2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

パソコン・タブレット端末用アプリケーション制作とRaspberry Piを使用したお掃除ロボットの開発~ IoT 実現における課題研究への取り組コトづくりの視点から~

実施担当者

寺西 賢治

所属:長野県長野工業高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 最近は、あらゆるものがインターネットでつながるIoT(モノのインターネット)が新しいコンセプトとして広まり、家電や自動車、ロボットなどを通じて新しいサービスやビジネスが立ち上がっている。
 このビジネスモデルで重要な点は家電や自動車、ロボットなどに実装されているセンサー類がインターネットに繋がっており、そこから膨大なビッグデータが得られるが、それには何の意味も持たないということである。そして、このデータを解析、活用して家電や自動車、ロボットなどが「するコト」(ユーザーに寄り添ったサービス)がビジネスの対象となるということである。つまり、IoTもビッグデータも「コトづくり」の考え方を根底におくことが必要なのである。
 この「コトづくり」は、日本の製造業復活のキーワードとして取り上げられることが多くなってきている。これは、日本がこれまで得意としてきた、「機能や品質に優れた製品を効率的に作り出すものづくり」が通じなくなってきており、今後日本の製造業を強くしていく方策の一つととして、単なる「ものづくり」から「ものづくりとコトづくりの一体化」への転換が求められているということの現れである。
 ではなぜ、「モノづくり」だけではなく「コトづくり」の必要性が主張されるようになってきたのだろうか。それは、商品の価値はそれ自体の機能にあるというよりも、商品に付随するサービスや、使用者の新しい利用体験を作り出すことが価値だとみなされるようになってきたためである。
 このような状況から、「モノづくり」を超える、あるいは「モノづくり」を補完する考え方として、「コトづくり」が重要になっているのである。


2.課題研究での取り組み
 本校の情報技術科3年の「課題研究」として「Raspberry Piを用いたお掃除ロボットの製作」と「出席管理システムの製作」を取り上げた。これらはRaspberry Piを用いることによりインターネット接続を可能としたシステムになっている。
 それぞれの研究グループのレポートを以下に掲載する。

Raspberry Piを用いたお掃除ロボットの製作
研究者:中村、宮澤、室賀
①はじめに
 Raspberry Piに興味があり、それを使ったIoTを製作しようと考え、ロボット掃除機ルンバのようなお掃除ロボットを製作する研究を進めてきた。この研究で、Raspbery Piについての知識やプログラミング技術の向上を目指した。

②研究内容
(1)概要
○Raspberry Piでモータを制御する。
○掃除機能の製作。
○本体の製作。
(2)Raspberry Piとは
 Raspberry Piは、ARMプロセッサを搭載し、Linax OSが動作するシングルボードコンピータ。更にインターネットに接続する事もでき、USB端子もついているのでセンサーやモーター、webカメラなどと組み合わせていろいろな機能を付け加える事が可能。それに加えて、GPIOという端子も搭載されており、外部の電子回路を簡単に制御する事ができる。Linax OSが動くので特殊な開発環境や別のPCを必要とせず、ネットワーク接続などの機能を使う事ができる。

③使用機材・ソフト
赤外線センサー
ADコンバータ(MCP3208)
アクリル板
モータファン(掃除用)
モータ、減速ギア、タイヤ

④研究結果
(1)Raspberry Piでモータを制御する
GPIOで制御してモータを動かした。
⇒動かすことはできたが、モータの力が弱く、想定した動きができなかった。
(2)掃除機能の製作
プロペラを回転させてゴミを吸い込んだ。
⇒吸い込み部分が重くなってしまい、動作に支障が出た。吸い込み口が小さく、吸い込む面和が狭かった。
(3)本体の製作
アクリル板で組み立てた。
⇒機体が重くなり、タイヤが潰れて機体がうまく進まなかった。

