1999年[ 技術開発研究助成 ] 成果報告 : 年報第13号

コンピュータ支援による尿検査バリデーションシステムの研究ー尿一般検査の検証システム開発に関する基礎的研究ー

研究責任者

松田 信義

所属:川崎医科大学 検査診断学 教授

共同研究者

市原 清志

所属:川崎医科大学 検査診断学 助教授

共同研究者

石田 博

所属:川崎医科大学 検査診断学  講師

共同研究者

加藤 卓司

所属:川崎医科大学 検査診断学

共同研究者

富山 由紀

所属:川崎医科大学 検査診断学

概要

日常診療で最も多用されている尿一般検査については,健常群と病態(疾患)群の振り分け基準がなく,その有効性は未だ計量的に評価されていない。そのため診療に携わる医師は,各自が診療経験や学習・研修によって培った,経験則(ノウハウ)を用いて,徴候や検査値から病態(疾患)を読み取っているのが実状である。それ故,同じ患者の徴候や検査値に対しても,各医師によって,その疾患読み取りには大きな差違が生じ,そのために異なった判断につながることすらある。そして,このような尿検査をめぐる諸問題は早急に解決すべき課題とされながらも今日に至っている。一方,近年におけるコンピュータとソフトウェアの進歩は目覚ましく,その一端は,PentiumやWindows,Internet,そして各種の市販アプリケーション・ソフトに見られる。そして今では,大規模な検査データを適切に処理し得る程のコンピュータとそれに必要な高性能のアプリケーション・ソフトを利用できる環境が整っている。そこで当研究室では,尿一般検査による診断支援の実現化を目指して,尿検査の検証システム開発に関する基礎的な研究をすすめることにした。本研究開発の目的は,1.ハズレ値(論理的にあり得ない異常値,矛盾値)の点検と対策,2.健常群,保留群,糖尿病・腎尿路系の各疾患群の大枠振り分け,3.マルチメディア医学専門知識の検索・参照・閲覧の3機能を実現することとした。
【対象及び方法】
1.対象検査と測定法
検討対象は尿一般検査で,肉眼的な判定の3項目(種類,色調,混濁),自動分析装置(ユニフレットII-8C,スーパーオーションアナライザーII:京都第一科学)による8項目(PH,蛋白定性,糖定性,潜血反応,比重,ケトン体,ビリルビン,ウロビリノゲン),及び沈渣鏡検(標本作製:日臨技の尿沈渣検査法6りによる9項目(赤血球,白血球,扁平上皮,非扁平上皮:移行上皮+小円形状上皮,硝子円柱,非硝子円柱,細菌,粘液糸,その他(脂肪球,真菌,精子など)とした。
2.検査値のスコア化
検討対象の各検査値の表示とそのスコア化は表1に示す基準に従って行った。
3.検討用の尿一般検査データ・べ一スの作成
1)尿一般検査データの収集検討用のデータとして,平成4・5年に川崎医科大学附属病院の中央検査部で行った,検査データ・べ一スより男性152,597件,女性185,904件,総計338,501件の尿一般検査データを抽出して集めた。
2)病名データ付き尿一般検査データ・べ一スの作成今回の検討疾患は,尿一般検査にしばしば異常をきたし,日常診療においても有病率の高い糖尿病と腎尿路系疾患(12種類)を対象とした。そして各疾患の症例は,平成4年と5年度のICD9(国際疾病分類,第9版)に準拠した病名データ・ファイルから総数1,450症例を選び出した。次いで,これらの各疾患群の各患者に対して行われた全ての尿検査データをリンクさせて,病名データ付き尿一般検査データ・べ一スを作成した(図1)。その際,各疾患の初回新鮮尿についての尿一般検査データは累積スコアの計算式及び判別関数の誘導とその有効性を検証するために利用した。一方,各疾患群の時系列の尿一般検査データは累積スコア法による検体取り違い点検用カットオフ値の設定及びその検証のために利用した。
4.多項目尿検査の潜在基準値標本の作成
