2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ちばっとプロジェクトと 「ちば生きもの科学クラブ2016」を核とする博物館連携企画

実施担当者

針谷 亜希子

所属:千菓市科学館 教育普及グループ企両戦略チーム

概要

1 はじめに

千葉市科学館では地域の博物館のもつ独自の資源(モノ・ノウハウ・人材・空間)を結びつけ、テーマに沿って利用する連続講座「ちば生きもの科学クラブ(以下、クラブという)」を実施した。
このクラブは小学4年生から参加でき、幅広い年齢層の参加者(以下、クラブ生という)と様々な分野の専門家、そして多様なバックグラウンドを持つ市民ボランティアがともに活動することで、学校教育とはまた異なった学びの場を提供している。昨年度より工業高等学校との連携をスタートさせ、高校生たちがクラブ参加者としてではなく、プログラムを開発・提供する側で参画しており、昨年度は「コウモリ」でバットディテクター作成を中心に、今年度は「サル」で自動給餌器作成を中心にクラブに携わった。高校生が日々の学校での学びを社会に活かし、クラブ生も含めて学校では得られない多世代交流をする場としてクラブ(博物館)がどのように役立てるか、という視点で今年度の活動を振り返った。
今回は公益財団法人中谷医工計測技術振興財団「科学教育振興【プログラム】助成」を受けて、クラブ活動に学校(高等学校)を加えた新たな取り組みを実施したので、これを報告する。

2 ちば生きもの科学クラブについて

千葉市科学館は千葉県立中央博物館・千葉市動物公園?千葉市中央図書館の市内3つの施設と、千菓県立千葉工業高等学校・帝京科学大学という教育機関と連携し、それぞれの特色を活かした連続講座(クラブ)とその関連企画を実施しており、2016年度で5回目を迎える。今年度は小学4年生から大人まで24人のクラブ生が活動した。各回のスケジュール・内容は下記の通り。
5月15日:オリエンテーション(動物公園)
6月11日:骨から探るサルの秘密(博物館)
8月7日:サルの仲間と私たち(科学館)
10月22日:行動から探るサルの社会(動物公園)
5月29日:作って分かる形と機能(科学館)
6月26日:調べ方・まとめ方・伝え方を学ぶ(図書館)
9月11日:比べて探るサルの知恵と力(科学館)
11月20日:発表会(科学館)

クラブでは自らの興味を基点とした自発的な調査?研究、成果をまとめた作品の作成、それをもとにしたポスター・ロ頭での発表を行うことを目標に活動する。さらに、最終回に閲催される発表会後、クラブ生の作品は施設を巡回する展示として活用される。一連の取り組みを通じ、クラブ生への学びの機会提供のみならず、本企画を広く周知するとともに、地域における博物館活動の新たな可能性を模索・検酎をした。

3 2016年度の千葉県立千葉工業高等学校との連携

先に述べたように、2015年度から工業高校とクラブとの連携が始まり、2016年度はクラブのテーマが「サル」であったため、それにちなんだ連携活動として「サルの自動給餌機作成」という提案が工業高校よりあった。また昨年度好評だった講座もクラブとは別に行い、昨年より多い合計10名の高校生が一連の連携企画に参加した。

3-1 千葉市動物公園x千葉県立千葉工業高等学校X帝京科学大学

「フサオマキザルの環境エンリッチメントプロジェクト」工業高校からの提案があった自動給餌器だが、千菓市動物公園にとってもサルの環境エンリッチメント(飼育動物にとってよりよい生活環境を整えるための方策)につながるということで、このプロジェクトがスタートした。給餌機はボタンを押すとエサが出るという仕組みで、フードディスペンサーを改良して作成された。千葉市動物公園の「フサオマキザル」の展示エリアに設置したが、当初思ったように作動しなかった。サルが給餌機に全く関心を示さず、想定したように扱われずに給餌機を破壊されるなど、度重なる改良が必要であった。その際に、どのような改良をすることがサルにとって良いことなのか、千葉市動物公園・帝京科学大学・千葉大学の専門家にアドバイスをいただき、この「自動給餌機」の作成を通じた機関同士の連携も生まれるに至った。一連の活動はクラブ第6?7回目で環境エンリッチメントの取り組みとして紹介され、動物公園では実際に使用している様子をクラブ生が観察し、フサオマキザルヘの理解を深める一助となった。また、最終回の「発表会」では自動給餌機開発について発表を行い、千葉工業高校の活動成果を紹介する良い機会となった。

・千葉県立千葉工業高等学校の声

教諭のコメント:生徒が学校で学んだ技術を用いて動物園にニーズとして提供できたこと。また、動物の行動について全く知識の無い生徒が専門の機関や先生の指導を受けながら実験に関われたことは運携あってのことと思った。関わった生徒の変化については、次のような点があった。
(1)自分たちが必要されている自覚が持てるようなった。(2)与えられた課題に対して最後
までやり抜こうとする責任感がもてるようになった。(3)チームで協力して作業を行う姿勢が
みられた。(4)人前での発表をとおして、自分の伝えたいことをまとめ的確にわかりやすく伝
えようとする力が身についた。

私にとっても、学校以外の機関と連携することで、学校では伸ばすのが難しい生徒の能力を伸ばせる教育ができると思いました。そして、このような事業によって、世代を越えて多くの人との関わりがもてること。学校やそれぞれの機関で自分たちの得意とする分野を互いに提供し合うことで研究の深化や発展が望めると感じました。

