2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

アジアを中心とした科学技術キャンプの実施

実施担当者

沼田 和也

所属:同志社中学校 教諭

概要

1 はじめに

アメリカを中心として統合・融合型の教育であるSTEM教育(Science,Technology,Engineering,Math)は世界的に注目されており、近年我が国日本においてもSTEM教育の重要性が学校関係者からも強調されるようになってきた。すでに米国では夏休み等を利用して、各大学が地域の子ども達を対象としてSTEMキャンプを実施している。とりわけサイエンスやテクノロジーの学習・アクテイビティを中心にしたプログラムは青少年・子どもたちにとって教育的に有効であることは間違いない。残念ながらアジア地域ではそういった内容を中軸におきながら国際交流をも視野にいれた子ども向けのキャンプが見つからないのが現状である。一部SSH,SGH等国のサポートを受けている高校では提携先の学校や科学館施設といっしょに海外交流も兼ねて行われてはいる。しかし一般的な中学校においては稀である。
またアジアに注目する理由は、将来的に中国、インド等のアジア諸国の中間所得層の購買力の拡大1)、経済力の成長が予測されており、日本の企業もますますアジア諸国での展開が期待されることが間違いないからである。そして学校間での交流を考えたときにも、欧米に比べ時差が少なく移勁コストをおさえられる点、多くのアジア諸国は英語で意思疎通が可能である点等有利なことが多い。国際化・グローバル化が必至である現在、急成長が予想されるアジア諸国の国々の生徒たちとの交流を持つことと、日本の小中学校の生徒たちが集い、サイエンスやテクノロジーをキーワードに学習や活動を展開できるキャンプの実施は、来るグローバル社会においてとても教育的で重要な意味を持つと考えられる。
筆者は、これまでにアジア諸国(韓国、台湾、中国、インド、ベトナム、フィリピン、香港、シンガポール)をまわり現場の教師たちとの人脈を築いたり、または授業を行ったりしなが科学技術やものづくりの授業交流、国際交流を重ねてきている。各国の現職の教師達との繋がりを大切しながら展開している理由は、長いスパンで考えたときに将来的にその後も教師達との繋がりを核に広げつづけていけることを念頭においている。
本実践は、筆者の築いてきた諸外国の教師たちとの関係を土台にして、我が国日本において、日本の小中学生たちがアジア諸国の生徒たちとふれあいながら、科学技術を核にしたプロジェクトに向かい合い、協力してアイデアをシェアしながら、問題解決していく体験をつけさせることを目標とし、国際的科学技術キャンプのモデルの実施を試みた。

2 Robo/STEAM2016の実施

2-1 1日目~アーテック会社見学とプロジェクト~

ロボット教材を出しているアーテック(株)に多大な協力をいただきながら、本校(同志社中学校)にて、Robo/Steam2016を開催した。参加校は、同志社中学校16名、奈良教育大学付属4名、桃山学院大学付属5名、金沢工業大学夢工房ジュニア4名、香港の小中学生15名であった。参加予定であった韓国・豪州は、スケジュールの都合でキャンセルとなった。
プロジェクトベースの科学技術教育は定評があり、とくにロボットコンテストの教育的効果は近年注目されている。その多くは、あらかじめチーム登録し、そのチームでの対戦を行うタイプのものが多い。しかし、今回の教育実践では、可能な限り国際的なチームを編成し、出会ったメンバーでアイデアを出し合って協力しながらコンテストの課題を乗り越えるものにした。
全体プログラムは2日間とし、1日目をアーテック(株)本社で、2日目を同志社中学校会場とした。1日目のアーテック本社では、アーテックの教材展示だけでなく工場見学も行い、ものづくりの現場を学習する機会となった。次に、香港の生徒や日本の生徒をミックスしたチームに分け、分けを行い、様々な課題にチャレンジさせた。1チーム4構造物をつくり高さを競うプロジェクト(医1.高さを競う構造物の設計)行った。それはトラス構造や接着等の要素で勝敗が左右するものであった。次に限られたブロックをつかって動くおもちゃをつくるというプロジェクト(図2.ブロックを使って動くおもちゃを作る/PDFに記載)を行った。それはアイデアの共有とコミュニケーションカが左右するものであった。翌日のロボットコン
テストでのチームカ発揮のための練習という意味合いを持たせた1日目の内容となった。結果として、まず英語を使ってのコミュニケーション難しかったと言わねばならない。香港の生徒はもともと英語力が高く、日本の生徒はそうでない生徒が多い。そして日本人の内気な気質も手伝って、なかなか会話は進まない。しかし、構造物の製作やおもちゃの製作というプロジェクトであるがゆえに、手を動かしながらアイデアの共有をし易い。そして、制限時間内でのチーム競争であるがゆえに、終盤言葉の壁を感じさせないくらいに盛り上がってくる様子もあった。語学カの高い香港の生徒が、プレゼン発表等の役割を担うことが多く、日本の生徒の今後の課題を認識することができた。このような機会で、同年代の異国の人がスムーズに英語を使っている姿を目の当たりにすることは日本の生徒にとってはとても貴重な機会となる。
海外の生徒との交流だけでなく、日本の生徒同志も知り合う機会となり、構造物の設計製作や、ブロックで動くおも
ちゃづくりを考案していく交流もまた有意義な機会となった。

