2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

なぜだろう?各教室におけるアサガオの花芽形成及び成長の違い-日長及び温度条件,照度条件などの栽培条件が植物に与える影響-

実施担当者

佐々木 敦

所属:宮城県東松島高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 宮城県東松島高等学校は宮城県内初の三部制・単位制高校として平成17年に開校した。三部制・単位制高校は全国的にも新しいタイプの学校であり,多部制の形態をとる学校である。本校の場合,I部(午前),II部(午後),III部(夜間)と三部に分け,生徒はそれぞれの生活パターンに合わせ,部を選び入学する。各部で授業を展開するため,授業の始業である1校時が9時00分に始まり,終業の12校時が20時35分である。したがって,本校は昼夜間12時間連続開講型の完全単位制高校であり,課程は定時制課程となる。生徒はそれぞれの生活スタイルに合わせて,進路や奥味関心に応じた科目を選択し,学習できるのが本校の特徴である。
 生徒が個々の希望に応じて,好きな科日の選択が可能であるのが本校の最大の特徴かつ利点である一方,生徒が理科科目を選択しなければ,生徒たちの科学への新たな‘‘興味関心”が生じる機会を逸したまま,卒業してしまう欠点もある。
 そこで,昨年度より,理科では本校の特徴である三部制である点を生かし,アサガオの光周性に着目した,全校の教室を活用した実験を行い,生徒の科学への“興味関心”を育むことを目指した。そして,平成27年度から公益財団法人中谷医エ計測技術振興財団様より科学助成をいただき,全校でアサガオの栽培実験を行った。本年度は昨年度の実験の結果を受けた継続実験である。


2 活動
2-1 実験の背景
 本校は9時00分から20時35分まで教室で授業を展開している。本校では授業ごとに教室が異なるため,すべての教室で12時間授業を行っているわけではな<'III部(夜間)時間帯では全く使用しない教室もある。このような本校の特色を生かし,短日条件下で花芽形成を行い,かつ,生徒が小学校等で栽培した経験を持つ,身近な植物であるアサガオを利用した実験を計画した。
 III部(夜間)時間帯に使用する教室(以下,長日型教室)では,20時35分まで授業を行うため,その時間まで蛍光灯の明かりがついており,植物にとって長日条件となる。一方で,III部(夜間)が使用しない教室(以下,自然型教室)では,17時以降は蛍光灯をつけることがないので,自然光による日長条件と等しく,夏以降,短日条件となる。
 アサガオは短日植物なので,教科書の説明からすれば,理論的に短日条件で開花し,そうでなければ開花しないと考えられる。したがって,III部(夜間)が使用する教室(長日型教室)でアサガオを栽培した場合には「開花しない」(開花が遅れる)と考えられる。このような背景をもとに平成27年度にアサガオを全校で栽培することとした。また,同時に人工気象器内で,アサガオを長日条件下で栽培した。その結呆,平成27年度の実験においてはIII部(夜間)が使用する教室(長日条件)とそうでない教室(短日条件)で花芽形成の時期の違いに有意な差は見られなかった。
 そのような結果を受け,本校の生徒が「教科書に載っていることが必ずしも正しいとは限らないこと(言策どおりにはならないこと)」に大変驚き,生徒たちの「なぜ?」という科学的探究心を引き出すことができた。
 そこで,平成28年度では各教室の温度と照度を24時間定点で測定する実験器具を導入し,自然型教室と長日型教室の温度および照度の変化を測定することとした。また,栽培したアサガオを生理学的な分析の実験に供した。

2-2 実験手順
 材料はミニアサガオを用いて,5月30日に播種し,室内にて出芽まですべて同じH長条件(自然H長条件)で栽培を行った。6月23日から校内の教室(自然型教室または長日型教室)および人工気象器に移動し,栄養条件はハイポネックスを希釈して定期的に与えた。なお,自然型教室はI・II部のみが使用する教室する教室(16:40終I・II・III部が使用する教室する教室(20:35終業)となる。また,人工気象器は昼温33℃,夜温25℃で,日長条件(昼14時間/夜10時間)とした。そして,花芽形成率の変化の測定,各教室の温度と照度の変化の測定,クロロフィルの量を測定した。

