2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ニワトリ胚を用いた発生分野の探求型・課題研究活動 -2年間の継続と成果-

研究責任者

山藤 旅聞

所属:都立両国高等学校 教諭

NHK高校講座生物講師、東京書籍教科書編集委員、首都大学東京高大連携協力員

概要

1.はじめに

「課題解決能力」とはどのような教育で育てることができるだろうか。現在、地球レベルで環境間題が間題となり、国連を中心に持続可能な社会や地域づくりに向けて、責任ある主体的な行動がとれる人材の育成が求められている。この教育の実現には、既存の知識伝達の教育や、答えの決まっていることを覚えて確かめる教育では、とうてい次世代の若者の課題解決能力を教育することはできない。低炭素社会や、生物多様性に基づく自然との共生社会、もしくは循環型社会を目指し、実現のための諸課題を多面的に理解し、解決に向けて、責任ある主体的な行動を喚起する必要がある。それには、課題を生徒自らが「見つけ」、その課題解決のために、自分(たち)にできることを考え」、試行錯誤して手法を「選び」、そして試行錯誤の実験を「継続的に繰り返す」教育が必要なのではないかと考える。この教育は、「課題研究活動」であると思い、本プロジェクトを継続、実施してきた。
放課後や、週末、長期休業中などの時間を利用して、生徒たちが自由に、継続的な観察を続けることから、課越や疑間を見つけ出し、その課題や疑問を解決するための実験方法について、仲間や教師と議論を繰り返すことで具現化し、出来上がった実験方法を試行錯誤することを継続し、成果物として論文を作成したり、学会等で発表するという教育活動を、約10年間実践している。10年前は、校内の予算のみで課題研究活動を始め、その後は科学技術振興機構のSPP(サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト)の助成を受けた課題研究活動、そして、近年では中谷医工計測技術振興財団の助成を受け、より探究的で専門的な課題研究活動へと歩みを進めてきた。その最新の取り組み結果の成果が、学会発表で高く評価されたり、学生科学賞の入賞という成果を出すことができた。この活動について報告する。

2.活動を継続?発展させる「しくみ」作り

本活動は、ニワトリ胚の発生という題材だけを与え、特に発生学等の学びを受けていない高2,1,中3を対象に実施している。生徒たちが発生分野の疑間を自力で見つけ、その疑間を解決するための研究手法を自分たちで構築し、課題研究を実施させる教育活動である。
この活動が、年々活性化するには2つのしかけが効果的であると分析している。1つは、「他校・異学年交流」である。学内で実施していた時より、助成を受けて、他校もこの活動に参加することになってから、活動に対する生徒の能動性や、行動力が格段に上がった。イントロ、基本実験の習得実習、テーマ決めのディスカッション、報告会(中間報告会?最終報告会)のすべての活動で、他校交流を重視している。ここ数年は、1つのテーマを他校の生徒と一緒に活動するようにもなった。また、基本実験の習得実習や、テーマ決めのディスカッションには、この活動の経験者である最高学年の高校3年生が、TA(ティーチング・アシスタント)として、後輩たちに指導することも軍視している。先輩たちは、自分たちが苦労して習得した技術や、コツ、観察のポイントを経験値で教えてくれているので、とても理解が進む。また、経験者が増えてくると、大学生の卒業生もこのアシストに入ってくれるようになってきた。結果、1班に1人の大学生、もしくは高校3年生が指導してくれるような充実した活動になっている。さらには、研究活動を始めるチーム編成では、異学年でチームを組むチーム編成を心がけている。異学年交流をすることで、上級生の能動性や、責任感が尚まり、活動の活性化につながっていると考えている。
今年の活動では、後輩指導のための資料も、必要とする情報等も、すべて、TAが準備するようにデザインした。つまり、大学生や高校3年生の指導をする方も、自分たちの指導に必要な物をすべて揃えさせた。
写真は今年度の課題研究活動の基礎実験を先輩から教わっている様子である。学校の枠を超えて、実験スキルを指導している様子である。後輩たちは、必死にノートにメモして、実験スキルを学んでいる。

3.活動内容

詳細は、前年度の報告と同様であるが、ここでは活動の日時と活動の携帯に付いてまとめた。例年になる活動志願者が少なく20名(裔校2年生:4名、高校1年生:10名、中学3年生:6名)だったことから、長期休業中は交通費を支給し、首都大学東京での研究活動ができたことが今年の活動の特徴である。
〇5/28(土)14:00-18:00
TA主導による発生学の授業およびニワトリ胚の観察実習
〇6/12(日)14:00-18:00
TA主導によるニワトリ胚の観察実習の続き
〇6/26(土)14:00-18:00
首都大学東京福田公子准教授の講義「探究型・課題研究活動のねらいと研究テーマ設定の誘い」
AIの導入による社会の変化や、現在、社会や大学で求められる人材の資質や能力、およびその鍛え方についての講義のあと、実習を交えながら、テーマ設定を話し合った。ここまで、自由に組んだ3人及び4人のチームで活動を実施し、各チームにTAが1人はつく状態であった。
〇7/19(土)10:00-17:00
テーマ決定と研究計画書の作成
できる限りの疑問を黒板に書き出し、整理し、解決できそうなテーマに絞り込む作業を実施した。ここでもTAと生徒とのやり取りを軸にした。テーマごとに学校や学年を超えたチーム編成をし、午前中に一度プレゼンをした。午後は、具体的な実験方法について検討し、途中で中間発表を加え、チームごとに意見交換をして修正を行い、夕方に最終発表を持って、実験方法を確立させた。
今年のチームの研究テーマは4つである。
①眼胞形成の細胞の動態について明らかにする
②血管形成と血球形成のしくみを解き明かす
③血管形成後の血液成分の変化を明らかにする
④体節構造の形成メカニズムを解き明かす
〇7/16(土)10:00-17:00
前回の活動で決まった4チームが、実験計両をもとに実験を実際に実践し、その課題や修正点をプレゼンし、チームごとに修正を加えて、発表をして、夏休みからの活動を明確化させた。この時点で、3チームは大学の研究室での実施が有効的と考え、大学に通う日も検討した。
〇夏季休業中(8/11~8/31)9:00-17:00
各班で課題研究活動3チームは学校の活動の他に、部分的に大学の分析機器が必要になったため、大学に通いながらの研究活動を実施した。写真は大学でミクロトームを使って胚の切片を作成している様子。