1)潜在基準値標本を抽出するための尿検査とそのカットオフ値尿一般検査データ・べ一スの中に混在している各検査の潜在基準値標本を抽出するための尿検査とそのカットオフ値は,表2に示すように各検査の基準値に近似した値を用いた。
2)尿一般検査データ・べ一スの中に混在している潜在基準値標本の抽出方法(図2)
ここでは簡単のため,A,B,C,Dの4種類の検査よりなる患者のデータ・べ一スめ中から検査Dの潜在基準値標本を抽出する場合を想定して解説する。まず,A,B,C,Dの検査値が,全て各検査のカットオフ値より小さくなるようなA,B,C,Dの検査データのセット(潜在基準値標本)を抽出する。しかも,検査Dが検査A,B,Cのどれか1項目以一上と有意な相関性を示す場合を想定すると,抽出された検査データ・セットは検査Dの潜在基準値標本とみなすことができる。同じような手順で検査A,B,Cの潜在基準値標本を作成した。
3)多項目尿検査の潜在基準値標本の作成今回は10項目(混濁,蛋白定性,糖定性,潜血反応,赤」血球,白血球,粘液,細菌,上皮細胞及び円柱)の潜在基準値標本より,それぞれ40件のデータ・セットを選びだし,それらをMIX-UPして400件からなるデータ・ファイルを作成した(多項目尿検査の潜在基準値標本)。この手川頁により,世代別(学童,青年,成人,高齢者)・男女別による8群の潜在基準値標本(健常相当群)を準備し,散布図を作成した。これらのデータ・ファイルは累積スコア法の特異性(度)を評価する際に利用した。なお,一上記の10項目以外の尿検査の陽性率はどの疾患群においても低値であったので,今回は検討項目から除外した。
5.累積スコア法とその評価法
ここでは便宜上,健常相当群と慢性糸球体腎炎群を振り分ける事例で累積スコア法の考え方とその評価法について解説する(図3)。先ず,尿一般検査10項目(経験によって対象疾患の振り分けに有効とわかっている検査項目)の検査値をスコアに変換する。ついで,患者の各尿検査値のスコアに対し,おおよそ基準値の上限にカットオフ・スコアを設定して,各検査における感度(陽性率)を調べた。その結果,真陽性率(感度)が上位の2項目は蛋白定性と潜血反応であった。即ち,蛋白定性の基準値(正常値)はマイナスであり,そのスコアは0となる。そこで,これをカットオフ値にとると感度は90,4%となった。潜血反応は基準値のスコアが0.5以下であるので感度は71.9%となった。その際,潜在基準値標本(健常相当群)の陰性率(特異度)は95%以上が得られた。次いで,これら2項目の検査値のスコアを各患者について累積(加算)してその分布をとると,カットオフ値が0.5で感度は98.2%,1.0で96,5%となり,1項目より有意に高い感度が得られ,しかも高い特異度が維持できることが明らかとなった。以上のように健常者と患者を効率的に振り分けるためには,各検査値のスコアを累積(加算)することにより,特異度を低下させることなく,有意に高い感度を得ることができることが判明した。そこで上記の手順にそって,健常者相当群と各疾患患者を振り分けるための適正な検査項目を選択し,次いで累積スコアを計算し,その分布図を作成した。
6. 12疾患の多変量解析1)クラスター分析尿一般検査10項目の平均スコアを用いて,12種類の疾患群間の類似度をユークリド平方距離により,各クラスター群の併合をウォード法により,クラスター分析して,疾患群間の類似度分析を行った。2)1F準判別分析クラスター分析により大別した疾患群について,任意に選んだ2疾患群の正準判別分析を行い,誘導した正準判別関数より正準得点を計算し,その度数分布図を作成した。次いで,これらの分布図を参照して,妥当な疾患群の大枠振り分けをするための判別尺度を作成した。そのために,分布図上の2カ所にカットオフ値を設定して,3つの領域を区分けし,各領域を得点の小さい方から,判別対象1,判別保留,判別対象2と定義した。
7.ハズレ値とその検出用カットオフ値の設定法
