2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ニワトリ胚を用いた発生分野の探究型・課題研究活動~受精卵から個体までの探究~

実施担当者

山藤 旅聞

所属:都立両国高等学校 教諭

NHK高校講座生物講師、東京書籍教科書編集委員、首都大学東京高大連携協力員

概要

1.はじめに
 「真の主体的な学習」とは何だろうか。生徒も、教師も、自分が何かを知りたいと思ったときこそ、人はよりよく学ぶのではないだろうか。私は、教員生活13年目を向かえる。生徒の主体的な学習を授業で実現するための色々な試行錯誤を続けている。しかし、授業は50分という枠があることや、指導内容がすでに決まっていることなど、主体的に見える学習を実現できてきているものの、「真の主体的な学習」を実現するのは難しいと感じている。
 一方、放課後や、週末、長期休業中など時間を利用して、生徒たちが自由に、自分が知りたいと思ったことについて、とことん学び、仲間や教師と議論し、そして実際に研究する教育を目指し、10年間試行錯誤してきた。そこでは、校内の課題研究活動を始め、その後は科学技術振興機構のSPP(サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト)の助成を受けた課題研究活動、おして、中谷医工計測技術振興財団の助成を受けた探究型・課題研究活動への歩みを進めてきた。その最新の取り組み結果が、本企画、「探究型・課題研究活動」であり、その内容をご報告する。


2.探究型・課題研究活動とは
 ニワトリ胚の発生という題材だけを与え、特に発生学等の学びを受けていない高2,1,中3を対象に実施している。生徒たちが発生分野の疑問を自力で見つけ、その疑問を解決するための研究手法を自分たちで構築し、課題研究を実施させる教育活動である。
 一方で、生徒たちの学びの活性化としては、経験的に他学年交流や他校交流で活性化される。そこで、本活動では、イントロ、テーマ決定・班編制やグループディスカッション・報告会というすべての活動で、他学年交流・他校交流を重視したしかけを構築した。
 実験手法等の教員からの助言は極力抑え、他校の生徒も交えた状態で、仲間同士の気づきや指摘をやり合う形式で、繰り返すことで構築させていった。必要とする情報等も、すべて生徒が求めてきたことに、教員は対応したが、教員から資料等を与えることは極力抑えた。つまり、自分たちの学びに必要な物をすべて、自分たちの力で見つけ出す活動とした。
 また、実験スキルの基本事項は、この活動の経験者である高3をTAとして講師を務めてもらい、後輩の指導を誘導した。高3も、必要な配付資料は自分たちで作成し、発生の授業や、実験方法を解説してくれた。


3.活動内容
 今回はニワトリ胚という扱いやすい材料を用い、発生学やニワトリ胚の培養方法の基礎を高校3年生から教わった生徒たち47名(高2:35名、高1:10名、中3:2名)と県立熊谷西高校の生徒たち20名(高2:6名、高1:14名)で今年度は活動をした。
○5/30(土) 13:30-17:00
高3による発生学の授業およびニワトリ胚の観察実習
○5/31(日) 13:00-17:00
高3指導によるニワトリ胚の観察実習の続き
○6/6(土) 13:30-17:00
首都大学東京 福田公子 准教授の講義
「探究型・課題研究活動のねらいと研究テーマ設定の誘い」
 大学、そして社会で活躍するために必要な能力や、求められる資質、およびその鍛え方についての講義のあと、実習を交えながら、テーマ設定を話し合った。ここでも、他学年、他校との交流を重視し、まずは個人個人で、興味をもった内容とその理由を簡潔にプレゼンしてもらい、そのプレゼンについて意見交換をさせた。参加生徒、全員の興味を板書し、グループ分けを行い、他学年・他校が混ざる10の研究チームを編成した。
 次回、それぞれのチームの研究テーマおよび、研究計画をたてるため、それに向けての必要な宿題をチームで話し合わせた。
6/20(土) 10:00-18:00
 テーマ決定と研究計画書の作成
 互いの宿題等を出し合い、研究テーマをグループで考え、午前中に一度プレゼンをした。お互いにプレゼンを評価する導入をして、研究テーマの厳選を生徒同士で修正させた。
 午後、研究テーマが確定したら、オリジナルの実験計画書を作成し、これもプレゼンさせ、お互いにプレゼンを評価させ、研究計画書も生徒同士で修正させた。
 各発表の後には、評価する生徒たちから毎回のように、「そのテーマの目的な何か?」「その研究で何が分かるのか?」「その方法でどのような結果が期待されるのか?」「そのような実験は実際にできるのか?」など、するどいコメントが飛び交い、建設的でかつ活発な議論が続いた。
 結果、午前中から続いた話し合いと、プレゼン・そして評価の繰り返しを3回繰りかえし、18時には10チームの研究テーマ、研究方法が決定した。
①目のレンズ誘導は、すべての表皮組織におこせるのか
②卵黄の成分と発生との関係を調べる
③血管形成と血球形成のしくみを解き明かす
④羊膜形成過程を解き明かす
⑤ニワトリ胚に及ぼす薬剤の効果
⑥体節構造の形成メカニズムを解き明かす
⑦尾芽決定因子をつきとめる
⑧培養時間の延長させるための物質を探る
⑨心臓の拍動数の変化とその条件検討
⑩脳の分化に関わる過程を解き明かす