⑤反省・感想
中村:動かなかったのは残念だった。ただ、モータの力不足やタイヤ、本体の重さが原因で動かないということがわかったのでので改良していきたい。

室賀:ラズベリーパイはこの研究で初めて触れたので勉強になった。基板製作でははんだ付けの技術も向上した。

宮澤:RaspberryPiについての知識が深また。本体を改良していきたい。

出席管理システムの製作
研究者:西澤、松林
①はじめに
(1)動機
 ネットワーク技術について習得し、また、IoT技術に関係した、何か役に立つ、実用的なものを作りたかったこと。
(2)目標とするシステム
 クラス担任が、体育や実習などの移動教室での生徒の出席状況を把握できること。これにより、保健室での休養や早退などに、すぐに対応できること。また、欠課が続く生徒に、早期の指導が出来ること。

②研究内容
(1)入力システム(図5)

(注:図/PDFに記載)

図5は、バーコードをスキャンしてから読み込みページに戻るまでのイメージ図である。
バーコードリーダーが接続されたラズベリーパイで、電源投入後、GUIが起動し次第、ブラウザで、Webページ(図6)を読み込ませる。

(注:図/PDFに記載)

各自に配布したバーコード(学籍番号)をバーコードリーダーでスキャンすると、自動で入力されたバーコード(学籍番号)とスキャン時間をサーバーに送信する。
サーバーに送信するとPHPが起動し、POST通信を用いてデータを送信する。最後に、Webページ(index.html)に戻る
(2)データ受信システム
ラズベリーパイから送られてきたデータを
PC側でSQL文を用いて、一時データベースに格納する
(3)データ集計
図7は一時データベースから必要なデータをメインデータベースへ格納する流れを表現したイメージ図である。

(注:図/PDFに記載)

一時格納されたデータベースに接続し、その中から授業開始10分前から授業開始時までにスキャンされたデータと学籍番号が一致したデータを「出席データ」としてメインデータベースに格納する。次は授業開始時から遅刻判定時間内である開始25分後までにスキャンされたデータと学籍番号が一致したデータを「遅刻データ」としてメインデータベースに格納する。最後に「出席データ」にデータが格納されている学籍番号がもう一度スキャンされた場合は「早退データ」としてこちらもメインデータベースに格納する、といった流れである。
(4)管理用システム
図8はバーコードとして配布してあるユーザーIDと各個人で設定したパスワードを入力し、ログインする画面である。

(注:図/PDFに記載)

図9はログイン後に見ることのできるシステムである。ユーザーID・パスワードを用いてログインするとこの選択ページに飛ぶ。このページにて閲覧したい学年学科のボタンを押すと、それぞれのクラスの一覧ページへと飛び、出席一覧表を見ることができる

(注:図/PDFに記載)

③反省・感想
西澤:Raspberry Piを用いることにより、IoTが比較的簡単に製作できることがわかった。しかし、「コトづくり」という付加価値を付けることのむずかしさと重要性がわかった。

松林:初めてMy SQLやApacheを用いての製作を行い一から理解することができてよかった。


3.まとめ
 教育用として開発されたRaspberry Piを利用し、IoT技術を課題研究のテーマとして二つのグループを指導したが、適切なテーマを与えてやることは、彼らの成長という教育的観点から意義深いことだと思った。「優れたテーマ選びは、人材育成の一環である」という観点から、研究過程の紆余曲折こそが成長を促すと思われる。
 しかし、長年「ものづくり」こそが日本の製造業の基盤であり、品質に優れた製品を効率的に作り出すことこそが重要であると教育してきた工業高校にとって「ものづくりとコトづくりの一体化」への転換は容易ではないことが実感できた。「コトづくり」が目に見えない商品に付随するサービスや、使用者の新しい利用体験を作り出す価値の創造とするならば、概念的な新規性を追い求めるには、長期的ビジョンに立った教育と生徒の成長を促すような学校運営が、いよいよ重要になってくると思われる。