ここでは,健常群および疾患群の検査値として,あり得ないような極端な異常値をハズレ値(又は矛盾値)と定義し,潜在基準値,累積スコア及び正準得点のハズレ値を下記のようにして設定した(添付のCD-ROM参照)。各検査の潜在基準値の度数分布図を参照して,その最高のスコア値より累積して,全データの約1.0%以下の範囲にはいるものをハズレ値と決め,その時の限界値を検出用のカットオフ値(スコア)とすることにした。同様にして,各疾患の累積スコアのカットオフ値を設定した。疾患群間の正準得点のカットオフ値は,分布図における最大及び最小のスコア値をカットオフ値とした。
8.健常群と疾患群の検体取り違い判別尺度
12疾患の累積スコアの各度数分布図上に,2つのカットオフ値を設定し健常群,判別保留群及び疾患群の3領域に区分けし,これらを検体取り違いの判定尺度として使用した。その際,カットオフ値は,各疾患の度数分布図を参照して恣意的に決めることにした。
9.病名データ付き尿一般検査データ・べ一スの検索・参照
1)データ・べ一スの検索・閲覧プログラム作成各種の検査に対し,それぞれ任意の検査値をフィルターとして設定する。次いで,これらのフィルターをかけた状態でデータ・べ一スを検索し,該当する尿一般検査データを収集したり,又は疾患名(病名)データを抽出し参照したりするアプリケーション・プログラムを作成した。
2)検査値の分布図の作成・閲覧プログラム作成任意の検査項目を指定し,その項目の度数分布図や2次元の散布図を作成し,これらを参照できるアプリケーション・プログラムを作成した。
10.関連医学情報の閲覧Webページの制作
1)尿一般検査技術情報の閲覧Webページ尿一般検査の早見表は,臨床検査の手引き(第5版,川崎医科大学附属病院中央検査部発行)から引用した。各尿検査項目や尿自動分析機器の解説は各メーカーのWebページや電子医学書を参照できるようにした。
2)尿一般検査の診断上有用な知識閲覧Webページ添付のCD-ROM参照。
11.関連電子医学書籍の準備・参照
今日の診療,ハイパー臨床内科,Laboratorymedi-cine,MAXX,BrennerCD-ROMforthekidney,最新医学大辞典などのマルチメディア電子医学関連書籍を準備し,これらを自在に参照できるようにした。
12.データ処理・統計解析・HTML文書作成
病名データ付き尿一般検査データ・べ一スはMicro-softAccess(Ver2.0)を用いて作成した。潜在基準値標本の抽出や潜在基準値標本のデータ・べ一スの作成および検索・参照などの応用プログラムはMicrosoftVisualBasic(Ver4。0,5.0)を用いて作成した。潜在基準値標本の年齢差・性別差についてのκ2乗独立性の検定はStatFlex(ViewFlex)を用いて行った。データ処理結果の作図はMicrosoftEXCEL(Ver5.0)を用いて行った。多変量解析(クラスター分析,正準判別分析など)は統計解析ハンドブック(田中・垂水編,共立出版,1995)に添付されたプログラムを用いて行った。知識表現にはXpertRuleforWindows(カスタムカパニー)を用いた。尿検査技術情報,尿検査疫学情報及び関連臨床医学情報はFrontPage97,98(Microsoft)及びHomePageBuilder(Ver1.2,IBM)を用いてHTMLにて制作し,閲覧はNC(Ver3.0以降,Netscape)又はInternetExplorer(Ver3.0以降,Microsoft)を用いて行った。コンピュータは,FMV-6200T4,PC9821Xa10(1台),Xa13(2台)を使用した。OSはWindows95,WindowsNT(Ver3.51,4.0),文書・図表の作成はMicrosoftOffice95,98を用いた。
【結果】
1.ハズレ値検出用カットオフ値
1)潜在基準値のハズレ値とその検出用カットオフ値各検査の潜在基準値標本についての,年齢階層別と性別による度数分布図は添付のCD-ROMに示したが,各検査のハズレ値検出用カットオフ値としては恣意的に各検査についての最大値を選ぶことにした。
