2017年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報30号補刷

アルツハイマー病の診断・治療に資するアミロイド SPECT イメージング法の開発

研究責任者

小野 正博

所属:京都大学大学院 薬学研究科 病態機能分析学 准教授

概要

1. はじめに
近年、本邦における急速な高齢化に伴い、アルツハイマー病(AD)患者の増加が大きな社会問題のひとつになっている。しかし、AD の確定診断は患者剖検脳の病理学的所見に委ねられており、重篤な脳障害が生じる前の早期段階で AD を診断することは困難となっている。また、AD は有効な治療方法が確立されていない、アンメットメディカルニーズの高い代表的疾患であり、その診断・治療方法の開発が強く望まれている。AD 発症までの特徴的な脳病変として、βアミロイドタンパク質(Aβ)凝集体を主成分とする老人斑の沈着と異常リン酸化タウタンパク質凝集体を主成分とする神経原線維変化が知られている。なかでも、A?の脳内蓄積は AD 発症過程の最も初期段階より始まることから、Aβの生体イメージングはAD の早期・予防診断や病状進行の判定、治療法の開発支援につながると期待されている。
老人斑アミロイドは、アミロイド前駆蛋白質(APP) から分解酵素であるβ-セクレターゼ、γ-セクレターゼにより順次切り出された Aβ(1-40)、Aβ(1-42)が凝集、線維化することにより生成する。この老人斑を体外より画像化するためには、透過性の高い放射線を利用したプローブが有用である。この放射性プローブに求められる性質としては、①血液脳関門の透過性、②老人斑アミロイドへの選択的結合性、③非結合分子の脳からの速やかな消失性が挙げられる。老人斑アミロイドの画像化は、老人斑に結合したプローブから放出される放射線を positron emission tomography (PET)、single photon emission computed tomography(SPECT) 装置を用いて体外より検出するという原理に基づいている。
現在までに、アミロイド染色試薬であるチオフラビンT やコンゴーレッドなどから派生した多くのアミロイドイメージングプローブが開発され、PET 用プローブである[11C]PIB、[11C]SB-13、[18F]BAY94-9172、[11C]BF-227、[18F]FDDNP による臨床研究が行われ、最近では3つの化合物がFDA の認可を受けている。一方、世界を見渡すと、日本においてさえ PET が使用可能な施設は少なく、Aβ の生体イメージングにより AD の予防を広く進めるためには、半減期の短い PET 製剤ではなく、広く普及している SPECT 装置で撮像可能なイメージングプローブの開発が望まれる。しかし、主要な SPECT 用核種である 99mTc を標識核種とする実用的な Aβ イメージングプローブの報告はこれまでにない。日本で使用される全放射性医薬品の核種別放射能の割合は、99mTc だけでおよそ80%を占めており、99mTc を標識核種とする SPECT製剤の開発は Aβイメージングによる AD 診断を普及するためにも喫緊の課題である。
筆者らは、コンゴーレッドおよびチオフラビンT とは異なる Aβ イメージングプローブの基本骨格の探索研究の中で、キノキサリン誘導体が Aβ 凝集体への高い結合性を示し、Aβ イメージングプローブとして機能することを報告してきた。そして今回、これらの化合物を母核とする SPECT 用放射性核種である 99mTc で標識した新たな Aβ イメージングプローブの開発を計画した。
99mTcは画像診断に適した半減期 (6.01時間)と放射線の体外計測に適したエネルギー (141 keV) のγ線のみを放射し、さらに 99Mo との放射平衡を利用 したジェネレータ システム(99Mo/99mTc ジェネレータ) で容易に入手できることから、現在、核医学画像診断に最も汎用されている放射性核種である。しかし一般的に、遷移金属である 99mTc は 18F や 123I などの放射性核種とは異なり、同一化合物の中に、標的分子との結合部位および 99mTc 錯体形成部位が必要であるなど、非常に高度な分子設計が必要となる。これまでに各国の研究グループにより数種の 99mTc 標識 Aβ イメージングプローブが開発されてきたが、臨床研究が行われたプローブは未だ報告されていない。
本研究では、臨床診断上汎用性の高い Aβ イメージングプローブの開発を目的として、Aβとの結合部位としてキノキサリンを基本骨格に選択し、血液脳関門の透過性を考慮して、99mTc と電気的に中性な錯体を形成することが知られている錯体形成部位である monoamine-monoamide dithiol (MAMA) および bis-amino-bis-thiol (BAT)を導入したキノキサリン誘導体を設計・合成した。さらに、インビトロにおける結合実験、正常マウスを用いた体内放射能分布実験、Tg2576 マウス脳切片を用いた蛍光染色実験を行い、それらの化合物の Aβ イメージングプローブとしての基礎的評価を行った。本研究では、筆者が開発した SPECT 用 Aβ イメージングプローブである、99mTc 標識カルコン誘導体を比較化合物として用いるため、その合成および評価結果に関して紹介する。

