2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ポスト 3.11 型エネルギー科学技術教育の学習プログラム開発とそれを用いた教育の実践(プログラム助成1年目報告)

実施担当者

高木 浩一

所属:岩手大学 工学部 教授

概要

1.はじめに
 本企画では,3.11東日本大震災を踏まえ,安全安心(防災)や持続可能社会構築を基調にしたエネルギー教育の学習プログラムを開発する.それを用い,①小中高校への出前授業,②科学館や公民館でのサイエンス教室や工作教室,③教員やサイエンス・インタープリター向けの研修会を実施した.3つの活動の想定科学レベルと対象とする年齢層を図1に示す.本企画の特徴は,従来のエネルギー教育が温暖化など地球環境との関わりが中心だったのに対し,リスクスキルや放射線,スマートグリッドなど,震災を踏まえた持続社会構築のための人材育成を指向している点になる.活動は,未就学児童から小中高校の児童・生徒,その保護者,大学生など幅広い年代を対象とし,県内の教育機関,持続社会実現を目指すNPO団体など,幅広い連携を通じて実施した.


2.小中高校への出前授業
 本企画では,①小・中学校での出前授業,②SSH校,理数科,理系志望の高校での出前授業にわけて,エネルギー環境を教材としてポスト3.11を意識した学習プログラムの策定と,その教育プログラムを体験的に学習できる体験型教材を開発して,それを持って学校へ出向き,授業を実施した.一例として,SSH校の課題研究実施前に行う研究リテラシー入門書として編纂した指導書の一部を図2に示す.この指導書は,高校1・2年生を対象として編纂したもので,授業時間は2校時もしくは3校時とした.本授業では,付与する「確かな科学技術リテラシー」として,企画構築力と実験実施および解析力の2点に絞り,前者では,情報共有,コミュニケーション,企画,研究計画などをキーワードに,マッピングとフレームワークへの落とし込みなどを実習形式で,1校時を使って実施した.実習に先立ち,文理選択の意義,工農医薬などの実学系学問と理学などとのミッションの違い,研究とはなにかを実例を挙げて説明した.実験実施及び解析では,太陽電池の受光面積と起電力の関係を測定して,グラフに描かせた.この様子を図3に示す.実験は,同条件で3回行い,同条件のデータの統計的な処理などについても考えさせた.加えて,実験に必要な作業分担を行うなどの手順も学ばせた.データを平均する際は,有効ケタにも配慮させることで,精度に関するイメージもつけられるように工夫した.グラフを作成する際は,直線とするか,曲線とするかの選択基準,また線を引く場合の基本的な考え方(最小二乗法)についても教授した.
 SSHや理数科,工業高校などを除くと,前述の内容を実施するための授業時間が確保されていない高校がほとんどとなる.このような状況でもエネルギー環境学習を実施できるように,高校数学Ⅱ,数学Ⅲの導入に,単元の数学の内容で取り扱うことのできるエネルギー環境の事例を教材化して,数学の有用性にも着目した形の授業も展開した.従来型の授業との流れの比較を図4に示す.授業を実施するための通常の授業では進度を急ぎ,教科書の解法が中心になりがちとなる.そこで導入部分にあえてエネルギーや環境のテーマを扱っている.加えて理科,家庭科,社会科で学習した内容との関連を意識して構成する.本授業実践では,数学の授業ではあるが,体験型の学習を組み入れることが可能な単元については,実験を通してグラフ作成など行っている.一例として,表1に「無理関数」の授業の学習展開を示す.はじめに日本のエネルギー構成と再生可能エネルギーについて扱い,発電のしくみについて学習する.実験では,傾斜を付けたレールに鉄球を転がし,レールを転がり落ちた時の速度を計測する.転がり始める前の鉄球の位置エネルギーUは,レールの高さhに比例して大きくなる(U=mgh;m:重さ,g:重力加速度).摩擦損失などを考慮しなければ,鉄球がレールを転がり落ちた時の速さは,レールの高さhの無理関数となる.実験の模式図を図5に,生徒が測定したデータ及びそれを用いて描いたグラフを図6に示す.そのほか,小学校への出前授業の新聞掲載の様子を図7に示す.今年度の出前授業の実績を,以下にまとめる.