2)累積スコアのハズレ値とその検出用カットオフ値12種類の疾患における各累積スコアの分布図は添付のCD-ROMに示したが,各疾患のハズレ値検出用カットオフ値としては恣意的に各疾患群における最大の累積スコアを選ぶことにした。
3)正準得点のハズレ値とその検出用カットオフ値II群とIV群,及びII群とV群の正準判別におけるハズレ値検出用カットオフ値としては,恣意的に各判別における正準得点の最小値と最大値を選ぶことにした。
2.健常群と疾患群の検体取り間違いの検出
12種類の疾患群について,今回と前回の検査の累積スコアを各疾患の検体取り違い判定尺度に当てはめた際に,健常群から疾患群或いは疾患群から健常群に振り分け結果が移動した場合に検体取り間違いを疑うことにした。
3.クラスター分析による疾患群間の類似度分析
尿一般検査10項目の平均スコアを用いて,12種類の疾患群問の類似度をユークリッド平方距離により,各クラスター群の併合をウォード法によって解析した。その結果,図4に示すような1群からV群のクラスターに大別された。1と2の疾患は糖尿病で1群(尿糖群),3,4,
5の疾患は腎疾患でII群(腎疾患群),6と7の疾患は腎・尿路系の感染症でIII群(感染群)と命名した。8から12の疾患は非腎疾患群で,これらは尿路結石・膀胱癌・」fn尿(原因不明)のIV群(非腎疾患一1群),前立腺癌・子宮頸癌のV群(非腎疾患一2群)と命名した。II群,IV群及びV群の症例はそれぞれ乱数法により,II-1とII-2,IV-1とIV-2及びV--1とV-2の各群に大別した。
4.累積スコア法による健常群と各種疾患群の判別
累積スコア法では陽性(疾患群)と陰性(健常群)を判別するためのカットオフ値を大きくすると,感度が低下するが,特異度は高くなる。逆にカットオフ値を小さくすると,感度は高くなるが特異度は低下するといった,Tradeoffの関係がみられる。そこで,累積スコア法による健常群と疾患群の判別では,恣意的に95%以上の特異度を維持するようなカットオフ値を設定し,その設定値の下で最高の感度を与える,最少の項目構成を適1Eな項目の選択とした。その結果は表3に示すように,健常群と糖尿病・腎尿路系の各疾患群との判別では平均の感度が男女ともに81,7%で,慢性糸球体腎炎が最高の100%,最低は男性が前立腺癌の54.5%,女性は子宮頸癌の56.4%であった。特異度は男性98.1%,女性97.7%であった。全体で見ると,感度は腎疾患と糖尿病で高く,次いで非腎性疾患群で低下する傾向が認められた。
5.疾患群の大枠振り分け
①尿糖群への振り分け基準尿糖群(1)に対し,感度が最高の尿検査は尿糖で,カットオフ値が0.5の場合で感度は65.4%,1,0の場合で64.2%であった。次に感度の高い項目は粘液糸であったが,この項目は他の腎尿路系疾患,特に下部尿路系疾患で偽陽性が高頻度にみとめられた。そこで,恣意的ではあるが,尿糖のスコアが1以一上の所見を尿糖群(1)の振り分け基準にすることにした。②感染群への振り分け基準次いで,腎・尿路系感染症群(III)では白血球と細菌の感度が高く,両者のスコアによる累積スコアがこの群の振り分け法とし,恣意的であるが,そのスコアが1以上の所見を振り分け基準にすることにした。
③正準判別分析によるII群とIV群,II群とV群の大枠振り分け10項目の検査データを用いてII-1群とIV-1群,及びII-1群とV4群の正準判別分析をおこない判別関数を誘導し、表4に示すような正準変量の係数を得た。次いで,前者の判別関数と検査データよりII-1群とIV-1群(学習用),II-2群とIV-2群(検証用)の各症例の正準得点を計算した。同様にして,後者の判別関数と検査データよりII-1群とV-1群(学習用),II-2群とV-2群(検証用)の各症例の正準得点を計算し,分布図を作成した(図5)。その結果は,表5に示すように学蒼ギ用および検証用データにおいて,II群に対する1E判別率は,検証例においても75--80%と高く,IV群とV群に対する正判別率は,もっと高く84%~90%であった。なお,IV群とV群の判別では,相互の重なりが広く満足すべき結果が得られなかった。次いで,II群とIV群及びII群とV群の正準得点の分布図上に,それぞれII群,判別保留群及びIV群,II群,判別保留群及びV群の3区分に大別するためのカットオフ値を恣意的に設定し,判別尺度を作成した。