2.実験方法
2.1 99mTc 錯体形成部位の合成
2-(Tritylthio)ethanamine hydrochloride (1)
2-Mercaptoethylamine hydrochloride (1.14g,10mmol) と triphenylmethyl chloride (2.79g, 10mmol) を DMF (10mL)に溶解し、室温で 72 時間反応させた。溶媒を減圧留去した後、酢酸エチルに再溶解し、氷冷下で 5% NaHCO3 水を加えた。析出した白色固体を吸引濾過によって回収し、化合物 1を得た。収量 3.50 g (収率 98%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.31 (t, J = 6.8 Hz, 2H)、2.60 (t, J = 6.8 Hz, 2H)、7.18-7.31 (m, 9H)、7.43 (d, J = 7.2 Hz, 6H)。

2-(2-(Tritylthio)ethylamino)-N-(2-(tritylthio)ethyl)acet amide (Tr-MAMA) (2)
化合物 1 (2.50g, 7.02mmol) をクロロホルム(20 mL)とトリエチルアミン (5 mL) に溶解した。氷冷下で bromoacetyl bromide (0.5 mL, 5.76 mmol) をゆっくりと加え、0℃ で 3 時間反応させた。希硫酸 (pH 3)、飽和 NaHCO3 水、飽和 NaCl 水で順 次洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルムを溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して粗精製後、酢酸エチルを溶出溶媒と する中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物2 を得た。収量 1.39 g (収率 58%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.35 (q, J = 6.6 Hz, 4H)、2.45 (t, J = 5.9 Hz, 2H)、3.02 (s, 2H)、3.07 (q, J = 6.3 Hz, 2H)、7.18-7.29 (m, 18H)、7.38?7.42 (m, 12H). MS m/z 679 (MH)。

tert-Butyl-2-(2-(tritylthio)ethylamino)ethyl2-(tritylthi o)ethylcarbamate (Tr-BAT) (3)
N1,N2-Bis(2-(tritylthio)ethyl)ethane-1,2-diamine (3.33 g, 5 mmol) をジクロロメタン (80 mL)とDIPEA (0.86 mL, 5 mmol) に溶解した。氷冷下でジクロロメタン(20 mL) に溶解した di-t-butyl dicarbonate (1.09 g, 5 mmol) を滴下して加え、0℃で 1 時間反応させた。溶媒を減圧留去した後、クロロホルム-メタノール混液 (99:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物3 を得た。収量 3.59 g (収率 94%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.37 (s, 9H)、1.54 (s, broad, 1H)、2.46-2.28 (m, 8H)、2.96 (s, broad, 4H)、7.17?7.30 (m, 18H)、7.37?7.43 (m, 2H)。

2.2 カルコン誘導体の合成
(E)-3-(4-(Dimethylamino)phenyl)-1-(4-hydroxypheny l)prop-2-en-1-one (4)
p-Hydroxyacetophenone (1.36g, 10mmol) と p-dimethylaminobenzaldehyde (1.49g, 10mmol)をエタノール(15 mL)に溶解した。10% KOH (30 mL) を撹拌しながら徐々に加え、100℃ で 12 時間加熱還流させた。酢酸エチルと 1 M HCl で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルム-メタノール混液 (49:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物 4 を得た。収量 1.86 g ( 収率 70%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 3.05 (s,
6H)、6.70 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、6.91 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.34 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、7.55 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 16.2 Hz, 1H)、7.99 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。