生徒のコメント:給餌機の開発・製作発表では、小学生でもわかるように、何をしたのかが伝わるように考えて発表したのが大変であった。今後大学などで自分の作品を説明する機会があると思うので、今回の発表は私にとって良い経験になった。また、これまで科学館・動物園などは別々の活動をしていると思っていたが(例えば生物研究は動物園、科学であれば科学館だけで行う)、「ちば生きもの科学クラブ」に関わってみて、千葉市にある様々な所が連携してテーマについて意見を出し合ったり実験をしたりしていたところを見て、これまでの認識が変った。

3-2 バットディテクターをつくろう

2015年度に実施した「バットディテクター作り」が好評だったため、2016年度も単発講座として実施した。
昨年度は限られたクラブ活動の時間中に実施したため、事前の仕込みを千菓工業高校と電子工作を得意とする千莱市科学館ボランティアで行い、クラブ生が作成する箇所は全体工程の3割ほどだった。2016年度は夏休み期間中に小学5年生以上ならどなたでも参加可能とし、ほぼ自分で作成する「チャレンジ」・半分ほどを作成する「ベーシック」.3割ほど作成をする「入門」を参加者が自分で選べるようにして実施した。
講座当日は工業高校の教諭と生徒5名が進行役、千菓市科学館ボランティアも協力で5名入って実施した。講座は満席の20名となり、ハンダ付けなど参加者にとってぱ慣れない作業もスムーズに進んだ。進行役の高校生にとって今回の活動は、普段何気なく実施している「ハンダ付け」も子どもたちにとって難しい作業であること、自分たちが作成した基板を使用して講座を行うことなど、学校内では難しい新たな科学体験であり、新鮮な驚きがあったようだ。

4 クラブの対外活動

4-1 発表会と作品巡回展示

発表会ではポスター発表(全員)と、希望者が行う口頭発表があり、2016年度は24名全員が作品提出、23名が発表
会に参加、19名が口頭発表を行った。当日のクラブ生の様子やアンケートからわかることは、作品作り?発表会という活動が彼らに、学ぶことの大変さや面白さ、伝えることの難しさと楽しさをもたらし、様々な意見に触れ、達成感と自信を得ることにつながっている、ということだった。
クラブ生の作品は発表会後に千葉市科学館・千葉県立中央博物館・千葉市動物公園を巡回する。2015年度のアンケートを見ると、「小学生なのにすごい」といった反応が目立っており、同世代の小学生の目を引くと同時に、大人世代の関心(感心)を引き付ける様子も見られた。一方で、作品ができるに至ったクラブ活動そのものに関する言及は少なく、博物館活動の発信のためにはまだ工夫が必要であると考えられた。それを受け、2016年度はアンケートの書式を変更し「印象に残った作品・クラブ活動は?」という項目を入れた。すると件数は減ったものの「連携をもっと広げてほしい」、「来年も作品を楽しみにしている」といったより具体的なコメントが増え、また継続して作品を見ている方の存在も確認できた。巡回展示を継続しさらに拡大することで、徐々にではあるが確実に地域の人々に浸透させることができた。

4-2 サイエンスアゴラヘのブース出展

もう一つの発表の機会がサイエンスアゴラである。お台場で開催される総合的な全国規模の科学の祭典で、研究所・大学・企業?NPO法人・博物館など、多様な団体が科学に関するイベントを提供している。ブースではポスターによるクラブの活動報告とともに有志のクラブ生によるミニワークショップや作品発表を行った。アンケートによると参加したクラブ生・保護者は、みな科学に対してさらに興味を持ったと回答していた。特に「お客さんに説明するのが楽しかった」など、自分が行ったことを他者に話すことが、さらなる意欲につながっていることが伺えた。保護者の方も「こんなに生き生きした姿は初めて見た」、「親子で楽しめたイベント、また来たい」と参加を喜んでおり、サイエンスアゴラの幅広い出展内容に触れたことも、科学への興味関心の高まりや有用性の理解につながっていると恩われる。

4-3 千葉市科学館ワークショップ祭へのブース出展

さらに2016年度は千葉市科学館が行うイベント「ワークショップ祭」に有志のクラブ生が主体になってブース運営を行った。あしあとスタンプカードを作るワークショップで、事前の研修を設け、本番には小学4年生から大人まで15名のクラブ生が参加した。感想を聞くと、「やっていくうちに慣れて、もっと長くやってもいいくらい。『〇〇くんよく知っているね』とお客さんから言われて嬉しかった」、「初めての人にわかるように説明するのは難しかったけど、またやりたい」、「朝のうちぱ慣れずにもじもじしていたのが、時間が経つで慣れてどんどんできるようになってきた、『こういう顔もするんだな』という感じ(保護者)」、など活動の充実ぶりが伺えた。相手の出方を見ながら進める対話型ワークショップを原稿なしでクラブ生が実施する挑戦的な試みだったが、結果としては「十分できる」活動であるとわかった

5 まとめ

千葉県立千葉工業高等学校と連携して取り組んだバットデイテクター作成やサルの自動給餌器作成は、「科学とそれを支える技術・ものづくり」という、クラブにこれまでなかった要素を盛り込み、それを実感できるプログラム作成に大きな役割を果たした。また、クラブ生が充実したプログラムを享受できただけではなく、参画した高校側にも今回の連携が学校教育だけでは不可能な経験や機会の提供、生徒の力を伸ばす教育力があったとのコメントがあり、双方にとってクラブが有効な学びの場に成りうることがわかった。クラブ生の活動も外に発信する機会が増え、参加を希望する人数も増えてきた。小学生から高校生そして大人が、枇代や所属を超えて学びあえる場としてのクラブ(博物館)の可能性を確かめることができた。これからも継続すべき事業であると考える。