2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

クロスフロー方式風力発電機の研究(低速から発電して蓄電するために)

実施担当者

河内 康昭

所属:群馬県立太田工業高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 東北大震災により、原発の稼働が停止したため、かつて経験したことのない計画停電の中で不安な日々を過ごし、やっと電気が来るようになった。それまで、当たり前のように使っていた電気のありがたみをあらためて痛感した。そこで、自分たちで電気を作り必要な時に使えるようにしたいと考えた。それが、今回の風力発電を始めるきっかけである。ソーラーによる発電も考えたが、よりシンプルな形での発電を考え、風力発電に決まった。


2.風車の種類

(注:図/PDFに記載)

 風車は、図2-1に示したように、上段の水平軸型と下段の垂直軸型に分かれる。今回採用した方式は、風向きが変わりやすく、風
上の建物による渦が発生しやすいこともあり、平均風速が3m/s程度の太田の地には、適しているのではないかということで垂直軸型クロスフロー方式になった。


3.クロスフロー方式風力発電機
 水平軸型プロペラ方式の風車に比べて、垂直直軸型クロスフロー方式の風車は全方位性なのでプロペラ方式のように風向きが変わるごとに旋首が右へ左へ動くことはない。しかし、受風面の半分は回転方向と逆の風向きとなり、回転抵抗を減らす必要がある。そこで、ガイドべーンをつけてみた。このことによって、羽根車には、ガイドベーンから接線方向の風が入り旋回し、回転方向とは逆に風が吹くところには風車に風が当たらないようにガードすることから効率よく旋回することができる。モデルとして作ったのが図3-1クロスフロー方式プロトモデルである。

(注:図/PDFに記載)

 クロスフロー方式プロトモデルでは、ガイドベーンはアクリル板と竹ひごで、風車はペットボトルを加工して製作した。DCモーターで発電するが起電圧が低いので昇圧装置によって
LEDを点灯させる。


4.ガイドベーン
 図4-1のように、右回転する羽根においては、左側は、風下に押されるように回転するが、右側は風上に向かって回転しなくてはならない。そこで、6枚のガイドベーンを付けることによって風車の接線方向から風を導き、左側は効率よく旋回させ、右側は風上に向かう風車にガイドベーンで風をガードすることにより旋回抵抗を小さくすることが出来る。

(注:図/PDFに記載)


5.重心移動型フライホイール
 風速が小さい時は低回転なので4本の筒に入っているウエイト(小さい鋼球)が移動せず、風速が大きくなると遠心力でウエイトが外側に移動して慣性力を大きくする。その様子を、図5-1に示す。

(注:図/PDFに記載)


6.モデルの増速装置と昇圧装置
 図6-1は、モデルを下から見た図で、プーリーを使った増速装置と昇圧装置がユニバーサルプレートに設置されている様子を示す。

(注:図/PDFに記載)


7.製作過程について
 図7-1は、風車の組み立てをしている様子である。羽根車の部品は、天板と底板はステンレス板をレーザーで加工した。8枚の羽根は、アルミを加工してアルミシャフトで上下のステンレス板に固定する。風車の直径は、400mm、高さは450mmである。羽根幅は、100mm、高さは400mmである。

(注:図/PDFに記載)

 図7-2は、ガイドベーンの組み付けをしているところである。これも、天板と底板はレーザーで加工して接線方向から風が風車に入るようにスリット加工してそこにアルミの案内板を入れる。ガイドベーンの直径は550mm、高さ600mmであり、ガイドベーンの板幅は148mm、高さ600mmである。

(注:図/PDFに記載)


8.増速用ギアボックス
 風車の回転は、早くても百rpm前後なのでモーターが規定の電圧を発生する数千rpmの領域に行くには、1:100程度のギア比が必要になる。そこで、歯車による2段増速で100倍の増速を可能にしている。歯車は、軽量化のため、プラスチック歯車を使うことにした。また加工精度によって、歯車の噛み合いが渋くなるので、調整が必要になってくる。図8-1に増速用のギアボックスを示す。発電用モーターは、コアレスモーターのマクソン製を用い始動性および発電効率を向上させた。

(注:図/PDFに記載)


9.実機・風力発電機の全体図
 図9-1に示すのが風力発電機の全体図である。上部に、風車の回転を増速する変速装置とモーターがある。フレームの上部と下部の鉄板には軽量化と風車のメインテナンス性の向上のため大きな穴があいている。また、図9-2は、ガイドベーンの中に風車が収まっている様子である。風車は、ガイドベーンに垂直に入れることができる。

(注:図/PDFに記載)


10.おわりに
 クロスフロー方式プロトモデルを製作して、風速3m/s程度で1Vしか電圧が出ないことを確認した。そこで、昇圧することでLEDを光らせることが出来た。また、重心移動方式フライホイールをつけることで始動性を損なうことなく、慣性力を利用することが出来た。それを元に、実機の製作に移った。自作のギアボックスについては精度を出すのが難しく、微調整が重要になる。風はギア同士の少しの抵抗で風車を止めてしまう。改善の結果、風速3.5m/sで6Vの電圧を記録した。しかし、予定していた電気二重層コンデンサー(700F)につなぐと、一瞬電流が上がったのち電圧は1V程度となり風車の回転も遅くなった。今後は、電流制御を行い小電流で蓄電できるようにしたい。また、実機では重心移動式フライホイール製作は行うことができなかったが、今後の課題としたい。