【小中学校での授業】
1.好間第二小学校;5年「電気が生み出す力」,6年
「電気と私たちのくらし」,5年児童40名,6年児童33名,10:30-12:00,2015.11.2
2.小名浜第一小学校;再生可能エネルギー教室,6年児童53名,13:25-15:05,2015.11.2
3.矢巾東小学校;6年総合学習「総合学習_発電体験と新エネルギー」,1~4校時;101名,8:45-12:10,2015.11.18

【高等学校での授業】
1.宮城県立多賀城高等学校;キャリア講演会,2年生理系4クラス156名,2015.4.30
2.青森県立三本木高等学校;大学連携セミナー,1年5組40名,10:20-12:10(3・4校時),1年6組40名,12:55-14:45(5・6校時),2015.5.28
3.秋田県立秋田中央高校;平成27年度「躍進Ⅰ」第3回サイエンス基礎講座,1学年241人(6クラス),14:15-16:05,2015.7.10
4.宮城県立多賀城高等学校;アカデミックインターシップ,24名参加,2015.7.28
5.仙台向山高校;アカデミックインターンシップ,4名参加,2015.8.6
6.金ヶ崎高校;キャリア講演会「その道のプロに聞く」,2年12名,2015.9.29
7.岩手県立大野高校;里山づくり講演会,全校生徒151名,2015.10.7
8.岩手県立盛岡南高校;平成27年度第2学年分野別出前講義,2年①23名,②24名,①14:35-15:25,②15:35-16:25,2015.10.19
9.秋田県立能代高校;大学出前講義「文理選択のための出前授業」,1年232名,2015.10.23
10.北海道立札幌啓成高校;1年職業ガイダンス,①38名,②20名,①15:25-16:25,②16:35-17:25,2015.10.29
11.岩手県立盛岡第三高等学校;新2年SSH説明会,SSHコース志望生徒1年生44名,14:00-15:30,2016.2.12


3.科学館・公民館でのサイエンス教室
 本企画では,①盛岡市こども科学館での科学教室の開催,②盛岡市や北上市の公民館などの施設での科学教室の開催にわけて,エネルギー環境を教材とした啓蒙,普及,人材育成の観点から,ポスト3.11を意識したサイエンス教室,工作教室などを開催した.イベントの一例を,図8に示す.また開催したイベントの一覧を以下に示す.

【盛岡市こども科学館での科学教室】
1.科学技術週間関連スペシャル実験教室;「カミナリ実験」,約100人,2015.4.19
2.盛岡市子ども科学館夏休みSPECIAL!;「小型モーターの振動で動くおもちゃを作ろう!」,55名,2015.8.13
3.盛岡市子ども科学館夏休みSPECIAL!;「太陽光発電を使ったランタンを作ろう!」,84名,2015.8.14
4.盛岡市子ども科学館夏休みSPECIAL!;「光の色をわける事ができる箱を作ろう!」,60名,2015.8.15
5.盛岡市こども科学館「日曜サイエンス」;「カミナリを見よう!200分の1スケールで実験」,約180名,2014.11.15

【盛岡市や北上市などの施設での科学教室】
1.みちのく「体験の風を起こそう」;「頭と体と心の3体験フェスティバル;カミナリ実験」,約1,200名参加,盛岡市産学官連携研究センター,2015.7.12
2.きたかみ・かねがさきテクノメッセ2015;「サイエンスショー★エネルギー編★環境編★生物編★エネルギー体験」,(主催:北上工業クラブ),約200名参加,北上総合体育館,2015.10.3-4
3.彦部・星山地区教育振興運動実践協議会「親子サイエンス教室」,11名,彦部公民館,10:00~12:00,2016.1.11


4.講習会・研修会の開催
 本企画では,①岩手大学での講習会の開催,②学習交流センターや公民館などを活用した研修会の開催にわけて,エネルギー環境を教材とした啓蒙,普及,人材育成の観点から,ポスト3.11を意識したサイエンス教室,工作教室などを開催した.講習会の新聞報道の一例を,図9に示す.また開催したイベントの一覧を以下に示す.

【岩手大学での講習会】
1.国際研修?エネルギーと持続可能な社会?;「エネルギーと持続可能な社会」,7名,2015.4.23

【他地区の機関を利用した研修会】
1.いわき市小学校教育研究会理科部会実技研修(いわき市教育委員会);「五感で感じるエネルギー」,78名参加,いわき市立平第一小学校,2015.7.24
2.平成27年度東北地区SSH担当者等教員研修会,「SSHの話題提供;SSHは生きる力を高める教育の究極の具現」,秋田市文化会館,約50名,2015.9.26-27
3.きたかみ環境未来塾 2015;「自然とエネルギーと未来の暮らし」,約40名,北上市生涯学習センター,18:30-20:00,2015.12.2
4.きたかみ環境未来塾 2015;「自然とエネルギーと未来の暮らし」,22名,岩崎地区交流センター,18:30-20:00,2015.12.3
5.きたかみ環境未来塾 2015;「自然とエネルギーと未来の暮らし」,約16名,口内地区交流センター,18:30-20:00,2015.12.9
6.第2回体験教室研修会(主催:資源エネルギー庁);「みんなで学ぼう!エネルギー実験講座」,14名,いわき明星大学,2016.2.17
7.香川県エネルギー環境教育研究会「エネルギー環境教育ワークショップ」(原子力発電環境整備機構「授業研究支援事業」);「エネルギー環境教育の考え方・進め方」,10名,香川大学,2016.2.20