2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

イネ科植物を使ったファイトレメディエーションの研究

実施担当者

西出 雅成

所属:北海道有朋高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 私たちSOHC(園芸・科学)部は、2009~2011年に道産米によるカドミりムの吸収量を調べる実験を行い、食の安全性の研究を行ってきた。さらに、それまでの研究手法(キレート分析、原子吸光分析)などを参考に、原発事故によって飛散したCs回収への方法として、稲を使った上壌浄化(ファイトレメディエーション)の研究を2014~2015年に行ってきた。その結果、稲の根の部分にCsが吸収されること。また、Csを吸着するとされているバーミキュライト(以下Vtとする。)からの吸収を試み、しつかりと張る稲の根から定性的にCs吸収を確認した。

(注:図/PDFに記載)

 これらのことをもとに、今年度はイネ科植物のチモシーに着目して、チモシーによるファイトレメディエーションの研究に取りかかり、Cs汚染土壌からの回収方法としての可能性を検討した。


2 今年度の研究
チモシーによるCs吸収Vt土壌での栽培と以下3つの分析実験を行った。
1)Cs吸収の定性分析(Cs錯塩の確認)
2)Cs吸収の定量分析(キレート滴定)
3)ICPプラズマ発光分光分析の利用(Cs吸収の定量)

(注:図/PDFに記載)

【研究前にVt士壌へのCs吸収を確認した】
 Vtに50mgのCsを水溶液にして添加し3日間乾燥後、脱イオン水を加え、Csが溶出してくるかどうか、Csが定性確認されるCs錯塩(ヘキサシアニド鉄(II)酸マグネシウムセシウムの白色沈殿)の有無を調べる実験を行った。

【結果】
(注:図/PDFに記載)


3 研究方法と結果
3-1 実験1 チモシーの播種 容器 育成記録
市販発泡スチロール容器に1500gのVtを入れ、Cs1500mgを吸着させ、チモシーの種を播種密度(約1mg/cm2)で容器内(面積約1500cm2、土壌深さ約4cm)に蒔く。
日当たりのよい校舎南側教室に設置。
給水はVt土壌が乾燥しない程度に脱イオン水を適時散布した。

【結果】(観察記録より)
 発芽約90日までにCs吸収Vtの方が生長が著しく、対照区と明らかな差が見られた。

(注:図/PDFに記載)

3-2 実験2 Cs吸収の定性分析(Cs錯塩の確認)
試料の分解方法
 乾燥させたチモシー200mgを切り分け、強化プラスチック製の電子レンジ用分解容器に入れ、ドラフター内で、濃硝酸2.0mL、60%過塩素酸0.3mL、6M塩酸0.15mL、濃フッ化水素酸0.15mLを加え、電子レンジ200Wで3分間試料を溶解させる。その後、蒸発乾固させ、試料が透明(写真右下)になるまで、上記の酸を再び加え、電子レンジでの分解を3回ほど繰り返す。

(注:図/PDFに記載)

その後0.5M-NaOHで中和して、バッファー(緩衝液NH3-NH4Cl)を数滴加え、pH=10に調製する。

分析の方法
Cs吸収の定性分析(Cs錯塩の確認)
 Csは、Cs12Mg8[Fe(II)CN6]7のヘキサシアニド鉄(II)酸マグネシウムセシウム(錯塩)の白色沈殿を生じる。これを利用して、Csが含まれる水溶液にMg標準液(硝酸マグネシウム水溶液1%)とヘキサシアニド鉄(II)酸イオンを含む水溶液1%をそれぞれ250μL添加し、白色沈殿(錯塩)を確認して定性分析を行った。

【結果】

(注:図/PDFに記載)

チモシー上部(約10cm以上)及び下部(約10cm以下)ともにCs錯塩(白色沈殿)を確認した。

3-3 実験3 Cs吸収の定量分析(キレート滴定)Mgを用いた間接キレート滴定
 錯塩の形成で残されたMgを0.01M EDTA(エチレンゾアミン四酢酸二水素ニナトリウムニ水和物)でキレー卜滴定することで間接的にCsの吸収量を求める。あらかじめCs O~10mgの範囲で作成した検量線にて定量する。

【結果】

(注:図/PDFに記載)

 添加するMg標暉夜250μLでは、滴定値の10.156mLは超えないはずである。
 それなのに平均で12.62mLと、スケールアウトしたのはなぜか。
 バーミキュライトの鉱物組成を調べたところ、一般組織(Mg3Si4O10(OH)2・4H2O)にMgが多く含まれることからチモシーが生育中にバーミキュライトからMgを吸収したのではないかという推測を立てた。
そこで、チモシー100mgの分解試料にMg標準液250μLのみを加え、Vtから吸収したMg景をEDTAで滴定し求めることにしtc.a

(注:図/PDFに記載)

3-4 実験4 ICPプラズマ発光分光分析装置(多元素分析可能)の利用(Cs吸収の定量)
 これまでの定性分析、キレート分析と同様に試料を分解し、測定に用いる溶液を50mLに希釈して測定した。

(注:図/PDFに記載)

 ICPの測定結果では、チモシー200mgあたり9.31ppm(平均)、Cs換算で0.47mg(SD1.47)とキレート分析より低い値となっている。これは、ICPプラズマ発光分光分析は、プラズマ化したアルゴンガス(Arプラズマ)を利用するため、Arよりも励起エネルギーの高いCsの場合は、測定の感度は低くなることが指摘されている。今回の差はこれらによるものと思われる。今後は試料をさらに濃縮することで、比較的明瞭にとらえている測定範囲を選択し取り組んでいきたい。


まとめ
1. Csはチモシーの生長を促進させる。
2. チモシーは、バーミキュライトに吸着したCsを吸収することができる。
3. チモシーは、バーミキュライトからMgを吸収している。