2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

アオコの毒性物質(ミクロシスチン:MC)の無毒化細菌の発見と毒性分解メカニズム―モリンガを用いた藍藻の抑制と除去の方法―

実施担当者

池永 明史

所属:清風中学校・高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 清風高校生物部では、長年ニッポンバラタナゴという絶滅危惧種の魚の保護活動を行っている。現在私達が保護活動を行っている大阪府八尾市の周りのため池では、アオコの発生が問題となっている。アオコの発生により水質や景観の悪化、生物多様性の減少、さらに海外などではアオコの作る強い毒性物質(ミクロキステス・エルギノーザ Microcystis aeruginosa)による人間や家畜等の死亡の被害が起きている。この問題は世界中の富栄養化した湖沼において起きており、未だに解決策が模索されている。本研究では、アオコを凝集させ、除去するための凝集剤の開発を行った。

1-1 生物部の内容1
 生徒たちは、自発的に更なる実験計画を立て、研究を深めていった。生徒らと1年間の予定を立てて進めてきた内容である。

(注:表/PDFに記載)

 右の写真は、第6回バイオサミットのポスター発表において、山形県教育委員会教育長賞である。これによって、科学的思考カの育成という側面においても、実践効呆が認められたと考えることができる。


2 実験内容
 モリンガを用いた藍藻の抑制と除去
 硫酸第二鉄を用いた凝集剤には、素早くアオコを凝集できるが、炭酸カルシウムとの化学反応の際に熱が発生し、生態系に悪影響が出る可能性がある。この硫酸第二鉄凝集剤の短所を克服するため、より自然への負荷が少ない、植物を用いた凝集剤の研究を始めた。そこで、目を付けたのがモリンガという植物の種だ。

2-1 モリンガ凝集剤(200mL)の作り方
 まず、モリンガの種(2g)の皮をむき、乳鉢ですり潰す。次に、蒸留水200mLにNaCl(1mol/L)加えたものに混ぜる。それを、マグネティックスターラーで30分撹拌し、完成する。

2-2 アオコ水と凝集剤の最適な濃度の関係
 (実験方法)異なる濃度(6倍,4倍,2倍,l倍,0.5倍)のモリンガ凝集剤5mLと、異なる濁度(172, 70, 44, 22, 15, 11)のアオコ水20mLを用意する。次にそれらを組み合わせた。
 (結果)実験の結果(図1)から、濁度とモリンガ凝集剤の濃度との最適な関係は

y=37.85×(濁度)-0.87で近似をした。

(注:図/PDFに記載)

2-3 モリンガ凝集剤と硫酸第二鉄凝集剤との比較
 モリンガ凝集剤と従来の硫酸第二鉄凝集剤との違いをプランクトン、水質、細菌数の三項目において明らかにし、モリンガ凝集剤の効果を調べる。
 ①プランクトン
 (実験方法)アオコ凝集前、モリンガ凝集剤使用後、硫酸二第鉄使用後、それぞれ0.5ml中のプランクトンを5回カウントしてその平均を出す。それら結果から、モリンガ凝集剤と硫酸第二鉄凝集剤を比較する。なお、凝集後の水は凝集後1週間放置したものである。

(注:図/PDFに記載)

②水質
 (実験方法)モリンガ凝集剤(100mL)使用後、硫酸第二鉄凝集剤(硫酸第二鉄100mg、中和剤の炭酸カルシウム200mg)使用後、RE-1保護池の三つをラムダ9000で三回測定してその平均を出す。それら結果から、モリンガ凝集剤と硫酸第二鉄凝集剤を比較する。アオコ水は楽音寺池(濁度70)を使用した。

 (結果)

(注:図/PDFに記載)


③細菌
 (実験方法)普通寒天培地20mlに楽音寺池のアオコ水、モリンガ凝集剤使用後、硫酸第二鉄凝集剤使用後の使用後の水100μLを撒き、それらを5回カウントし、その平均を出す。

 (結果)

(注:図/PDFに記載)


3 考察とまとめ
 自然への負荷が少ないモリンガ凝集剤は、池の水質改善や環境保護に適し、プランクトンや細菌数を大幅に減少させることが出来る硫酸第二鉄凝集剤は災害時における水不足の解消や活性炭を用いることで水質を整え、飲料水としての使用に適していると考えられる。アオコの毒性物質(ミクロシスチン:MC)の無毒化細菌の発見と毒性分解メカニズムまで研究が進まなかった。

(注:図/PDFに記載)