2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

タナゴ亜科魚類を通しての異校種交流2

実施担当者

滝沢 宏之

所属:栃木県立宇都宮中央女子高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 栃木県には、天然記念物であるミヤコタナゴをはじめとして数種類のタナゴ亜科魚類が生息している。タナゴ亜科魚類は淡水二枚貝に産卵するという独特な生態をもつ。また、人と自然の持続的な共生のモデルとして注目されている里地・里山を代表する生物である。宇都宮大学教育学部上田高嘉先生、同じく宇都宮大学農学部松田勝先生のご指導の下、タナゴ亜科魚類をとおして遺伝子や染色体などの分子・細胞レベルから発生や繁殖行動などの個体レベル、そして生息地保全などの生態系レベルまで幅広い視点で生物学を学ぶことができると考えた。
 また、隣接する宇都宮大学附属特別支援学校では環境教育および清操教育、また、就労支援の一環としてタナゴ亜科魚類の飼育が行われている。本校生徒が特別支援学校の児童・生徒の皆さんと一緒になってタナゴ亜科魚類の飼育に取り組むことにより、コミュニケーションカの向上、豊かな人間性の育成が期待できると考える。
 今年度は昨年度に引き続き、「タナゴ亜科魚類を通した異校種交流2」と題し、本プログラムを実施した。


2 実施内容
2-1 タナゴ亜科魚類の飼育と繁殖(産卵母貝の検討)
 本校では宇都宮大学教育学部上田高嘉先生のご尽力により、天然記念物であるミヤコタナゴをはじめとして計7種類、500匹ほどのタナゴ亜科魚類を飼育している。昨年度は淡水二枚貝(カワシンジュガイ)を用いた繁殖をおこない、容易に繁殖が可能であることを確認している。しかし、栃木県のミヤコタナゴ生息地のひとつである羽田ミヤコタナゴ生息地保護区ではカワシンジュガイは生息しておらず、近年ドブガイの生息が確認されている。カワシンジュガイよりもドブガイは飼育が容易であることから、ドブガイを用いた繁殖を試みた。結果、ドブガイからはまった稚魚の浮上が見られなかった。次に、カワシンジュガイ1個体とドブガイ1個体、ミヤコタナゴの雄1個体と雌2個体を入れた45cm水槽を10本用意し、どちらの貝から稚魚が浮上するのかを確認した。結果、浮上した稚魚はすべてカワシンジュガイからであった。「ミヤコタナゴの産卵母貝選択性の解明」と「ドブガイに産卵させる方法の確立」が今後の課題となった。

2-2 おさかな交流会
 今年も年2回、第1回は7月に第2回は3月に宇都宮大学附属特別支援学校において「おさかな交流会」を行った。今年度は、本校で飼育しているカワシンジュガイとドブガイをお渡しし、特別支援学校の児童・生徒のみなさんにもミヤコタナゴ産卵母貝選択性の確認実験を行っていただいた。結果は、やはり浮上したミヤコタナゴの稚魚はすべてカワシンジュガイからであった。また、おさかなミニ講座と称して「ミヤコタナゴが住みやすい環境はどんな環境だろう?」をテーマに、特別支援学校の児童・生徒のみなさんと劇とクイズを通して一緒に考えた。第1回目は浮上したミヤコタナゴの稚魚を本校生が受け取る「ミヤコタナゴお別れ会」と「おさかなミニ講座」を行った。第2回日は「本校生物部の活動報告」と「おさかなミニ講座」を行った。本校生徒は特別支援学校児童?生徒のみなさんから元気とパワーいただき、楽しく交流を深めることができた。

2-3 タナゴのDNA実験講座
 ミヤコタナゴは国から天然記念物に指定されているため、ミヤコタナゴの体や組織を傷つける際は事前に許可を得なければならない。本校で飼育しているミヤコタナゴの由来は不明である。その由来や起源を調べるためには、魚体を傷つけずにDNAを抽出する必要がある。昨年度に引き続き、宇都宮大学農学部松田勝先生にご指導いただき、「ミヤコタナゴの体や組織を傷つけずにDNAを抽出する方法」を試みた。本校で飼育している7種(カネヒラ、ゼニタナゴ、タイリクバラタナゴ、アブラボテ、チョウセンアブラボテ、チョウセンボテ、ミヤコタナゴ)のフンとミヤコタナゴを除いた6種のヒレを用いた。昨年度の反省から、より短いDNA断片を増幅できるプライマーの設計を行うことから始めた。そのプライマーを使用することによってミトコンドリアDNAの285bp断片をフンとヒレのそれぞれから抽出したDNAから増幅させることができた。そのPCR産物の塩基配列をdirect sequencing法により決定した。さらにフンから増幅したDNA配列はヒレのDNA配列とそれぞれ一致することが確認できた。結果として、「ミヤコタナゴの体や組織を傷つけずにDNAを抽出する方法」を確立できた。そこで、この方法を用いて、本校で飼育しているミヤコタナゴの由来は神奈川県であることを推定することができた。さらにこの結果を確かなものにするためには、より長いDNA断片の抽出および増幅が必要である。その方法の確立が今後の課題となった。

2-4 第87回日本動物学会沖縄大会
「ミヤコタナゴの体や組織を傷つけずにDNAを抽出する方法」が確立し、本校で飼育しているミヤコタナゴが遺伝的に神奈川県産のものに近いことが明らかになった。ご指導いただいている宇都宮大学農学部 松田 勝 先生のご尽力により、その成果を平成28年11月16日~19日に沖縄コンペンションセンターで開催された「日本動物学会第87回沖縄大会 2016」で発表する(ポスター発表)機会を得ることができた。参加した生徒は、iP-U(宇都宮大学のグローバルサイエンスキャンパス)にも参加している生徒2名である。第22回国際動物学会議との合同開催ということもあり、ポスター原稿も発表も基本的にはすべて英語である。生徒は一生懸命準備をし、初日は緊張している様子が感じられたが、2日目からは発表も講演を聴くことを含めて動物学会を楽しんでいるようだった。人前で発表することは人間を成長させると改めて感じ、今後もできるだけ多くの発表機会を生徒たちに与えていきたいと実感している。


3 まとめ
 本プログラムは、自然科学に対する幅広い知識や観察能力を身に付けることに加え、プレゼンテーション能力を育成し、総合的なバランスのとれた人材の育成を行うこと目的としている。宇都宮大学での最先端の実習および講義、特別支援学校での児童・生徒の皆さんとの交流、第87回日本胴部学会沖縄大会への参加をとおして、本プログラムの目的は達成できたのではないかと考える。