(E)-1-(4-(5-Bromopentyloxy)phenyl)-3-(4-(dimethyla mino)phenyl)prop-2-en-1-one (5)
化合物 4 (1.51g,5.64mmol) および1,5-dibromopentane (1.54 mL, 11.4 mmol)、炭酸カリウム (1.5 g)を、アセトニトリル (15 mL)に懸濁させ、4 時間加熱還流した。溶媒を減圧留去した後、クロロホルムと水で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。残渣をDMSO とヘキサンで分液し、DMSO 層を濃縮後、得られた残渣を、クロロホルムを溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物 5 を得た。収量 1.48 g (収率 63%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.62-1.70 (m, 2H) 、 1.83?1.90 (m, 2H) 、1.91-2.01 (m, 2H) 、3.05 (s, 6H), 3.56 (t, J = 6.8 Hz, 2H)、4.06 (t, J = 6.3 Hz, 2H)、6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.95 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.36 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、7.55 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、8.02 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。

(E)-1-(4-(3-Bromopropoxy)phenyl)-3-(4-(dimethylam ino)phenyl)prop-2-en-1-one (6)
化合物 4 (890 mg, 3.33 mmol) および 1,3-dibromopropane (0.679 mL, 6.66 mmol) と炭酸カリウム (1 g) をアセトニトリル (25 mL)に懸濁させ、4 時間加熱還流した.溶媒を減圧留去した後、クロロホルムと飽和 NaCl 水で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、DMF とヘキサンで分液し、DMF 層を濃縮後、クロロホルム-メタノール混液(199:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物6 を得た。収量981 mg(収率 76%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.35 (quin, J = 6.1 Hz, 2H)、3.04 (s, 6H)、3.61 (t, J = 6.5 Hz, 2H)、4.18 (t, J = 5.7 Hz, 2H)、6.69 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.97(d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.35 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、7.55 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、8.02 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。

化合物 7 (Tr-MAMA-C5-CH)
化合物 5 (485 mg, 1.13 mmol) と化合物 2 (830 mg, 1.22 mmol) を DMF (10 mL) と DIPEA (1 mL) に溶解し、12 時間加熱還流した。溶媒を減圧留去した後、クロロホルムと水で分液し、有機層を無 水硫酸ナトリウムで脱水後,溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルム-メタノール混液(199:1)を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物 7 を得た。収量 330 mg (収率 29%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.39 (s, 4H)、1.69?1.71 (m, 2H)、2.27?2.41 (m, 8H)、2.87 (s, 2H)、2.95-3.01 (m, 2H)、3.04 (s, 6H)、3.93 (t, J = 6.5 Hz, 2H)、6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.89 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.14-7.27 (m, 18H)、7.32?7.39 (m, 13H)、7.55 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、7.99 (d, J = 9.0
Hz, 2H)。MS m/z 1014 (MH+)。

化合物 8 (MAMA-C5-CH)
少量の化合物 7 にTFA (200 mL)とトリエチルシラン(10 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去し、化合物 8 を得た。MS m/z 530 (MH)。

化合物 9 (Re-MAMA-C5-CH)
化合物 7 (82 mg, 0.081 mmol) にTFA (4 mL)とトリエチルシラン (0.2 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去した。残渣をジクロロメタン- メタノール混液 (10:1, 22 mL) に溶解し、trichlorooxobis(triphenylphosphine)rhenium (135 mg, 0.162 mmol) と 1 M 酢酸ナトリウムメタノール溶液 (4 mL)を加えて、6 時間加熱還流した。室温に冷却後、酢酸エチル (60 mL)を加えて濾過し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルム-メタノール混液 (49:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して粗精製後、アセトニトリル-水混液 (4:1) を溶出溶媒とする高速分取液体クロマトグラフィーに付し、化合物 9 を得た。収量 20 mg (収率 35%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.60-1.67 (m, 2H) 、1.89-1.92 (m, 4H) 、2.82-2.91 (m, 1H)、3.05 (s, 6H)、3.14-3.27 (m, 3H)、3.33-3.42 (m, 1H)、3.52-3.65 (m, 1H)、3.95-4.16 (m,6H)、4.56-4.62 (m, 1H)、4.67 (d, J = 16.5 Hz, 1H)、6.70 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、6.95 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.35 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、7.55 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、8.03 (d, J = 8.7 Hz, 2H)。HRMS m/z C28H37N3O4ReS2 found 730.1748 、calcd 730.1783
(MH)。

