2009年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報第23号

インピーダンス測定法を用いた新しい骨癒合判定法の確立と携帯型測定器の開発

研究責任者

金 郁喆

所属:京都府立医科大学大学院 医学研究科 運動器機能再生外科学 助教授

共同研究者

吉田 隆司

所属:京都府立医科大学大学院 医学研究科 運動器機能再生外科学(整形外科) 大学院

共同研究者

岡 佳伸

所属:京都府立医科大学大学院 医学研究科 運動器機能再生外科学(整形外科) 大学院

概要

1. はじめに
創外固定法は、開放骨折や長管骨の変形矯正、脚長差の補正、偽関節の治療など、整形外科臨床の場において広く普及している。骨折部や損傷した周囲軟部組織に侵襲を加えることなく比較的強固な固定ができる利点があるのに対し、長期にわたる治療もまれではなく、固定ピン周囲の感染や深部感染による骨髄炎、近傍の筋萎縮や関節硬縮、あるいは関節症の進行をきたすことがあり、早期の骨癒合評価と創外固定抜去時期の判定が重要である。しかし、依然として骨癒合評価は、X 線学的検査や臨床所見に委ねられており、創外固定抜去後に再骨折や変形の再発など合併症を生じることもまれでなく、臨床の現場において非侵襲的でより正確なデータの得られる評価法が切望されている。
2.インピーダンス測定法について
今日まで骨癒合評価法として、Bending stiffness test、骨密度測定法、超音波法、CT 法、音響伝導法、音響抵抗法などが報告されているが、臨床応用にいたっていない。その理由として評価方法の煩雑さや、放射線被爆量が高いことがあげられる。より非侵襲的な評価法確立のため、われわれは、創外固定に刺入された鋼線を電極として交流電気刺激を行うことにより計測されるインピーダンス値(Z 値)に着目した。インピーダンス測定法は、現在生体で体脂肪率測定などに応用され、非侵襲的で簡易に測定できる点から広く普及している。また、この測定法を用いてスポーツ競技者を対象とした四肢の筋容積を評価する試み1)2)も施行されている。創外固定法では、鋼線がすでに骨内に刺入されているため、追加の侵襲がなく、数μA の微弱な交流電流であるため組織障害を生じない。また、皮膚を接点とする間接式の体脂肪率や筋容積測定計と比較しても、直達式により正確な骨成熟過程のZ 値の測定が可能である。
3.1 仮骨延長モデルの実験
既設の骨折モデル測定法を仮骨延長モデルに応用した。生後5 週の日本白色家兎24 羽を用い静脈麻酔および局所麻酔下に、径2.0mm のステンレススチール性ねじ切り鋼線4 本を近位と遠位にそれぞれ2 本ずつ刺入し、Orthofix M100 創外固定器で固定した。遠位鋼線から5mm 近位部に骨切りを加え、1 週間の待機期間の後、1 日1mm の仮骨延長を10 日間行った。単純X 線撮影とZ 値の計測は延長終了後1 週間隔で行った。24 羽を延長終了後2、4、6、8 週の4 群(各群n=6)に分類し、静脈麻酔下に骨膜まで剥離した状態を作製し、骨抵抗率を測定した。その後安楽死させ脛骨を摘出し、延長仮骨部の断面積と、仮骨の最大破断曲げ応力の測定を行った。
3.2 実験結果
単純X 線像では、延長終了後2 週で延長仮骨内の石灰化像が中央部で癒合し、4 週で管状構造が形成された。以降髄腔化と皮質骨化が進行し、6-8週時には骨成熟が得られた(図1)。
Z 値は、延長終了早期に軽度減少したが、以降経時的に上昇し、7 週以降ほぼ一定化した(図2)。
骨抵抗率は4 週まで減少後、ほぼ一定化した(図3)。仮骨断面積は、6 週まで減少し、以降一定化した(図4)。曲げ応力は、経時的に上昇し6 週以降は上昇率が減退した(図5)。延長仮骨断面積と曲げ応力との間には、有意な負の相関関係を認めた(p<0.001、相関係数-0.79、R2=0.57)(図6)。
3.3 考察
測定鋼線間の電気的特性は、鋼線間距離と抵抗率、および伝導路の変化で決定される。鋼線間距離は延長終了後35mm の一定であるが、抵抗率と伝導路は延長仮骨の成熟過程で変化する。4 週までの抵抗率の減少で、延長終了早期にはZ 値が軽度減少したが、以降の伝導路の変化(狭小化)によりZ 値が経時的に上昇した。この伝導路の変化は仮骨成熟を表し、曲げ応力とも強い相関を示した。以上の結果から、Z 値を経時的に捉えることにより、骨成熟を電気生理学的に評価することが可能と考えた。
4.1 骨髄内抵抗の測定実験
