2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

タナゴ亜科魚類を通しての異校種交流

実施担当者

滝沢 宏之

所属:栃木県立宇都宮中央女子高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 栃木県には、天然記念物であるミヤコタナゴをはじめとして数種類のタナゴ亜科魚類が生息している。タナゴ亜科魚類は淡水二枚貝に産卵するという独特な生態をもつ。また、人と自然の持続的な共生のモデルとして注目されている里地・里山を代表する生物である。宇都宮大学教育学部 上田 高嘉先生、同じく宇都宮大学農学部 松田 勝先生のご指導の下、タナゴ亜科魚類をとおして遺伝子や染色体などの分子・細胞レベルから発生や繁殖行動などの個体レベル、そして生息地保全などの生態系レベルまで幅広い視点で生物学を学ぶことができると考えた。
 また、隣接する宇都宮大学附属特別支援学校では環境教育および情操教育、また、就労支援の一環としてタナゴ亜科魚類の飼育が行われている。本校生徒が特別支援学校の児童・生徒の皆さんと一緒になってタナゴ亜科魚類の飼育に取り組むことにより、コミュニケーション力の向上、豊かな人間性の育成が期待できると考え、「タナゴ亜科魚類を通した異校種交流」と題し、本プログラムを実施した。


2.実施内容
①タナゴ亜科魚類の飼育と繁殖
・本校では宇都宮大学教育学部 上田 高嘉先生のご尽力により、天然記念物であるミヤコタナゴをはじめとして計7種類、500匹ほどのタナゴ亜科魚類を飼育している。今年度は淡水二枚貝を用いた繁殖および、人工授精による繁殖を試みた。人工授精の成功率は10%程度であったが、二枚貝を用いれば容易に繁殖が可能であることが確認できた。しかし、淡水二枚貝の飼育が非常に難しく、ほとんどの二枚貝が一年経たずに死んでしまった。人工授精と淡水二枚貝の飼育方法の確立が今後の課題である。

②おさかな交流会(第1回)
・4月30日、宇都宮大学附属特別支援学校においておさかな講座を行った。前半は作製した「宇中女タナゴ通信」を使って、本校生物部の活動ようすやタナゴについての基礎知識を説明した。後半はおさかなクイズを行い、特別支援学校の児童・生徒の皆さんと交流を深めた。

③ミヤコタナゴ保全活動(第1回)
・6月20日、宇都宮大学教育学部 上田 高嘉先生のご指導の下、県内のミヤコタナゴ生息地において、ミヤコタナゴの産卵母貝である淡水二枚貝の個体数調査と特定外来生物であるブラックバスの駆除を行った。淡水二枚貝はマツカサガイ、ヨコハマシジラガイなどが確認できた。駆除方法は釣り、餌はミミズである。気温が高かったせいか、なかなか岸際に寄らず釣り上げるのに苦労したが、計23匹のブラックバスを駆除することができた。

③タナゴのDNA実験講座(第1回)
・8月27日、宇都宮大学農学部 松田 勝先生のご指導の下、6種類のタナゴ亜科魚類のDNAを抽出・増幅し、制限酵素で処理をしたあと、その試料を電気泳動にかけ、現れるバンドを確認した。今回は尾びれの一部切り取り、それを用いてDNAを抽出した。天然記念物であるミヤコタナゴは傷つけることができないので今回のような実験に用いることができない。
魚を傷つけずにDNAを抽出する方法の確立が次の課題となった。

④タナゴのDNA実験講座(第2回)
・2月8日、宇都宮大学農学部 松田 勝先生のご指導の下、6種類のタナゴ亜科魚類のDNA実験を行った。魚を傷つけることなくDNAを抽出するという視点から、糞に着目し、糞からDNAの抽出を試みた。事前に糞を採取し、いくつかの方法で処理をした32サンプルを実験に用いた。残念ながらPCRによるDNAの増幅はみられなかった。結果から、糞に含まれるDNA断片は短いものであると考えられた。
短いDNA断片を増幅できるプライマーの設計が次の課題となった。

⑤おさかな交流会(第2回)
・3月4日、宇都宮大学附属特別支援学校において、おさかな交流会を実施した。前半はおさかなクイズを行い、特別支援学校の児童・生徒のみなさんと交流を深めた。後半は、それぞれが用意したプレゼントの交換を行った。本校生徒は、今年繁殖させたタナゴ亜科魚類の稚魚10匹をプレゼントした。特別支援学校の児童・生徒さんから、今までの交流会の写真をまとめたパネルを頂いた。

⑥ミヤコタナゴ保全活動(第2回)
・3月5日、宇都宮大学教育学部上田 高嘉先生のご指導の下、県内のミヤコタナゴ生息地において、午前中は水路の泥上げ、午後は上田高嘉先生ならび県水産試験場職員による地域の方々への報告会に参加した。泥上中にも淡水二枚貝やミヤコタナゴが確認できた。一方でアメリカザリガニも確認され、ミヤコタナゴへの影響が懸念された。報告会では、今までの取り組みとその成果、今後の保全活動のあり方についての報告があった。地元住民の方々のお話も聞くことができ、保全活動の意義について考える一日となった。

⑦タナゴのDNA実験講座(第3回)
・3月31日、宇都宮大学農学部 松田 勝先生のご指導の下、これまでの実験で明らかになったタナゴの遺伝子を用いた系統樹作製と糞に含まれる短いDNA断片を増幅できるプライマーの設計を行った。できあがった系統樹から、それぞれの種の関係性が見いだせた。また、設計したプライマーで本当に糞に含まれるDNAが増幅するのか、次回の実験講座がさらに一段と楽しみになった。


3.まとめ
 本プログラムは、自然科学に対する幅広い知識や観察能力を身に付けることに加え、プレゼンテーション能力を育成し、総合的なバランスのとれた人材の育成を行うこと目的としている。宇都宮大学での最先端の実習および講義、特別支援学校での児童・生徒の皆さんとの交流およびミヤコタナゴ生息地での保全活動をとおして、本プログラムの目的は達成できたのではないかと考える。