上の収縮強度においては急激な低下を示すことが加速度計を使った研究で報告されている16)。 よって本研究との結果の相違は、 前述した通り測定機器の違いによるものであることが予測されるため、更に詳しく考察を行ってみた。
4.6 加速度計と変位計測定の違い
測定機器の違いによる筋表面振動の波形特性は、単刺激および連続刺激による電気刺激誘発筋収縮において明らかにされている5)、24~27)。たとえば、連続電気刺激による筋収縮中において、コンデンサマイクロフォンによる測定では筋表面振動の平均周波数は刺激頻度と一致している5)、28)、29)。一方、加速度計による測定では筋表面振動の平均周波数は刺激頻度よりも高い傾向であった30)、31)。
随意筋収縮において、接触型コンデンサマイクロフォン、接触型ピエゾセンサ、そして非接触型レーザー変位計による皮膚表面振動測定では、平均周波数は20 Hz 以下である。一方、加速度計を用いた測定時には20-40 Hz の範囲の周波数帯域である32)~34)。このような周波数特性の違いは、接触型コンデンサマイクロフォン、接触型ピエゾセンサ、そして非接触型レーザー変位計が皮膚表面振動の変位を測定しているのに対し、加速度計は文字通り皮膚表面振動の加速度を測定しているためであることに疑いはない。
これまで加速度計を用いた皮膚表面振動特性については数多くの研究報告がなされており、特に、運動単位の活動様相、つまり運動単位の発火頻度や動員様式について考察が行われている16)、35)、36)。しかしながら、加速度計は皮膚表面振動の変位、(本研究の結果をもって)言い換えれば、力変動の2 階微分値を表している。随意収縮中の力変動は、各運動単位固有の単収縮波形を同期的もしくは非同期的に合計した結果発生する。つまり、力変動には、特に主な周波数帯域である20 Hz以下の成分には確実に運動単位の発火頻度や発火頻度の変動成分が多く含まれていることになる7)、37)。一方で、 現時点において力変動の高周波数成分(もしくは力変動の2 階微分値)と運動単位活動様相との関連性に関する直接的なエビデンスはない。よって、加速度計測定による皮膚表面振動測定の評価および考察は充分に留意する必要があり、本研究の結果からは、非接触型の変位計測定がより筋表面振動の生理学的機序を理解できやすいと考えられる。
4.7 まとめと今後の展望
本研究の結果より、等尺性の第一背側骨間筋背側収縮においては、比較的高強度まで力変動と筋表面振動は波形類似性があることが確認できた。今後、咀嚼筋や脊柱起立筋収縮など比較的力測定が困難である部位への応用が期待できる。また、ヒトの日常生活における動作を考慮すると、やはり「動的」な動作での力変動を対象にする必要性があり、今後は本研究の結果を基にその技法の開発に着手する。