創外固定装着下でのインピーダンス測定法は,創外固定の鋼線を電極として骨成熟過程の電気的特性の変化を評価する手法である。われわれは,実験的骨折モデルや仮骨延長モデルで骨成熟に伴い経時的にZ 値が上昇すると報告した。しかし、この上昇の要因に関しては未だ不明な点が多い。本研究では、創外固定の刺入鋼線の髄内埋入部以外を絶縁処理し、in vivo での髄内のインピーダンス値(Zm 値)の変化を測定することにより、髄外のインピーダンス値(Zo 値)を算出した。ZmとZo 値の変化からZ 値の上昇の要因を検討した.【対象および方法】生後5 週の日本白色家兎16羽を用いた。右脛骨内側面に4本の鋼線を刺入し、Orthofix M100 創外固定器で固定した。Zm 値測定用の電極は、髄内に埋没する幅1mm 以外は絶縁処理し、測定間距離25mm で創外固定器の鋼線間に固定した。16 羽を脛骨遠位1/3 での骨折群(F 群:n=8)と対照群(C 群: n=8)に分類し、術後8 週までの単純X 線撮影と経時的なZm 値の変化を計測した。さらに得られたZm 値とZ 値からZo 値を算出し,経時的変化を検討した。
4.2 実験結果
単純X 線像で骨切り部は,術後2 週に外仮骨による連続性が得られた後骨成熟が進行し、6 週時には骨癒合が得られていた。C 群のZm 値は,術後1 週から7週まで経時的に減少した。F 群のZm 値は、術後1 週から2 週時に上昇した後減少し、術後6 週以降ほぼ一定化した。両群間では、1、3、5-7 週で有意差を認めた。Zm 値が減少したのに対し、F 群のZo 値は、Z 値の変化と同様に経時的に上昇した。
4.3 考察
Z 値は,仮骨の形成やリモデリングに伴う抵抗率と伝導路の変化、軟部組織の修復変化、および鋼線周囲との接触抵抗を合わせた鋼線間のTotalインピーダンス値である。細胞増殖や仮骨期には、Zm 値の変化から髄内の細胞増殖性変化によりZ 値が上昇し、以降のリモデリング期には、Zm 値が減少するのに対しZo 値が上昇することから、髄内以外の伝導路の変化によりZ 値が上昇すると考えた。
5.イリザロフ創外固定での絶縁法
Ilizarov 法は、ロシアで開発された治療法で、貫通ピンやハーフピンを骨内に刺入し、これを創外からリング状の固定器に固定し、骨折部を安定化する手法である。また、このリング間の距離や角度を調節することにより、脚延長や変形矯正が可能で、小児の先天性疾患や外傷後の変形矯正、および骨欠損や偽関節治療など、整形外科領域では世界中で頻用されている。しかし、この固定法は刺入鋼線も固定リングも金属製であるため、Z値の測定にはピンクランプの絶縁が必要である。そこで、今回絶縁クランプを開発し、Z 値の経時的変化と延長仮骨成熟との関係を調査する臨床応用を開始した。
6.携帯型測定器の開発
これまで、家兎を用いた実験的創外固定モデルや、橈骨遠位端骨折の創外固定治療下での経時的なZ 値測定は、デジタルオシロスコープを用いて行ってきた。Z 値の測定手技は容易であるものの機器が大きくかさばるため、多施設にわたる患者の定期的測定は容易でなかった。そこで、軽量化された携帯型の測定器を(株)エム・イー・システム(MES 社)と共同で開発した。
これにより、主治医のみならず患者個人でも簡便に測定することが可能となり、Z 値測定による骨癒合判定法確立の一助になるものと期待される。また、これまでのX 線による仮骨成熟評価だけでなく、患者も容易にZ 値を数値として認識することが可能で、骨折治療に対する意識向上にも寄与するものと期待される。
7.まとめ
インピーダンス測定法を整形外科領域における骨成熟度判定に応用した。家兎を用いた実験的仮骨延長モデルでは、Z 値は仮骨成熟過程に伴い有意に上昇し、その後一定化した。同時期に仮骨の力学的強度もほぼプラトーに達し、創外固定抜去可能と考えられた。骨髄内抵抗を測定した研究では、細胞増殖や仮骨期には、髄内の細胞増殖性変化によりZ 値が上昇し、以降のリモデリング期には、髄内以外の伝導路の変化によりZ 値が上昇することが明らかとなった。
Ilizarov 創外固定器のピンクランプの絶縁や携帯型測定器を開発し、臨床応用の適応が拡大した。小児疾患や橈骨遠位端骨折症例で用いられる小型の創外固定器や、四肢長管骨に用いられる大型の創外固定器、さらにIlizarov 創外固定器まで含めてZ 値測定がさらに簡便となり、経時的変化をより詳細に評価することが可能である。また、患者がその測定値を認知することにより、患者参加型の骨折治療に寄与することが期待できる。