・8/5?6()学会発表
日本環境教育学会で、ポスター展示及び頭発表を実施した。どちらも盛況であった。発表生徒が高校3年生ということで、本来のテーマであれば、分子生物学会や日本生物教育学会等での発表を検討したかったが、東京で開催し、夏休みまでに発表できる場を検討し、この学会を選んだ。しかし、ここでは学生の課題研究活動を発表する場があり、大いにその成呆を評価してもらえた。
写真はポスター展示で見学者に研究内容を説明している様子である。この発表は昨年度のチームのうち2チームがその成果を発
表した。中でも、中胚莱細胞が血球と血管に分化する過程はトレードオフの関係があり、分化するもとの中胚莱細胞の個数は決まっており、血球が増えれば、血管形成が減り、血管形成が減れば、血球細胞が増えることを突き止めたチームは論文も作成し、読売新聞社主催の学生科学賞に応募した。結果、このチームは努力賞という入賞を果たした。参加作品約50作品のうち、入賞した研究は5つのみあり、大きな成果となった。入賞したチームの入賞式の様子は、この報告脅の冒頭の写真として紹介してある。

〇9/17-19研究及び中間報告会10:00-17:00
夏季休業中の実験の成果と課題をお互いにプレゼンし、各発表を生徒同士で評価するしくみを作り、お互いにプレゼンを評価させ合うことで、今後の計画について生徒同士で修正させた。評価は、①発表の良いところ②発表の分かりにくかったところ。③この実験を工夫するとどのようなことをしたらよいか。の3観点で評価し、意見交換を実施した。このプレゼンが終わったら、各班で修正案を話し合わせ、再度、最終報告会に向けての実験計画をプレゼンさせた。

〇10/8(日)最終報告会14:00-18:00
半年間の活動の報告をまとめ、各チームが発表後の疑問を出し合う形で、今年の活動を終えた。今年の活動チームの中には、胚発生過程に伴い、心拍数の上昇に合わせて、血管内の血球濃度の上昇が同時におきることを突き止めた。またこの時期の胚の周辺部では、血球形成が観察され、ある時期に急激に血液成分が変化するしくみを解明した。以下のグラフはそのチームの結果で、胚発生に伴う心拍数の上昇と、血球成分の濃度変化との関係を明瞭に示している。このチームは、現在、論文も作成しており、次年度の学生科学賞への応券の準備をしている。

4.成果

学会における発表や、学生科学賞で入賞する結果は大きな成果と言えよう。また、例年、校内の理数系発表会
でも発表し、その成果を校内の生徒たちに伝えている。
写真は校内発表の様子である。また、入試では、この活動を活用したAO入試で、大学の合格を決める生徒も数名いる。現在、大学側でも、中尚時代にこのような活動をしてきた生徒を求めているように感じる。
他にも、数字に表現しにくい様々な成果はあると思うが、まずは、探究型・課題研究活動に参加した生徒の成績面の上昇は相関が取れている。考査や、模試の結果で、生物の成績が、課題研究活動に参加している生徒全員が学年の平均点以上に伸びている。この成果については、例年、同じような成果があり、考査の低得点者の底上げと、平均値の上昇という成果が見られる。

5.まとめ

この教育活動により、諸課題を多面的に理解し、解決に向けて、主体的な行動を取れる力を養えていると思う。それには、課題を生徒自らが「見つけ」、その課題解決のために、自分(たち)にできることを「考え」、試行錯誤して手法を「選び」、そして試行錯誤の実験を「継続的に繰り返す」教育を実践した成果は、学会発表や学生科学賞の入賞及び、大学入試の成果としても出てきている。課題研究活動を通じて、参加した生徒は、普段の生活や、他の教科の学びの際も、自ら課題を見つけ、自分たちの力で課題を解決していけることを期待している。実際に、本校では数年前から課題研究を実施しており、課題研究に取り組む生徒は、相対的に学力でも好成績を収めるという相関がとれている。また、今年度も、首都大学東京および、県立熊谷西裔校との課題研究内容の交流も実施し、同学年からの刺激を受け、例年になく課題研究の内容が深まり、課題研究に取り組む姿勢も格段によくなった。