化合物 10 (Tr-BAT-C5-CH)
化合物 5 (630 mg, 1.51 mmol) と化合物 3 (855 mg, 1.12 mmol) を DMF (20 mL) と DIPEA (2 mL) に溶解し、12 時間加熱還流した。溶媒を減圧留去した後、得られた残渣を、クロロホルムを溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して

粗精製後、酢酸エチル-ヘキサン混液 (1:2) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物 10 を得た。収量 126 mg (収率 10%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.32-1.37 (m, 12H) 、1.70-1.77 (m, 2H)、2.20-2.35 (m, 10H)、2.85-3.01 (m, 4H)、3.04(s, 6H)、3.98 (t, J = 6.5 Hz, 2H)、6.69 (d, J = 9.3 Hz, 2H)、6.93 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.15-7.29 (m, 18H)、7.33-7.42 (m, 13H)、7.55 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、8.01 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。MS m/z 1100 (MH)。

化合物 11 (BAT-C5-CH)
少量の化合物 10 に TFA (200 mL)とトリエチルシラン (10 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去し、化合物 11 を得た。MS m/z 516(MH)。

化合物 12 (Re-BAT-C5-CH)
化合物 10 (110 mg, 0.1 mmol) に TFA (4 mL)とトリエチルシラン (0.2 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去した。残渣をジクロロメタン- メタノール混液 (10:1, 22 mL) に溶解し、trichlorooxobis(triphenylphosphine)rhenium (167 mg, 0.2 mmol) と 1 M 酢酸ナトリウムメタノール溶液(4 mL)を加えて、6 時間加熱還流した。室温に冷却後、酢酸エチル (60 mL)を加えて濾過し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を,クロロホルム-メタノール混液 (49:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して粗精製後,アセトニトリル-水混液 (4:1) を溶出溶媒とする高速分取液体クロマトグラフィーに付し、化合物 12 を得た。収量 44 mg (収率 61%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.60-1.73 (m, 2H) 、 1.87-1.92 (m, 4H) 、2.72-2.78 (m, 1H)、2.96-3.00 (m, 2H)、3.05 (s, 6H)、3.21-3.41 (m, 4H)、3.53?3.63 (m, 1H)、3.76?3.92 (m, 3H)、4.06-4.17 (m, 5H)、6.70 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、6.96 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.36 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、7.56 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、8.03 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。HRMS m/z C28H39N3O3ReS2 found 716.1990, calcd 716.1990 (MH)。

化合物 13 (Tr-MAMA-C3-CH)
化合物6 (981 mg, 2.53 mmol) と化合物2 (1.72 g, 2.53 mmol) を DMF (30 mL)と DIPEA (3 mL)に溶解し、12 時間加熱還流した。溶媒を減圧留去した後、クロロホルムと水で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、酢酸エチル-ヘキサン混液 (3:2) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物 13 を得た。収量 714 mg (収率 29%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.80-1.87 (m, 2H)、2.28 (t, J = 6.3 Hz, 2H)、2.33-2.43 (m, 4H)、2.51 (t, J = 6.9 Hz, 2H)、2.91 (s, 2H)、2.99-3.03 (m, 2H)、3.05 (s, 6H)、3.99 (t, J = 5.9 Hz, 2H)、6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.86 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.14-7.27 (m, 18H)、7.29-7.38 (m, 13H)、7.54 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.78 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、7.93 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。MS m/z 986 (MH)。

化合物 14 (MAMA-C3-CH)
少量の化合物 13 にTFA (200 mL) とトリエチルシラン (10 mL) を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去し、化合物 14 を得た。MS m/z 502(MH)。