6.尿一般検査による疾患振り分けシステムの概要
本システムの概要は下記の通りで,尿一般検査システムのオプションとして運用できる。即ち,先ず疾患振り分けシステムは精度管理された患者の尿一般検査データを検査システムから受け取る。この時点で疾患振り分けシステムがスタートし,推論過程はStep1からStep6へと進む。Step1.前処理①指定された被検者の前回と今回の尿検査データ(10項目)の抽出,②各検査データのスコア化,③各検査項目についての潜在基準値標本であるかの判定,④各疾患群の累積スコア計算,⑤正準得点の計算を行う。Step2.ハズレ値点検①潜在基準値のハズレ値点検,②累積スコアのハズレ値点検,③正準得点のハズレ値点検を行う。①のハズレ値点検では,被検者の検査データについて10項目の各尿検査の潜在基準値を求める。その際,いずれかの検査項目について潜在基準値標本と判定された場合は,その該当する項目の値がいずれもハズレ値でなければ,②に進み,そうでなければ④の処理をして,②に進む。一方,どの検査項目についても潜在基準値標本と判定されなかった場合は②に進む。②の累積スコアの点検では,被検者の累積スコアが12種類の疾患群の各累積スコアについてハズレ値でなければ,③に進む。ハズレ値が1つ以上あれば,④の処理をして,③に進む。③の正準得点のハズレ値点検では,被検者の1E準得点がハズレ値でなければ,step3に進む。ハズレ値であれば,④の処理をしてstep3に進む。但し,前回値がなければ,Step4にスキップする。④の処理:検体の確認,再検査,或いは検体の再提出による再検査を行い,問題を解決する。Step3.健常者と患者の検体取り違いの点検12種類の疾患群について,今回と前回の検査値より計算した各累積スコアを検体取り違い判定尺度に当てはめて,健常群から疾患群,又は疾患群から健常群に移動した場合には,④の処理をしてからstep4に進む。移動がなければ,step4に進む。.Step4.累積スコアによる健常者と糖尿病/腎尿路系の各疾患群との振り分け被検者の検査値より計算した12種類の累積スコアを,各疾患群の振り分け尺度にあてはめる。その結果,①すべて健常群と判定された場合には,健常者群に振り分けて,step6の終了にスキップする。②疾患群への振り分はないが,保留群が1つ以上あれば,保留群に振り分けて,step6の終了にスキップする.③1つ以上で疾患群に判定されたら,step5に進む。Step5.疾患群の大枠振り分け①尿糖群への振り分け尿糖のスコアが1以上であれば,1群(尿糖群)に振り分けて,次の②に進む。1より小さければ,②に進む。②感染群への振り分け白血球のスコアが1以上で,且つ白血球と細菌の累積スコアが1以上であれば,III群(感染群)に振り分けて,次の③に進む。そうでなければ,③に進む。③判別得点による大枠疾患群問の振り分け①II群(腎疾患群)とIV群(非腎疾患群一1)の判別②II群(腎疾患群)とV群(非腎疾患群一2)の判別①の正準得点を判別尺度に当てはめて,II群,判別保留又はIV群に判別する。次いで,②の正準得点を判別尺度に当てはめて,II群,判別保留又はV群に判別する。最後にstep6に進む。Step6.終了以上の推論過程はXperRuleにて記述し,試作検証システムを制作した。
7.病名データ付き尿一般検査データ・ベースの検索・参照