○夏季休業中(8/11~8/31)8:30-17:00
 各班で課題研究活動
 各班の実験計画書に従い、課題研究を実施した。夏季休業中にもかかわらず、時には、朝7:00から夕方は19時を過ぎることもしばしばあった。ほとんどが、計画した通りにはいかない。実はそれが大事で。今回の行動によってでてきた予想外の結果を、チームでどのように克服するかが重要なところである。指導者は、記録をしっかり取ることを指示し、でてきた結果から考察できることをできるだけ多くノートに記録しておくように指導した。また、結果がでないことが当たり前であることを伝えつつ、励ますことに重点をおいた。

○9/20(日) 中間報告会 10:00-17:00
 夏季休業中の実験の成果と課題をお互いにプレゼンし、ここでも、各発表を生徒同士で評価するしくみを作り、お互いにプレゼンを評価させ合うことで、今後の計画について生徒同士で修正させた。評価は、①発表の良いところ②発表の分かりにくかったところ。③この実験を工夫するとどのようなことをしたらよいか。の3観点で評価し、意見交換を実施した。
このプレゼンが終わったら、各班で修正案を話し合わせ、再度、最終報告会に向けての実験計画をプレゼンさせた。

○10/25(日) 最終報告会 10:00-17:00
 各班の半年の成果を発表した。質疑応答を参加者のノルマとして指導した結果、どの発表にも毎回10名程度の質問者がでてきて、質問の列が毎回できた。
 半年間、すべての活動を生徒同士で実践した成果とも考えられる。自分たちが意見を出し合うことで、互いの研究が活性化し、いくつもの課題を解決できた経験と自信が身についているのだと思う。半年間を指導していただいた首都大学東京の福田准教授、県立熊谷西高校の原先生、そして山藤からの講評後は、他学年・他校の交流会を実施して本実習の全課程を終了した。


4.成果
 数字に表現しにくい様々な成果はあると思うが、まずは、探究型・課題研究活動に参加した生徒の成績面の上昇は相関が取れている。2学期以降の考査や、模試の結果で、生物の成績が、参加者全員が学年の平均点以上に伸びていた。これは、例年、同じような成果があり、考査の咲いて低得点者の底上げと、平均値の上昇という成果が見られる。
 また、具体的な活動としては、第100回日本生物教育会東京大会における高校生ポスター発表をしたチームがある。また、今年度の成果を論文にまとめ、次年度の読売新聞社主催の日本学生科学賞に投稿する準備をすすめるチームもある。また、校内の理数系発表会でも発表し、その成果を伝えている。


5.まとめ
 数課題研究を通じて、参加した生徒は、普段の生活や、他の教科の学びの際も、生徒が自ら疑問を見つけ、自分たちの力で課題研究をしていく、自立型学習を参加した生徒全員が習得してくれることも期待している。実際に、本校では数年前から課題研究を実施しており、課題研究に取り組む生徒は、相対的に学力でも好成績を収めるという相関がとれている。また、今年度は、首都大学東京および、県立熊谷西高校との課題研究内容の交流も実施し、同学年からの刺激を受け、例年になく課題研究の内容が深まり、課題研究に取り組む姿勢も格段によくなった。