化合物 15 (Re-MAMA-C3-CH)
化合物 13 (99 mg, 0.1 mmol) に TFA (4 mL)とトリエチルシラン (0.2 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去した。残渣をジクロロメタン- メタノール混液 (10:1,22 mL) に溶解し、trichlorooxobis(triphenylphosphine)rhenium (167 mg, 0.2 mmol) と 1 M 酢酸ナトリウムメタノール溶液(4 mL)を加えて、6 時間加熱還流した。室温に冷却後、酢酸エチル (60 mL)を加えて濾過し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルム-メタノール混液 (49:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して粗精製した後、さらに、アセトニトリル-水混液 (4:1) を溶出溶媒とする高速分取液体クロマトグラフィーに付し、化合物 15 を得た。収量 20 mg (収率 29%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.65-1.75 (m, 1H)、2.32-2.37 (m, 2H)、2.90-2.98 (m, 1H)、3.05 (s, 6H)、3.15-3.34 (m, 3H)、3.40-3.52 (m, 1H)、3.81-3.86 (m, 1H)、4.09-4.19(m, 5H)、4.58-4.64 (m, 1H)、4.74 (d, J = 16.2 Hz, 1H)、6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.96 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.40(d, J = 15.3 Hz, 1H)、7.56 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、8.03 (d, J = 9.0 Hz, 2H)。HRMS m/z C26H33N3O4ReS2 found 702.1476 、calcd 702.1470(MH)。

化合物 16 (Tr-BAT-C3-CH)
化合物 6 (243 mg, 0.626 mmol) と化合物 3 (479 mg, 0.626 mmol) を DMF (10 mL)と DIPEA (1 mL)に溶解し、12 時間加熱還流した。溶媒を減圧留去した後、クロロホルムと飽和 NaCl 水で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルムを溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して粗精製した後、さらに、酢酸エチル-ヘキサン混液(1:2) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付し、化合物 16 を得た。収量 128 mg( 収 率 19%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.37 (s, 9H)、1.73 (t, J = 6.0 Hz, 2H)、2.24?2.38 (m, 10H)、2.88-2.95 (m, 4H)、3.04 (s, 6H)、3.97 (t, J = 6.2 Hz, 2H)、6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.89 (d, J = 8.7 Hz, 2H)、7.15-7.31 (m, 19H)、7.37-7.41 (m, 12H)、7.54 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.78 (d, J = 15.6 Hz, 1H)、7.96 (d, J = 8.7 Hz, 2H). MS m/z 1072 (MH)。

化合物 17 (BAT-C3-CH)
少量の化合物 16 にTFA (200 mL) とトリエチルシラン (10 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去し、化合物 17 を得た。MS m/z 488(MH)。

化合物 18 (Re-BAT-C3-CH)
化合物 16 (104 mg,0.097 mmol) に TFA (4 mL)とトリエチルシラン (0.2 mL)を順に加えて混和後、窒素気流下で溶媒を留去した。得られた残渣を、ジクロロメタン-メタノール混液 (10:1,22 mL)に溶解し、trichlorooxobis(triphenylphosphine)- rhenium (167 mg, 0.200 mmol) と 1 M 酢酸ナトリウムメタノール溶液 (4 mL)を加えて、6 時間加熱還流した。室温まで冷却した後、酢酸エチル (60 mL)を加えて濾過し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルム-メタノール混液 (49:1) を溶出溶媒とする中圧分取クロマトグラフィーに付して粗精製した後、さらに、アセトニトリル-水混液 (4:1) を溶出溶媒とする高速分取液体クロマトグラフィーに付し、化合物 18 を得た。収量 44 mg (収率66%) 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.75-1.85 (m,1H)、2.31-2.38 (m, 2H)、2.76-2.82 (m, 1H)、2.91-3.08(m, 2H)、3.05 (s, 6H)、3.24-3.49 (m, 4H)、3.76-4.00(m, 3H)、4.12-4.33 (m, 5H)、6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、6.95 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.35 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、7.56 (d, J = 9.0 Hz, 2H)、7.79 (d, J = 15.3 Hz, 1H)、8.03 (d, J = 8.7 Hz, 2H)。HRMS m/z C26H35N3O3ReS2 found 688.1631, calcd 688.1677 (MH)。

3.結果および考察
3-1-1 錯体形成部位の合成
図1に錯体形成部位の合成経路を示す。化合物2 (Tr-MAMA) は、2-mercaptoethylamine hydrochloride を出発原料としてチオール基をtrityl基で保護した後、bromoacetyl bromide を介したカップリング反応により合成した。化合物3(Tr-BAT) はN1,N2-bis(2-(tritylthio)ethyl)ethane-1,2-diamine の 一方のアミ ンを di-t-butyl dicarbonate を用いて Boc 基で保護することにより合成した。