1)データ・べ一スの検索・閲覧プログラムの活用検索・閲覧プログラムを利用することによって,各種の検査に対し,それぞれ任意の検査値をフィルターとして設定し,該当する尿一般検査データを収集したり,同時に疾患名データを抽出し参照したりすることが可能となった。2)検査値の分布図の作成・閲覧プログラムの活用任意の検査項目を指定し,その項目についての度数分布図や2次元の散布図を作成し,これらを参照することが可能となった。
8.関連医学情報のWebページの閲覧
1)尿一般検査技術情報の閲覧尿一般検査の早見表の参照(Webページ),各尿一般検査項目や尿自動分析機器ついての解説の閲覧(電一予書籍による)が可能となった。2)尿一般検査の診断上有用な知識べ一ス(Webページ)の閲覧項目のみ列記する(詳細は添付CD-ROM参照①キーワードの解説の参照②尿一般検査の潜在基準値の世代別,男女別の分布図と男女間差の検定結果の閲覧③尿一般検査10項目の真陰性率(特異度)の参照④糖尿病・腎尿路系疾患群における尿一般検査10項目の真陽性率(感度)の参照⑤糖尿病・腎尿路系疾患症例振分における累積スコア法の感度・特異度の参照12種類の代表的な糖尿病・腎尿路系疾患群における尿一般検査10項目の真陽性率(感度)が参照できる。
9.マルチメディア電子書籍の参照・閲覧
今日の診療,ハイパー臨床内科,Laboratorymedi-cine,MAXX,BrennerCD-ROMforkidney,最新医学大辞典などのマルチメディア電子書籍が自在に参照・閲覧できる。
【コメント】
臨床検査の領域では,検査のソフトとハードが技術革新を背景にして進歩が目覚ましく,自動化から検査のシステム化,更に搬送システムへと発展して今日に至っている。それと平行して,検査データは分析法と試薬の技術革新によって,高い精密性が保証されるようになり,正確さについても免疫反応を使った検査を除けば,かなり高いレベルまで品質保証が期待できるところにきている。そして,いよいよ臨床検査は,分析重視から検査情報の付加価値化へ,つまり情報の有料化の課題が益々重要性を帯びる時代に入ってきていると言われる。尿一般検査による検証システム開発に関する研究は,医療がこのようなアプリケーションの受け入れを望み,更にそれらを稼働させるための情報ネットワーク・システムも整ってきた時期に行うことができた。この点は,これまでに開発された優れたアプリケーションが,一部の例を除けば,ことごとく研究レベルで終わったことを思えば,特筆に値することであろう。そして,本検証システムの機能と特徴は,①潜在基準値,累積スコア値及び正準得点のハズレ値(論理的な矛盾値)の点検と対策,②健常群,保留群,尿糖群,感染群,腎疾患群,及び非腎疾患群の大枠振り分け機能,③stepbystepによる推論過程をとることによって,同一患者における複数の病態群を漏れなく判別できること,④欠損値があれば,その制約のもとでの推論ができること,⑤さまざまな検索・参照・閲覧機能:病名付き検査データ・べ一スの検索・閲覧,マルチメディア医学専門書の参照・閲覧,各種の文献検索(医学中央雑誌,medlineなど),及びイントラネット・インターネット上の知識検索・閲覧などにある。しかし,本検証システムは未だ実用化されておらず,システムの真の評価は実用化の後まで待たねばならない。仮に,本システムが臨床応用で成功するならば,他の開発済みの化学検査や血液検査などの検証システムも臨床応用で高い評価を受ける可能性が高いと思われる。
【結語】
本研究では尿一般検査の検証システム開発に関する基礎的研究をおこなった。本システムは未だ本稼働させるに至っていないが,その機能と特徴は下記の通りである。①ハズレ値(矛盾値)の点検・対策,②累積スコア法と正準判別分析などによるstepbystepの大枠振り分け(健常群,保留群,尿糖群,間船群,腎疾患群,非腎疾患群),及び③検索・参照・閲覧機能の実装:病名付き検査データベースの検索・閲覧,臨床医学情報の参照・閲覧,インターネット・イントラネット上の医学知識の参照などである。今後は,本検証システムをオプションとして尿一般検査システムに連動させて本稼働させその有用性を評価したい。