2-2 ロボット競技~国境を越えてアイデアをシェアし課題にチャレンジ~

二日目は同志社中学校でロボットプログラミングを国際的チームで競技した(図3.2日目のプログラム/PDFに記載)。
なぜロボットプログラミングを主題とするのかという理由については、宇宙開発や災害救助等の分野では既に多様なロボットが活躍しており、今後その他の産業や活動においても世界的にロボットヘの需要は拡大していくと見られていることを背景としている。日本に限ったことではなく、国境を越えて持つことができる事象である。また、将来を担う子ども達には世界規模での視野を持ち、これから直面していくあらゆる課題を文化という壁を越えて協カし、解決していくことが期待されている。異常のような背景から、ロボットの制作を通して子ども達が様々な技術分野への興味を持つとともに、海外の学生とのコミュニケーションを通して、文化の異なる他者と良好な関係を築く方法を考える場を提供するという筆者の願いでもある。そして競技のテーマは可能な限り実社会の現状に基づいたものが設定することが望ましいと考え、プロジェクト内容は、ロボット教材「Robotist」を使って、決められたコースを走りゴールヘ向かい、その途中にある「的」に輪ゴム鉄砲で射る流鏑馬のようなロボットの製作とプログラミングであった。
的への命中で得点が加算され、勝敗を決めるという競技とした(図4.競技場の説明/PDFに記載)。生徒たちが考えなければならない代表的な要素は、
1.輪ゴムを連射する機構の考案と製作
2.輪ゴムを連射する機構
3.的を射る精度
4.コース通りに走る車体の機構
5.障害物をよけて走行する仕組み
6.予定通りの発射位置を通る精度
等、かなり高度な機構の設計と、その機構や車体の動きを制御するプログラミングを要求した。そして、教育的なねらいは以下のように考えた
1.基礎的なプログラミング、電子、機械等の知識
2.文化背景の異なる他者と協力すること
3.英語を用いたコミュニケーション能力
4.思考力、創造性、表現力
5.技術分野への興味.感心の向上
上記の事柄を、全国・海外から集まった初めて会う者同士でチームを組み、チームで協力し競技の中に設定された課題を達成するロボットを設計し、プログラムすることを課題とした。そして、司会進行、挨拶・講評・表彰、ルール規約集等も全て英語で行った(図5.英語を公用語としてルールを提示/PDFに記載)。
1チーム3名を基本として、編成を行った。しかし、前日のプロジェクト課題の場面で、チーム編成において調披が必要となった。それは語学力の差に起因するものであった。結果として全てのチームを国際的にミックスした編成にすることができなかった。香港人だけのチーム、日本人だけのチームが2,3できてしまっての対戦となった。
2日目とはいえ、やはり国際的なチームは、最初はぎこちない。コミュニケーションがうまく取れない場面が見受けられた(図6.英語を使ってプログラムを共同開発)。昼食を終えたくらいから、言葉の壁はかなり低くなったように見受けられ、終盤にはコミュニケーションが自然にとれていた。最初は言菓が少なくても、例えば「的を射る仕掛け」をうまく作ってみせると、それだけで信頼し合える様子があった。
コースを自律的に走行しなければならないため、精度をあげるためのプログラミングの調整等の場面では、午前中の様子とは打って変わって、役割分担(マシンの調整役やPC両面に向かっての打ち込み役)を自然にこなし、協力しあって課題を乗り越えていく姿をみることができた。改良にむけたディスカッション、プログラムの修正、これらのコミュニケーションを英語ベースで身振り手振り、実物も使いながらの共同制作の体験は貴重なものであると感じた。

最も驚くのは、同じ課題にたいしてアプローチの仕方が様々であったこと。仕掛けの作り方だけでなく、「射る」と「走る」の2つの動作の段取りもチームごと様々で、さらにアーテックのブロックはとてもカラフルでアートないたずら心をくすぐってくれ、機能性だけでなくユニークなロボットを自然に作っていた。競技だけでなくロボットデザインも見て楽しめる優れたものであった。

3 まとめ

アジアを中心とした子どもたちに科学技術の面白さを実感してもらうだけでなく、国際的な交流と協力してアイデアを共有していく体験、問題解決に向かう成功体験をもってもらいという観点から振り返れば、一定の成功を収めていると考える。
課題としては、この実践をより広げることがあげられると思う。日本の小中学生にもっとひろげていくことはもちろんであるが、海外勢の数ももっと必要であると考える。今回は、結果的に香港と日本だけであったためどうしても同じ国の者同士になってしまう場面が見受けられた。もし、韓国やインド等多種類の国籍のチーム編成にすることができれば、今回のチーム編成の課題も解消されるかもしれない。またプロジェクトについては、物理的なプロジェクト(構造物の製作)、機構を中心のプロジェクト(動くおもちゃ)、ロボットプログラミングという3種類であったが、もっと他のプロジェクトを取り入れると、生徒たちの興味関心も広がるのではないかと期待できる。アーテックのRobotist教材は、ブロックの組み立てによって機構をつくることができるため即席のアイデアを形にしやすく、カラフルで子どもたちを飽きさせない優れたものであった。また他のものもとりいれるとよいのではないかと考える。