2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

アカマツの毎木調査

実施担当者

国府田 誠一

所属:つくば竹園学園 つくば市立竹園東中学校 教諭

概要

1.はじめに
 筑波研究学園都市の開発以前,この地区にはアカマツ林が広がっていた。しかし,開発が進むに従って,アカマツ林は減少している。
 この林は自然植生ではなく,人工的につくられた二次林である。昔はアカマツは家を建てるための材となったり,薪炭材になったりと生活に密着していた。しかし,現在は生活様式が変化し,その必要性がなくなっている。
 研究学園都市の原風景ともいえるアカマツについてもっとよく知り,現状やその変遷を調査し,今後のアカマツ林について考えていきたいと考え,この研究に取り組んだ。
昨年度までには竹園東中学校付近のアカマツ766本について調査し,その現状を把握した。今年は,その継続研究の3年目である。


2.目的
 今回は3年目の調査である。そこで調査範囲を広げるとともに,将来のアカマツ林の状態を左右する稚樹,土壌の調査,稚樹の育成実験を通して,生育するために適切な環境はどのようなものなのかを調査する。


3.調査内容
(1)毎木調査での調査項目
樹高,胸高直径,衰退度,位置(緯度・経度),稚樹の調査
調査結果を山岳展望解析ソフトを活用して解析,地図上にプロットした。
(2)土壌調査での調査項目 酸性度,排水性,有機物量
(3)稚樹の育成実験での調査項目
種子の採集,質量測定,発芽率,育成(日照,下草の環境条件をを変えた対照実験)


4.調査結果と考察
(1)毎木調査
 今年度は384本調査し,今までの3年間で合計1150本調査をした。調査結果を地図上にまとめ,さらにグラフ化した。
 全体を見ると,直径20~30cmの個体の割合が最も多く,約3分の2の個体は健全だった。また,樹高も15m越えのものが多く,長い年月,生長してきたと考えられる。一方密集していたり,下草の多かったりする環境にある個体は衰退しやすいようであった。
 生育地によっては,衰退している個体が多く見られた。この生育地は,アカマツが住宅地の庭に点在しているため,周囲にシバが植えられていたり,住民により根の周辺が頻繁に踏みつけられたりしていることが原因と考えられる。また,過去の航空写真より,これらの個体はこれまで調査した中でも新しく植樹されたものだと分かる。
稚樹については,生育地点と生育していない地点では状況がはっきりと分かれていた。生育地点は下草が少なく,照度が比較的高い場所であった。また,生育地点には集中してでは多くの個体が見られた。
(2)土壌調査
①酸性度
 今回の調査では,アカマツは必ずしも酸性土壌を好むとは言い切れない。ただし,アルカリ性の土壌が調査地になかったため,アルカリ性土壌に対する生育特性については今回の調査では分からなかった。
②排水性
 アカマツが生育するには水はけの良い土壌のほうがよいことが分かった。これは,アカマツが生育する上で,葉が落ちたりしてできるリター層によって土壌の排水性がよくなったとも考えることができる。理多層の影響が少ない,より深い位置での排水性を調べるなど,より深く検証する必要がある。
③有機物量
 アカマツの稚樹は有機物が少ない方が成長しやすいことが分かった。稚樹はリター層が多いと生育しにくいが,リター層の量と関係していると考えられる。
(3)稚樹
 今回の実験結果から,アカマツの稚樹は乾燥や強い日射に強く,むしろそのような環境を好むことが分かった。これは,今までの調査から,成木にも共通していえることである。さらに稚樹の周りには雑草が少ない方が良いことも証明することができた。
また,公園で生育する稚樹の成長記録もとり,太さ5mmほどに成長した稚樹は冬の寒さや雪にも耐えられることが分かった。この稚樹は発芽後2年以上が経過しており,小さいうちから冬を乗り越えてきた。アカマツの稚樹は寒さに強いのかもしれない。


6.まとめ
 今回の調査で,アカマツの現状について知ることができた。全体的に健全な個体が多く,稚樹も地域によっては多く見られる。一方,世代交代できる若い個体が少ない。そこで今後のアカマツ林の保全を考えると,以下のような施策が考えられる。
①間伐・下草刈りを行う。
②稚樹を日当たりのよい場所に植える。
 これからも美しい景観を残していくために,稚樹のすこやかな成長を願い,それの実現に向かって努力していくべきだと思う。