2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

プラナリアに対する古典的条件付けの研究と教材化

実施担当者

谷津 潤

所属:佐野日本大学高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 昨年度までの本校の理科研究部の研究において、原始的な脳を持つプラナリア(別名ナミウズムシDugesia japonica)に対して、古典的条件付けができることが明らかになっていた。そこで、本研究では次の二点を行った。まず、生徒が詳細な解析を行い、プラナリアが条件反応を獲得する最適条件を特定し、その作業を通して生徒の自主性や協調性を育てた。次に、専門家が参加する学会において、生徒自身に研究発表させ、発表準備や研究者との交流を通して「研究とは何か」を考えさせた。


2 研究
2-1 序論
 プラナリアとは、比較的綺麗な河川に生息している体長5mm~20mm程度の水生生物である。プラナリアは優れた再生能力を持つことで広く知られており、その一方で小さな体内に原始的な脳を保有することでも知られている。私たちはその脳機能に興味を持ちこの研究をスタートさせた。プラナリアの脳機能が、どの程度のものであるのかを調べるため、1902年旧ソ連の生理学者イワン・パブロフによって行われた『パブロフの犬』の実験を参考に条件反射の獲得による検証を行った。
一般的に条件反射は哺乳類のような高等生物のみだけが獲得出来ると考えられていたが、最近ではゴキブリやアメフラシなどの生物でも獲得出来ることが分かってきており、プラナリアにおいても条件反射の獲得が出来る可能性があると考えた。プラナリアのような原始的な脳を持つ生物での条件反射獲得実験の例は少なく、実験系も信憑性の高いものは確立されていないため実験系の確立を目指し実験を行った。

2-2 予備実験
 有名な条件反射獲得実験である“パブロフの犬”を参考にして次の解析を行った。イワン・パブロフは、ベルの音色と餌である肉を利用して、犬に条件反射を獲得させた。今回私達は負の条件反射獲得実験でベルの音色を光刺激に、肉を電気刺激に置き換えプラナリアに条件反射を獲得させることを試みた。

(注:図/PDFに記載)

【方法】光刺激の光源には白色LED(輝度:30000mcd)3つを用いた。電気刺激の電圧は5Vを使用した。電圧を5Vにした理由としては、5V以上の電圧で実験を行うと電圧に耐えられず死亡してしまうプラナリアが発生したためである。プラナリアの周囲を遮光し、電気刺激と光刺激を同時に、何度も繰り返し与えた。プラナリアは電気刺激によって収縮反応を示し、光刺激によっては収縮反応を示さない。このことから2つの刺激を同時に何度も6S間与え続けた後、本来なら収縮反応を示さない光刺激のみを与え、収縮反応を示すかを確認した。

【結果】左のグラフは4つの容器に各10個体ずつ計40個体のプラナリアに光刺激を与えた際の体長の収縮反応の平均値を表したものである。グラフから分かるように全ての容器において、全てのプラナリアの体長が5%末満の収縮反応しか示さなかった。このことからプラナリアは光刺激によって収縮反応を示さないということがわかる。右のグラフは各電圧につき10個体、計40個体のプラナリアに電気刺激を与えた際の体長の収縮反応の平均値を表したものである。グラフから分かるように全ての電圧において、全てのプラナリアの体長が10%以上の収縮反応を示した。このことからプラナリアは電気刺激によって収縮反応を示すということがわかる。また、検定の結果3~15Vのいずれも通電前と通電時、通電時と通電後(1分後)において、プラナリアの体長に明らかな有意差が見られたことで電気刺激による収縮反応が確認できた。

【考察】この2つの実験においてプラナリアは光刺激には収縮反応を示さず、電気刺激には収縮反応を示すことが明らかになった。よって、プラナリアの体長の変動が反射に対する判断基準として有効であることが示された。

(注:グラフ/PDFに記載)

2-3 負の条件反射獲得実験
【方法】照射・通電時間を1分、間隔29分に設定し30分1サイクルの操作を継続的にプラナリアに6日間行い続けた。光源は白色LED3つ、電圧は5V、電極には金線を用いた。金線を使用した理由は実験中に電極で電気分解が発生しないようにするためである。水が電気分解により汚染されることでプラナリアが死亡してしまうのを防ぐ目的がある。

(注:グラフ/PDFに記載)

【結果・考察】全てのプラナリアが光刺激のみで10%以上の収縮反応を示し末処理のコントロールバーから外れているので電気刺激による反応の結果より10%以上の変化は操作後の個体にしか見られないため、プラナリアが負の条件反射を獲得したと考えられる。

2-4 負の条件反射獲得の短縮化
【方法】より短い期間で負の条件反射を獲得できるのかを調査するため、実験装置の改良と短縮した期間での実験を行った。変更を行ったのは時間設定のみで、それ以外の光源や電圧の強さ、電極は変更していない。従来の装置(PIC多目的タイマー)(写真左)ではタイマーの設定変更を分単位までしか行えなかったためアルディーノ(AVRマイコン)(写真右)という装置に私達がプログラミングを行い自作で以下のような新たな装置を作成し秒単位までの設定を行い実験した。なお従来の装置で5Vを用いて実験していたのでアルディーノの電圧も5Vとして統一した。新たな装置を用いて秒単位の設定を行い4秒サイクルの負の条件反射獲得実験を行った。

(注:グラフ/PDFに記載)

【結果・考察】1回/4分のサイクルでは83%、1回/4秒のサイクルでは77%の個体で、負の条件反射を獲得した。プラナリアは秒単位に短縮したサイクルでも負の条件反射を獲得できることが明らかになった。


3 学会発表
 以上の研究内容をまとめ、研究者が参加する学会「第6回麻校生バイオサミット in 鶴岡」「日本進化学会第11回みんなのジュニア進化学高校生のポスター発表」「日本生物教育学会 第101回全国大会高校生のポスター発表」において生徒らがポスター発表をした。また、発表準備を通して、生徒らはプレゼンテーションの基本技術を学んだ。


4 まとめ・展望
 本研究において、プラナリアは負の条件反射を獲得できること、およびその条件が明らかになった。また、この研究成果は、生徒自らが学会においてポスター発表し、その準備を通して基本技術を学んだ。当初の計画では、この成果を利用して教材化まで行う予定であったが、時間切れとなってしまった。今後も継続して活動を行い、教材化を実現させたい。