(注:図/PDFに記載)

3-1-2 カルコン誘導体の合成
Tc に安定同位体が存在しないことから、99mTc 錯体化合物の構造を推測するためには、同族元素のレニウム(Re)が汎用される。本研究においても、99mTc 化合物に対応する Re 化合物を合成し、構造決定を行うことで、99mTc 錯体の構造を推測した。図2にカルコン誘導体の合成経路を示す。カルコン骨格の形成はアルドール縮合反応を用いて行った。カルコン誘導体のアルキル鎖の置換、錯体形成部位の導入には以前報告された方法を用いた。Re 錯体は、前駆体を TFA とトリエチルシランを用いて脱保護した後、ジクロロメタンとメタノール混 合溶媒中、塩基性 条件化で trichlorooxobis(triphenylphosphine)rhenium と反応させることにより調製した。

(注:図/PDFに記載)

3-1-3 99mTc 標識カルコン誘導体の作製
図3にカルコン誘導体の99mTc 標識経路を示す。
99mTc を SnCl2 により 7 価から 5 価に還元した後、比較的弱い配位子である glucoheptonate と錯体
(99mTcGH)を形成させた。99mTc 標識体は、酸性条件下、99mTcGH との配位子交換反応により調製した。得られた 99mTc 標識体[99mTc]8 および[99mTc]11、[99mTc]14、[99mTc]17 の逆相 HPLC における保持時間は、それぞれ 14.2 および 20.3、9.3、12.4 分であった。一方、対応する Re 錯体 9 および 12、15、18 の保持時間は、それぞれ 13.5 および 18.4、8.6、11.2 分であった。このように、99mTc 標識体の保持時間が Re 錯体のそれに近似していることから、これらの99mTc 標識体はRe 錯体と同様の化学構造であると推測された。また、これらの 99mTc 標識カルコン誘導体の放射化学的収率は 46-95%であり、逆相 HPLC で精製した後の放射化学的純度は97%以上であった。

(注:図/PDFに記載)

3-1-4 逆相HPLC による99mTc 標識カルコン誘導体の分析
99mTc 標識カルコン誘導体[99mTc]8、[99mTc]11、[99mTc]14、[99mTc]17 の保持時間は、それぞれ14.2、20.3、9.3、12.4 分であった。導入するアルキル鎖の炭素数が3 の[99mTc]14 および[99mTc]17 よりも、炭素数5 の[99mTc]8 および[99mTc]11 の方が高い脂溶性を有し、また、99mTc-MAMA 錯体[99mTc]8 および[99mTc]14 よりも、99mTc-BAT 錯体,[99mTc]11および[99mTc]17 の方が高い脂溶性を有することが示された。

(注:図/PDFに記載)

3-1-5 99mTc 標識カルコン誘導体のAβ(1-42)凝集体に対する結合親和性得られた99mTc 標識カルコン誘導体のAβ凝集体に対する結合親和性を検討するため、Aβ(1-42)凝集体を用いたインビトロ結合実験を行った (図4)。縦軸には吸引濾過後にフィルターに残った放射能の割合を、横軸にはAβ(1-42)溶液の濃度を示す。
錯体部位のみの99mTc-MAMA および99mTc-BATはAβ(1-42)凝集体の濃度変化に伴う結合率にほとんど変化はなかった。一方、得られた全ての99mTc標識カルコン誘導体はAβ(1-42)凝集体の増加に伴い、結合率が上昇したことから、Aβ 凝集体に対する結合親和性を有することが確認された.また、導入するアルキル鎖の炭素数が3 の[99mTc]14 および[99mTc]17 よりも、炭素数5 の[99mTc]8 および[99mTc]11 の方が高い結合親和性を示したのに対し、99mTc-MAMA 錯体[99mTc]8 および[99mTc]14 と99mTc-BAT錯体 [99mTc]11 および[99mTc]17 との間に結合親和性の大きな差異は観察されなかった。炭素鎖の長さによりAβ への結合親和性が変化した一因として、錯体部位のかさ高い構造がAβ 凝集体に対する結合親和性に影響したためであると考えられた。