2-3 実験結果および考察
 本校の自然科学部の部員と生物(発展科目)の受講生徒が中心となって,学校全体で実験を開始した。実験結果より以下のような結果が得られた。
 まず,花芽形成について,「長日型教室では自然型教室に比べ,開花が遅れるが,全く花芽形成しないわけではない」,「長日条件に設定した人工気象器内で栽培したアサガオも花芽形成する」という実験結果が得られた。これは昨年度と同じ結果である。加えて,花芽形成率の変化は左図のとおりで長日型教室では花芽形成率が低いことがわかった。
 また,照度および温度については次のとおりである。まず,授業日の照度は長日型教室では,自然型教室の日没時の照度(ルクス)と同程度の照度(ルクス)が20~21時まで続いていることがわかった。すなわち,長日型教室においては21時の時点で自然型教室の夕方くらいの照度(ルクス)があることがわかった。したがって,長日型教室では蛍光灯の明かりによって,植物にとっては日没が遅くなったことになる。一方で,休業日の照度(;レクス)では長日型教室と自然型教室で違いがない。次に温度について,24時間の温度の変化は授業日と休業日で長日型教室と自然型教室で違いがないという結果が得られた。
 次に,生理学的な解析の視点から,クロロフィルの量を測定した。その結果,長日型教室で栽培したアサガオと自然型教室で栽培したアサガオのクロロフィル量に違いはなかった。
 以上の結果から,生徒と一緒に次のように考察を行った。長日型教室では花芽形成が自然型教室と比較して遅れること,また,照度の変化の結果から,蛍光灯の明かりでも十分に花芽形成に影響を与えると考えた。一方で,人工気象器の長日条件でも花芽形成していることから,ある程度成長すると日長条件にかかわらず花芽形成すると思われる。しかし,一方で,長日型教室で栽培したアサガオは人工気象器で栽培したアサガオよりも早く花芽形成する。これは長日型教室では士日(休業日)に自然型教室と同じになることが一因と考えられる。つまり,1~2日程度の日長条件の変化でもアサガオの花芽形成に影響を与えている可能性を示唆している。クロロフィル量の測定結果から,日長の違いがアサガオの花芽形成以外の生理機構に与える影響は少ないと思われる。

2-4 生徒の取り組み
 生徒が取り組んだ実験結果および考察について,本校の自然科学部に所属する3名の生徒が「第69回宮城県高等学校生徒理科研究発表会」にてポスター発表を行った。同研究発表会は平成29年度に宮城県で開催される第41回全国高等学校総合文化祭(みやぎ総文2017)のプレ大会として開催され,本校は開校12年目にして,同研究発表会へ初めての参加となった。
 本校においては前例のない参加であったため,生徒たちには重圧がかかったことと思われたが,生徒たちは堂々と発表を行うことができた。生徒たちにとって有意義な経験となったと感じた。また,自然科学への関心が一層高まったことと思われる。
 発表を行った以外の生徒たちもアサガオの実験には関心をもってくれ,都度,結果や進行状況を聞いてくる生徒が多かった。生徒たちの理科への関心の高まりを感じられた。

 なお,生徒たちが当日発表に用いたポスターは生徒たちのフロンティア精神をたたえ,理科室前にパネルに入れて,展示をしている。今後もこの活動を士台として,新たな活動を展開させていきた
したい。


3 まとめ
 昨年度ならびに今年度,公益財団法人中谷医エ計測技術振興財団様より御支援をいただき,アサガオを実験材料として花芽形成の実験を行えた。校舎全体を実験場所とすることで,多くの生徒が本実験に関心をもつことができた。また,助成金によって,高等学校ではなかなか導入しづらい実験装置・器具を購入でき,実験装置・器具自体に興味を抱いた生徒も多かった。このようなきっかけを通じて,本校の多くの生徒たちの自然科学への開心と理解が進んだことと思う。
 本実験は自然科学部と発展科目の「生物」の受講生徒を中心として実験を進めた。生徒たちは非常に意欲的に取り組んでくれた。自然科学部の生徒たちはクロロフィルの量の定量など,高等学校ではなかなか行いづらい,高度な実験を経験することができた。また,その実験成果を県内の理科研究会で発表できたことは生徒たちにとって自信になったことだろう。本校の理科にとっても,同研究会へは開校してから初めての参加となった。今後も同研究会への参加を1つの課題とし,生徒たちの探究力を育んでいきたい。授業の受講生徒たちに対しては,光周性について今回の実験をもとに体験的に学ぶ授業を昨年度に引き続き展開できた。
 課題はさまざまにある。たとえば,三部制・単位制高校では実質的に全校生徒共通の放課後が存在しないため,実験を進めることが難しかった。その結果,生徒たち自身にもっと考えさせ,実行させる時間を短縮せざるを得なかった。また,自然科学部や受講生徒以外の生徒たちを関わらせる機会が少なくなってしまった。来年度以降は水やりなどの簡単な作業等を各クラスに割り振るといった工夫をすべきだと思った。
 最後になるが,2年間にわたり,アサガオの花芽形成の実験と指導を行い,私自身,改めて科学の面白さと探究により得られる教育効果を痛感した。面白そうな課題は生徒たちの興味を引くこと。きちんとした課題を設定すれば,生徒たち自身もしつかりと伸びてくること。そのような教育の本質を確認できた。初任者として本校に赴任し,経験の少ない私にとって指導経験の幅と指導力を高めることができたと思う。今後も探究活動をうまく活用しながら,生徒たちの指導にあたり,生徒たちが持っている力を伸ばしていきたい。