3-1-6 99mTc 標識カルコン誘導体の正常マウスにおける体内放射能分布
インビトロ結合実験において、Aβ 凝集体に結合親和性を示した 99mTc 標識カルコン誘導体を正常マウスの尾静脈から投与した後、体内放射能分布を経時的に追跡した。脳内放射能推移を図5に示した。[99mTc]8 は投与 10 分後に最大値0.32±0.14 %ID/g、[99mTc]11、[99mTc]14、[99mTc]17は、投与 2 分後に、それぞれ最大値 0.78±0.16、0.62±0.27、 1.48±0.44 %ID/g の放射能が脳に分布し、速やかな脳移行性を示した。また、導入するアルキル鎖の炭素数が 3 の[99mTc]14 および[99mTc]17 は、炭素数 5 の[99mTc]8 および[99mTc]11 よりも高い脳移行性を示した。さらに、99mTc-BAT 錯体を導入した[99mTc]11 および[99mTc]17 は、99mTc-MAMA 錯体を導入した[99mTc]8 および[99mTc]14 に比べ高い脳移行性を示した。これは、99mTc-BAT 錯体が 99mTc-MAMA 錯体に比べ、高い脂溶性を有することに起因するものと考えられた。カルコン誘導体[99mTc]17 は、最も高い脳移行性を示すとともに、投与 60 分後に脳に残存した放射能の投与 2 分後に対する割合が 11.5%であり、他の 3 化合物と比べ速やかな消失性を示したこと から、Aβ イメージングプローブとして望ましい性質を有していた。

(注:図/PDFに記載)

3-1-7 Tg2576 マウス脳切片上のアミロイド斑に対するカルコン誘導体の結合選択性
カルコン誘導体のマウス脳切片上のアミロイド斑に対する結合親和性を評価するために、Re 錯体 9 および 12、15、18 を用いて Tg2576 マウス脳切片の蛍光染色を行った(図6)。いずれの Re錯体の場合にも、マウス脳切片上にカルコン由来の蛍光が観察された。それぞれの隣接切片を、アミロイド蛍光染色試薬として用いられているチオフラビン S で染色すると、Re 錯体により染色された箇所とほぼ一致する箇所にチオフラビンS の蛍光が観察された。これらの結果より、99mTc 標識カルコン誘導体も、マウス脳切片上のアミロイド斑に対する選択的結合性を有することが示唆された。

(注:図/PDFに記載)

4.まとめ
99mTc と電荷のない錯体形成部位を有し,Aβとの結合部位としてカルコン骨格を有する 4 種類の新規化合物を合成した。また、99mTcGH との配位子交換反応を行うことにより、99mTc 標識体を得て、対応する Re 錯体との HPLC での分析結果より、得られた 99mTc 標識体[99mTc]8 および [99mTc]11、[99mTc]14、[99mTc]17 は目的とする構造をとること が推測された。99mTc 標識カルコン誘導体の逆相HPLC 分析の結果より、その脂溶性には、導入するアルキル鎖の長さや錯体形成部位による影響 が認められた。Aβ(1-42)凝集体を用いたインビト ロ結合実験から、4 種類の 99mTc 標識カルコン誘導 体は、いずれも Aβ凝集体に対する結合親和性を 有することが示された。その結合親和性には、導入するアルキル鎖の長さによる影響が認められ た。正常マウスを用いた体内放射能分布実験にお いて、99mTc 標識カルコン誘導体は投与後速やかな 脳へ移行と、その後の消失を示した。中でも、カルコン誘導体[99mTc]17 は、最も良好な脳内放射能 推移を示した。Tg2576 マウス脳切片を用いた蛍光 染色実験における Re 結合カルコン誘導体の染色 結果から、99mTc 標識カルコン誘導体はアミロイド斑への選択的結合性を有することが示唆された。研究では、さらにキノキサリンを基本骨格とする99mTc 標識プローブの開発を行っており、上記、カルコン誘導体と同様の検討から、99mTc 標識キノキサリン誘導体の有用性の評価を行った。99mTc 標識キノキサリン誘導体の合成および評価実験の結果に関しては、別途論文により報告する予定である。